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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第三章 小さな天使
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小さな"天使"


 噴水広場を東に進んで行くと、この辺りにもお店がたくさん並んでいた。思えばこちら側に来たのは初めてだ。色んなお店があるが、今は見てる余裕はない。

 広場からここまで大した距離でもないのに、すぐに息が上がってしまった。なんて体力がないんだろう私はと、こんな時にひしひしと感じてしまう。


 でも急がなければいけない。確かめないといけない事ができてしまったからだ。気のせいで済む間違いならそれでいい。それならそれで良い事だから。でも、もし合っていたら……。そう思えば思うほど、心が不安になっていく。


 早歩きでしばらく進んで行くと、この辺りは住宅街になっているようだ。ものすごくたくさんの家があり、人を探すのはかなり難しいかもしれない。

 歩いている人に聞いてみよう、そうしていけばきっと出会えるはずだ。そんなことを思っていた時に後ろから声をかけられた。


 「イリス」


 振り向くとそこにはミレイが立っていた。イリスは驚いた顔をしながら、ミレイが何故ここにいるのかを尋ねた。


 「ミレイさん? どうして?」

 「あはは、それはこっちのセリフだよ、イリス」


 優しい笑顔で話してくれるミレイに涙が出そうになる。少々心に余裕がなかったようだ。こんな時だからこそ落ち着かないといけない。イリスはそう思っていた。


 「それで、何を探してるのかな? あたしにも手伝わせて?」


 その言葉にとても嬉しくなってしまうイリス。そうだ、一人よりも二人の方がいいに決まってる。どうしてその事に気が付かなかったんだろう。そんなことを考えながらも、イリスはミレイにお礼を言った。


 「ありがとう、ミレイさん。とっても助かります」

 「あはは、いいんだよ。イリスはもっと人に頼る事も覚えた方がいいかもね。あたしならいくらでも力を貸すよ? 出来ない事も多いけど、きっと出来る事もあるはずだから。イリスの為ならあたしは出来ることなら何だってするよ。だからもっと頼って欲しい。ひとりで抱え込まないで、出来ることなら話して欲しいよ。だってあたしは、イリスのお姉ちゃんだから」


 一瞬で視界が歪んでしまい、一気に涙がこぼれてしまう。イリスは気が付いたらミレイに抱きついていた。なんて嬉しい言葉なんだろう。嬉しくて、優しくて、あったかい言葉だ。


 「……ありがとう、お姉ちゃん」

 「……うん」


 優しく抱きしめ、妹の頭を撫でるミレイ。イリスは少しずつ落ち着きを取り戻し、ミレイに説明していく。最悪の可能性も含めて。話が進むとミレイは徐々に眉をひそめてイリスの言葉に釘付けになっていた。


 「――という事なんです」

 「……なるほど。それは不味いね。急いで見つけて確認しないと」

 「あくまでその可能性なので、まだなんとも言えないです」


 そうは言っても、その可能性があるだけで問題だ。放置すれば大変な事になる。ミレイは真剣にイリスへ話しかける。


 「間違いなら笑って済ませられるけど、間違いじゃなかったら大変だよ。まずはあの子を探そう」

 「でもこんなに広いのにどうすれば……」

 「あはは、ちょっと待ってて」


 そう言うとミレイは瞳を閉じ、耳に集中する。自慢の耳がぴんとなり、角度をつけるように少しだけ動く。しばらく集中していたミレイは瞳を開けて、細い道を指差した。

 そこはイリスが進もうとしていた大きい道ではなく、とても細い道だった。正直な所、こっちの道に行こうとはイリスにはとても思えないほどの小さい道だった。


 「こっち行ってみよう。これだけ広くて人が多いとちょっとわかりにくいけど、あの子は足が遅かったし、そんなに遠くないと思う。それに、似た足音が聞こえたから、まずはそっちに行って探してみよう」

 「ミレイさんすごい! お耳もすごい!」


 目をきらきらさせながらミレイをべた褒めするイリスに、耳をへなっとしながらミレイははにかむようにお礼を言った。そんなとてもくすぐったそうな表情をしているミレイを見てイリスは可愛らしく思えてしまった。


 「あはは、ありがと」



 ふたりは狭い路地を進んでいく。ここはとても入り組んでいるようだ。暗いわけじゃないが、初めてくる場所としてはかなり迷いそうな小道だ。今はミレイがいてくれるために迷う事はないだろうが、イリス一人だと途方にくれていたかもしれない。

 しばらく進むと分かれ道に出てしまう。ミレイが同じように集中し、しばしの時間で道を割り出し指を指して言った。


 「こっち。結構近いよ。行こう」

 「はいっ」


 言われるまま付いていくイリス。2回同じような事があり、ミレイに付き従うように歩いていくと、少しだけ開けた場所に出たようだ。そこには小さな家がぽつんとあり、ほんのちょっとだけ庭があった。家の前にはたくさんの花で飾られていて、とても素敵な可愛らしいおうちだった。


 「わぁ。こんなところがあったなんて」

 「あはは、ほんとだね。すごく綺麗な家だなぁ」


 そんなことを話していると、近くから可愛らしい声が聞こえてきた。


 「さっきのおねえちゃんたち?」


 そこにいたのは噴水広場でぶつかってしまった赤い髪の可愛らしい女の子だった。どうやら小さな庭で遊んでいたらしい。イリスたちはその子に近づいていき、目線を合わせるようにして自己紹介を始めた。


 「こんにちは。私、イリスって言うの」

 「あたしはミレイだよ。さっきはごめんね」

 「わたしアンジェリカ」


 可愛らしく微笑みながら答えてくれた少女に、ふたりは目を細めてしまった。何と可愛らしい子なのだろうかと。続けて二人は笑顔で言葉を添えていった。


 「よろしくねアンジェリカちゃん」

 「よろしくね、おねえちゃんたち」

 「うん。よろしくねー」


 一通り挨拶も済んだ後、ふたりはアンジェリカに話しかけた。庭にひとりで遊んでいたようだったからだ。両親はいないのだろうかと辺りを見渡すも、どうやら家にいるようで見えなかった。


 「アンジェリカちゃんは遊んでたの?」

 「うん。おかあさん、まいにちつかれてるから」

 「そっか、それでひとりで遊んでたんだね。偉いねアンジェリカは」

 「うん」


 嬉しそうにするも、とても寂しそうに見えたアンジェリカに、ミレイはそれじゃあ一緒に遊ぼっかと言うと、アンジェリカは満面の笑みで返してくれた。なんて可愛らしい子なのだろうか。

 二人は天使のような微笑のアンジェリカと一緒に遊んでいく。おもちゃを使ったおままごとのようだ。遊びながらアンジェリカの腕を上手に見たミレイは、ふとある事に気がついてしまった。


 「あれ? アンジェリカ、これ、どうしたの?」


 短めの袖からちらっと見えたものだった。それは腕についたあざのようなものだった。ほんのり黒ずんでいるようにも見えるが、どうやらひとつだけのようだ。


 「ん? わかんない。いつのまにかあったよ? おねえちゃんにはないの?」

 「んー、そうだねー。あたしにはなかったかも。どこかでぶつけちゃった?」

 「んー? わかんないかも」

 「そっかぁ」


 そう言いながらおままごとを続ける3人。アンジェリカと遊ぶのはとても楽しいが、イリスは内心それどころではなかった。焦りと不安が顔に出ないように抑えつつ遊んでいくが、アンジェリカには伝わってしまうようだった。


 「イリスおねえちゃん、どうしたの?」


 私の顔は子供にもばれちゃうのかと若干へこむが、気を取り直してなんでもないよ、と不安にさせないように、優しい声でイリスは首をかしげているアンジェリカに伝えた。


 「そうだ、あたし喉が渇いちゃったんだ。アンジェリカ、おうちでお水貰ってもいいかな? お母さんにお願いしてくれる?」

 「うん。いいよー。いこ、おねえちゃんたち」


 ミレイの素晴らしい機転に脱帽のイリスは言われるまま付いていく。家の中に入ると、ちょうどキッチンに母親と思われる女性が料理を作る準備をしていた。穏やかそうな人だ。


 「おかあさん」

 「あらアンジェリカ、どうしたの? そのお姉さん達は?」

 「えへへ、おともだち。こっちがミレイおねえちゃんで、こっちがイリスおねえちゃんだよ」


 笑顔で母親に紹介するアンジェリカに母も笑顔で答えてくれた。娘と遊んでくれた親切な人達と思ってくれたようだ。


 「あらそうなの? すみませんね、わざわざ構ってもらっちゃって」

 「いえいえ、あたしたちも楽しんでますのでお気遣いなく」

 「あのね、おねえちゃん、おみずのみたいんだって」

 「ふふ、ちょっと待っててくださいね」


 そういいながらコップにお水を注いで持ってきてくれた。ゆっくりと味わって飲むイリス。ミレイは一気に飲んでしまったようだ。


 「ぷはぁ。美味しかったぁ。ありがとうございます。ご馳走様でした」

 「いえいえ、おそまつさまです」


 微笑ましくミレイに言葉を返しながら、差し出されたコップを受け取るアンジェリカのお母さんは、そのままコップを受け取ったまま笑顔でふたりを見つめていた。


 「よし、それじゃあアンジェリカ遊ぼう!」

 「わーい!」


 そう言いながらミレイは満面の笑みのアンジェリカと共に家を出て行った。ひとり残ったイリスはテーブルにコップを置き、自己紹介から始める。


 「はじめまして。私は、冒険者ギルド近くにある魔法薬店"森の泉"で働かせていただいてます、イリスと申します。いきなりの事で申し訳ございませんが、少々お時間をいただけませんか?」

 「はい。構いませんよ? 私はアンジェリカの母、カーティアと申します。よろしくおねがいします」

 「こちらこそよろしくお願いします」


 自己紹介を手短にお渡せたイリスは、現状を話す前に少々カーティアに話を聞いてみることにした。いきなり話しても驚かれるだけだし、こちらも確証がない。まずは聞いてみようと思った。


 「アンジェリカちゃんとは先ほど噴水広場で会いました。その時に気になったのですが、アンジェリカちゃんは下を向いて歩いていたんです。失礼ですが、もしかしてアンジェリカちゃんの視力が悪いということはありませんか?」

 「!? どうしてそれを……」


 下を向いて歩くということ事態は視力低下には繋がらない。あくまでこれはイリスの推察で、ただ気になった、としか言えないような曖昧なものであった。これもカーティアへ説明していくイリス。

 もし違うのならそれはそれで良い話で終われるのだが、どうやら事はそう単純にはいかないようで悪い方向へと進んでいく。


 「先ほどアンジェリカちゃんの腕に、黒いあざのようなものがありましたが、あれはどこかでぶつけたりしたものでしょうか?」

 「いえ、あれは…… たしか半年ほど前に、気が付いたら出ていたと思います。あの…… 何かご存知なんでしょうか?」

 「実はその症状に似た病気を知っているんです。ただ、私は話に聞いただけなので、詳しい人物にアンジェリカちゃんを診てもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「……もしかして、あまりよくない病気ですか?」

 「私は知識が少ないので確証が得られませんし、私の口からは今は言わない方がいいと思います。ですので、おばあちゃん、いえ、レスティ・リアムさんに診てもらいたいんです」


 その名を聞いてカーティアは目を丸くしてしまう。さすがにこの名前は知っているようだ。


 「"森の泉"のレスティさんって、まさか薬師のレスティさんですか?」

 「はい。レスティさんに聞いた話によると、その病気の症状として、視力が悪くなる事が考えられるそうです。そして腕には黒いあざのようなものが出て、身体の弱いお年寄りや子供に多く見られる症状なのだとか。先ほども言いましたが、私は話に聞いていただけですので、アンジェリカちゃんを詳しく診てもらいたいんです」


 少々取り乱してはいるが、カーティアは快く了承してくれた。ありがとうございますとイリスが言うと、カーティアは、とんでもないです、娘のためにありがとうございますと言ってくれた。そのまま二人で家を出て、アンジェリカのもとへ行く。


 アンジェリカがこちらに気づいたようで、笑顔で走り寄ってくれた。本当に可愛い子だ。イリスが店に戻ろうとしたところ、察しがついたミレイは、手で制してあたしが行くと言い出した。


 「あたしの方が道に詳しいし、イリスだと迷う事も考えられる。なら、あたしが行く方がいいよ」

 「すみません、ミレイさん」


 申し訳なさそうに言ったその言葉に、ミレイはイリスの目を見て答えた。


 「イリス。その言葉は違うよね?」


 そう言われて気が付いた。そうだ、そんな言葉じゃだめだ。そんな言葉をミレイさんは望んではいない。言うべき言葉は……。 そしてイリスは言葉を言い直して口に出した。


 「ありがとう、ミレイさん」

 「うん!それじゃ行って来るよ」


 笑顔で答えるミレイに心の中でまたありがとう、と思ってしまうイリスだった。イリスの周りには本当に優しい人が集まってくれている。こんなに嬉しい事があるだろうか。


 ミレイが行ってしまうと思ったアンジェリカは、寂しそうにミレイの裾を掴み話しかけた。その可愛らしい上目遣いと仕草に目を細めてしまうミレイがそれに答えていく。


 「ミレイおねえちゃん? かえっちゃうの?」

 「ううん、アンジェリカにもうひとり会ってもらいたい人がいるんだ」

 「あってもらいたいひと?」

 「うん。その人はとっても綺麗なお姉さんだよ。きっとアンジェリカも仲良くなれると思うんだ」

 「そっか、それじゃまってるね、ミレイおねえちゃん」

 「うん、じゃあ行ってくるねー」

 「はーい!いってらっしゃーい!」


 元気に手を振るアンジェリカのなんと可愛いことか。ミレイの抜けたおままごとにイリスとカーティアが混ざっていく。


 おかあさんもあそんでくれるの? アンジェリカはカーティアに聞くと、ええ、一緒に遊びましょうねと優しい笑顔で答えていく。

 いいなぁ、私もこんな素敵なお母さんになれるだろうかと思えてしまうほど魅力的な女性だった。


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