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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十三章 ごめんなさい
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"せめて次の命では"


 廃墟となってしまったメルンの故郷を離れて進む中、イリス達は様々なことを話しながら旅を続けていた。


 石碑に出てからすぐに休憩を取ったイリスだったが、どうやらあの中で過ごした時間が相当長かったようで、今まで感じたことのないほどの空腹感が彼女を襲い、いつも以上に食事を多く取っていたようだ。

 当然いきなり重いものを食すと身体に悪いので、少しずつ染み込ませていくように、お腹に優しいスープを飲んでいた。

 そして月明かりで照らされる大樹の中で十分に休息を取り、翌日の早朝に出発していった。


 今現在は、あの国まで目と鼻の先と言えるほどの場所となっているが、ここに来るまでに石碑で手にした情報で、あの場では話しきれなかったことも仲間達へとイリスは伝えていく。


 "魔法の薬草(マジックハーブ)"と世界にいる薬師から呼ばれたものも、地中から染み出すように溢れてきたマナが大きく関係していると彼女は推察した。

 マナを含んだものだからこそ、薬草自体にマナの特色とも言えるようなものへの変色現象を起こすのかもしれない。

 現に動物が地中から溢れるマナの影響を強く受け、魔物化してしまうのだから、それは植物も同じように影響を受けるのではないだろうかと思えてならないイリスだった。

 もしかしたらそこに解決の糸口があるのではないかとも、彼女は答えていった。


「動物と全く同じように影響を受けるのだとしたら、お薬の材料になるどころの話ではなく、植物系の魔物といった存在ですら出てもおかしくはないと思えます。

 きっと動物とは違った影響を受けているのかもしれませんね」


 そう言葉にしたイリスだったが、どこか確信を持っているのだろう。

 彼女はしっかりとした口調で言葉にしていくも、イリスの放ったその内容は、あまり深くは考えたくなどないと思えてしまうような、恐ろしい発想ではあった。

 もし本当にそれが、言葉として表現するのであれば"植物系の魔物"が存在するのであれば、厄介なことこの上ないと言えるのではないだろうか。


 この世界は草原や、今も進んでいる乾燥地帯を含め、森や林など植物を多く茂らせている場所がとても多いという。

 実際に世界の端から端まで辿り着いた者はいないらしいが、大凡の形状は相当前から判明しているらしいとロットは言葉にしていった。

 "世界の果て"というものには、とても興味を抱かずにはいられないイリス達ではあったが、まず最優先はレティシアとの再会に焦点を絞り、ゆっくりとではあるがあの街へと向かってエステルに進んでもらっていた。


 これまでのことを含む数多くの話し合いをする中、とりわけ目立っていたものは、魔物への対処をどうするか、ということだった。


 魔物とは、"動物の成れの果て"であることは、最早揺るがぬ事実と言えた。

 地中から噴き出した"黒いマナ"と呼ばれる恐ろしいものに触れた存在ではなく、それに近いあまり良くないものを含んだ、けれど微弱だと言えるマナを浴びて変異してしまったものだと、イリスはとても悲しそうに言葉にしていた。

 そしてそれらはもう、変異しきってしまった存在だと思われたため、動物へと戻すようなことは"願いの力"であろうとそれを実現することは叶わなかったようだ。


 何度か魔物を"極大鎮静化イクストリームリィ・セデーション"で鎮静化させ、"願いの力"を何度か試してみたのだが、残念ながら動物へと戻すことはできなかった。

 それもイリスはガルドの時から推察していたことではあったが、もしそれができるのであれば、それほど嬉しいことはないとも思えてしまっていた。

 しかし、その嬉しい結果とも言えることは実らなかったようだ。


 そもそもそんな事ができるのであれば、エリエスフィーナは"強き者"にこの世界の未来を託すことなどせず、自身の力でどうにかしていたはずだ。

 イリスが如何に強大な力を手にし、今代だけでなく昔も含め、最高峰の力を所持することができていたとしても、彼女は人なのだから女神を超えることは絶対にないと断言できた。

 そうは分かっていても、試さずにはいられなかったイリスだったのだが、却って彼女を悲しませてしまう結果となってしまったようだ。



 大樹が見守る街から出立し、何度目かの魔物と遭遇していたイリス達は、今までと変わりないように魔物を退けていた。


 イリスの性格からすれば、魔物とはもう戦えないのではないだろうかと考えてしまうシルヴィア達ではあったが、どうやらそうはならなかったようだ。

 今の彼女であれば、ガルドの時と同じように対処ができるのだが、それは流石にしない方がいいとイリスは判断したようだ。

 それに慣れてしまえば、突発的な襲撃に対処が遅れてしまい、仲間達の身を危険に晒してしまいかねないだろう。

 イリスが傍にいれば"願いの力"による強大な保護を張り巡らせることが可能ではあるが、石碑の中で過ごしている時のように彼女がいないことも想定して、今後のためにも魔物は今まで通りに倒していきましょうと、彼女は笑顔で言葉にした。


「確かに、魔物は動物の成れの果てであり、"黒いマナ"の影響を受けてしまったガルド(あのこ)ほどではないにしても、あまり戦いたくないという感情を私は持ってしまいました。

 ですが、最早動物へと戻すことができない点や、何よりも皆さんの安全を考慮すれば、戦わずして進み続けるのは危険だと私には思えてしまうんです。

 必要以上に倒す必要はありませんが、魔物としてではなく、あくまでも"凶暴な動物"として対処していくのがいいのではないでしょうか」


 続けてイリスは、何故動物へと戻せないかの推察を述べていく。

 当然確たるものなどないので、この考えは彼女の想像の範囲を越えることはないし、それが真実であるとも答えられないのだが、それでもかなりの信憑性を感じられるイリスの言葉にその場にいる誰もが納得し、彼女の考えに賛同していった。


 恐らく魔物と呼ばれている存在は、黒いマナに近いものを浴びて、かなりの時間が経過しているのだろうとイリスは推察する。

 それが魂に溶け込むように侵食し、一体化してしまっているのではと。

 だからこそ"願いの力"をもってしても、救うことができないのだろうと思えた。

 仮にその考えが正しいのであれば、最早それは命を奪うことでしか救えないのではと、彼女はとても寂しそうに言葉を続ける。

 そしてそれは、姉にも言えたのではないだろうかと思わずにはいられないイリスだったが、確たるものがない以上それを口にすることは(はばか)られたようだ。

 それは彼女自身、納得などできない事件であったと同時に、下手な言葉など未だに発することができなかったからなのかもしれない。どことなくイリスの様子からそれを察した仲間達も、その件について尋ねることはなかった。


「危険種や"凶種"と思われる存在に対しては、私の力で眠らせようと思います」


 彼女の発した"眠らせようと思う"という強い言葉に、仲間達は胸がずきんと痛む。

 イリスはあえて、強烈とも言えるような言葉を使っていた。

 それはまるで"自らの罪"だと言わんばかりの様子に、彼女一人にそれを背負わせてはいけないと思う反面、現実的な問題として攻撃が通じない"凶種"と思われる存在に生半可な攻撃をすることそのものが、彼ら(・・)をより長く苦しめてしまう。


 ならば、傷付けることなくイリスの力で眠らせてあげることが、一番穏やかに対処できると言える、唯一の対処法なのではないだろうか。

 それを察したからこそ仲間達は何も言葉にできず、彼女の出した答えを了承することでしかできなかった。


 ガルドの時のように魂を"天上の世界"へ送ったところで、その根本的な解決方法にはならないと分かった上でイリスはあれから出遭ってきた魔物全てに、その魂が無事に女神の下へと辿り着けるようにと、心からの祈りを捧げていった。そうすることで、せめて次の命では幸せな時を過ごせるかもしれないと、彼女は思ったようだ。


 魔物と呼ばれた存在へと変異する前の動物が、この世界を歩いていないと思えてしまうほど少ない理由も、メルンが託してくれた知識に含まれていたようだ。

 これについて彼女がイリスへと話さなかったのは、あくまでも推察であることと、それを聞いたところで何の解決にもならないのだと知っていたからだろうとイリスは感じていた。


 メルンはある検証を行なっていたと、知識にはある。

 その内容は、広大と思える広い場所に動物がいるかを確かめた状態で暫く時間を置き、再びその場所を調査するといったもので、何日目かにある変化を一度だけ感じられたとメルンはイリスへと情報を渡していた。

 本来いるはずのなかった場所、そして魔物ですら辿り着けるはずもないほど離れた場所に、突如として成体の動物が出現したという、それを聞いたヴァン達にとっては正直なところ信じ難い内容のものではあったが、その検証でようやくイリスの仮説が現実味を帯びてきたと彼女は感じることができた。


「恐らく動物は、女神様が人に気付かれないようにと出現させているか、そういった事をする存在、もしくはコアのようにそれらを生み出すものがあるのだと思います。

 そうすることで、魔物のような存在へと変異しないようにと、私達世界に生きる人々を護るようにして下さっているのではないでしょうか」


 突拍子もない仮説を立てる者だと、魔物学者の殆どは言葉にするだろう彼女の極論とも言えるような仮説だったが、不思議と強い説得力を感じてしまうシルヴィア達には、それが本当の答えなのではないかと思えてならなかった。

 そういった事を含め、実際に直接女神と逢って尋ねてみたい気持ちが強くなってしまうも、神と逢う方法など見当も付かない彼女達にとっては、雲をその手で掴む方が余程現実的なのではないだろうかという思考へと突き当たってしまった。



 ただただ広く、乾燥した空気を感じる野営地として使っていたこの場所で、いつものように楽しく話をしながら食事を取っていたイリス達だったが、どこかいつもとは違う空気を感じながらも、澄み渡る星空が浮かぶ下、穏やかな時間を大切な仲間達と過ごしていた。


 問題がなければ、明日の昼前にはリシルアへと辿り着くこととなるだろう。

 ここまでの道のりで倒してきた魔物を、これまで以上に丁寧に、そして何よりも大切に扱うようになっていたイリス。


 その表情はどこか寂しげで、とても印象的に見えたシルヴィア達だった。


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