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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"魔石の結晶体"


 今後のことを話し合うイリス達だったが、まずは魔石をどうするかを決めなければならない。三十センルもある原石の、それも青白く光るモノなど誰にも見せられない。

 これをなんとかしなければならないのだが、このまま放置するわけにはいきませんからと言葉にしたイリスの意見に賛同する一同だった。


 大きめのバッグを持って来ていれば、その中に入れて持ち帰ることはできるが、今回は急だったこともあって、そういった装備も準備できてはいない。

 魔石を加工するにしても、相当のマナが含まれていると思われる以上、魔石として使うにはあまりにも目立ち過ぎる。かといって、このまま持ち運ぶことも困難な状況という、非常に悪い考えが巡りに巡ってしまうイリス達だった。

 残念ながらパストラとメラニアの二人も、これだけの大きさの鉱石を入れるだけのバッグは持っていないようで、いっそ細かく刻んで入れようかとファルが極論を出してしまった頃、なんとなくパストラはイリスへと尋ねていった。


「イリスさんが魔石の加工をすることができるのであれば、何かに変えることで大きさも小さくできるのではありませんか?」

「確かにできなくはないのですが、それでも大きさはマナの質によって大きいままとなってしまうんです。それこそ、魔石の結晶体を更に圧縮でもしなければ……」


 話の途中でぴたりと止まるイリス。

 左右の手のひらをぽんと合わせた彼女は、圧縮すれば持ち運ぶことができそうだと言葉にした。流石に真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースでそれをしてしまうと亀裂でも入ろうものなら暴発しかねないとイリスは話しながら、もっと強固にする方法を取りますねと続けていった。

 そんなことできるのだろうかと思ってしまうパストラとメラニアだったが、イリスの行動に驚愕してしまう。


「"物質結晶化クリスタライゼーション"、"魔石の結晶体を高密度に圧縮"、"絶対に壊れない強度へ強化"」


 真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースによって結晶化したものを"願いの力"で圧縮、更には凄まじい強化を施していった。

 黄蘗色(きはだいろ)の魔力が純白へと変わり、彼女のしなやかな美しい右手に残ったのは、三センルほどの球体。美しい透明な薄い水色に、何やら球体の中が凄いことになっているのだが、創り上げた本人はこれならバッグに入りますねと大きさのことしか気が付いていないようだった。

 そんな彼女へゆっくりと視線を向けていく一同だが、今までの常識から逸脱しすぎた物とイリスとを行ったり来たりと目で追いながらも言葉にならず、ひたすらに目の前にあるものが何なのかを考え続けていた。

 残念ながらその答えなど、イリス以外の者から出ることはなかったが。


「この大きさであれば問題なくバッグに入りますね。一時はどうなるかと思いましたが、これで冒険者の皆さんの視線を集めることはなくなりまし「ねぇイリス」はい?」


 満足そうな彼女の言葉を遮りながら、ファルは問題のそれを見つめたまま言葉にしていくも、どうやらイリスは自分が何を創りあげてしまったのか、まだ気が付いていないらしい。


「……それ……は、流石に、まずいんじゃないかなって、あたしは思うんだけど……」


 疑問符の抜けないイリスは右手に持っている球体へと視線を向けていくと、面白いようにぴたりと動きが止まってしまう。

 彼女の創り上げた物は、最早この世界の誰にも作り出せない凄まじいモノとなってしまっているようだ。


 透明な球体に薄い水色の何か(・・)がゆっくりと渦を巻くように回転していた。

 それはまるで水のマナが泳いでいるようにも見えるもので、流石にこの世界にいる人にはまず作れないと断言できるものだった。

 しいて言えば、女神が創りたもうた宝玉とでも言えば、全ての人は信じてしまうだろう。それだけの途轍もないモノをイリスは創り上げてしまった。


「……凄いですね、これは……。これも一応、魔石の結晶体、なのでしょうか?」

「い、いや、パストラ姉、問題はそこじゃないんじゃない? こんなのイリスにしか創れない物だよ。寧ろ、女神様から貰ったって言ってもみんな信じちゃうでしょ……」

「んー、でもこれ、すっごく綺麗だねー。見てるだけで疲れが飛んじゃいそうー」

「いやいやメラニア姉、こんなのどこに置くの? 誰かに見られたらとんでもないことになっちゃうよ?」


 姉達の間で答えていくファルだったが、流石にこんなものの存在を見つかったら、確実に面倒事になるだろうことは間違いないと思えてならなかった。

 これが魔石の結晶体である可能性から考えると、地中に埋めるなど以ての外だろう。

 魔石を掘り起こされて、体内に取り込む魔物が出ないとも限らない。ではどこにこれを保管すれば。そんなことを一同は考えていると、イリスは言葉にしていった。


「私の想像していたのとは違うものが出来上がってしまいましたね。

 恐らくこれは、高密度のマナを圧縮したことによる現象なのかもしれません。

 この宝玉に秘められた力は正直なところ見当も付きませんが、凄まじい力を持っていることは間違いないと思います。……非常に興味深いですね」


 仲間達とは少々ずれていることをとても真面目な顔で言葉にしているイリスだったが、彼女は全く違うことを考えていた。

 もし仮に魔石の原石に含まれるマナを圧縮して結晶化したとしても、こういった現象は出ないのではと思えたイリスだった。

 推察ではあるが、この現象はザグデュスの魔力に反応した状態の鉱石を結晶化し、更に高密度にマナを圧縮したことによるものだと考えられる。当然それには、相当のマナが含まれている原石であることも影響していると思われた。

 であれば、別のマナを込めることで、別の結晶体と宝玉が作れるのではないだろうかとイリスは冷静に考え続けていた。


 メルンの知識に含まれる魔石に関しての情報には、魔石から宝玉を作る方法は記されている。それを作り出したつもりだったイリスだが、ここにメルンの研究には記されていない内容を目の当たりにしてしまった。


 宝玉とは、力の結晶体とも言えるものであり、レティシアの時代では魔法が苦手な者が武具に埋め込んで戦いに使っていたもので、当然その威力もそれほど効果的とは言えないような弱々しいものとして扱われていた。

 それほどまでに当時の魔法は凄まじかったとも言い換えられるのだが、現在では宝玉の存在も、その使い方も知られてはいない。これが魔石の結晶体であることを知る者もここにいるだけとなるのだから、悪用される心配もないとイリスは創り上げた。


 しかし、ここにイリスも想像だにしなかった誤算が出てしまっていた。

 それがこの、右手のひらに乗っている小さな球だ。


 ザグデュスのマナと魔石の力でも、想像も付かないような力を秘めていることはまず間違いないだろう。しかし魔石とは、レティシアの時代では微弱なマナしか含まれていないゆえに、街灯などにしか使われていないものとして存在していた。

 ここに、新たな可能性が生まれた気がしたイリスだった。


 早速検証をしてみるイリスは、自身のマナを使い宝玉を作り上げていく。

 左手に出現した宝玉は、彼女の想定通り白緑の色をしたものとなった。

 続けて彼女はそれにマナを込め、どういった反応が出るかを確かめていった。

 その結果にぴくりと眉を動かしてしまうイリスだったが、大凡彼女の推察通りの反応となっていたようだ。創り上げた白緑の宝玉は微弱なマナしか込めなかったので、マナが泳ぐような姿を見せなかったが、それも想定通りとなる。

 その様子を見ていたシルヴィアは首を傾げながらも、イリスに尋ねていった。


「それは、何をなさっているんですの?」

「え? あぁ、すみません。ちょっと集中し過ぎてました。

 この白緑の宝玉は、私のマナを込めて作り上げたものとなります。

 結果は予想通り、持ち手のマナを増大させる効果をみせるようです。

 恐らくではありますが、同じ属性でなければ宝玉が弾け飛ぶでしょうね。

 それでもこの宝玉は、中々に有用なものとして使えるかもしれません」


 淡々と言葉にするイリスが、まるで本物の学者のように見えた一同だった。

 残念ながら、宝玉を作る際にマナを込めなければならないので、嘗ての言の葉(ワード)による結晶化と、"願いの力"でなければ同じようなことは出来ないとは思えたが、この方法で作り上げたものであれば、今後必要となるものになり得るのではないだろうかとイリスは考えていた。


 しかし、彼女はそれを仲間達に話せずにいた。

 まだ確証もないことだし、たとえ確たるものを手にしたとしても、きっと反対されることに必要となるだろうと、イリスはどこかそれを感じ取っていた。


 この宝玉であれば、叶わないと思っていたことを可能とする。

 そんなことを強く感じながら、イリスは今後の話を仲間達へしていった。

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