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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"冒険者用品店"

 所狭しと商品が並ぶ店内。

 保存に適した食料品、野営に必要となる道具一式、冒険に便利な装備品、ランタンや火を熾す魔石の道具なども置かれている。

 そのどれもが冒険に役立つ商品のようで、とても綺麗に並べられていた。

 所謂この店は、冒険者用品を扱っているらしい。


 しかし残念なことに、魔石の類はこれまで使う事はなかったが一応馬車に積まれているし、ランタンや野営に必要となる道具も購入することはないだろう。

 目移りしながら店内を楽しそうに眺めるイリスと、先程のファルの言葉がとても嬉しかったのだろう二人は、どこかほんわかとした様子で商品を見ていた。


 今回必要となるものは、ファルの故郷で買うことができないという防寒具の類と、保存に適した食料品の買い付けだ。食料品以外に必要となるのはマントのようなものだけであり、残念ながら今回はそれ以外の購入をする必要がないと思われた。


 店の一角に置かれている防寒具の場所へと向かう一行。

 そう広くはない店内なので、男性達は少し後ろにいてくれているようだ。

 楽しそうに話しながら商品を見ていると、奥から人種の女性がやってきた。


「はーい。いらっしゃいませー。"プラチナ雑貨店"へようこそー。

 私がこのお店の主人、リースベット・ノルディーンですー」


 年齢は三十台前半だろうか。濃い金色の髪を三つ編みにして左肩から前に下ろした細身の女性は、ふんわりとした口調と優しい笑顔でイリス達を出迎えてくれた。

 そんな彼女にプラチナなんて高価なものも置いているんですのと尋ねるシルヴィアだったが、実際には名前だけで白金を含む鉱石や宝石の類は置いていないらしい。

 何故そんな名前にと言葉にしたシルヴィアへ、その方が素敵っぽい名前に聞こえるでしょと満面の笑みで返されてしまい、確かにそうですわねと妙に納得してしまった彼女だった。


 必要となる防寒具の類を探しに来たとイリスが話すと、店主は少々驚いた様子を一瞬だけ見せたがすぐに笑顔に戻り、イリス達の目の前にある場所を手のひらで示しながら言葉にしていった。


「この辺りに防寒具が置かれていますー。ご希望の品があるといいのですが、何分この時期はあまり入れることも少ないので、ここにあるだけになってしまうんですよー」


 申し訳なさそうに言葉にするリースベットだったが、すぐにイリスはある商品を手に取って確かめるように広げていく。

 それは真っ白なローブのような全身を覆う衣類でありながら、手と腰周りを自由に動かしやすくスリットが入れられたもので、これであれば戦闘もしっかりとできるのではないだろうかとイリスは思っていた。

 更にはフードも付けられているようで、突発的な天候の悪化にも対応できそうだ。


「おー! お嬢さん、いいものを手にしたねー。

 これは中々の力作でねー。防寒具だけじゃなくて、雨具にもなるんだよ。

 生地は雨風にも寒さにも強い、スノウウォルフの毛で編み込んだものなんだ。

 当然耐久性もしっかりとあるから、ちょっとやそっとじゃ破けもしないよー」

「凄く綺麗なローブですね。これはリースベットさんがお作りになったんですか?」

「そうだよー。私はこう見えて中々に器用なのだよー」


 自慢げに両手を腰に当ててあっはっはと声を出しながら胸を反らす姿に、どことなくブリジットを連想してしまうイリス達だった。

 そんな中、少々気になることができてしまったイリスは、リースベットへ色々と尋ねていくと、その全てを彼女は答えてくれた。


「スノウウォルフとは、こんなにも美しい色をしているのですか?」

「良い所に目を付けたね、お嬢さん。そいつはね、最高級品と断言できるほど最上の毛で作ったものなんだ。どうせ作るなら綺麗で頑丈なものがいいからねー」

「ウォルフは体毛が短いと思うのですが、こういった衣服にも使えるのですか?」

「そいつも良い質問だねぇ。ちょーっとばっかり特殊な加工が必要になるんだ。

 詳しくは企業秘密なんだけど、とある"魔法付呪(エンチャント)"を施すことでささくれ立ったように編み込まれたものを結合させることができるんだよー。出来栄えは見ての通りだねー」

「"付呪(エンチャント)"となると、何かしらの魔法効果が期待できるのですか?」

「そうそうー。とは言ってもかなり微弱なものだから、耐久性が僅かに増えたくらいだろうけどねー。大切に長く使ってもらうためにはそれが一番だと思ったんだー。

 ちなみに乱暴にお洗濯しても全然大丈夫だよー。ほつれたりなんてしないからー」


 店主の言葉を聞いていたファルはイリスの持っているローブに触れると、その手触りに目を丸くしながら言葉にしていった。

 それに続くようにシルヴィアとネヴィアも手を伸ばして確かめていく。


「うわ! すっごいサラサラだよ! このローブ!

 スノウウォルフって、こんなにサラサラしていたかなぁ?」

「本当ですわね……これは、シルク以上に素晴らしい手触りですわ……」

「それにとても美しいローブです。純白ではなく少しだけ銀色が入っているのですね。太陽に照らされたら、一体どんな輝きを持つのでしょうか……」

「良い所に気が付ついたねー。それじゃ、見てみよっかー」


 ネヴィアの言葉を笑顔で答えたリースベットは、ローブを持ったイリスを店の外へと連れ出していった。

 日の当たる場所へと出した白銀のローブは、まるでプラチナのような品の良い輝きを見せ、その美しさに思わず簡単のため息を吐いてしまう女性達だった。


「……なんて、美しいんですの……。まるでプラチナで出来ているようですわ……」

「すごいローブだね、これ……。こんなのあたし、見たことないよ……」

「きらきらと輝いているのに、とても上品なドレスのような生地ですね……」

「さ、流石にこれは、その、お高いんじゃないでしょうか……」


 イリスの言葉に微笑みながら、それじゃあお店に戻ろっかと話すリースベット。

 先程の防寒具が置かれている場所まで戻ってきたイリス達に、問題となるお値段についての話に移っていくも、色んな意味で凄い品だったようだ。


「このローブはね、スノウウォルフとはいえ最高級素材と、私が持ち得る最高の技術で作り上げ、更には"魔法付呪(エンチャント)"まで施してある最高傑作なんだー。

 当然そのお値段もかなりのものになっちゃったんだけど、今は夏だからねー。立冬にでもならないと売れないから、そういったことも踏まえて値引きしてあげるー。

 お値段は、そうだねぇ……これくらいになるかなぁ……」


 紙に金額を書いてイリス達に見せるリースベット。

 そのお値段は、二十四万八千リルと書かれていた。防寒具に関しては相場が全く分からない後輩達だったが、それについて先輩達は少々異議を唱えていく。


「……そ、それはちょっと……お安過ぎませんか?」

「んー? そう? 私としては、こんなもんかなーって思ったんだけど?」

「い、いや、流石にそれは安過ぎると俺も思う……。

 いくら自作とはいえ、ほぼ原価と同じくらいではないだろうか……」

「あ、あたしもそう思うよ……。こんなに素敵なローブがそのお値段じゃ、儲けにならないんじゃない? もっと高くても売れると思うよ……」

「んー……」


 顎に指を当て、視線を上に向けながら悩んでいたリースベットは言葉にした。


「……やっぱいいやー、その値段で。確かに大して儲けにはならないけど、こういったものって気に入ってくれた人に着てもらうのが一番嬉しいからねー。

 それに今は夏場で売れる気配なんて微塵もないしー」


 そう言葉にして笑った彼女は、これが仕上がった日のことを話していく。

 このローブが完成したのは、去年の十月(とおつき)のことになるらしい。

 残念ながらこの辺りでは防寒具と言えば、非常に無骨で安価な使い捨てるようなものが売れているらしく、ましてやこのエグランダは周囲を探索する冒険者よりも遙かに鉱山へと向かう者達が多い。

 そういった彼らにこれほど立派な防寒具など必要ないどころか、それこそ汚れていいものを装備して探索をしているのだと彼女は話していった。


「まぁ要するに、この街では需要と供給が合ってない商品ってことだねー。

 正直私も趣味で作っただけだから、これで儲けようとかあんま考えてないんだよー」


 実際にはスノウウォルフの最上毛を見た瞬間に一目惚れし、衝動買いをしてしまったのだと彼女は言う。

 ローブを考案して作り上げるまでは至福だったが、いざ商品として並べてみるとその自信作は冒険者達に手に取られることすらなく、とても不遇の扱いをされたという。

 作り上げた彼女自身、作ったことに満足してしまい、客に薦めることすらもしなかったらしい。


 これについては奥に在庫が何着か残っているそうで、六人分を用意できるよとリースベットはイリス達に話していく。当然大きさもいくつか用意されているらしく、大柄なヴァンであっても着られるローブがあるそうだ。

 少々手直しは必要となるが、それについても彼女がしてくれると話した。

 これまでのふわふわとした印象から一転、真面目な表情へと変えた彼女は真剣に言葉にしていった。


「これを直せるのはこの街には数人しかいないと思うから、この店でさせて頂きます。

 何よりも私が作った最高傑作を、他の職人に手直してもらいたくはないからね」


 そう話す彼女はふにゃりと笑顔に戻って、彼女達の答えを待つことにしたようだ。

 さてどうしましょうかと言葉にする前に、イリスだけでなくシルヴィア達も随分とそのローブを気に入ったと見えて、瞳を輝かせながら商品を見つめているようだった。

 それでも全員分揃えるとかなりの高額となるため、先輩達にも確認しようかと尋ねようと視線を向けるも、彼女が言葉にする前に彼らは答えていった。


「確かに全員分だと高額だけど、これだけのものは他所ではまず手に入らないと思うよ」

「うむ。素晴らしい品であることは間違いないだろうな」

「正直、このローブは買いだとあたしは思うよ。

 これ以外となると極々一般的なありふれたマントになっちゃうだろうし、そういったものはデザイン性よりも利便性を重視しているから、格好も良くないからね」

(ドレス)にありふれたマントというのは、流石に如何なものかと思ってしまいますわね。

 私も購入に賛成ですわよ。折角の冒険なのですから、素敵なものを纏いたいですわ」

「私も賛成です。こんなに素敵なものは、きっともう手に入らないでしょうし、エグランダの記念にもなると思います」

「あら、ネヴィア。いいことを言いますわね。これも旅の思い出のひとつ、ということですわね」

「ヴァンさんとファルさんは、これを着ても暑過ぎたりはしませんか?

 みんなで一緒に同じものを着られるのであれば購入を、と思うのですが……」


 唯一心配どころであるそれは、暑さに弱いとヴァンが言葉にした点だった。

 もし無理に我慢してしまうようなら購入は控えようと心配するイリスに、問題ないと返していく二人は言葉を続けていった。


「確かに俺達は暑さには弱いが、それも気温が異常に高い場所に限ってのことになる。

 乾季の熱帯草原を歩く程度では特に影響もない。心配をかけるような言い方をしてしまったな」

「ありがとね、イリス。気を使わせちゃって。

 でも大丈夫だよ。どっちかって言うと、あたし達は匂いの方が敏感なんだ。

 そっか。みんなで着られなければ断るつもりだったんだね。ありがとイリス」


 満面の笑みで返していくファルと、心配させたことに申し訳なさと感謝の気持ちが半々のヴァンはイリスに答えていく。

 どうやら満場一致で、素敵なスノウウォルフ製ローブの購入が決まったようだ。

"付呪(エンチャント)"を、"魔法付呪(エンチャント)"に変更させていただきました。

これもそのうちしっかりと修正していきたいと思います。

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