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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"山積み"


「こ、こんな感じ、でしょうかね……」

「いいんじゃない? 今度は結構それっぽく見えるよ」

「む、むぅ……」

「もういいのかい?」

「うん、大丈夫そう。ありがと」


 笑顔で答えるファルにイリスは苦笑いをしていた。

 ロットとヴァンは、空間の端っこから手に入れてきた鉱石を持ちながら言葉にする。

 続けてシルヴィアとネヴィアも手にしている鉱石を地面に置き、小さく息を整えた。


「あら、今度は中々の戦いの跡に見えなくはないですわね」

「半球体状の窪み(・・)も綺麗になくなっていますね」

「いやー、一時はどうなるかと思ったけど、これくらいにすれば冒険者が来ても不自然に思わないんじゃないかなー」


 満面のファルはやりきった顔をしながら言葉にした。

 あれから、ザグデュスの作り出したへこみ(・・・)を修復していたイリス達。

 あのままでは非常に目立ってしまうため、どうやったらこうなるのかという説明をギルドマスターにしなければならなかった。

 九層へとすぐに進みたい気持ちは山々ではあるが、こちらを先にしなければ、九層の魔物を調査、討伐している間にそれを後続の冒険者達に発見されるだろう。

 そうなればとてもとても面倒なことになるのは確定なので、最優先である程度地面をなだらかにする作業に精を出していたイリス達だった。


 万能の力である"願いの力"でも、流石になくなった場所へ鉱石を復活させる事はできなかったようで、周囲から鉱石を採掘してそれを土台へと創り直す作業を続けていた。

 チャージを使えばどんなに硬い鉱石だろうとさくさく掘り進めるので、非常に楽な作業ではあったが、問題は地面をザグデュスとの戦闘で付けられたように創ることが非常に難しかったイリスだった。

 そもそも"願いの力"とは、イリスの思考を具現化するような力であるため、複雑な戦闘の痕などあまり想像もできない彼女にとってそれを創ることに苦労していたようだ。


 ようやくファルの了承が下りることとなったのは、ちょうど十回目の創り直しをした頃合となる。力を使ったことよりも地面をそれっぽく(・・・・・)見せることの方が、彼女にとっては非常に疲れる行為だったようで、思わずため息を吐いてしまうイリスだった。


「そういえば、他の冒険者達はどの当たりにいるの?」

「ちょうど今、六層に入ったところのようですね」

「どうやら間に合ったようだな」

「そのようですわね。では、先へと進みましょうか」

「大丈夫ですか、イリスちゃん。少しお休みしますか?」

「大丈夫ですよ。マナはあまり減っていないと思いますから」


 そう言葉にしたイリスは、彼女の使う"願いの力"が非常にマナの消費が少ないことを話していく。"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"も確かに言の葉(ワード)とは違い、マナの消耗は少ないとイリスは感じていたが、"願いの力は"更に効率がいいらしい。

 一体どういった原理なのかはメルンにも分からなかったが、彼女の推察によると、魂から発せられているマナを使うのではなく、魂の輝きから直接力に変換しているのではないだろうかと話していた。残念ながらそれを確かめる術はイリス達にはないが、一応その仮説であれば辻褄は合わなくはないと思えた。

 あれだけ絶大な力でありながら、マナの消費が少ないというところに何らかの意味があるはずだが、恐らくこれに答えられるのは女神たるエリエスフィーナのみとなる。



 先へと進んでいくイリス達の目の前に、九層へと向かうための門が姿を表していく。

 流石にここには誰もいないようで、ぽつんと置かれた扉に寂しさを感じてしまうイリス達だった。


「……まぁ、そうだろうな」

「だね。寧ろ、ここに人がいる方がびっくりだよ」

「危険種の痕跡が見つかった時点で避難しているんでしょうからね。……許可なく先へと進むのにいささか抵抗はありますが、目的のため勝手を通させてもらいましょう」


 イリスの言葉に頷く仲間達は、扉の先となる九層へと向かって進んでいった。


 八層とは随分と雰囲気が変わったように思えてしまうのは、明かりの魔石が設置されていないことと、坑道に補強がされていない点だろう。

 明かりに関しては"暗視(ノクトヴィジョン)"があるので問題はないが、補強に関してはどうしようもない。なるべく静かに行動をしなければならないだろう。

 恐らくはまだまだ採掘中の場所と思われるが、壁を触れてみるとこれまでの坑道と同じような硬い鉱石で覆われているようだ。

 流石に強力な魔法を放つことは危険だが、この硬度があれば滅多なことをしなければ崩落する危険性は少ないように思える。

 危険種級の魔物は存在しないと思いたいが、それを調査するためでもある。

 実際には更にとんでもない存在がいる可能性も想定して、一同は九層を歩いていた。


 この階層は細く狭い通路が非常に多いが、そういった場所には魔物が入り込んでいないとイリスは仲間達に伝えていく。大きめと思われる通路に散らばるように存在するようで、多くても二頭が近くにいる程度らしい。

 単独で行動してくれている状態での調査は非常にやりやすく、問題の存在がいなければ慌てることなく討伐しながら坑道を進むことができると思われた。


 少々気になるのは、鉱山にいる魔物の強さだろう。未だそれらを目視していないイリス達にとって、この場所の魔物は非常に不気味に思えてしまっているようだ。

 街の外にいる魔物よりも強いと言う話を聞く以上、警戒を緩めずにまずは一頭のみでいる魔物と戦うことを決めていった。


 そこまで問題にはならないと思われるが、荒削りの地面はぼこぼことしていて、あまり戦うには向いていない。しかし、そうも言ってはいられない状況なので、足を地面に取られないように注意をしながら一頭だけでいる魔物へと向かって歩き続けていく。


 あまり掘り進めてはいないが、ところどころに魔物の反応があることと、ザグデュスと戦った場所のような大きな空間がひとつだけあるようだ。

 尤も、九層の部屋は、先程戦った部屋と比べると二割ほどの大きさだったが。



 魔物の近くまで来たイリスは、仲間達にハンドサインで魔物との距離と方向を示していく。とはいっても、"防音空間(サウンドプルーフ)"の効果で言葉にしても問題ないとは思われるが。


 目的の存在がいる場所まで来ると、その姿を目にすることができたイリス達。

 どうやらそこにいたのはディアだったようだ。

 坑道の、それもこんな深い場所に何故ディアがと思わずにはいられないが、その考えの全てを切り捨てた。いくら考えても明確な答えなどでないし、考えたところでそれよりも優先するべきことが彼女達にはある。

 それに集中していくことが、今一番求められていることだろう。


 目視では分からないことでも、戦うことでそれを理解できることもある。

 実際に九層のディアと戦ってみると、非常に強い印象を受けたイリス達だった。

 具体的な検証は流石にできないが、体感だけで言葉にするなら、基本的な身体能力のみでなく、耐久性も並のディアとは比較にならないほどの強化がされているようだ。


 エグランダ鉱山内の魔物の中ではこれが当たり前の強さなのかもしれないが、やはりそこに危険性は潜んでいると言わざるを得ないイリスだった。

 とはいえ、それも街の外で出遭う存在と比べれば、ということであり、チャージを扱えるシルヴィア達にとっては、魔物との違いを手応えで理解することはできなかった。


 しかし、危険種ほどではないにしても、確かに街の外にいる魔物とは違うようだ。

 これも魔石が創られるほどの場所だからかと考えるも、答えなど出ることはない。

 時間をじっくりとかけて九層に存在する全ての魔物を調査したが、今回遭遇したザグデュスのような存在はいないようで、心から安堵できたイリス達だった。


 倒した魔物を中央にある広い空間へと集める一同。こうすることで作業員達の手間を省くつもりではあるのだが、どの道まず真っ先に驚愕させてしまうことになるだろう。

 この報告はギルドマスターであるランナルにするつもりではあるが、ザグデュス討伐の件も合わせて、一体どういった反応をされてしまうのかが気がかりではあった。



 九層から八層への門を通り、七層へと続く場所まで向かうイリス達。

 ちょうど先程戦っていた空間へと戻ってきた頃、イリスは言葉にした。


「先程まで七層を歩いていた方達が、すぐ近くにまで来ているようですね。

 考えごとをしていて気付きませんでした」

「考えごと? 何か気になることがあったのか?」

「いえ、特にそういったことはないのですが、山積みにした魔物を見た作業員さん達は、相当驚くだろうなぁと改めて思ってしまいまして……」


 苦笑いが自然と出てしまう一同だった。実際には危険種討伐の確認とその後の影響調査で先に調査隊が入ると思われるが、それでも盛大に驚かれるだろうと予想された。

 そもそもこれだけ短期間に、それも危険種を倒した後にそれを実現したとなれば、少々どころではない反響を呼ぶことになるのは目に見えている。

 しかし現状ではそれが最善だと思っての行動なのでどうしようもないことではあるのだが、できるならなるべく目立たずに事を済ませたいと思ってしまうイリス達だった。


「ところで、こちらへと向かっている冒険者の方々は何人ほどですの?

 もしかして、先ほど出逢ったグラートさん達のパーティーかしら?」

「いや、グラート殿達も鉱山には詳しくないはずだ。恐らく別のパーティーと合流してこちらへと向かっているはずだから、それなりに時間はかかるのではないだろうか」

「寧ろ、普通は八層に入る前に兵士達から止められるんじゃないの?

 あたし達は強引に入っちゃったけど、冒険者全員で八層に入るんじゃないかな」

「確かにそうだね。となると大勢がここに来るのか。騒ぎになる前に離れるかい?」

「いえ、それがですね、こちらに向かっているのは二人なんですよ」

「二人、ですか、イリスちゃん。ということは私達と同じように門を通り、こちらへと向かって来られた方達ということでしょうか」


 頬に手を当てながら首を傾げるネヴィアに、すぐそこまで来ているみたいですよイリスが話すと、全員はこの空間へと続く坑道を見つめていく。

 暫くすると特徴的で可愛らしい耳をぴくりと動かした仲間の一人は、言葉にならない声を洩らしながら震えてしまう。どうやら細く長い尻尾はぼさぼさになってしまっているようだ。

 その異様な様子にどうしたのかと尋ねようとする前に、坑道の方から声が聞こえてきた。


「「ファル、みーつけた」」


 姿を見せたのは二人の女性。

 可愛らしい印象を持つ女性と、少々身長の高い大人びた女性のようだ。


「……み、見つかっちゃった?」


 女性達の声に小さく言葉を返していったファル。

 そんな彼女へと視線を移すと、ファルは尋常じゃない汗を流しながら真っ青な表情と虚ろな瞳でがたがたと震えながらも、逃亡の為の経路を必死に探っているようだった。

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