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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"幼い店主"

 鉱山の入り口となる建造物を横目にしながら宿へと向かう道の途中で、イリス達はエグランダに滞在する日程を話し合っていた。

 リシルアでは予想通りと言ってはあれだが、相応に滞在期間が短くなってしまい、これまでの疲労感も随分と蓄積されていると考えたイリスは仲間達に言葉にしていく。


「どうしましょう。何日かエグランダでお休みを取って出立しますか?

 皆さんこれまでの旅路でお疲れでしょうし、少しお休みしましょうか?」


 そう言葉にするイリスだったが、問題ないと仲間達は答えていく。

 ファルの心の準備が必要なのではと思っていたが、それも大丈夫だよと話した。

 寧ろイリスは疲れていないのかと逆に聞き返されてしまったが、彼女自身もそれほど疲労感が溜まっていることもなかったので、明日一日はゆっくりと休んでからエグランダを発ちましょうか、ということになった。


 実際に彼女達はそれほど疲れてはいない。イリス特製のスタミナポーションと自然回復薬や、エステルのお蔭でこれまで疲労感を感じることなく旅を続けていた。

 最近ではエステルも水代わりにスタミナポーションを好んで飲むようになっているので、疲れている様子を一切見せていない。精神的な疲労感もイリスの保護魔法だけでなく、一緒に寝ることで回復しているのかもしれないとイリス達は思っていたようだ。

 しかし、たとえ魔法薬を使っていたとしても、これだけの距離を元気に歩いてきたエステルに驚きを隠せない一同だった。


 そんなことを話していると、宿屋に到着したようだ。

 外観は少々古いが、以前来た時にいい対応をしてくれたんだよとファルは話した。


「やっぱり宿屋選びに冒険(・・)はしない方がいいからね」

「まぁ、そうだろうな。俺もそれには同意できる」

「それはそれで楽しそうに私には思えますが?」

「そういえば、シルヴィアは前にもそんなこと言ってたね」

「その時も姉様は、とても楽しそうに話されていましたね」

「そうですね。あの時のシルヴィアさん、とっても楽しそうでしたよね」


 あら、旅は楽しまなければ勿体無いですわよと、彼女は満面の笑みで答えていく。

 以前にも思っていたことだが、この旅で一番楽しく過ごしているのは彼女なのかもしれないと一同は思うと同時に、やはり姉には自由にしていてもらいたいと、とても強く想うようになっていたネヴィアだった。



 扉を開けると正面にカウンターが見え、右側には上階へと向かえる階段が設けられているようだ。室内は白を基調とした造りになっていて、古い建物ながらも清潔感に溢れた受付になっていた。部屋の左角には観葉植物が鉢植えで置かれていて、どことなく涼しさを感じさせる気持ちになったイリス達。

 カウンターに置かれた少々大きめの鈴をカランカランと鳴らしてしばらく待っていると、右にある階段からこちらへとやって来たひとりの女性が対応をしてくれた。


「いらっしゃいませー。とうかんに、ようこそおいでいだたき(・・・・)ました。

 えっと、いち、にぃ、さん……ろくにん、じゃなかった、ろくめいさまですね!」


 とても可愛らしい主に、微笑ましく思いながら笑顔を見せる女性達。

 一方男性達はというと、どう対応していいのやらと苦笑いで困惑していたようだ。

 対応してくれた一人の女性、もとい少女にイリスは視線を合わせながら尋ねていく。


「こんにちは。私はイリスです。貴女のお名前を聞いてもいいですか?」

「わたしピア! よろしくね! イリスおねえちゃん!」


 満面の笑顔で答えてくれる彼女に、ほっこりしながら視線をピアに合わせて自己紹介をしていく女性達。話を色々と聞いていくと、彼女はまだ四歳なのだそうだ。

 どうやらここの主人であるピアの父は少々手が離せないらしく、代わりにお手伝いをしてくれているのだと話していると、若い男性がやって来て改めて挨拶をしてくれた。

 年齢は二十歳といったところだろうか。

 ピアと同じ栗色の髪に茶の瞳で線の細い、どこか儚げな雰囲気の綺麗な男性だった。


「大変お待たせしました。私がこの"灰簾石(かいれんせき)の寝台"の主、オラシオ・モラレスと申します。こちらは娘のピアです。

 私事で申し訳ございませんが、急遽お客様がいらっしゃいましてその対応に妻とあたっていた為、失礼ながら娘に皆様のお相手をさせていただきました」

「またお願いしますね、オラシオさん」

「これはファル様。ご利用いただきありがとうございます。

 覚えているかい、ピア。一年前、いっぱい遊んでくれたお姉さんだよ」


 父の言葉に首を傾げながらファルを見つめるピア。

 懸命に思い出そうとしているのだろう。とても難しい顔をしていた。

 残念ながらファルのことは覚えていないようだが、それも仕方がないことだ。


「ピアちゃん、今よりもずっとちっちゃかったんだもん、覚えてないよね」

「うぅ、ごめんなさい……」

「いいのいいの。次来る時は覚えておいて貰えると、お姉ちゃん嬉しいな」

「うん!」

「すみません。折角ピアとあんなに遊んでもらっていたのに」


 気にしないでくださいとファルが言葉にした頃、薄茶色の髪を肩口で束ねたとても華奢な若い女性が、階段から降りてきて挨拶をしていった。


「ようこそお出で頂きました。妻のピラルと申します。

 まぁ! ファル様! お久しぶりです! その節は大変お世話になりました」

「お久しぶり、ピラルさん。今回もお部屋お願いするね」

「はい、勿論でございます。六名様ですね。個室となると現在お部屋が埋まってしまいまして、二人部屋と四人部屋であればご用意できるのですが、宜しいでしょうか?」

「うん。大丈夫だよ。二泊お願いします」

「畏まりました。それではお手数ですが、こちらに代表者様のお名前をご記入下さい。

 連絡等をお待ちの方がいらっしゃいましたら、その方のお名前も横にお願いします」


 分かりましたとオラシオに答えていくイリスは名簿に名を書き、ピラルの案内で部屋へと向かっていく。

 階段に上がっていくイリス達へ深々とお辞儀をして『どうぞ、ごゆっくりごたい()いください』と言葉にしたピアに微笑みながら、ありがとうと答えていくイリス達。

 道すがら幼い娘を受付へと向かわせたことや、対応が遅れてしまったことを詫びるピラルに、笑顔でそんなことありませんよと答えながら階段を上がっていった。


「ピアちゃんはとっても可愛いですね。見ているだけでも笑顔になってしまいます」

「ふふっ。ありがとうございます。あの子は私達の宝物なんですよ」


 イリスの言葉に、とても嬉しそうな笑顔を見せながらピラルは答えていった。

 彼女の話によると上階となる三階までほぼ全ての部屋が埋まっているらしく、七人であればお断りをさせて頂いていたと、ピラルはとても申し訳なさそうに言葉にした。

 どうやら大勢の泊り客が押し寄せることがごく稀にあるらしく、たまたまイリス達がそんな時に居合わせたということなのだそうだ。

 盛況なのかといえば実際にはそうでもないらしく、客が来ない日も無くはないそうで安定しないのだと彼女は苦笑いをしながら話していった。


 急に受け付けを済ませたということは、この街の外から来た者ではないだろう。

 恐らくは商人とその護衛の冒険者達が急遽予定を変更してもう一泊、といったところなのかもしれないと先輩たちは考えていた。

 そういった意味で言うのならば、この街では良くあることだと彼らは聞いている。

 一日二日であろうと相場が変わる世界に生きる商人にとって、買い付けとはそれこそ真剣勝負だという。下手をすれば大損する事になるどころか、額次第ではあるが途轍もない借金を背負う可能性だってある。

 非常に難しく難儀な世界にいるのだなとヴァン達が思っていると、泊まる部屋に着いたようだ。


 ここは階段から三つ目の部屋で、その向かいが四人部屋であるイリス達の部屋になるのだとピラルは説明をした。

 お部屋を離しますかとイリス達に尋ねるも、ここで大丈夫ですよとイリスは答えた。

 室内は思っていた以上に広く、茶を基調とした落ち着いた雰囲気をしている部屋だ。

 どうやら全室同じ造りとなっているようで、四人部屋も大きさとベッドの数以外は変わらないようだった。

 お湯と大きめのボウルが必要な場合は受付までお越し下さいと女性達の部屋まで案内したピラルは、イリスに鍵を渡してお辞儀をすると上階へ向かっていった。

 彼女はこのままベッドメイキングの確認や、掃除をし直すそうだ。


 そんなピラルを見送った後、自室へはなくヴァン達の部屋へと向かったイリス達は、エグランダの先となる場所についての話を始めていった。

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