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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十五章 問題の存在
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"世界にひとつだけの"


 しばらく時間を挟み、ランプのデザインを紙に描いていったものを発表していく。

 例によって男性達は難しい顔をしながら描いていたようで、結局はいいデザインを考え付かなかったと言葉にした。


「やはり俺には難しいようだ。結局はこんなものしか思いつかなかった」

「同じく俺もです。ここは女性達に任せるよ」


 どこか申し訳なさそうなヴァンと、苦笑いをするロットは描いた絵を見せていく。

 ロットの描いたものは中々品のあるデザインではあるが、夜営に良く使われるランプだ。ある意味では目立たない作りと言えなくはないのだが、シルヴィアとファルにはそれじゃつまらないと一蹴されてしまった。

 ヴァンは極々ありふれた、冒険者が多用するランプしか考え付かなかったようだ。

 残念ながらこれも無骨さと重々しさから、二人にはあまり好評を得なかった。


 続けてシルヴィアとファルが同時に発表していく。

 とても上品な大人のランプを描いたシルヴィア。まるで街灯についているような六角錐のガラスを金属で保護するように覆っている立派なものではあるのだが、問題はその大きさだと彼女は口頭で説明をしていった。

 それはファルにも言えることのようで、彼女の描いたものは上品さの中にある個性的なデザインが光るスタンド型のもので、少々ランプの大きさと魔石の大きさを考慮すると、光源とのバランスが悪いのではとファルは心配しているようだ。

 どちらも大きさや光とのバランスに気になるところがあるが、とても素敵なデザインだと四人は言葉にして彼女達は喜んでいく。

 しかしファルはスタンド型となっているので、少々目立ち過ぎるのではと思えてしまうが、それも個性かもしれないということで口を挟まなかったヴァンとロットだった。


 相も変わらずの絵心の方に、思わずデザインよりも注目してしまう男性達のもとへ、ネヴィアは満面の笑みで言葉にしていった。

 その表情と声の強さに余程の自信を感じたファルとイリスは、それに答えていく。


「では、次は私ですね」

「お! 今回は自信作っぽいね!」

「わぁ! 楽しみです!」


 はしゃぐように言葉にする二人の横で、言いようのない不安を感じているのはどうやら姉だけのようだったが、それが見事的中する形として眼前に現れていくこととなる。

 満面の笑みで描いたものと思われる絵を見せていくネヴィアと、それを見た一同は凍りつくように表情を固まらせてしまった。

 思考が完全に止まり、一体何を目にしているのかですら分からなくなっていたイリス達のもとへ、彼女の話していく説明が更に混乱を招く事態となる。


「こちらのランプは、見ての通り少々大きめのものとなります。ここの部分はガラス製で、こちらが白い金属のようなもので覆うと美しさが増すと思うのですが、それにはプラチナなどを使用することとなりますので少々お値段がかかってしまうでしょう。

 白銀のようなものでも素敵に見えると私は思うのですが、問題はこの下部の部分ですね。少々拘りを持って書かせていただいたこの部分は、とても緻密な細工を施さねばなりませんので、現実に作るとなると難しいかもしれないと考えておりました。

 ですのでこの部分に関しては、こちらに書いてありますようにこのようなデザインにすることで問題を解決することができると思われます。簡略化された細工でありながら、上品さを損なうことなく作り上げることができますので、母様に見せても好評を得ると自信を持って描かせていただいた作品となります。更にはこの部分ですが――」


 流暢に説明を続けていくネヴィアだったが、その内容はまるで頭に入らない一同。

 とてもとても楽しそうに語る彼女を止めることができなくなってしまったイリス達は、続くネヴィアの言葉に耳を傾けようとするも、描かれてしまったそのモノに視線が集中してしまい、どうやら彼女を止めることもできなくなってしまっているようだ。

 そんな中、意を決したようにファルはシルヴィアへと呟いていくが、それに答えた彼女もまた、その答えを持つに至るだけのものを持っていなかったと見えた。


「……ねぇ。……あれ、分かるの? ……もしかして、あたしだけ違って見えてる?」

「……残念ながら、私にもさっぱりですわね」

「……ランプの絵を……描いたんですよね、ネヴィアさんは……。

 ……なんだかぐにゃぐにゃしているように、私には見えるんですが……」

「……こ、これは、凄まじいな……。一体何をどう見ればこうなるんだろうか……」

「……凄く楽しそうに語ってるネヴィアを止める勇気は、俺にはないですね……」


 どうやら本当に彼女にとっては自信作だったようで、光が幾重にも重なりながらぐにゃりと描かれているそれを尚も説明していくネヴィアだったが、話の内容の一部を聞いていると、ランプ自体はとてもいいデザインだと思われた。

 それをどうやって再現するかという問題は残るが、それさえ解明(・・)できれば素敵なランプになるのではとイリスはネヴィアに聞こえないような小さな声で言葉にするも、半目でその絵を見続けていたファルはどうやってアレ(・・)を解明するのと言葉を返されてしまい、答えられなくなったイリスは苦笑いしか出なくなってしまったようだ。


「……おかしいですわね。チームマークの時はあんなにしっかりと描けていたのに、何故戻ってしまったのかしら……。これは、世界に秘められた謎のひとつですわね……」

「……あれをしっかり描けてたって言うシルヴィアも、中々に凄いとあたしは思うよ」

「――となっていまして、こちらのデザインはこのようなものにすることで――」


 尚も周囲に優しく響く彼女の言葉に耳を傾けながら、さて何と答えれば彼女を傷つけずに穏便にことを済ませられるかとイリス達は考え続けていった。


「――以上で説明を終らせていただきます。ご静聴ありがとうございました」


 深々とお辞儀をするネヴィアに拍手を送る、静聴しかできなかったイリス達。

 とりあえずデザインだけはとても良くできているとは理解できても、それを再現するのはかなり難しいと思ったイリスは、なるべく傷つけないようにと配慮をして細工の難しさを指摘しつつもやんわりとお断りを入れていった。


「じゃあ、最後はイリスだね」

「……え? あぁ、そうでしたね。まだお見せしてませんでした」


 どうやら断ることで頭がいっぱいだった彼女は、完全にそれを忘れていたようだ。

 では、と改めて仕切り直したイリスは、描いた絵を仲間達に発表していく。


「わぁ! 素敵です! イリスちゃん!」

「こ、この発想は、ありませんでしたわ……」

「……そうだね。あたし達、ランプってことに凝り固まってたみたいだね……」

「凄く綺麗なランプだね。イリスらしくて俺はいいと思うよ」

「ふむ。流石というべきか、その発想力に驚くというべきか」


 思わず負けたと言葉にしてしまうイリスの描いたものは、透明なガラスで作る花のデザインのランプ。形状はパーシフォリアとなっている。

 それについての説明を始めていくイリスだった。


「パーシフォリアは一本の茎に沢山の花を咲かせますが、今回はランプということもありひとつのお花としました。初夏に咲く花ということもあり、少々時期が遅いですが、一応は夏のお花という繋がりもあります」


 そして花の中央に魔石をはめ込む事で、とても綺麗なランプが完成すると彼女は思ったようだが、このデザインは思いついたように考えていたのではないと話した。


「いつかはこういったランプを作りたいなと思っていたのですが、まさか魔石を手にするとは思いませんでしたので、折角だからと考えていたものを作りたくなったんです」

「なるほど。それで作りたいものがあると仰っていたのですわね」

「確かに凄く綺麗なランプだけど、いつ頃からこんな素敵なの考えてたの?」

「ツィードのグラス工房を訪れた時に、ガラスでできたお花の飾りがありまして、素敵だなぁと思っていたんです。結局その場ではランプの発想はできなかったんですが、数日してガラス製のお花に光源を入れたら綺麗だろうなって考えたんですよ」

「そういえば、ガラス製の花でできたランプなど見たことがないな」

「それ売り出したら物凄く売れるんじゃないかなって、あたしには思えるんだけど」

「い、いえ、商売する気はないですよ。それにガラス加工は素人ですし、魔法なしで作り出すことは難しいです」


 実際に一から学んでいる間に、こういった商品は世に出るものだとイリスは雑貨屋で父から学んだ知識を話していく。

 もしかしたらツィードのグラス工房のどこかでは製作されている可能性もあるが、やはり花の形状をしたランプともなれば製作難易度も上がるだけでなく、完成品に付く値段がかなりのものとなるために、早々は商品化されないのではとイリスは言葉にした。

 雑貨屋ならではの知識と思えてしまう彼女の説明を聞いていたシルヴィア達は、そういった道にも進めるかもしれないと素直に思えてしまった。


 どこにもない世界にひとつだけのランプという点や、形状の美しさ、何よりもイリスらしさという点から、彼女の案に賛同していく仲間達だった。

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