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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第三章 小さな天使
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人は"万能"ではない


 日がとっぷりと暮れてしまい、やがて優しい星が空を彩り始めた頃、3人はお(いとま)することにした。可愛いアンジェリカとの別れを惜しみつつも挨拶をしていった。


 「またいっしょにあそんでね、おねえちゃんたち!」

 「うんっ、また遊ぼうねっ」

 「あはは、またねアンジェリカ」

 「楽しかったわねぇ、また遊びましょうね」

 「みなさん本当にありがとうございました」


 どうか気をつけて帰ってくださいねとカーティアが言い、またねーとアンジェリカが元気良く手を振りながら見送ってくれた。それを見た3人はまた、なんて可愛いんだろうかと思ってしまった。


 やがて3人はゆっくりと噴水広場まで歩いて行った。他愛無い話をしながら。


 「ふふっ、やっぱりおばあちゃんは、誰が見ても綺麗なお姉さんなんだよ」

 「あらあらうふふ、嬉しいわねぇ」

 「正直あたしも綺麗なお姉さんだと思ってるよ」

 「あらあらあら」

 「アンジェリカちゃんもずっとお姉さんって言ってたもんね」

 「うんうん。やっぱりレスティさんはどう見ても綺麗なお姉さんだね」

 「まあまあまあ」


 とてもくすぐったそうなレスティにふたりは話を続けていく。実際は60を越えているのだが、子供が認めるのだからもう美人なお姉さんで確定だろう。


 「ということは、3姉妹ってことだね」

 「お。美人3姉妹かなっ、あははっ」

 「あらあらまあまあ」


 恐らくこの状況を見た人の中には、そう思う人もいるかもしれない。だが、13歳、17歳、62歳という驚愕の年齢差の姉妹なわけで、それを聞いても恐らくレスティの年齢は嘘と思われてしまうほど、綺麗なお姉さんであった。


 「今日の詳細はここではあれですから、ミレイさんがお店に来たときにお話しましょうか?」

 「そうね、それがいいわね。ミレイさんもいいかしら?」

 「あはは、もちろんだよ。まぁなんとなくは予想付いてるから」

 「そうなんですか?」

 「うん。だから必要になったらいつでも呼んで?」

 「あらあら、とっても頼もしいわ。きっとミレイさんにお願いする事になると思うから、その時はよろしくお願いするわね」

 「うん。もちろんいいよー」


 そんな話をしつつ、3人はやがて賑やかな通りまで出て、噴水広場が見えてきた。ここは夜でも人気の場所で、色んな人たちがベンチに座り星を見たり、話をしたりしていた。誰もが楽しそうな、幸せそうな顔をしている。


 「そっか。この間ブリジットさんが言ってた事はこれだったんだね」


 ぽつりと呟くイリスにレスティが聞きなおす。


 「ブリジットさんって、イリスがこの間お話してた魔法付呪師のブリジットさんのことかしら?」

 「うんうん。その人がね、街灯を作った人なんだって」

 「そういえばそう言ってたねー」

 「こんなに明るく照らすんだね」


 イリスは夕方以降は外に出たことがない。前の世界でもほとんど出たことがなかった。ブリジットの街灯の話はどこか夢のような世界に聞こえていたが、まさかこんなに明るく照らす優しい光だとは思っていなかった。それはまるでブリジットの心のような温かさで溢れていた。


 「うふふ、そういえばイリスは夜には出歩かないから初めてよね」

 「うん。街灯がこんなに明るいなんて思わなかったよ」

 「あはは、優しい光だよね、この街灯」

 「そうですね、とっても優しくて温かい光です」


 イリスはブリジットのことを思い出していた。とても強くてやさしい女性だった。何よりも世界を光で満たそうとしてた素敵な人で、どうすれば人が幸せになれるかを本気で考えていた人だ。その優しく温かな心に感銘を受けたイリスだった。


 「ブリジットさんがね、『これさえあれば、どんなに暗い夜でも明るく照らすことが出来ると思った』って言ってたの。『暗い場所で星を見上げるよりも、人を優しく照らす光の方が遥かに大切だと私には思えた』って」

 「素敵な人ね、ブリジットさんは」

 「うん、そうだね。あたしもそう思うよ」

 「優しくて、強くて、楽しくて。誰よりも世界のことを想ってる素敵な人だと私は思うよ」


 そう言いながら3人は優しく照らす光を見続けていた。この場所にいる人たちは幸せな表情を浮かべている。きっとこれが世界に溢れる事をブリジットさんは望んでいるのかもしれない。


 私には出来るだろうか。ブリジットさんのように強くなる事が。そんなことを思いながら、イリスは温かい光を見続けていた。



 「それじゃ、あたしは行くよ。そろそろレナードさん達も集まる頃だろうし」

 「ミレイさん、色々ありがとう。本当に助かりました」

 「あはは、いいんだよ。あたしはあたしに出来る事をしただけなんだから」

 「うふふ、それでもミレイさんがいなければ、アンジェリカちゃんを見つけられなかったかもしれないわ。だからありがとうね」

 「あはは、なんだかくすぐったいよ。ほんとに気にしないでいいよー」


 それじゃまたね、ふたりとも。そう言いながらミレイは小走りでギルドへ向かって行った。残されたふたりもゆっくり家に向かって歩いていく。温かく明るい街灯の光に包まれながら。


   *  *   


 お店に着いたふたりは、そのまま鍵を閉めてそのままダイニングに向かう。レスティが入れたお茶を飲みながらイリスはまったりしていると、レスティが褒めてくれた。


 「よくやったわね、イリス。すばらしいわ!」

 「ううん、おばあちゃんがいなかったら、どうしようもなかったよ」

 「それでもよ。まさかちょこっと見ただけでわかっちゃうなんて、おばあちゃんびっくりだし、とっても鼻が高いわ!」


 手放しで喜ぶレスティにくすぐったくなってしまうも、本当に良かったと思えたイリスだった。もし気にも留めていなかったらどうなっていたのやら、考えるのが途轍もなく恐ろしい。

 幸い、判断が正しかったようで、アンジェリカちゃんの病気も治せるようだし、本当に良かったと思うイリスであった。


 「でもね、本当に気付けたのは偶然なの。噴水広場でアンジェリカちゃんがミレイさんにぶつからなければ、私は絶対に気が付かなかったと思うの」

 「うふふ、症状も初期段階だし、まだまだ安全だわ。それにしてもイリス、初期症状は普通のあざとあまり変わらないようにも見えるから、見極めるのが難しいのだけれど、どうやって判断したのかしら?」


 お茶を飲みながら説明していくイリス。本当に偶然で、ちょっと気になっただけなんだよと説明する。


 「あの時は本当に気になっただけなの。途中まで気づきもしなかったし、気が付いたときもあくまで可能性だから、おばあちゃんが言っていたあざと視力の事を確認した上で、おばあちゃんに診てもらおうと思っただけなんだよ?だからすごいのは私じゃなくておばあちゃんなんだよ」


 そう説明するもレスティは、それは違うわと即答してしまう。


 「イリスにはまだ知識が足りないだけで、私と同じような知識があればすぐに行動を起こせる子よ。今はそれが出来なくて私に助けを求めたけれど、知識さえあればイリスは一人で必ず同じ事をするわ。


 大切なのは行動に起こせるか、起こせないかと言うことよ。イリスは今、出来る限りの事をしてくれた。だからこそアンジェリカちゃんを救う事が出来るのよ。


 そしてその事を誇りなさい。大切な人をひとり救い、あの子の母親をも救ったという事実をしっかり持ちなさい。そうする事で、同じように苦しんでいる人をまた救う事ができるかもしれないのだから。


 でもね、自分を万能と思ってはだめよ。人には出来る事と出来ない事がある。これは決して変わらないと私は思うわ。人は神様じゃないもの。だからこそ、救う事が出来ない時もある、という事をしっかりと憶えておきなさい」


 その言葉はとても心に響いた。レスティはまるで自分に言い聞かせるように話したからだ。これはきっとおばあちゃんが体験してきた事だ。だからこそ、私にその教訓を教えてくれてるんだ。そうイリスは思っていた。


 レスティは確かに王国一と呼ばれるだけの薬学知識や、病気に対する治療行為が出来るほどの知識がある。

 だが、決して万能ではない。いくつもの救えなかった命があるからだ。そんな想いからレスティは、自分が感じた大切な事を惜しげもなくイリスに教えてくれていた。

 それはとても大切な事で、そしてとても悲しい事に聞こえた。


 「……うん。ありがとう、おばあちゃん」


 この時の私は、こう答える事しか出来なかったのを今でも憶えています。



 お茶を飲みながら過ごすゆったりとした時間の中で、イリスはレスティにある提案をしようと思っていた。それはずっと考えてはいた事なのだけれど。


 「おばあちゃんにお願いがあるの」

 「うふふ、なにかしら」


 次のイリスの一言に、一瞬とはいえ完全に思考を停止させてしまう言葉が出てくる事になるとは、笑顔で返すレスティには知る由もなく、今はただ優雅にお茶を飲んでいた。



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