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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"何の心配もない"

 ベッドとベッドの間に置かれた小さな丸いテーブルを部屋の中央へ移動し、地図を広げながら今後の経路についてイリス達は仲間達と話していく。

 エグランダから石碑への経路にはもう街はなく、北東となる場所にひとつだけ存在する街に向かえば、レティシアに逢える地点とは随分遠ざかってしまうので、残念ながらそちらへは向かえないとヴァンは言葉にした。


「北西のドルトへ向かえば、石碑と真逆とはいかないまでも相当遠ざかることとなるだろう。そこから石碑へと向かう経路は取らない方がいいと思える。

 到着する日程を考えると、恐らくひと月では辿り着けない可能性が高い。

 必要以上に未知の場所をひたすらに歩くことは、避けるべきだろう」


 ヴァンの言葉に納得して頷く一同。

 彼に続いてロットが答えると、シルヴィアはそれに尋ねていった。


「ドルトから更に北西へと進むと、"奈落"へと通ずる道が伸びているそうだね。今回はその調査ではなく石碑が優先だから、そっちの方向へ行くことはなさそうだけど」

「その"奈落"は、どのくらいの大きさと言われているんですの?

 私もネヴィアも、詳しいことについては全く知りませんわ」


 シルヴィアの言葉にロットは答えていくも、実際にはどれほど大きいのか、その正確なところは判明していないらしいと話した。


「尤も、俺達一般人には極秘扱いになっているのかもしれないけど、わざわざ"奈落"を見学するために命を懸けようなんて物好きはいないからね」


 気になる言い方をした彼にシルヴィア首を傾げるもすぐさまその意味を理解し、とても険しい顔になってしまう。

 その様子を見たロットも、優しい笑顔から真面目な表情になりながら答えていった。


「そうなんだ。ドルトから"奈落"への道は、非常に強い魔物が存在するらしい。

 あくまでも噂なんだけど、危険種に近いような強さを持つ魔物が多数で襲いかかってくることもあるそうで、ドルトだけではなく、周辺の街にいる精鋭冒険者が四十チームという大隊を組んでの大規模調査となるらしくてね、そうそう何度も調査は行なえないのが現状だと思うよ」

「よ、四十チーム、ですか、ロット様……。

 それは少なくとも百六十人以上が参加する、大規模調査依頼ということですか?」


 そうなるねと答えるロットに続き、ヴァンも補足するように言葉にしていった。


「それだけの大規模調査依頼が行なわれるのは、世界でもドルトだけだろうな。

 当然、プラチナランク冒険者も多数参加させられるらしいと聞いたことがあるが、実際はどうなんだろうな。俺はあの街に行った事がないからよくはわからんが、どうやら周辺のギルドにプラチナランク招集の通達が送られるらしいぞ」

「そ、それはつまり……あたしも招集される可能性があるってこと?」

「そうだろうな。だが調査自体、俺が冒険者になる前に行なわれたきりらしいし、それなりの準備も必要になる。その間に依頼の噂が広まるだろうから問題ないだろう」


 実際に大規模調査が行なわれたのも、十年近く前の事になると噂されている。

 こういった依頼を出す側は、相応の準備が必要になるだろう。

 実力者とギルドから認められた冒険者の招集。食料や水を積み込むための馬車。馬に食べさせる干草の類。これらを大量に手に入れるだけでなく、報酬となるお金も凄まじい額が必要となるだろう。

 危険手当を考えれば、恐らくは白金貨数枚程度では済まない額となる。

 それらを出せる資金力も調査に必要となれば、そう簡単には実行できない。

 招集される事はまずないだろうと男性達は話していき、心から安堵するファルだった。



 話は戻り、ファルは故郷の場所を指さしていった。

 それは地図上では浅い森となっている場所の中間ほどとなっており、そのような集落があるとは表記されていないようだ。

 そもそも地図には大まかなものしか載せないらしく、大きな街以外の集落については載っていないのだとファルは答えていく。どうやらそれはヴァンの故郷である集落も同じようで、地図にかかれることはないのだと話した。


「この辺りがあたしの集落。エグランダからは北東に向かって浅い森の入り口手前まで進んで、丁度この辺りに抜け道みたいな通路があるんだ。森と森の間を通る事にはなるけど浅いから視界はそれなりにいいし、日差しもしっかりと差し込んでる。

 距離としてはここから森の入り口まで三日、そこから集落は二日で行けると思うよ」

「ふむ。エステルは連れて行けるだろうか?」

「狭いけど問題ないと思う。でも周囲に警戒は必要だね。この辺りは浅い森なのにスノウベアが出るんだ。素早いし、かなり静かに移動してくるから注意するべきだろうね」

「フィルベルグ周辺の深い森に出ると聞くオレストベアとは、強さという観点から見てどのくらい違うんですの?」

「オレストベア、かぁ。あたし遭ったことないから比較できないなぁ……」

「恐らく同質の魔物でありながら、その耐久性が非常に高いと言われています。

 とても素早く、何よりも持久力も相当高いそうで、一度出遭ってしまえば倒さなければエステルでは逃げられないと思います。基本的に攻撃は他のベア種と同じらしいので、打たれ強いオレストベア、という認識で間違いないと思いますよ」


 魔物学者になりつつあるイリスが答え、ヴァンとロットを唸らせていく。

 まさか北の魔物についても勉強しているとは思っていなかったようで、本気で魔物学者になれるのではないだろうかと考えていたが、私は冒険者ですからと釘を刺されてしまった。どうやら彼らの表情に丸々と出ていたようだった。


「まぁ、二日で浅い森は抜けられるから、慎重に進んで行こうか」


 平然と話すファルの姿にとうとう覚悟を決めたのかと思うヴァンとロットだったが、どうやらそうではないらしく、瞳は完全に泳いでいるようだった。


「……だ、大丈夫かい、ファル……」

「大丈夫。問題ない。母さんいないから大丈夫。何の心配もない」


 どうやら彼女の中では、フェリエは外出中だと決め込んでいるようだ。

 そう思わずにはいられなかったのだろうことは見て取れるイリス達は、それについて尋ねることはなかった。


「それ以降はどうする? 確かにファルの故郷はここよりも石碑に近いと言えなくはないが、目的の場所は随分と北東に位置する場所で、かなり周り込まなければならないのではないだろうか」


 ファルの集落から遙か北東に位置する場所に石碑があるようで、真っ直ぐ進んだとしても深き森を通過することになりそうだとヴァンは言葉にした。

 深い森を進むのは非常に厄介だ。光も届かないほどの暗闇と、いつ襲い掛かるかも分からないような危険地帯をひたすらに進まなければならない。

 イリスの魔法で全て解決されるが、できるなら通りたくないと二人は思っていた。


 そんな中、地図の一点を指し示しながらファルは言葉にしていった。


「それについてなんだけど、あたしもこの辺りまでくらいなら案内ができるよ。

 でもここから先は未知の場所になるんだ。集落のみんなも知らないだろうね」


 地図に指を置いたその場所は、集落から五日ほど出た深き森の中腹となっているそうだ。石碑へは森の最奥を越えるように進まなければ、辿り着けないと思われる。

 たとえ無事に進めたとしても、全行程は凡そ二十日もの距離を歩かねばならないと思われた。それも何が起こるか全く予想など付かないのだから、多めに日数を考慮しなければならないだろう。

 となれば、二十五日は最低でも冒険ができるように準備をしなければ危険だと先輩達は言葉にした。

 旅先で魔物の肉が手に入れば重畳だが、正直どんな存在が出るのかも分からないし、大した食料にもならないかもしれないことを考慮して、食料が半分を切った時点で戻ることも視野に入れなければならないねとロットは言葉にした。


「どうしてこれほど遠い場所に石碑を置こうと、レティシア様は思われたのかしら」


 ぽつりと呟くシルヴィアは訝しみながらも話していくも、それは尤もだと言えるような正論だった。

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