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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"魔石で栄えた街"

 ランプ製作から数日後となった昼下がり。

 眼前に広がる大きな街に、荷台から顔を出す女性達は各々笑顔を見せながら言葉にしていった。


「わぁ! あれがエグランダですね!」

「凄く大きな街ですね。一体何人もの人が暮らす街なのでしょうか」

「街門もとても大きいですわよ。本当に街なのかしら。まるで国みたいですわね」

「あの街の人口は、流石に国ほど大きいとは言われていないんだよ。

 それでも五千人は暮らす大きな街であることには変わりないけど、その多くは魔石研究者や鉱夫といった採掘師や商人、精錬師や鍛冶師、細工職人や冒険者といった人達とその家族が多く暮らしている街らしいね。

 ……とは言っても、あたしもそう何度も来ているわけじゃないんだけどね」


 はにかみながら、そう言葉にするファルだった。

 ここはある場所から近過ぎるため、そう何度も足を運ぶことはなかったそうだ。

 基本的に遠くへ向かうように別の場所へ移っていき、ツィードに流れ着いたらしい。

 美しい花に囲まれながら過ごすのも悪くないと思いながらも、やはりあの街も少々近い場所だったので、そう長居はできないと思っていた矢先に洞穴で落ちるという失態をしでかしたようだ。

 そのお蔭でファルさんと出逢えたんですねと、とても前向きなイリスの光溢れる言葉に心から嬉しく思う彼女に微笑みながら、ロットは言葉を続けていった。


「このエグランダは、鉱山から採掘された魔石を特産品として栄えた街だと言われているんだ。採掘されるものは魔石を含んだ原石だけでなく、鉄や銀といったものまで手に入るそうで、街の北側には多くの精錬所やそれらを分ける場所が設けられているんだ。

 それぞれの金属と魔石に分けられた後に、買い付けに来たクレトさんのような商人達がリシルアやエークリオ、時にはアルリオンにまで運ばれていくそうだよ」


 魔石に関してはクレトが話したように、エークリオに魔石加工技師が多く滞在しているようでアルリオンへは運ばれることはないが、金属に関しての需要はかなりあるとロットは聞いたことがあると後輩達へ話していく。

 当然この街には、ここで採れたものを運ぶ商人やその護衛をする冒険者達も数多く滞在しているらしく、宿屋もかなりの数が用意されているそうだ。

 ただその場合に使われる経路は多くの隊商で組まれることもあって、安全な川沿いとなる街道をゆっくりと進んで行くようで、最短距離を進んでいる俺達とは会えなかったのだろうなとヴァンは言葉にした。


 次第に城門が近くなると徐々に巨大な扉は開かれていき、エグランダへ到着したことを実感するイリス達は、期待に胸を膨らませながら街門へと入っていった。


 多少大きさは違えど、大凡どこの街でも街門の造りは同じとなっているようだ。

 しいていえば、二つ目の街門が常に開放されているフィルベルグとは違い、どの街もしっかりと扉は閉ざされているようだった。

 そういった所も冒険に出なければ知ることはできなかったですわねと、どこかわくわくした様子で言葉にするシルヴィアに賛同ていくイリスとネヴィアだった。


 エステルを止めた後も興味深そうに辺りを見ていたイリス達の下へ、街門を守る者と思われる人種の若い女性と、鼠人種の獣人男性がこちらへとやって来たようだ。

 女性はどこかおっとりとした印象を受ける二十代前半で、男性は鋭い瞳の二十代半ばに見えた。男性のその姿に、かなりの実力者であることが伺えるイリス達だった。


「エグランダへようこそ。商人さんはこちらでお名前と所属コミュニティーの記帳をしていただく決まりとなっているのですが、よろしいでしょうか?」

「カティ、彼らは冒険者だ。それは必要ない」


 話しかけてきた女性を止めた男性は、こちらへと視線を向けて言葉にしていった。

 見た目が若いと思われるわりに低い声を放つその男性は、かなりの渋さを感じさせる紳士のような方だと、イリス達は彼の印象を受けていた。


「ようこそ、エグランダへ。

 ヴァン殿と、ロット殿ですね。お二人の噂は聞き及んでいます。

 私は、この街の守護任務統括補佐をしている、ラウノ・パーテロといいます。

 エグランダについて、何かお聞きしたい事はありますか?」

「いや、特にはない。何か変わったことなどはあっただろうか?」

「今のところは特に起きてはおりません。平穏ですが、警戒はすべきでしょう」


 ラウノの重苦しい言葉に、カティは笑顔で答えていく。


「らー先輩はちょっと神経質過ぎです。見てくださいよ。お空はこんなにも晴れていて、何かが起こるような感じなんて全くありませんよ?」

「……空と異変を同時に語るお前がそもそも異常事態ではあるが、こういった時だからこそ気を抜いては危険なんだ。それは精神的なダメージに繋がる厄介なものとなる。

 常に気を張れとは言わないが、そういった事も想定して行動するべきだと思うぞ。

 それと、"らー先輩"はやめろと何度も言っているだろう?」


 そう言葉にした彼は、少々真面目過ぎると思われているのだろう。

 両目をぎゅっと閉じながら、とても微妙な顔でカティは言葉を返していった。


「頭固いですー! カッチカチですー! 精錬所に行って溶かしてもらって下さい!

 ついでにカチカチの頭だけじゃなく、心配性も治してもらってきて下さいよー!」


 精錬所でそんなことまでやっているとは初耳だなと皮肉を込めて返していく彼だったが、残念ながら彼女には全く伝わらなかったようで、微妙な顔で何かを呟いていた。

 そんな中、こほんと咳払いをしながら彼は話を続けていく。


「少々鉱夫や冒険者が多く、荒々しい気性の者も多いと思われますので、もしもの際はこちらまでご一報下さい。街の治安維持もこちらで対処させていただきます。

 大きい街ですので東西南北の四箇所に街門は設けられていますが、基本的に扉が開かれるのはこちらになりますので、出立の際もこちらへいらしてください」

「そうか。感謝する」


 これも仕事ですのでお気になさらずと言葉にした彼は、後方に待機している人種の男性達へ合図を送ると、重々しい音を出しながら徐々に二番目の街門は開かれていく。

 扉を抜けてエステルを厩舎へと連れていくヴァンであったが、先程ラウノが言葉にしていた内容が少々引っかかっていたようだ。

 それはロットとファルも同じように不安に思っていたことではあるが、どうやら後輩達は伝わらなかったようで心配させることもなく、安心した先輩達だった。


 ラウノが話した内容は"この街では問題が起こりやすい"と言ってるように思えた。

 更には"問題事はこちらで解決するから手を出すな"とも聞こえなくはなかったが、ヴァン達への対応を聞くに、強い者同士との喧嘩となれば色々と面倒事になるという意味なのだろうと考えていた。

 そういった諍いはこれまでの旅ではなかったが、ここに来てそういったものを後輩達が目の当たりにしてしまうとなれば、少々不安に思わざるを得ない彼らだった。

 一部リシルアでは揉めてしまったが、これまで穏やかに楽しく冒険を続けて来られたのだから、できれば嫌な重いなどすることなく、このままずっと笑顔で旅を続けたいとまでヴァン達は思っていながらも、不安な気持ちは拭い去れなかったようだ。



   *  *   



「それじゃあエステル、また明日来るね。いつもいい子で待ってくれてありがとうね」


 柵越しに伸ばしてくるエステルの顔を抱きしめ、撫でながら言葉にするイリス。

 いつものように手綱を付けずとも大人しく移動するエステルに厩舎の方は驚いていたようだが、ファルも未だに見慣れぬ光景に本当にいい子だねと話しながらも、内心ではかなりの驚きで満ちていた。

 やはりファルであってもエステルのような子は見たことがないらしく、本当に特別な子なのではないだろうかと思えてしまっているようだ。

 実際にこういった子は全くいないわけではなく、極々稀にそういった子がいるのだとは噂に聞いていたので、彼女もヴァンやロットと同じような反応を示していた。



 街並みを歩くイリス達は建造物を見ていくも、極々ありふれたような建物であることが分かった。採掘場から採取した石を積んで組み上げた家に、石造りの屋根と煙突。所謂組積造(そせきぞう)と呼ばれた構造となる。

 溢れるほど手に入る石材を有効活用して造られたのだろうとヴァンは言葉にすると、ロットも続けて話していった。


「この辺りはまだ荒野が少し続くそうだからね。

 木々が建ち並ぶのは、ここからあと三日ほど進んだ辺りになると思うよ。

 この周囲は小さな川が東に流れているから、木が少ないという点を除けば立地としてはそれほど悪くはないんだ。それよりも遙かに鉱山の収益が大きいらしくて、昔からこの街は栄えていたって言われているくらいだからね」

「不思議に思えてしまいますわね。いくら高価な魔石が大量に採掘できるとはいっても、これほどまでに大きな街へと発展するものなのかしら?」

「徐々に人が次第に集まっていったんだろうな。

 初めは学者と採掘師が。次第に商人が行き来するようになり、冒険者達も住み着き、少しずつ街が大きくなっていったのかもしれないな」


 街の中心に鉱山の入り口があるのが、まるでそれを象徴しているかのように思えるよ。そうロットはヴァンに続いて言葉にしていった。

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