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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十四章 流れ落ちる想い
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"買取査定"


 イリス達はカウンターに置かれているベルを鳴らして受付の方を待つと、そう時間をかけずして一人の若い女性が奥からやって来たようだ。

 いくら空いているとはいえ、こういったところで時間をかけては元も子もない、ということなのだろうかと思っていると、羊人種の女性はヴァン達の姿に驚いた様子を一瞬だけするも、すぐさま営業用の笑顔で迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。リシルアギルド素材買取館へ、ようこそお出でいただきました。

 早速ですが、買取希望の素材をこちらのテーブルへとお願いいたします」


 そう言葉にした女性は頭を軽く下げていく。

 緩やかな曲線を描いた二本の白い角に、くるくると柔らかく薄い茶色の癖髪を背中まで伸ばした、とても印象的で可愛らしい女性だった。


 早速全員で持っていた素材を指示されたテーブルへと置いていくが、流石に量が量だけに乗り切らなかったようだ。それでもまだ持ちきれないほどの素材が馬車にあるので、ヴァンはそのことについても女性へと言葉にしていった。

 すると女性は少々お待ち下さいと言葉にして、女性のあとに付いて来て部屋の中央にある査定用のテーブルに待機していた女性へと視線を送ると、その女性は部屋の奥にある扉へと戻っていき、もう一人の女性を連れて戻って来た。


 アッシュグレーのストレートセミロングヘアを背中で束ね、黒に近い灰色の瞳が鋭く光る、とても気丈な印象を持つその女性は、後にロットから聞いたところ、洗熊人種(あらいぐまひとしゅ)と呼ばれた種族らしく、灰色と黒の縞々の尻尾が愛らしく思えてしまう不思議な魅力を感じる女性だった。

 何でも彼女達の種族は冒険者を生業とする者がとても多いことから、彼女は他の二人とは違い、護衛として任務に付いていた所謂"運び屋"の一人かもしれないと先輩達は予想していた。


 馬車の方の素材を査定してくれるという女性へ、厩舎の名前と馬車の特徴、その近くに分けられて置かれている素材の量とある程度判断がしやすいようにと種類まで伝えると、女性は笑顔でそれに応え、査定へと向かってくれたようだ。

 そして羊人種の女性は、イリス達へと言葉をかけていった。


「素材買取金のお支払いは如何なさいますか?」

「"大きい方で"お願いします」

「畏まりました。それでは少々お待ち下さい」


 受付にいる女性はもう一人の女性と共に、素材を奥にある台へと運び込んでいった。

 その軽々と持ち運ぶ姿に、やはりこういった職に就いている方は女性であろうと、力がなければ仕事にならないのだろうと思えてしまうイリスは、もうひとりの艶やかな黒髪を真っ直ぐと腰の辺りまで伸ばした女性へと視線を向けていた。

 こちらの女性は牛人種と呼ばれている種族の方らしく、眠たげな瞳で力強く魔物の素材を持ち上げる姿に、人種よりも遥かに力持ちなのだと強く実感できた三姉妹だった。


 全ての素材を運び終えると受付の女性は、それでは査定をさせていただきますと美しい笑顔で言葉にして、先に査定を始めていた女性の元へと向かっていった。

 手際よく隅々まで調べて紙に記していった女性達の下へ、馬車へと向かって行った女性が大荷物をひとりで担ぎ、戻って来たようだ。

 あまりの荷物にお手伝いしますと言葉にしてしまったイリスへと、これも仕事ですから気になさらずと返されてしまい、そんな彼女へと笑顔でお礼を告げていった。


 無事査定を終えた女性は素材を奥のテーブルへと置き、詳細が書かれた紙を受付の女性へと渡していくと、そのまま素材を効率良く仕分けているようだ。

 全ての詳細を纏め終えた女性は、お金とそれを入れる袋を乗せた小さなプレートをこちらへと持ってきて言葉にする。


「お待たせいたしました。こちらが当館へとお持ちいただいた素材の、査定金額を含む明細書とその買取金となりますので、どうぞご確認下さい」


 受付の女性がプレートをイリス達の前へと置き、イリス達の前に先程記入していた紙を合わせたものを差し出した。

 そこには非常に細かい査定金額だけでなく、魔物素材の詳細と査定理由を含むものが事細かに記されているようで、思わずイリスは言葉に出してしまった。


「……こんなに細かく書いて下さっているのですね」

「当リシルア素材買取館では、様々なお客様のご要望に応えるべく、日々査定には気を使わせていただいております。

 それでも素材の状態の良し悪しで査定額が大きく変動することもありますので、その詳細も記すようにと決められているのです。

 今回皆様がお持ちいただいた素材はどれもが良品で、傷も少なく、丁寧な採取をされて下さいましたので、金額としてはかなりのものとなりました。

 中には最高級品と言われるほどの美しい品もありましたので、その分こちらとしても高額買取をさせていただきたいと思います」


 今回持ち込んだ素材は、ワニ型のクラカダイル八()、トラ型のティグリス一頭。

 それと馬車に置かれた素材である、スイギュウ型のブッフェルス一頭、ハイエナ型のハイアニィス七頭となる。クラカダイルの肉は食べた分もあるので、ある程度は少なくなるも、六人が数日食べた程度ではそれほど大きく金額が変わることはない。

 後者の二種は大樹からリシルアへと向かう途中で遭遇した魔物となるが、馬車に乗り切らないのではと思えてしまうほどの巨体を持つブッフェルスの素材を載せたことで、流石に野営の際は外へと運び出さなければ馬車で眠る事もできなかったようだ。


 しかし、倒した魔物をそのまま捨て置くことなどできなかったイリス達。

 それだけ高値で取引される素材である事もそうなのだが、何よりも命を奪った以上は大切にその恩恵をいただくことを彼女達は選んでいた。

 流石にガルドに関しては様々な点から運び入れることはできなかったが、もし持ち込んでいたらとんでもなく大事となっていたのは目に見えている。

 英雄視されるだけならいいが、"リシルアの悪夢"とまで呼ばれた存在を知った国民は恐怖を抱きかねないと思えてしまう。

 あの時は魔物の真実を知った彼女達が、持ち帰るという選択肢など考えられなかった、というのが一番の理由ではあるのだが。


「ティグリスを含むクラカダイルの中には小さな個体も含まれますが、状態も品質も申し分がございません。当然低評価とはならず、しっかりと買取をさせて頂きます。

 中でもティグリスの毛皮と、ブッフェルスの皮と角、そしてクラカダイルの皮は非常に品質が良く、最高とも言えるほどのものでした。

 特にクラカダイル皮は非常に質が良く、鱗の形状のバランスがとても美しい上に傷も少ない最高品質で、高く買取をさせて頂きます。

 ブッフェルスの肉も人々から大変好まれる上質なもので、高価となっております。

 残念ながらハイアニィスに関しましては明細書にも書かせて頂きましたように、素材自体の買取はそれほど高くはありません。しいて言うのならば個性的な香りがありますが、その肉は中々に美味ですのでそれなりの金額にはなっています。

 ですが、ハイアニィスは集団で襲い掛かる非常に厄介な存在ですので、素材買取よりも討伐手数料の方がお高くなっております」


 続けて女性は更に細かい内訳について話をしていくも、そのどれもが小額とはとてもいえないほどの金額となるらしく、本当にこの国周辺に生息している魔物は厄介で強いものばかりなのだと、改めて考えさせられてしまうイリス達だった。


 今回倒した魔物はかなりの数となるのでそれも仕方ないのだが、その素材と討伐報酬を合わせた金額は、四百六十万二千五百リルという大金となった。


 中でも大金となったのはクラカダイルとハイアニィスの数の多さ、ブッフェルスの肉の買取額だろう。枝肉が382.5リログラルとかなりの量でありながら上質な肉となるこの素材は、100グラル500リルという高額で取引されている。

 勿論これは買い取り額なので、家庭の食卓に並ぶには更に高価となる。


 丸々一頭分の肉なので大金になるのも仕方ないのだが、その場に捨てるわけにもいかなかったイリス達は、そのまま素材を馬車へと積み込んでいた。

 流石にエステルひとりでこれだけの重さを持ち運ぶのは忍びなかったイリスは、強力な強化魔法をかけてあげた経緯があった。


 休むことなく進み続けたエステルのお蔭で、予定よりもずっと早くリシルアと到着することとなっていたのだが、それはまた別の話となる。



 『大きい方で頼む』という表現は、冒険者用語になります。

 現金払いかつ、大きい硬貨でお願いします、という意味です。


 査定の明細につきましては、本日付の活動報告(だぶんにっき)にて書かせていただきます。

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