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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十四章 流れ落ちる想い
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"独自の発想"


 街の中心部となる広場から、そうは離れていないとても賑やかな場所に、この国のギルドは置かれていた。

 大凡世界にある街の殆どはこういった場所に設置されているのだが、アルリオンのように大きな国は他の街とは違う造りをしている場合も多い。

 どうやらこの国もかの国とは違った意味で少々変わった形を取っているようで、それを目の当たりにしているイリス達はギルド前で立ち尽くすようにその足を止めていた。


 世界四大国家とも呼ばれる一国なのだから、独特な造りも当然なのかもしれない。

 フィルベルグのみそういった特殊な造りをしていない点を考慮すると、本当に穏やかで魔物も弱いものしか周囲に存在しない、のんびりとした場所だという事なのだろう。

 しかし、どうにもこの国のギルドは中々に不思議な造りをしている建物のようで、視線が左右に行ったり来たりしてしまっている彼女達は、各々呟くように言葉を発していった。


「……全く同じギルドが二つ並んでいるように、私には見えるのですが……」

「……どちらかが成り立て冒険者用で、どちらかが熟練者用、とかかしら……」

「……どちらも構造は全く同じ造りのように思えますね……。

 あ、左の建物の方には、看板がもうひとつ付いているみたいですよ」


 イリスの指し示す先にある看板へと視線を向ける姉妹は、その描かれているマークを見ると、納得したように声を出していった。

 ギルドの看板である盾を背景に剣と杖が交差するものも、二つある建物の両方にかけられているが、左にある建物にはもうひとつ天秤の看板がかけられているようだ。


「なるほど、左が素材買取専門の建物、ということなのですわね」

「うむ。このリシルアは、冒険者の数が世界でも一番多いと言われる国でな。

 昔はひとつの建物だったそうだが、随分前に二つに分けられたそうだ」

「流石に入り乱れるように人の出入りがあったんだろうから、それぞれに分担されて随分と落ち着いたんじゃないかな」

「……まぁ、こうなってくれた方が色々と都合もいいし、依頼を受けるわけじゃないからこっちに行くだけでいいよね?」


 笑顔で言葉にするファルだったが、若干口角が引くついていたのをシルヴィアは見てしまう。どうやらそれが見えていたのは先頭を歩く男性達と、角度的に確認できた彼女だけだったようだ。

 なんとなく先輩達が言いたいことを理解できたイリスとネヴィアだったが、シルヴィアだけは少々好奇心が搔き立てられていたようで、うずうずとした瞳で右側のギルドを見つめていたのだが、それを言葉にすることは流石になかった。



 左にある素材買取専門ギルドへと向かうイリス達。

 大きな両扉の右側に手をかけ、ゆっくりと開いていくと、外観から想像していた以上に広い構造となっているのが見て取れた。

 どう見ても立派な依頼受注カウンターとしか思えないほどの大きさの受付があるが、本来あるべき筈の依頼書が貼り出される掲示板は、ひとつも置かれていないようだ。

 そして全ての受付に、素材買い取り用のテーブルがそれぞれに置かれているようで、今までにないその光景に、とても不思議な感覚を感じてしまうイリス達ではあったが、正面に見える受付の多さに再び視線が集中していく。

 素材買取というだけであってその受付数は十もあるようで、早朝か夕方頃になると沢山の人で溢れてしまい、これだけの受付が全て開いても並ぶ事になると先輩達は話す。


「この情報は二年近くも前のものとなるし、今現在はもっと利用者が増えている可能性もあるが、この時間帯は滅多に人は来ないらしいから、受付の殆どは閉まっている」

「なるほど。確かに二つしかカウンターは開かれていないようですわね」


 この時間は素材を売りに来る者がとても少ないのだろう。

 受付が開かれていたのは右端から二つだけで、あとはカーテンがかけられていた。


「素材買取ともなれば、それなりに査定の時間が必要となるでしょうし、これだけ受付が開かれていても混み合ってしまう、ということですわね」

「そうだね。尤も、この周辺の魔物の価値は他の地域と比べても高価なものが多いからね。その分しっかりと査定してくれて、明細もきちんと教えてくれる良心的な買取をして貰えるんだよ」

「素材買取の方はいい人が多いんだ。流石におまけしてくれることはないけど、どうして買い取り額が下がったのかって事まで詳しく教えてくれるんだよ」


 それはお金が関わる以上、必須なのではないだろうかと思ってしまうイリスであったが、素材買取に関しては別の商売とは違い、ざっくりとした取引が行われるものが他のギルドでは主流となるそうだが、ことリシルアに限ってはその限りではない。

 相手にするのも冒険者である以上、気の短い者が多かったりするので手早く処理しなければならないのだが、中でも査定に関してはしっかりしないと争いの火種となる。

 命を懸けて魔物を仕留めているのだから、当然といえば当然と言えるのかもしれないが、待たせ過ぎることも良くないとギルド側は判断しているようで、ここに勤めるのは本当に大変そうだと先輩達は語っていた。


 この素材買取専門の受付は、全てが開かれる早朝と夕方から夜にかけての時間帯には相応の人数で素材買取をしているようで、最低でも1パーティーに素材を鑑定できる受付一名と、もうひとり素材鑑定士が付くらしく、大口の場合は待機している他の鑑定士が数人がかりで査定をするのがここでの主流となっている。

 更に大口の買取の場合は、すぐさま運搬を依頼できる状況となっているようで、それ専門の冒険者と契約をしているのだとロットは言葉にした。


 なんでも通称"運び屋"と呼ばれる冒険者達らしく、運搬の最中に魔物が襲撃しても軽々と撃退できるだけの実力者で構成されたパーティーなのだとか。

 そういった場合の報酬は1リログラル単位で計算される運搬料と、倒した魔物に限り素材料と討伐料が運搬冒険者の収入となる。

 運搬依頼のない日は、素材買取受付嬢達の護衛任務に就いているらしい。

 基本的に休日がないと言われるほど忙しいようで、特にこのリシルアでは大量に魔物を狩って"運び屋"に依頼する場合が多いらしく、運搬を生業としている冒険者は護衛料も含め、かなり儲かっていると言われる職なのだと噂されているそうだ。


 そんな者達が待機しているとしても、どうやら揉め事を起こすような連中にとっては関係ないらしく、割と多く諍いが起こっていると呆れた様子でヴァンは言葉にした。


「流石にギルド内で暴れたりはしないが、厳しく叱責する者も少なくはない。

 そういった者達への対応策として、別棟が建設されたと聞いたことがある」

「何とも複雑な事情ですわね。他所では見かけない、この国独自の発想なのかしら」

「まぁ、そうだろうねぇ。……あたしは何度もいざこざと鉢合わせたことがあるけど、正直、気持ちのいいものじゃないんだよね、そういったのは。

 これはロットもヴァンさんも同じように思ってることだろうけど、そういった点もあたし達には合わないって思えちゃうんだよねぇ……」

「揉め事を止めに入ると、必ずと言っていいほどこちらに飛び火するからね。

 受付の人に意識が向かなくなるのは助かるけど、その場合も色々と問題が多くてね。

 俺もあまりいい気分にはならないし、この国のギルドに関しては色々と起こる場所だから、それなりに覚悟して来ないと精神的に結構大変なんだよ」

「まぁ、揉め事を起こすような輩は、大抵口が達者な者が多いからな。

 その者に合わせて相手をするだけでも解決はできるんだが、その度に武勲として評されてしまう、ここは本当に独特な国だと言えるだろうな」


 何とも凄い話をさらりとする先輩達に、イリスとネヴィアは引いていた。

 そういった精神を強く保つことのできる者達でなければ、この国では冒険者としてやっていけないのだろうと思えてしまうが、どうやらシルヴィアはその光景を想像しながら、この国で冒険者として活躍すれば母のように強くなれるのかしらと、割と真剣に考えていたようだ。


 しかし、残念ながらそういった輩を退けたところで、得られるのは武勲のみだろう。

 何でも卒なくこなすどころか何事も完璧に対応できてしまう母に近付くには、そんな事をしても無駄ですわねと彼女は思い至り、ここでの冒険者暮らしに興味がなくなっていくシルヴィアは仲間達と共に、開いている素材買取受付へと足を進めていった。


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