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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十四章 流れ落ちる想い
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"課せられた使命のように"

 ヴェネリオの前に置かれたそれは、二十センルほどで銀色の小さな鉄製の箱だった。

 厳重に鍵が付けられていたのだろうことが伺えるような造りをしているその箱は、見ただけでかなりの重さがあると推察することができ、まるで宝箱のようにも見えた。

 当然鍵は外されたまま用意されていたので、そのまま開けることができるようだ。


 対面のソファーへと座るイリス達にその箱を差し出していく彼は、その中に入っているものがそうだと言葉にしながら、イリスに開けるよう促していった。

 彼女の手によってゆっくりと開けていく箱の中身へ、仲間達の視線が集まる。

 中に入れられていたものを見つめながら、ヴァンは言葉にしていった。


「……これは、種、か?」

「うむ。恐らくはそうなのだろうな」

「……どういうことですの?」


 ヴェネリオの反応に疑問を持つシルヴィアは尋ねていく。

 渡したいものがあると伺ってこの場にいるはずなのに、その肝心の渡したいものが彼の言い方では確かなことは分からないと聞こえてしまっていたのだが、どうやらそれは聞き間違いでも、彼の言い間違いでもなかったらしい。

 それについての話を彼は始めていくも、一体どういうものなのだろうかと箱の中に置かれている種へと視線を向けてしまうシルヴィア達だった。


「これが貴重なものである事に違いはない。だが、その詳細は未だ不明とされている。

 この種と(おぼ)しきものは、我々元老院が四百年以上も守り続けてきたとは伝えられているのだが、それ以外の、そしてそれ以前について記述された文献が一切ないのだ。

 植物学者に調査を依頼したが結局は判明せず、新種である可能性もあると言われた」


 現在残っている文献によると、四百年は前のものであることは間違いないらしく、歴史的に見ても、植物学的に見ても、この種と思われるもの自体は非常に貴重なものであることも違いはないだろう。

 しかし、そこに疑問を持ってしまうのも仕方がないと言える。

 それについてネヴィアはヴェネリオに尋ねていった。


「どうしてイリスちゃんにこれを渡そうと思われたのですか?

 ……この種がとても貴重なものであることは私にも分かるのですが、イリスちゃんにお渡したいと仰る理由が、失礼ながら私には分かりかねるのですが……」

「ふむ。まぁ、当然の疑問だな。

 非常に曖昧な言い方になるが、イリスさんと対面した瞬間にこれを渡す姿が見えた、というのが本音ではあるのだが、貴女が話してくれた内容を聞いて確信したのだ。

 石碑での話も、レティシア様やアルエナ様、そしてメルン様との話も。

 貴女の生い立ちや、世界に何が起こりかけているのか。

 それらを知る貴女に託すのが一番だと、私にはそう思えてならなかった。

 本当に不思議なことだが、これを貴女に渡すことがまるで私に課せられた使命のように思えてしまってな。この件を他の元老院三十四名にも話をしたのだが、反対する声どころか悩むそぶりすら一切なくてな。満場一致で貴女に渡すことが決まったのだ」


 彼はそう言葉にして、イリスが注視し続けている先にある種を見ながら話していく。


「この五センルはあるかという大きな種が一体何の種子であり、何を芽吹き何を咲かせ、それが何を意味するのかも我々には定かではない。

 そもそも種に見えているだけで、ただの石である可能性だって捨てきれないと私は思うが、それでも我々は貴女にこの種子と思しきものを託したいと思えてしまうのだよ」


 とても不思議な話を聞いているように感じられたシルヴィア達。

 一般的に言えば、そんな曖昧なものを長きに渡り大切に保管して誰かに託そうだなどとは思わないだろうし、それを受け取ろうと考える者も非常に少ないと思える。

 しかし、シルヴィア達でもこの箱の中に置かれているものが、何か重要な意味を持つような気持ちになっていた。確たるものなどないが、不思議とそう思えたのだ。

 そしてこの場にいるただ一人だけが、それを知ることのできる力を有している。

 それについて話し始めるイリスに、彼は目を丸くして強く言葉を返してしまった。


「ほ、本当にそんなことが!?」

「恐らくは、と曖昧な言い方しか今は言葉にできませんが、私には石碑にいる皆様から託された知識を所持しています。その中にこの種と思われる存在についての知識も含まれていますので、大凡これが何かは推察できているのですが、まずは魔法による解析をさせて確証を得たいと思います」

「そ、そうか。それならば、是非にとお願いをしたい。

 これが何であるか、他の元老院へ報告をしたいのだ。どうかお願いできるだろうか」


 乗り出すように言葉を続けるヴェネリオへ笑顔で快諾していくイリスは、"解析(アナライズ)"を使って種の詳細を確認していく。

 種を覆うように包み込む黄蘗色の優しい光が収まるとイリスは言葉にしていくが、その表情は驚きながらもどうやら推察は当たっていたと思われるような顔をしていた。


「……やはりこれは、メルン様の仰っていた、"スラウ"の種子です。

 もう既に存在しないと予想されていましたが、まさか現存していたなんて……」

「スラウ……。それはつまり、あのルンドブラードの中心にあるという大樹のことか」

「はい」


 ですがと驚きの顔から難しい表情へと変化させながら話すイリスに、不安の色が隠せなくなっていたヴェネリオだったが、続く彼女の言葉に落胆させられることとなる。


「……この種は、既に内部まで硬質化してしまっているもののようです。

 そういった意味では、化石とも言い換えられるのかもしれませんが……。

 残念ながら、このままでは芽を出すことはないと思われます……」

「……ふむ……そうか。化石、か……。それも仕方のないほどの歳月を重ねている。

 非常に残念ではあるが、その答えもまた、我々の想定の範囲内ではあった」


 とても寂しそうに言葉にしたヴェネリオは、窓の外に見える風景を見つめながら静かに言葉にしていった。


「……この種子は、歴代の元老院が大切に守り続けていたものだ。

 その用途も現在まで不明ではあったが、この小さな種に何かとても大きな意味が含まれているように思えてならなかった当時の元老院は、保存することを決めたようだ。

 残されたその文献によれば、四百年は確実に前のこととなる。

 それだけの歳月を経ても尚無事に芽吹くとは、正直な所とても思えなかったが、こうして実際に答えを聞いてしまうと、言いようのない切なさを覚えるものなのだな……」


 何故、そういったものを後世まで残そうと考えたのだろうかとヴェネリオが疑問を口にすると、この国はリシルアだからなとヴァンが話し始めていった。


「自然と共に暮らし、自然と共に生き、そして自然へと還っていく。

 この国ならではの教えではあるが、そういった所から植物を含む自然を大切にされる傾向がこの国では非常に根強い。それは種子であろうと同じ事なのではないだろうか」

「……ふむ。なるほどな。確かにそう思えば、それが正しいと感じる。

 これが何の種子であるかも判明しなかった以上、そういった意味ではとても貴重で、大切にされるべきものとして扱われても、なんら不思議なことではないやもしれない。

 いや、ある意味で貴重なものであったことに違いはないな」


 静かに流れる時間の中、ひたすらに何かを考え続けていたイリスはぽつりと言葉にしていった。


「……まだ、芽を出せる手立てがないとは、言い切れないかもしれません……」


 一斉にイリスへと視線が集まる。

 一体どういうことだろうかと考えてしまうヴェネリオと、彼女の新たな力であればまだ分からないかもしれないという期待を持ってしまうシルヴィア達だった。


「まだはっきりと断言できるようなものではありませんが、この種子が何かとても大きな役割を担っていることは間違いないと私には思えるんです。

 まずはそれを知るために、もう一度レティシア様へと逢わなくてはなりません。

 とても曖昧な理由ですが、ヴェネリオ様、この種子を私に託して下さいませんか?」

「勿論構わない。そのつもりだったこともあるが、イリスさんのお役に立てるのであればこんなに嬉しいことはない。もしその用途が判明したら、教えて貰えると嬉しいが」

「はい。石碑の件が終りましたら、もう一度リシルアへと戻ってきますので、その時には今よりも詳しいお話ができると思います」


 そうかと嬉しそうに微笑みながら言葉を洩らすヴェネリオ。

 続けて彼はイリスにお礼を述べていく。


「ありがとう、イリスさん」

「とんでもありません。私の方こそ、とても貴重な品を託して下さり、ありがとうございます」

「……できれば、様をつけないで貰いたいのだが……」

「ふふっ。そうでしたね」


 お互いに笑い合ってしまう二人は、それぞれにスラウの種が持つ意味を考えていた。



 この時のイリスは仲間達にも黙っていたが、この種子が何を意味し、何に使うのかを、石碑にいる偉人達に託された知識と、これまでの経験から大凡を既に察していた。

 これを仲間達へと言葉にしなかったのは、まだ確たるものではなかったということでもあるのだが、その内容は驚愕するようなとんでもない考えであるためだ。


 それを仲間達へと言葉にする前に、まずはレティシアと再会せねばならない。

 そこでイリスは言葉にするだろう。自らが何を成すべきであるかを。


 既に彼女は、世界でも最高の力を持つレティシアをも遥かに凌駕するだけの力を手にしてしまった。

 その絶大とも言えないほどの凄まじい力が、偶然に手に入ったとはとても思えない。

 まず間違いなく意味のあることだろうと、イリスには思えてならなかった。


 それはメルンの言葉にしたように、女神エリエスフィーナが導いたわけではない。

 当然、イリスが本来持ち合わせている力であることも間違いないと断言できる。


 では何故、この世界へと辿り着くように、彼女はやって来たのだろうか。


 もしかしたら世界そのものが自分を導き、助けを求めているのではないだろうか。

 女神ですら対処のできない事象を、イリスであれば導き出せるのではないか、と。

 限界が迫っているその時を嘆き、苦しみに声を上げることすらできずに慟哭しながらも、彼女に手を差し伸ばしているのではないだろうか。

 それだけの力をイリスは既に所持している。


 だが、今のイリスでは、まだ足りない。それは未だ、力の一端でしかない。

 それを解除するための鍵を、レティシアに渡して貰わなければならないだろう。


 世界のすべてを塗り潰してしまう、漆黒の闇から救うために必要となる"鍵"を。



 窓の外にはとても穏やかな情景が広がり、見ているだけで心が癒されていくように思えるイリスは、自分が成すべきことを大凡掴みかけているようだった。


 その為にイリスは強く(・・)ならなければならない。

 今よりも遥かに強く、強く。


 "願いの力"だけではだめだろう。

 もっと強大な力が必要となる。


 幸い、未だコアが世界を護り続けてくれている(・・・・・・・・・・)

 その短くも限られた時間の中で、イリスは強くならなければならない。


 決意を固くする彼女は、大切なあのひとの姿を愛おしそうに思い起こしていた。


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