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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十四章 流れ落ちる想い
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"何とも豪儀な"


 部屋に案内しますと言葉にしたバジーリアに、まずは受付を済ませに来たこととと、食事をすることを彼女に伝えていくファル。

 手荷物は特にないので、部屋より先に遅めの昼食を取りたいのだと彼女に話した。

 色々と精神的な疲労感があるので、正直なところそれほどお腹は空いていないファル達ではあったが、今食べないと夕食の時間が更にずれてしまうので、今のうちに食べておいた方がいいだろうと、広場から宿へと向かう道を歩きながら決めていた。


 昼食を取る場所はもう決めてあるので、後はこのまま向かうだけとなっている。

 そんな彼女達へとバジーリアは微笑みながら言葉にしていった。


「それではお部屋へと向かう際は、こちらの呼び鈴でお知らせ下さい」

「ありがと、バジーリアさん」


 彼女にお礼を告げたイリス達は宿屋の受付左側に設けられた扉を開けて、宿に隣接した飲食店へと入っていった。

 扉を開けるとすぐに店内になるらしく、面白い造りですわねと瞳を輝かせながら言葉にしたシルヴィアと、目を丸くして驚いていたイリスとネヴィアだった。

 流石にヴァンとロットは知っているようだが、彼らがいた当時はそれほど人で溢れていたという記憶がなかった。恐らくはあれから料理人が交代したのだろうと思えたが、それはつまるところ、変わった料理人の腕がとても良いということだ。

 これは期待できるなと思わず言葉にしてしまったヴァンと、彼に大きくうなずきながら応えていくイリス達だった。


 店内は中々な賑わいを見せているようで、昼過ぎという時間帯にも拘らず、八割方席が埋まっていた。

 とても評判だというお店なので、人が途切れることはないのだろうと話しながら、イリス達は空いているテーブルを見つけて椅子へと腰をかけていく。


 一息ついた彼女達は、置かれているメニューに視線を向けようとすると、心地良いと思えてしまう重低音の声で男性が話しかけてきた。

 漆黒の体毛に金が少し入った鋭い瞳、百九十センルはあろうかというほどの長身に加え、がっしりと力強さを感じさせる膨れ上がった筋肉を持つ熊人種の男性だ。


 どうやらお店のウェイターさんらしく、注文を取りに来たと思われる。

 しかし、とても言葉にすることはできないが、料理店に勤めているとは思えないような風体をしていた。

 そんな彼はすぐさま見知った顔を見つけると、とても嬉しそうな笑顔で挨拶をしていった。


「いらっしゃい。何にする? ……ん? ファル? ファルか! 久しいな!」

「やぁ、ウルバーノさん、お久しぶり。相変わらず繁盛してるみたいだね、ここ」

「嬉しい限りだが、混雑時は席が足りなくて少々困っているくらいだ。もう少し席を増やしたいが、これ以上は場所がなくてな。しいて言うなら外に席を造ってはどうかと、あいつに話そうと思っているところだ」

「相変わらず仲が良さそうで良かったよ」

「お蔭様でな。……それでも毎日殴られはしているが……。

 それよりもファル、連れができたのか?」

「そうなんだ。ここにいる皆と旅をしてるんだよ」

「そうか」


 嬉しそうな笑顔で言葉にした彼へ、仲間達を紹介していくファル。

 流石にヴァンとロットはウルバーノでも見知っていたようだが、直接の面識はないらしい。彼らはお互いに挨拶をしていると、厨房の方から大きな女性の声がフロア全体に響いていった。


「ウルバーノ!! 七番テーブルあがったぞ!! 遊んでるんじゃねえ!!」

「すまんが、とりあえず仕事に戻る。ゆっくり料理を選んでくれ」

「うん、ありがと、ウルバーノさん」


 厨房へと戻っていくウルバーノの背中を見つつ、イリス達は首を傾げながら何かを考えていたようだが、暫くしてシルヴィアは先程から気になっていたことをファルへと尋ねていった。


「…………ウルバーノさん、とは、その……まさか……」

「え? ああ、うん。そだよ。さっきお話に出てきた、ウルバーノさん本人だよ」


 何とも世間は狭いものだと考えてしまうヴァンとロットをよそに、イリス達三姉妹は固まってしまっていた。

 先程の話によると、女性にぼこぼこにされたという方だと思われるのだが、流石にそれを本人には聞けないだろうと彼女達は考えていたようだ。


 そんな中、再び大きな声がフロアへと届いていく。

 どうやらウルバーノが厨房の女性へと詳細を話したのだろう。


「ファルだって!?」


 厨房からおたまを持ったまま、一人の女性がこちらへとやって来たようだ。

 身長百七十センルはある長身の女性で、すらりとした身体がとても美しく、顔も美人で頭に可愛らしい黄色い毛並みに黒の斑点模様をした耳と、同じ模様の長い尻尾を持つ、美しく格好の良い豹人種の女性だった。


「本当にファルだ! 久しいな! 三年振りか!」

「お久しぶり、マルツィアさん。今日も元気そうで何よりだよ」

「アタシが病気なんてなるかよ! 全部アイツに持っていって貰うさ!」

「……ま、マルツィアさんとは、やはり先程のマルツィアさん、なのかしら……」


 口角を引くつかせながら話すシルヴィアに視線を向けるマルツィアは、すぐにファルをじとりと見つめて言葉にしていった。


「……ファル、お前、あの時のこと話したのか……」

「うん。でもまぁ、大丈夫でしょ?

 ここにいるのは、あたしの大切な仲間達だから」


 ファルの言葉に目を見開きならが驚くマルツィアは、表情を笑顔に戻しながらとても嬉しそうに答えていった。


「そうか! お前にもやっと連れができたんだな!

 まぁ、そういうことならいいさ。別に隠しているわけでもないからな!

 ファルから大凡聞いているだろうが、大体合ってると思うぞ」


 そう言葉にしたマルツィアは自己紹介をお互いにした後、嘗ての武勇伝を語り出すが、本当にそんな事があったのだと確信を得てしまうイリス達だった。

 何とも豪儀な方だと思っていると、もうひとりもやって来たようだ。


「とりあえず全て終わったぞ」

「おう! ご苦労さん! 丁度お前との出逢いの話をしていたところだ」

「……あれは相当痛かったぞ。正直なところ、もう二度とごめんだな……」

「自業自得だ。アタシの着替えを見たお前の反応にムカついたんだよ」

「すまないとすぐに謝ったはずだが?」

「少しくらい興味を示せよって言ってんだよ! 目線をずらして謝りやがって!」

「……極々一般的な対応だと記憶しているんだが……」


 瞳を瞑りながら答えていく彼は、話を逸らしていくかのように言葉にしていった。


「次はファル達の料理だな」

「そうか。何にする? アタシの料理は何でも美味いぞ!」

「今日のおすすめはありますか?」


 ようやく平常心を取り戻したイリスは彼女にそう尋ねていくと、マルツィアは即答でもって答えていった。


「今日はライノスィロの上質な肉が入ってるぞ。

 野菜もそれなりにいい夏野菜を揃えてある」

「ではライノスィロのお肉を使ったお料理と、夏野菜のサラダを六人分ずつお任せでお願いします」

「おう! 飲み物は何にする? どうせ街に着いたばかりだろ? 酒にするか?」

「いえ、まだちょっと時間が早いですから、お酒ではなくお料理に合わせてそちらもお任せします」

「よし! 任せとけ! それじゃのんびり待ってろよ!」


 マルツィアは笑顔でそう答えると、再び厨房へと戻っていく。

 ファルに『それじゃあな』と言葉にしたウルバーノも、彼女の後に続くように歩いていった。


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