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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十四章 流れ落ちる想い
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この国特有の"朝食"を


「美味しいですわね! この"米"というものは!」

「そうですね、姉様っ。独特のもちもちとした食感はありますが、ほのかな甘みもあって、パンとはまた違った味を楽しむことができるのですねっ」


 とても楽しそうな笑顔で話しながら食事を味わう姫様達。

 イリスの方はというと、出されている料理が美味しいのは勿論ではあるが、木の器に盛られた、これまで食したことのない独特のスープに興味が向いているようだ。

 彼女からすると、どうしても料理に対する好奇心の方が強く出てしまっているらしく、イリスの姿を見たマルツィアは嬉しそうに彼女の言葉を聞いていた。


「とても不思議な奥行きのある、豊かな風味を持つスープですね。

 何かを発酵させたものにも思えますが、今まで頂いたことのないお味です。

 お肉などのものとは明らかに違う、どこか爽やかにも思えるこの香りは一体……」

「そいつはミソって言ってな。ソイビーンを発酵させて造った、所謂調味料だな。

 それをだし汁と合わせてスープにした、この地方特有の食べもんの一つだ。

 中に入っている具もソイビーンから造った食品で、トーフって言うんだ。

 素材本来の味が分かりやすいように、具は最小限にしてみたぞ。

 どちらも植物から作られたものだから、魔物素材と違ってさっぱりとした味わいだろう? そっちの卵焼きにもだし汁が含まれているのはお前の見立て通りだと思うが、流石にこの味は初めてだったみたいで良かったよ。朝っつったらやっぱこれだな!」


 彼女の説明を耳にしながらスープを味わっていたヴァンは、しみじみと言葉にした。


「……美味い。正直なところ、この味が恋しく思う時がある。フィルベルグでも食せなくはないが、これほど美味いものを食べてしまうとその味は霞んでしまうな」

「……はぁ、美味しいね。朝食はやっぱり、お米とおミソ汁が一番だねぇ……」

「俺もこの味はとても好きだよ。……何ていうか、食べただけでホッとするって言うのかな。今日も一日頑張るぞって思える、とても不思議な味なんだよね」

「そうだろう、そうだろう!」


 とてもご満悦のマルツィアは両手を腰に当てながら、軽く胸を反らして話す。

 自分の出すもの全てに抜かりはないと自負している彼女は、美味しいものを出せたという自覚を持ちながら、イリス達に真心の込めた最上の料理を振舞っていた。



 現在はミルリム夫妻から別れた日の、翌日の朝となる。

 『この国ならではって美味いもんを食べさせてやるからな』という彼女の言葉に惹かれたイリス達は、胸が躍るような気持ちで彼女の店へと足を運んでいた。

 どんな料理が出てくるのだろうかと、わくわくとした様子で席に座っている後輩達三人が可愛らしく、微笑ましそうに見つめていた先輩達だったが、彼ら自身はリシルアに来たら朝は大体これを食べているので、懐かしく思いながら味わっていたようだ。


 姫様達は話に花が咲きながら料理を楽しみ、イリスは出された料理についての詳細を興味深げに尋ねていき、先輩達は出されたものをしんみりと味わいながら至福の時を過ごしているようだった。



 ゆっくりと味わいながら頂いた食事も終わり、リシルア特産の緑茶を頂いていたイリス達。その独特の味わいに姫様達は、苦味が少々強いのではと初めこそ思っていたようだが、飲み進めていくにつれてその味も徐々に美味しく思えるようになっていた。


「……なるほど。このお料理にはいつものお茶よりも、こちらのお茶の方が合っているようにも思いますわね」

「色も鮮やかな緑色で、とても綺麗ですね」

「それにこの香り。こんな素敵なお茶があったなんて……」

「あー、まったりするねぇ。折角だから緑茶も少し買っていこっか?」

「ふむ。それはいい。是非そうすることを薦めたいところだな」

「いいですね。リシルアであればそれほど高くないですし、俺も欲しいですね」

「なら、いい店知ってるから、後で紙に書いて渡すぞ」


 笑顔で言葉にするマルツィアだったが、実際にはそれだけではなかった。

 その店は様々な良質の食品を扱うこの店の仕入先となっているので、少しでも向こうに客をという意味も含まれていた。

 非常に質のいい食材を扱う店であることは間違いないのだが、残念ながら一般的にはあまり馴染みの店というわけではないらしく、購入していくのは飲食店でいいものを作り、客に提供している者達ばかりとなっていたようだ。

 中にはいい素材で美味しいものを作りたいという一般家庭の主婦や、料理にこだわる者も訪れなくはないのだが、そういった者達は極々少数となっていた。


 しかしイリスであれば、素材を見ただけで様々なものを購入してくれるだろうことは分かっているほどの良質食品ばかりなので、これも向こうの店が少しでも儲かるようにとマルツィアは考えていた。


 要するに、持ちつ持たれつということだ。

 お世辞にもあまり景気のいい店とも言えないので、このままでは仕入先を探す羽目になることを考えると、マルツィアにとっても決して悪い話ではなかったようだ。

 残念ながらこの街を歩き回ったところで、紹介するつもりの店ほど良質な店はそれほど多くない。値段の安さや店主の人となりといったことを考慮すれば、ここよりいい店はないかもしれないとも彼女には思えていた。



「あ! ばんさま! お姉ちゃん達も!」


 真後ろから発せられた声へと視線を向ける彼女の瞳に移ったのは、先日話に上がった少女が手に大きめのバスケットを下げて立っていた。

 思わずにやりとしてしまうマルツィアの表情に、ぞくりと冷たいものが背中に走るヴァンだった。


 離れた場所からその光景を見ていたのだろう。

 ウルバーノが椅子を持ってこちらへとやって来てくれた。

 手早く少女の席を設けると、ヴァンを一瞥する事もなく持ち場へと戻っていった。

 ひとり厨房へと戻らない彼女に、痺れを切らしたように言葉にしていくヴァン。


「……マルツィア殿はいいのか?」

「ああ、問題ないぞ。こっちの方が面白いからな」


 にやにやとしながら話す彼女の方を見ながら深くため息を吐いてしまうヴァンへと、少女は心配した様子で話していった。


「ばんさま、元気ない? おなか痛いの?」

「む? 大丈夫だ。問題ない」

「そっか! よかったぁ! あのね、クッキーが上手に焼けたから持ってきたの!」

「そうか。早速貰ってもいいだろうか?」

「うん!」


 そう言葉にした少女は持っていたバスケットをテーブルへと置き、中から木のボウルを取り出していく。

 どうやら皆で食べられるようにと沢山焼いてくれたようで、頑張ったことを説明する少女に、ほっこりとした気持ちになってしまうイリス達だった。


 見た目は形が少々良くなったくらいにしか分からなかったヴァンだったが、一口食べた瞬間にその違いに気付かされた。

 先日食べたものとは明らかに違う食感。外はさくさく中はしっとりとしていて、

ほのかに香るアーモンドの風味が全体を均一に纏めているかのように広がっていく。


「これは……美味いな……」

「やったぁ!」


 お世辞抜きでそう思えたヴァンは目を丸くしながら本音で語ると、少女は花が咲いたような笑顔を見せてくれた。


「お姉ちゃん達の分も焼いたの! 食べて食べて!」

「わぁ、ありがとう! それじゃあ早速ひとつ」

「私達もいただきますわね」

「うん!」


 それぞれ一つずつクッキーをつまみ、口へと運んでいくイリス達。

 その想像していた以上の出来栄えに驚く一同は、凍りつくように固まってしまう。

 唯一笑顔で言葉にしたイリスは、話を続けていった。


「美味しい! 凄く美味しくできてるよ!

 これだけできれば、十分お店に出せるくらいのクッキーだよ!」

「えへへ。お姉ちゃんに教えてもらって、あれからいっぱい焼いてみたの。

 段々面白くなっちゃって、気が付いたら夜遅くなってたの。

 しばらくおやつはクッキーになっちゃうけど、でもおいしくできたからいいの!」


 少女の話に、へぇっと声を発しながらマルツィアも言葉にする。


「アタシも食べてみていいか?」

「うん! いっぱい焼いたからいいよー!」


 ありがとなと彼女に答えたマルツィアはクッキーをつまみ、ぱくんと口に入れていくとその瞬間、目を大きく見開きながら話していった。


「こりゃ美味いな! こいつは良くできてるクッキーだ!

 なるほど。お前、ソランジュんとこのリリアーヌ嬢ちゃんか!」

「うん! お母さん忙しいから、一人で遊んでるの」

「……ってことは、このクッキーは一人で作ったのか?」

「ううん、お母さんに作り方は教えてもらったよ。

 焼いたのはわたしだけど、まだ(・・)お母さんの味なの」


 リリアーヌが発した言葉に、末恐ろしく思えてしまうマルツィアとイリス。

 彼女は今、自分の味を追及しているのだと言葉にしたのだ。それも遊びながら。

 それは、まだ幼いと言える少女が、とても考え付くようなことではない。


 この国随一と言われつつあったパティシエールであるソランジュの娘の噂は聞いていたが、あくまでもお菓子を作りながら遊んでいるという程度でしか知らなかった。

 そんなマルツィアは、この子は将来とんでもない大人になりそうだなと、思わず身震いをしてしまうほどの凄さを、見た目からは想像もできない少女に抱いていた。


「…………どうやら、とんでもない大物に捕まっちまったみたいだな……」


 幸せそうにお菓子を口へと運び、楽しそうに話をしている少女を見ながらぽつりと呟くように、マルツィアは言葉にしていった。


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