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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十三章 ごめんなさい
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"万能の力"


「…………願いを……具現化する……力……?」


 これでもかというほど、大きく目を見開きながら言葉にするヴァン。

 そんな彼へと短く、しっかりとした口調で肯定するイリス。

 会話が完全に途切れてしまう中、静かに話を続けていった。


「修練を始めてすぐ、その本質とも言うべき"力の特質性"に私達は気が付きました。

 この力は"言の葉(ワード)"とも、"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"とも全く違う、別の力となります。

 私が手にした力は言うなれば、"願いそのものを具現化してしまう力"なんです」


 淡々と言葉にするイリスだが、あまりのことに何も考えられなくなってしまっている一同は、彼女が一体何を話しているのかですら理解が及ばなくなっているようだ。

 そんな力など聞いた事もなければ、とてもではないが存在することすら信じられないと思えてしまう、これまでとは明らかに異質の力となるだろう。


 それを手にしてしまったイリスへと、意を決したように言葉にしていくシルヴィアは、先程彼女だけではなく、自分達をも覆った光について尋ねる。


「……先程の真っ白な魔力のようなものは、その力の源、なんですの?」

「はい。正確に解明できたわけではありませんが、個々が持つマナの輝きとは違うこの力のことをメルン様は、"魂の輝き"から来るのではないかと推察されました」

「魂の輝き……。真っ白に輝く光がイリスちゃんの持つ魂の色、という事ですか?」

「メルン様はそう推察していました。

 これは、あくまでも可能性のひとつとして聞いていただきたいのですが、アデルさんが最後に歌った唄も、恐らくはこの力と同質のものだったと私は推察します」


 彼女が以前、唄った時に出したマナの輝きと思われるものと、最後に唄ったこれ以上ないほど最高の歌を唄った時に放出された光。あれは別物だとイリスには思えていた。

 個々が持つマナの色は、その精神状態や肉体的疲労感などには一切影響されることがないものだということは、レティシアの時代よりも更に前から立証していたことだ。

 故に彼女の発現させた力は彼女自身から溢れたマナではなく、もっと別の力だと予想された。それこそがイリスの手にしたこの力であるのではないかと、彼女は推察した。


 彼女を想い、大樹の天井から溢れる光を見上げたイリスは、とても優しい瞳で、まるで空の彼方を見つめているようにしながら言葉にしていった。


「……アデルさんの唄は、本当に素晴らしかったです。

 誰かのための唄。自分ではない誰かを想い、聞いてくれる全ての人達に捧げた唄。

 人々の幸せを願って奏でた唄には、この力が込められていたのかもしれません」


 それを確かめる術は、残念ながらない。

 でも、きっとそんなんだろうと、イリスは思っていた。

 それこそが彼女の"願い"であり、ささやかな希望、だったのかもしれないと。


「……アデルさんはきっと、"願った"んです。人々が幸せでありますように、と。

 その何ものにも勝る純粋な祈りがアデルさんの力と合わさり、ツィード全体へと広がるような現象を見せたんだと、私は、そう思えるんです。

 もう確かめることはできませんが、きっとアデルさんもまた、同じようにこの力を手にしたのではないでしょうか……」


 願いを物理的な力に変換してしまう凄まじい力。

 原理も発生条件も全く分からないが、確かにそれは存在し、人知れず使用し、その力に飲まれてしまったのではないかとメルンは推察したようだ。


 自身すら崩壊させてしまう途轍もないその力を、彼女はこう名称付けた。


「……"願いの……力"……?」

「はい。あくまでも仮に付けた名前だともメルン様は仰いましたが、言い得て妙だと私は思いましたので、この名称を使わせていただこうと思います」


 続けてイリスは、この力は文字通りの"万能の力"となっているのだとも仲間達に言葉にしていき、彼らを更に驚かせていく。


 中でも取り分け凄まじいと思えるのは、その利便性と言えるだろう。

 願うだけで叶うという常軌を逸したとんでもない力に、冷や汗が止まらない仲間達だったが、実際に検証しなければ分からないことも多いのだとイリスは言葉にする。


 そのひとつが解毒効果だ。

 程度にもよるのだが、もし仮に、"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"の"毒化除去ディタクサフィケイション"以上の効果を持つ力だとすれば、それは即ち、レスティが追い求め、志半ばで挫折した"万能薬"を手にしてしまったとも言い換えられることとなるだろう。

 そしてそれが叶うということは、傷付き床に伏せる重症患者であっても、快気させてしまう可能性も出てくる。


 現状でもイリスの薬学知識と"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"があれば、ヘレル病やヤロスラフ病など彼女が治療できる病気であれば、魔法による快気が可能ではある。

 だが、もし願うだけで、彼女の治すことのできない病気をも治療することができるのならば、進行を遅らせることしかできない不治の病であるラデク病ですらも、完治させることができるかもしれない、ということになる。


 単純に思うのならば、これ以上のない素晴らしい力と言えるだろう。

 しかしその力が世界に齎す影響は、計り知れないこととなるのも確実だ。

 残念ながらイリスにはそこまで思いが至らなかったようで、そのことについてもメルンに叱られたのだと、どこか申し訳なさそうに言葉にした彼女を見ながら、心の中でそれを教えてくれたメルンに感謝する仲間達だった。


 イリスはどこか、そういった所が抜けている気がしてならない一同は、随分とメルンに絞られたのではないだろうかとも考えてしまうが、実際に彼女は怒鳴るような事など一切せず、口調はそこそこ厳しいが、しっかりと諭させるような言い回しをしていた。

 当然教わる側も、そういった対応などされずともしっかりと学ぶことができるので、彼女の育った"平和な世界"というものが、イリスの性格をどこか世間知らずと言えるような人格へと形成してしまっているのかもしれないと、メルンは感じていたようだ。


 続けて、"願いの力"と呼ばれたものの中核を成しているものも、推察ではあるがメルンはある程度分析を終えたのだと、イリスはヴァン達へ話していった。


 "願いの力"は言の葉(ワード)のみならず、"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"と非常に相性がいい性質を持つことは、言葉にしたイリスだけでなく、メルンであってもその後行なった幾つかの検証で、それを察することができたようだ。

 とはいえ、一度でもそれらを合わせて発動させた時点で彼女達は、相性がとてもいいことくらいならすぐに理解できていたのだが。


 つまりこの力は、魂から直接発せられている力を使った可能性が高いらしいのだが、これについてはイリスが自覚を持って力を発現することはできなかったようだし、実際にそれを肌で感じることも出来なかったのだと仲間達に答えていく。

 だが、それこそがマナの相反作用を起こさせない大きな点であり、その強さはこれまでの魔法事情を根底から覆してしまうほどの力となることは明らかであると、メルンは結論を出していた。

 "想いの力"が込められた真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースを合わせられる力。それは即ち――。


「…………ご、合成魔法と、ある意味では同質の力を持つ、ということなのか?」


 額から汗が流れてしまうヴァンは、思わずイリスの話を遮ってしまったが、どうやら仲間達も絶句してしまっているようだ。

 言の葉(ワード)真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースについての知識をアルトから託されているファルであっても、イリスが今、説明してしまったものに驚愕し、完全に思考が凍り付きながらも必死にそれらを理解しようと努めていたが、流石にそれを察することはできなかったようだ。


 だがイリスは、それをはっきりと否定していった。

 何故ならそれは、真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースが本来の言の葉(ワード)とは大きくかけ離れた力でもあるし、何よりも合成魔法とは、別属性のマナを組み合わせて成す力となるからだ。

 その威力は合成魔法など軽々と超える可能性を秘めたものであり、単純な掛け算では到底辿り着くことができない強さを秘めてしまっていると思われた。

 その領域は、とてもではないがイリスもメルンも、恐らくはレティシアであっても予測など付かないほども強さを持ってしまっていると、イリスは苦笑いをしながら言葉にしていった。


 "想いの力"と"願いの力"を単純に複合させただけでは、恐らくこれほどの威力は持たないだろうことは理解できたが、しかしそこに、"想いの力"と言の葉(ワード)を融合させた魔法技術である"真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルース"を合わせるのとでは、その意味が全く変わってしまう。

 イリスの手にした力は真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースに、願いが物理的な力となってしまう、絶大とも言い表せないほどの凄まじい力を組み合わせてしまった力であり、その真価は、見当も付かないほどの強さを秘めているという程度でしか、二人は結論を出せなかった。


 それも仕方のないことだと言えるだろう。

 真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースでの攻撃魔法ですら使うこと躊躇っていた彼女が、その強さを計る為という理由でこの力を攻撃に転用しようという発想そのものが忌避感を抱くのだから。

 メルンもイリスの性格を十分に理解しているので、流石にそんなことに力は使わないだろうと判断したことと、あまりにもその強さが未知数のため、石碑空間そのものが破壊される事もあり得ると彼女は推察したようで、実際にはそういった力を試していない、というのが本音のようだ。


 しかしこれまでの説明でヴァン達は、イリスが見せたガルドの攻撃を防いだことや、その後優しく寝かし付けるようにした光景の真意を、理解することができたようだ。

 "それだけの強さを秘めたもの"と単純に言葉にすることは簡単だが、彼女の手にしてしまった能力は既にそんな状況ですらなくなっていることに、言葉が続かなくなってしまうヴァン達だった。


 そしてイリスは、懸念されていたマナの相反作用が起きない事の説明もしていった。


 この"願いの力"と名称付けられた技術は、本来イリスが持つ魂からその力を使って具現化していると推察され、同じような使い方をしていると思われた"想いの力"と合わせても、その本質は全く変わらないのではないかとメルンは結論付けた。


 要するに、どちらもイリスが本来持つ力であり、そこにマナの相反作用などという副作用は起きるはずもないと彼女は考察したようだ。

 この力をイリスが先天的に所持し、ここに来て力が覚醒した可能性を考慮すると、"願いの力"と呼ばれるものを手にした瞬間にマナの相反作用が起こるという話ではなく、寧ろ、真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースを入手した時点で何らかの影響が出ていてもおかしくはなかった、という方が正しいのかもしれない。


 結局の所、議論や推察を幾ら交わしたところでその域を越えることはなく、明確な答えなど出ようはずもないと、イリスもメルンも途中で断念せざるを得なかったのが現状なのだそうだ。

 情報量が少な過ぎるために全ては仮定の話に過ぎず、それが答えであるという確かなものもない。そうイリスは、仲間達に言葉にした。


 そして再び、石碑の話へと戻っていくイリスだった。



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