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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十四章 流れ落ちる想い
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"いつもの気丈な"


 四百六十万リルという大金となっているが、これは決して高過ぎるとは言えない。


 本来これだけの魔物の数を狩るのは、二から三パーティーが主流となる。

 冒険者の数は十二人から十五人程度で、少なくとも二日から三日はかけねば倒せない量なっており、その金額を一人当たりで計算すると日当は凡そ十万リルから十九万リルと、この周囲に生息する魔物の危険性を考慮すれば、決して高い金額ではない。


 もっと安全に生活をするのならば、アルリオンやエークリオ、そしてフィルベルグで冒険者をした方が堅実だと言えてしまうほど、この周囲は危険に溢れている。

 魔物の数や強さを含む厄介さを考えれば、この国は他国よりも遥かに収益を得ることができるのだが、それには相応の強さを求められ、危険が常に付き纏ってしまう。

 これらを考慮すれば、お金を稼ぎたければリシルアで狩れとはとても言えず、本当に戦い好きでもなければ長続きなどできないとも言い換えられるかもしれない。


 イリス達は六人パーティーであり、少人数でこれだけの魔物を短期間とも思われる時間で討伐した上に、冒険者が1チームで所有しているというだけでも驚かれる馬車を持っているが、それについて受付嬢達が驚く様子は一切なかった。

 当然それには納得できてしまうような理由があるのだが、彼女達にそれを尋ねずとも、この国に入った瞬間からそのことを理解できたイリス達だった。


 "猛将"ヴァン・シュアリエ。

 "英雄"ロット・オーウェン。

 "リシルアの勇者"ファル・フィッセル。


 これだけの実力者揃いなのだから、1パーティーであっても大量とも言えるほどの魔物を狩れたのだろうと受付嬢達は判断しているのだろう。


 しかし、彼女達が何も思わないわけではない。

 そもそも英雄達と行動を共にしていること自体が異例なことであり、一体どういった敬意で知り合い、仲間として旅をしているのかと尋ねたくなった受付嬢達だった。

 それだけの強さを持つ彼らであれば倒せるだろうと思えるが、他の同行者である三名は、とても戦うこととは無縁とも思えてしまう美しさと線の細さを感じてしまう。


 細身という意味ではファルも同じだが、彼女は獣人の、それも猫人種である。

 その細腕から繰り出されるとは思えないほどの強さを持つのは、周知の事実となるのだから問題には上がらないが、彼女達はどう見ても人種だ。それだけの強さと経験を持ち合わせるとはとても思えないため、彼女達と共に行動した状況でこれだけの数を倒すのは容易ではなかっただろうと受付嬢達は思っていたようだ。

 唯一、洗熊人種(あらいぐまひとしゅ)の女性は全く別のことを考えていた。


 彼女は"運搬士"とギルドでは呼ばれている職に就いてはいるが、同時に一流冒険者でもある。その実力はそこいらにいるゴールドランク冒険者どころではない強さを持ち、ギルドに所属していなければプラチナランクにはなっているだろうというほどの実力があるが、それ故に彼女は、人を見る目も確かであった。

 明らかに異質と思える強さを感じる女性達に、背を向けながら眉を寄せていた。

 中でも異質極まるのは、パーティーの中心にいる純白の鎧を纏った女性である事も理解している彼女は、とんでもない存在がリシルアに来たと冷や汗をかかずにはいられなかったが、それを口や表情に出すことはなかったようだ。


 ロットは報酬金を受け取り、早々に仲間達とギルドを去ろうとするが、受付にいたお姉さんはそんな彼らに、おずおずと申し訳なさそうな口調で言葉にしていった。


「……あの、大変言葉にし辛いのですが、ヴァン・シュアリエ様がこちらに伺った際は、必ずギルドマスターの下へと来るようにと仰せ付かっております……。

 真に申し訳ございませんが、ご協力をお願いできれば幸いなのですが……」

「あー、先手打たれてたかぁ……」


 苦々しく言葉にしながら右手を額に当てるファルに、とても申し訳なく思ってしまう受付嬢だった。

 これについてイリス達も思うところがある。

 恐らくこれも、彼らがこの国に滞在したがらない理由の一つなのではないだろうかと思えてならないが、その詳細を彼女達は知らない。

 それをこの場で尋ねることはできず、事の成り行きを見守っていくイリスの下へ、ファルの何とも言えない面倒そうな声が耳に届いてきた。


「……どうしようか? 行くっていう体で、帰っちゃおっか?」

「そ、それは、できればご遠慮していただきたく思います、ファル様……」

「ごめんごめん、貴女達にも迷惑かかっちゃうよね。半分(・・)冗談だから」


 思いがけないファルの言葉に、思わず涙目になってしまう受付嬢だった。

 それに、半分冗談ということは、半分は本気だということだ。

 あまりの事におろおろとしてしまう彼女に向けて、ヴァンは腹を括ったような決意をしながら言葉にしていった。


「……こうなっては仕方がない。正直気が全く乗らないが、行くしかないな。

 少々混み入った話となるだろう。イリス達はリシルアを観光してくるといい」


 そんな彼の言葉をシルヴィアは一蹴した。

 予想していなかった彼女の反応に目を丸くしたヴァンは、言葉を返していく。


「あら、私達はパーティーですわ。

 大切な仲間が呼ばれているのであれば、私達もお供致しますわよ」

「し、しかし、呼ばれているのは俺ひとりだぞ?

 ……それに嫌な思いをするかもしれない。俺だけで十分だ」

「問題ありません。寧ろ、そういった場所にヴァン様お一人を向かわせることなどできません。私達は同じパーティーなのですから、共に行動をさせてください」

「……ね、ネヴィアまで……。ロット、ファル、止めてくれ」

「ネヴィアは決めたことを簡単には譲らないから、難しいと思いますよ。とはいえ、俺も二人に賛成なんです。ヴァンさん一人を向かわせて観光なんてできないですよ」

「ろ、ロットまで……」


 ファルの方へと勢い良く視線を向けていくヴァン。

 それはまるで、助けてくれと言わんばかりの瞳の色をしていたが、残念ながら彼女にもそれは通じなかったようだ。


「まぁ、無理だと思うから諦めた方がいいんじゃないかな。あたし自身も全く気乗りしないけど、ヴァンさん一人に行かせるくらいなら、あたしも死地に飛び込むよ」

「……い、イリス……」


 ファルにまで断られてしまった彼は、イリスへと視線を向けながら言葉にする。

 何とかしてくれと言わんばかりの瞳に戸惑いを隠せない彼女だったが、いつもの気丈な彼をそうさせてしまうだけの理由がその先にあるのだろうということは理解できた。

 ならばと、イリスも言葉にしていった。


「私も皆さんの意見に賛成ですが、今回は多数決ではなく、ヴァンさんに選んでいただきたいと思います。

 私達のことを思っての言動なのは十分理解できますが、それでも私達はパーティーです。どうか私達も同行させて貰えませんか?」

「……む、むぅ……」


 瞳を閉じて暫くの間、何かを考え続けていたヴァンは意を決したように瞼を開いた。

 その決意とも、強い意志とも伺えるような声色で、彼は仲間達に言葉にしていった。


「……ありがとう。

 それとすまない、気を使わせてしまって。

 心苦しいが、共に来てもらえるだろうか?」


 ヴァンの言葉を笑顔で快諾していくイリス達。

 そんな彼女達の姿に、深く感謝するヴァンだった。


「……ところで、どうして貴女が涙ぐんでいるんですの?」


 思わず半目で見てしまう視線の先には、羊人種の受付嬢の姿があった。

 ハンカチを取り出しながら涙を拭う彼女に、そこまで感動的だったのかしらと思わずにはいられなかったシルヴィアだったが、どうやらそうではなかったようだ。


「……申し訳ございません。個人的な話となりますが、これで怒られずに済むと思ったら涙が溢れてきまして……。私事ですので、どうぞお気になさらないで下さい……」


 そう言葉にしながら尚も溢れる涙を拭っている受付女性に、何とも言えない表情で見つめているイリスとネヴィア以外の者達だった。


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