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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"多く求める傾向"

 街並みを見ながら厩舎から宿を目指していたイリス達は、宿泊施設がある中心部へと向かって歩いていく。

 この街の造りは少々他とは違っていて、宿や飲食店、雑貨屋、薬屋などの店は全て中央に集中するように集まっているそうだ。


 だが、そういったことを抜きにしても、随分と鉱山街(こうざんまち)であるノルンとは違った印象を後輩達は感じ取っていた。

 すれ違う人の数は相当違うが、行き交う人々の姿にそれ程の違いは感じられない。

 同じような活気に溢れてはいるが、何か違和感のようなものを感じていた。

 ほんの少しだけピリピリとした空気を感じていたイリス達だったが、その理由も宿へ向かうまでの道で理解することができたようだ。


「このエグランダは、暮らす人々の活気に溢れた賑やかな街で、多くの冒険者もいると聞いたことがある。それも相当の強者のみが集まる場所だそうだ」

「それほどこの周囲の魔物は危険、という意味なのでしょうか」


 ヴァンの言葉を疑問に思ったネヴィアは尋ねるも、街の外にいる魔物が厄介なことには変わらないが、それよりも街の中央の方が警戒されているのだと彼は語る。

 そんな彼は言葉を続けていくも、後輩達の目を丸くしてしまう事になったようだ。


「この街の中心部には、鉱山へと向かえる場所が造られていてな。

 その場所を中心をして、街が造られているんだ」


 ヴァンの言葉を聞き終えた頃、丁度街の中心となる場所が見えてきたようだ。

 徐々に視界に映る中央部に佇む、とても小さな城砦のような頑強な建物。

 見るからに街の中にある建物には相応しくないと言えてしまうような、重々しい空気を醸し出すその建造物を見つめていた後輩達へ、ファルはそれについての話をしていった。


「あれは魔石の原石を採掘する鉱山へと続く建物になるんだよ。

 みんなの想像通り、街の中にそういった場所が広がっているから、安全の為に(・・・・・)街門と同じくらい頑強な造りの門が設けられているんだ」

「安全の為、ですの?」


 彼女の言い放った言葉を疑問に思ったシルヴィアは、ファルに聞き返してしまう。

 街の中とは本来、安全な場所なのではないだろうかと思ってしまう彼女達だったが、どうやらこの街は少々他の街とは違うようだ。

 それに気が付いたイリスは呟くように言葉にすると、ファルは頷きながら難しい顔で返していった。


「……そうか……魔物が、出るんだ……。

 それもノルンの鉱山とは違う、とても強い魔物が……」

「うん。そうなんだ。鉱山の中には、かなり強い魔物が出るらしいんだよ」


 イリスの考えにシルヴィアとネヴィアの二人も思いが至らなかったわけではないが、それを言葉にされてしまうとぞくりと身を小さく振るわせていく。



 嘗てこの街は、小さめの鉱山だったそうだ。

 それを切り開いて地下へと掘り進めていったのが、エグランダの始まりと言われている。残念ながらそれも大昔の話となるらしく、本当に山があったのかですら、今では判断もできないようだ。文献の類を残す習慣がなかったのではと(ささや)かれてはいるが、それも定かではない。

 流石に山を切り開いてまで街となったことに驚きを隠せないシルヴィアとネヴィアだったが、そうさせた理由をイリスは呟くように言葉にしていった。


「それだけ魔石が取れる場所なんですね」


 いつの頃からか力の秘めた石であることが発見され、その未知なる鉱石を何かに流用できないかと研究されたのが、この街の起源となるのだろう。

 だが、そういった文献の類も一切残されていないようで、一体どれだけ昔からこの場所で採掘が始められていたのかは、未だ判明していないそうだ。

 研究者がいるのであればそういった書物も残されているはずだと思えるので、もしかしたらこの街ではなく、エークリオに文献は残されているのかもしれないが。


「恐らくは、そういうことなのだろうな。他にも幾つか魔石の採掘ができる場所は見つかっているらしいが、ここほど高品質なものは手に入っていないそうだ」

「魔石が多く集まる場所ということが、そういうこと(・・・・・・)を意味しているのは私にも分かりますが、つまりは魔物も凶悪になっている、ということなのかしらね」

「恐らくはそうなんでしょうね。詳しく調査してみなければ分かりませんが、ファルさんの時のような魔物に近いのかもしれないと私は予想しています」


 魔石が集まる場所、ましてや地下ともなればマナが他とは違い、過分に(コア)から流出している場所である可能性が高いとイリス達は思っていた。

 あくまでも可能性の一つとしてではあるのだが、"コルネリウス大迷宮"のように、凶悪とも言えるような"地底魔物(クリーチャー)"へと変貌を遂げる前の状態なのかもしれないと一同は考える。

 あの事件以降、地底魔物(クリーチャー)の容姿や特性を知らない三人にもしっかりと伝えてあるので、話の中でも大凡の見当はネヴィア達にも理解できているようだ。

 その禍々しいとも言えるような歪な存在も、それらが持つ強さの厄介さも。

 地上の魔物とは明らかに違う強さと凶暴さを持つ存在が、エグランダの採掘場で出たとは思えない。そうなれば世界中にその危険性が広まり、最悪の場合この街が閉鎖され、最終的にはルンドブラードのようになってしまうことだってあり得るだろう。

 もしかしたらあの都市も、そういった理由から人が離れていったのかもしれない。


 だが恐らくはそれほど強くはない存在でありながらも、冒険者を制限するほどの強さとなるということは、濃いマナの影響を受けてしまっている可能性も考えられた。

 それどころか、地底魔物(クリーチャー)の変異前である考えも捨てきれないのではとイリスは思っていたが、これはそれらと対峙した三人が戦ってみなければ分からないことだろう。


 どちらにしても、鉱山の魔物が厄介であることには変わらない。

 だからこそ頑強な門が必要となると、この街の人から聞いたことがあるらしい。

 それも中々に特殊な門らしく、何重にも門と防壁が造られているようだ。

 お蔭で魔物が溢れ出す心配もこれまでなかったそうだが、大昔にはそういった防壁がなく、一度魔物が数匹地上へと溢れ、大変な事になったと伝えられているらしい。

 恐らくは魔物討伐後に急遽そういった防壁の原型が組まれ、現在では街門よりも遥かに強固に造られているのだろう。


「ここの冒険者ギルドの依頼は、そのほとんどが鉱山内の魔物の討伐を目的としたものばかりが貼られているんだよ。

 だけどさっきも言ったようにここの魔物は強いらしくてね、初心者どころかブロンズランク冒険者では鉱山内に入ることすら許されていないらしいよ。

 とは言えあたしも人伝に聞いただけで、どこまで本当の事かは分かんないけどね」


 実際にそれだけの危険性を伴う場所ともなれば、それほどの強者である冒険者をこの街に引き入れなければならない。シルバーランク冒険者以上という条件は付くが、鉱山内の魔物を倒した報酬金は相当の破格となっているらしい。

 正確には討伐料といったものは支払われる事はないのだが、その素材が他とは比較にならないほど高額になるという。

 しかし、多くの冒険者がこの街にいるかと言えば、実際にはそうでもないのだとヴァンとロットは続けて話していった。


「この街は少々特殊でな。周辺の魔物に対しては通常の報酬が支払われるが、鉱山内の魔物に関しては金額が跳ね上がる。確かにこの街にいる冒険者の多くは、その報酬を手にしようと戦う者達が多いと思われるが、事はそう単純な話でもないようだ」

「そもそもお金目的で闘う冒険者は世界でも少ないんだ。シルバーランク以上の、それもゴールドランクともなれば、お金は相当安定して入手できるようになっているからね。余程の贅沢をし続けなければ、問題なく生活ができてしまうんだ。

 当然それは、それだけ危険な世界で生きているという意味にも繋がるんだけど、わざわざ危険な場所に身を置く必要はないからね。

 ここにいる冒険者達は、稼ぐだけ稼いでおこうと考えているのかもしれないけど」

「あたしとしては、そんな危険な場所でお金を稼ぐよりも、もっと安定を求めちゃうんだけどねぇ。必要以上の危険に首を突っ込もうなんて、流石に思わないなぁ」

「そうだな。俺としてはリシルアしか世界を知らなかったから、流れに身を任せるように淡々と強い魔物を倒して金を稼いでいたが、そうではないのだとイリス達に教えてもらえた。今更そういった命の冒険をすることは、二度とないと言えるだろうな」


 そういってヴァンは、リシルアとエグランダとの冒険者の違いを話していった。


 多くの者が強さを求めるリシルア所属冒険者。

 彼らは金銭よりも魔物を倒すことを目的とした者が非常に多い。

 中にはより強い魔物を捜し歩くという謎の傾向がわりと見られる。

 そしてエグランダ所属冒険者は、強さよりも金銭を多く求める傾向が強いと感じられるような印象を受けたと先輩達は言葉にした。


 理由は勿論、多々あるだろう。

 何かの為、誰かの為にお金が必要となる場合もゼロだとは言い切れない。それを知るイリスは、継続的に薬を飲み続けなければならない病気もあると話していく。

 重い病気を抱えてしまえば、必要となる薬代もかなりの高額となるし、珍しい病気であれば尚お金が必要となる場合もあると、薬師の視点から話す彼女の表情はとても辛そうなものをしていた。

 そういった病気の全てをなくしてあげたいと思う一方で、そんなことができるのは、母のお腹にいた頃からずっと傍にいてくれたあのひとや、その仲間たる神々だけだろうと思えてしまうイリスだった。


 この世界の悲しみはなくならない。

 未来永劫、なくなることはないのかもしれない。

 今こうしている間にも、病気に苦しみながら頑張っている人がいるはずだ。


 例えそうだとしても、フィルベルグ冒険者ギルドに提出した数枚の書類が、それをほんの少しだけでも和らいでくれることを願いながら、イリスは街の中央にある小さな要塞のような佇まいの建造物を物悲しげに見つめていた。

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