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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十四章 流れ落ちる想い
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"流れ落ちる想い"


「……これが、闘技場ですか」


 思わず見上げてしまうほど巨大な建造物に、イリスは感嘆のため息を洩らしながら言葉にする。左右に並ぶ姫様達も同じような仕草をしており、とても微笑ましく思えてしまうヴァン達だった。

 そんな彼女達にロットは説明をしていった。


「この闘技場は、リシルア国王を選定する大闘技場となっているんだ。

 何でも三万人は入ることのできる、巨大な造りになっているそうだよ。

 国王選定闘技大会は四年に一度行なわれるんだけど、開催されているのはそれだけじゃないんだ。週に一度行なわれる週技(しゅうぎ)大会、月に一度の月技(げつぎ)大会、半年に一度の闘技会、年に一度の大闘技会、二年に一度の王者大会と、様々開催をされているんだ。

 それ以外は清掃や修繕、大会準備があって、一般公開はされてないみたいだね」

「それだけ沢山の大会が開催されていますのに、毎回参加者が集まるんですの?」

「うむ。俺もそこに疑問を持ったことがあってな、調べたことがある。

 ここで行なわれる大闘技会のうち週技大会以外である、月技大会、闘技会、大闘技会、王者大会、国王選定闘技大会の期間中は国中にある店のほとんどが休みとなり、少なくとも半数以上の国民が集まるほどの熱狂振りとなっている。

 中でもこの闘技場で開かれる大会の上位入賞者には賞金が出る。その賞金は観客が支払う入場料で賄われるのだそうだが、これが思いのほか、かなりの金額になるらしい。

 参加資格は、自らの意思で大会に出場登録をするのみだと聞く。己の技術で扱うのであればどんな武器でもいいが、相手に直接攻撃をする魔法は使用禁止となるそうだ。

 相手を必要以上に傷付ける行為は反則となること以外、基本は何でもありの大会となっているようだな。……流石に俺達は出場したことなどないんだが。

 故に大きな大会ともなれば世界中から腕に自信のある冒険者達が集まり、活気ある大会となっているようだ。余程熱狂して住民が見ているとも言い換えられるのだろうが、大会の規模が大きければ大きいほどその賞金も跳ね上がっていってな。国王選定戦となる四年に一度の大会の優勝者は五千万リルもの大金が支払われている」

「そ、そんなに莫大な賞金がかかるのですか……」


 思わず目を丸くして聞き返すネヴィア。

 これまた同じような表情を並んだ後輩達はしているようで、本当に三姉妹みたいだとしみじみ思っていたファルは、それだけの収益金が出る大会ごとにお金が使われているみたいなんだよと話していった。


「闘技場の修繕費は勿論だけど、それ以外にも街の修繕や壁の補修、孤児院の運営にもお金が使われているらしいよ。

 勿論、大会中に必要になる物資なんかにも、お金は使われているみたいだけど。

 この闘技場で得た収益金は、この国の税金みたいな使われ方をしているらしいね」


 何とも不思議な国だと思えてしまうが、それだけ住民を熱狂させてしまう闘技場の収益金を住民の為に使うのが当たり前、という考えのもとに元老院が大昔に決めたことなのだそうで、それが今も受け継がれているのだと、誇らしげにジルドは言葉にする。 

 そういった存在からの呼び出しなのだから、荒っぽいことにはならないだろうと確信が持てたイリス達だった。


「……尤も、優勝賞金の殆どは、あの人が持ってっちゃうみたいだけどさ……」


 ぽつりと呟いたファルの言葉は、イリス達を凍りつかせてしまう。

 確かにあの人物であれば、優勝はまず間違いないと思えた。

 それだけの強さを誇っていたし、わざと負けるなど相手にも失礼に当たる以上、リオネスが負ける姿を想像することができなかった。

 十四年間無敗という王者の優勝賞金ともなれば一体どれほどの莫大な大金となるのか、全く想像も付かないほどの巨万の富となるのだろうと思えてしまうシルヴィア達だったが、ジルドはその考えを否定するかのように言葉にしていった。


「リオネス殿は、その賞金の殆どを返納されているそうですね。

 何でも"自分には興味がない"とつまらなそうに話したのだと伺っていますが、実際のところ、それが真実なのかの判断は私には付きませんが……」

「真実だと思いますよ」


 ジルドの話をイリスは断言していく。

 はっきりとそう言葉にできるほど、彼女は確信していた。


 彼は言うなれば武人だ。

 イリスは彼を"武を探求する者"と表現していたが、彼の奥底には武人の魂とも言い換えられるような高潔なものをその身に宿している。

 それを見つけ出してしまったイリスに驚きを隠せなかった仲間達ではあったが、今にして思えば、そういったことが彼を穏やかとも思えるような平常心を取り戻させる切欠となっていたのかもしれないとも、ヴァン達は考えていたようだ。


「リオネスさんは誤解を受けやすい方ではありますが、"高潔な武人"ですので」


 イリスの言葉に驚き、目を丸くしてしまうジルドではあったが、彼女の言葉には不思議な説得力のようなものを感じ、本当にそれが真実なのだろうと思えていた。

 そんな彼女へ微笑みながら『そうなのでしょうね』と言葉にしたジルドは、目的の場所となる建物までイリス達を案内していった。




 闘技場裏手に存在するその建物は、館とも言えるようなとても大きなものではあったが、お世辞にも立派とは言葉にできないほど質素な造りをしていた。

 寧ろ、華々しく思える闘技場とは真逆の建造物だと言い切れるようなもので、本当にここに元老院がいるのだろうかと考えてしまうイリス達だった。

 そんな気持ちを察したかのように、ジルドは苦笑いをしながら言葉にしていく。


「……仰りたいお気持ちは何となく理解できますが、元老院はこの国を支える土台であるも、頂点に座しているわけではございません。

 故に、豪華絢爛な建造物に住まうなど以ての外であるという信念のもと、こういった建物に大昔から住まれているようですね。何度かは立て替えられているのだそうで、これでも随分良くなったのだとヴェネリオ様は仰られていました」


 ヴェネリオとは、元老院の一翼を担う人物だそうだ。

 リシルア元老院は全部で三十五名いるそうだが、今回のような件で対応する元老院は二、三名くらいなのだという。

 それ以外は基本雑務のようなことを処理しているそうで、正直なところ元老院とは名ばかりなのですよとジルドは微妙な表情をしたまま言葉にしていた。それでも自分のように慕う者達が自然と集まる、とても不思議な組織なのだと彼は話した。


 扉を開いていくジルドだったが、相当年季の入ったような音が鳴り響き、本当にこれでも良くなった建物なのだろうかと思えてならないイリス達は建物へと入り、彼に連れられて応接間へと辿り着いたようだ。

 流石にここは来客用の造りとなっているようで、テーブルもソファーも窓にかかるカーテンでさえも、それなりに豪華なものを使っているようだった。

 だがここはあくまでも応接室なのだそうで、元老院は足を踏み入れる事も殆どないのだそうだ。ここ以外は内装が綺麗に見えても中身はぼろぼろなんですよと、少しだけ笑いながらジルドは言葉にして、それではこちらでお待ち下さいと、応接室にある少々豪華なソファーに座ったイリス達に話しながら彼は退室していった。


 暫くすると彼は戻ってきたようで、扉を手で押さえながら横へとずれると、一人の杖をついた男性が入ってきたようだ。

 身長は低めの百四十センルといった所だろうか。腰を少々曲げて歩いている為に更に低く思えてしまう狸人種の高齢の男性は、イリス達の対面に座らずに言葉にしていく。


「まずは不躾な召喚に謝罪と、貴女達の対応に感謝を。

 私は元老院の一人である、ヴェネリオ・ブラーガという者だ。……とはいえ、元老院はその名称とは違い、偉そうな立場ではないからな、どうか普通に接して欲しい。

 今回イリスさんをお呼びした理由なのだが、どうしても貴女に会いたいという者達がいてな。かなり強引ではあったが、失礼を承知でこちらへと来て貰った次第だ」

者達(・・)、ですか?」


 首を傾げながら尋ねてしまうイリスに、うむと短く答えていくヴェネリオはジルドへと視線を向けると、彼は頷きながら言葉にしていった。


「丁度、お見えになられたようです」

「そうか。では入ってもらいなさい」

「畏まりました」

「……お前は相変わらず(うやうや)しいな……。普通に接することはできんのか……」

「……性分ですので……」


 呆れた様子でやれやれと言葉にするヴェネリオだったが、入ってきた人物達を目にした瞬間、イリスの心臓は跳ね上がり、驚愕しながら思わず立ち上がってしまった。


 だがそれは、ロットと姫様達も同じように驚いてしまっていたようだ。

 立ち上がることこそなかったが、内心ではこれ以上ないほど驚愕していた。

 そしてヴァンとファルもそれを察し、とても悲しそうな、寂しそうな表情へと変わっていたようだ。


 入室してきたのは一人の男性と、一人の女性。

 何も言葉にせずともそれが誰か、イリス達には十分過ぎるほど理解できた。

 目の前に佇む二人の名を聞かずとも、分からないはずがない特徴的な白くて美しく、長い耳を頭に乗せた二人に、見覚えがないはずがなかった。


 男性の方は獣人特有の姿をしてはいたが、その面影を感じられる美形の顔立ち。

 女性の方はイリスの大切な人を更に成長させた、美しい大人の姿をしていた。

 そんな目の前に立つ彼らが誰であるか、イリス達が分からないはずなどない。

 優しい眼差して愛おしそうにイリスを見つめる彼らは、彼女に向かってその名を言葉にしていった。


「初めまして、イリスさん。

 私の名はミレーナ。ミレーナ・ミルリムです」

「アレイ・ミルリムです」


 どちらにも面影が色濃く残る二人の姿に最愛の姉の姿を思い起こしながら、イリスは静かに涙を流していった。

 止め処なく流れ続ける雫を拭うことなく、イリスは二人を見つめながら想いを落とし続けた。


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