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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十四章 流れ落ちる想い
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"平和の象徴"


 しばらくのんびりと街を散策していると外壁近くにまで来たようで、そこには石碑を護るように佇んでいた大きな大樹スラウとも違う木が、空へと続くように伸びていた。

 その囲うように外壁が造られている姿は、大樹のある場所に街を建設していったのかもしれないとイリス達が思えてしまうような造りをしていた。


 この国は自然を大切にしているのだと、ヴァンは語っていた。

 木を避けるように造られた建物だけでなく、狭い道や憩いの場所となる広場まで、その全てが木々を傷付けないようにとの配慮がされている。

 それはまるで自然と共に暮らすというよりも、自然の中に人々が暮らさせてもらっている、と言った方が正しいのかもしれない。


 それも当然なのだろうか。

 人は木々のように長く生きることはできない。

 この国に生きる人々の様子から察すると、何百年も生き続ける大樹を大切にするというよりは、変わらずそこに居続けてくれることに感謝をしているようにも感じられた。



 そんな中、また一人の冒険者とすれ違う。

 これまで割と頻繁に冒険者とすれ違うことがあったイリス達だったが、やはりそのほぼ全ての者達がヴァン達を鋭い瞳で見つめていたようだ。

 だがそれも睨みを利かしているわけではなく、普段から彼らはそういった鋭い目付きなのだと先輩達三人は思うようにしているのだとか。


 中には喧嘩腰のような冒険者や、完全に喧嘩を売ってくる者もいないわけではないそうで、その度に諍いになる面倒な街でもあるんだよねと、ファルは深くため息を付きながら言葉にしていた。


「……喧嘩なら、そういったことの好きな人に売って欲しいよね……」

「そうだな。正直、面倒なことこの上ないな」

「……リオネスさん、強過ぎるからなぁ。

 あの人に喧嘩を売るような冒険者は、もういないんじゃないかなぁ」


 確かにあれほどの強さがあれば、喧嘩など売るような者も少ないのかもしれないと思えてしまうイリスだったが、逆に言うのならば、それが彼を苛立たせている理由だったのかもしれないと言葉にしていった。


「どういうことですの? 寧ろ、リオネス王から喧嘩を売れば良いのでは?」

「確かにそうなのだがな。イリスとの勝負から考えるに、あれだけの強さを持っているとなれば、もう奴にちょっかいを出すような物好きはいないのではないだろうか……」

「リオネスさん、何だかあれからも鍛錬をひたすらに続けているみたいで、凄まじく強くなってましたね……」

「うむ。以前の俺達であれば、一瞬で勝負がついていただろうな。……いや、それは今も変わらないか。ブーストを使わなければ、あの男に勝てる気がしないな」

「……確かにあの凄まじい脚力は、並外れたものを持っていましたわね……。

 ……とても人の出せる強さを超えてしまっているようにも思えますが……」

「……恐らく私のブーストでは、リオネス王に勝てないと思います、姉様……」

「リオネスさん、あれだけの強さでブーストなんて手にしちゃったら、それこそもう誰も勝負を挑んで来なくなっちゃいますよね……」

「それで大人しくなるんならこっちとしてもありがたいんだけどさ、あの男はそれで納得しないだろうからね。ブーストなんて使わずに、普通に勝負を挑むんじゃないかな」


 そんな話を仲間達としていると、随分と大樹の近くにまで来ていたようだ。

 徐々に鮮明に見えてくる巨大な樹木を、目を輝かせながら見つめていくイリス達。

 残念ながら空洞のようなものは一切見られなかったが、空高く聳えるその巨大な木は、八百年もの時を過ごしてきたスラウよりも遥かに長く生きているのだろう歳月の重みを感じさせる、とても雄大な姿をしていた。


 さわさわと風に揺れる葉が周囲へと心地良く響き渡り、思わず瞳を閉じながら耳を傾け、その余韻に浸るイリス達。なんて清々しい音色なのだろうかと思いながら瞳を開け、空へと向かう大樹を見つめていると、ヴァンは静かに言葉にしていった。


「……やはり木はいいものだな。木の葉の揺れる音も、どっしりと構える姿も。

 ある学者の話では、空気を綺麗にしてくれているのだと考えられているそうだ」

「木が空気を綺麗にする、かぁ……。

 あたしにはその実感はちょっと湧かないけど、そうだったらいいなって思えるね」

「確かに木々に囲まれた場所だと、清々しくも思えているように感じますが、それは気の持ちようなのかもしれないと私は思ってしまいますわね」

「実際にそれを確かめるのはとても難しそうですが、きっといつかはそういったことを研究されている皆様が、少しずつ判明されていくのでしょうね」

「正直なところ、俺にはどうやったらその答えが出るのかも分からないよ。本当に研究者って呼ばれる人達は凄いよね。その発想は一体どこから来るんだろうか」

「寝ていても、いきなりがばっと起き上がって、閃いた! みたいな感じなのかな?」


 ファルの言葉に声を出して笑いながらも、イリスは何かを考えていた。

 そんな中、ファルはこの国でよく起こる現象の一つを後輩達へと話していった。


「この国ではよく虹が見えるんだよ。

 それは晴れて日が差し込んでいても、雨が降っていても不思議と見れる光景でね、一般的に見られる普通の虹とはちょっと違うんじゃないか、なんて言われているんだ。

 雨が降らないと流石に見えないんだけど、雨季には頻繁に見られる現象なんだよ」

「雨が降っていても見られる虹、ですか?」

「うん、そうだよ。あたしも虹を沢山見ているけど、そのどれもが凄く綺麗でね。

 そういったところも特殊な場所って言えるんだけど、中でも本当に不思議に思えるのは、国の外で雨が降り続けているのに虹がはっきりと見えることだろうね」


 ファルの話に、首を傾げながらも言葉にするシルヴィアだった。

 彼女達もその現象を詳しく知っているわけではないので、とても曖昧な知識ではあるのだが、普通の虹が見られるのは雨上がりの空、それも良く晴れた空でなければ見られないと言われているのではと尋ねていく。


「そうだね。でもね、この国では空から日が差し込んでいなくても見られる不思議なもので、その発生理由も未だ判明されてない、とても神秘的な現象とされてるんだよ」


 一体どういった原理なのかしらと言葉にするシルヴィアに、誰もが首を傾げていると、イリスは何となくマナが関係しているのではと話していった。

 彼女へと視線が集まる中、イリスは話を続けていく。


「もしかしたら大樹からマナが出ていて、雨と何かしらの反応を見せることで虹となって私達に見せているのでしょうか?

 私も虹が発生する理由は分かっていませんので何とも言えないのですが、雨上がりでもないのに虹が出るとなれば、他に何か理由があるのかもしれませんね」

「大樹からマナ、かぁ。魔法の薬草(マジックハーブ)の件があるから、一概に否定できないよね」

「そうですね。でも、イリスちゃんの言うように、大樹から溢れたマナが影響して虹が出ているとなると、とても幻想的な光景に思えてしまいますね。

 まるで大樹が呼吸しながら虹を生み出しているように、私には思えてしまいます」

「ふむ。呼吸しながら虹を生み出す、か。

 何とも幻想的な考えだが、本当にそうなのかもしれないとも思えてしまうな」

「この国で虹はさほど珍しいものでもなくて、雨季であれば頻繁に見ることができるんだけど、それでもリシルアで暮らす人達からは"平和の象徴"と呼ばれているんだよ」

「虹が平和の象徴、ですか?」


 ロットの話に尋ねていくイリスへ、彼は説明をしてくれた。


「穏やかな暮らしの中でしか虹を見る余裕がないだろうってところから言われるようになったのが一般的らしいよ。諸説あるから、それが正しいのかは分からないけどね」

「この国で見られる虹は本当に綺麗なんだ。雨もこの大きな樹木が押さえてくれるから、街の中では雨が落ちて来ないとても不思議な国なんだよ。国の外では大雨が降っていても、街中で雨具を着る人も少ないんだ。

 残念ながら雨が降らないと流石に見られないし、今は乾季だから降ることはとても少ないだろうけど、十一月(じゅういちつき)から三月(さんつき)くらいまでには割りと纏まって降るから、その時にまたこの国を訪れてもいいんじゃないかな」

「いいですわね。雨上がりの虹だけでなく、雨の降り続く空に輝く虹だなんて、とても幻想的で素敵ではありませんか」

「あたしとしては、アルリオンの"金色平原"もおすすめだよ」

「まだまだ行ってみたい場所が沢山ありますね、イリスちゃん」

「そうですね、ネヴィアさん。是非皆さんで周りましょう。ここより南西の方もまだまだ行ったことのない街も多いですし、そちらへも行ってみたいですね」

「燻製されていないお魚も、あたしは食べたいなぁ。

 お肉も好きだけど、新鮮なお魚の美味しさは、言葉にできないほど美味しいんだぁ」


 うっとりとしながら、その味を思い出すファル。

 イリス達も新鮮な魚を食べる機会はこれまでなかった。

 そういった美味しい食べ物を捜し歩くのも悪くはないのではと提案してくるファルに賛同する一同は、来た道を戻ることなく散策し続け、再び広場へと戻ってくる頃には日が傾きかけ、街頭の灯りが優しく輝く照らし出す頃合となっていたようだ。


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