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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十三章 ごめんなさい
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"異質な強さを持つ存在"


 寂しそうな表情からすぐに戻したメルンは、イリスへと言葉にしていった。


「まずはお前にその答えを出すよりも、魔物について語るとしようか。

 だが、それにはアタシの研究の一部を先に説明した方が伝わるかもしれないな」


 そう言って彼女は、自身が長年研究してきたことを、イリスへと話し始めていく。

 そのひとつが、魔物の研究の為に"深淵"と彼女達が呼んでいる場所、ダンジョンの深部へ向かうことだったとメルンは言葉にする。


 以前から調査と称して何度か地下へと降りていたが、中々に面倒な場所となっているために到達階層は、未だ百六十階層止まりだったらしい。

 本格的な調査に入る手前で眷族が出現し、必要以上に時間がかかってしまっていた。

 そして仲間の準備にも時間を割き、かなりの期間を経て攻略チームを結成した。

 攻略に参加した者は、ミスリルランク冒険者と今現在でも名高い者達となる。


 アルト・アルチュール、エリオット・リンスレイ、レジナルド・グレイディ、

 ルーファス・アルバーン、トラヴィス・アドラム、アンネッタ・デルミーニオ、

 ルアーナ・レーニ、レベッカ・アリプランディ、そしてメルン・オリヴァーの九名。

 英雄譚と同じ、"九英雄"とも現在では呼ばれている者達で"深淵"を目指したそうだ。


 残念ながら、このチームにレティシアは不参加だったと彼女は言葉にした。

 彼女はフィルベルグを建国したばかりだったし、娘のフェリシアもまだまだ小さかったため、連れて行くことができなかった。戦力として最高だと言い切れただけに、彼女の抜けた穴はかなり大きかったとメルンは語った。


 そしてここに、アルエナも含まれていない。

 彼女は性格が戦闘向きでないことと、強さの関係で参加できなかった。


「アイツは戦闘だけじゃなく、魔法も苦手でな。危険過ぎて連れて行けなかった。

 ダンジョン攻略に参加を希望したんだがな、試しに一度ダンジョンで戦わせてみたが、下位ドレイク如きに時間をかけ過ぎてな。アイツには悪いが、瞬時に倒せる強さがなければ、流石に下層へ連れて行くことは難しいと判断した。

 チームから外して居残りさせたってわけだが、まぁ、アイツは元々戦い向きの性格じゃなかったからな。"みんなの力になりたい"と言葉にしたくらいだ。

 連れて行かなくて正解だったと内部で思い知る事になったし、最善ではあったな」


 声を出しながら笑う彼女の言葉に、とても複雑な気持ちにさせられるイリスだった。

 続けてメルンは、その目的ともなる研究についても話していく。


 彼女はダンジョンの"最深部"をその目で確認することだと言葉にした。

 イリスの使った"内部構造解析ストラクチュアル・アナライズ"でも十層までしか確認できなかったほど、その全てを知ることができない巨大なダンジョン構造を持つ"コルネリウス大迷宮"。


 その最深部となる場所に、一体何があるのか。

 これについては興味が尽きないイリスではあるが、あの時はそういった状況ではなかったし、未知の領域とも言える場所に長居するなどできるわけがない。

 下へ降りて調査するなど以ての外と言えるような状況で、自身の個人的興味のために仲間達の身を危険に晒すことなど、そもそもイリスにできるはずもないのだが。


 そんな彼女の様子を何となく理解したメルンは、それについての話をイリスから直接聞いていくも、どこか納得した様子で言葉にしていった。


「お前の判断は至極当然と言えるだろう。何よりもお前の生きる時代は、アタシ達の想像を遥かに超えるほどの年数が経過している。

 そんな中で未熟とも言える"言の葉(ワード)"と"想いの力"でダンジョンの上層を、お前はたった二人の仲間と共に攻略したんだ。そこは褒め称えられるべきだと思うぞ。

 ……だが、話を聞いた限りでは、かなりぎりぎりだったと言えるだろうが」

「私の覚悟が足りなかったこともあって、何か少しでもずれていたら、あのドレイクに負けていたと思います……」


 どこか申し訳なさそうに言葉にするイリスだったが、"大地の大蜥蜴(アールデ・ドレイク)"の詳細を彼女から聞き、何かを考え込んでいたメルンは、自身の推論を述べていった。


「……アタシが直接そいつを見たわけじゃないから、実際にはそれが正しいかは分からないが、恐らくはそいつ、普通の"大地の大蜥蜴(アールデ・ドレイク)"じゃないな。

 お前が言うところの十二メートル級の火球だが、下位ドレイクはそんな攻撃など流石にしない。そいつはアタシ達が下層で稀に見かけた"凶種"と呼んだ存在に近いだろう。

 何故そんな存在が四層なんて上層にいたのかは、本音を言えば興味が尽きないんだが、無事でいられたことを素直に喜ぶべきだろうな」

「……"凶種(きょうしゅ)"、ですか?」


 聞きなれない言葉に、首を傾げながら問い返してしまうイリス。

 それについては彼女達が独自に付けたものらしく、ダンジョンから帰還した後もその言葉を世界に広めたことがないため、知らないのも当然だと言葉にした。

 念のためレベッカには口止めをしたメルンだったが、彼女は『大丈夫だよぅ。それは(・・・)書いたりしないよー』と、満面の笑みを浮かべながら手をちょいちょいと横に振り、意味深な言葉を発していたそうだ。


 彼女達がそう呼ぶ存在についてメルンは説明をしていくも、かなりの衝撃的なものを含んでいる内容に、イリスの心はあの時のことを思い起こしながら、鼓動が早くなっていくのを感じていた。


「そうだ、"凶種"だ。大きさも見た目も同種と変わらず、その中身が明らかに異質だと思われる強さを持つ存在のことを、アタシ達が暫定的に名付けた存在のひとつだ。

 中でもドレイク種に多く見られる傾向を感じたが、詳しい調査はできていない。

 石碑にも"移入"しなければならなかった以上、詳しく調べている時間などなかった、という方が正しいかもしれないが。調べるにも数年は軽くかかるだろうからな。

 アールデ系ドレイクなら鈍足で遠くから攻撃ばかりしてくる、大した強さを感じない存在だが、お前の出遭ったそいつは話に聞く限り異質だな。

 ……地底の魔物が何を喰って成長しているか、お前は見当が付いてるか?」

「はい。とはいえ、私個人の推察に過ぎませんが――」


 イリスはダンジョンで体験したことを含め、自身が思い至ったことについての詳細を話していくと、たったの一度、ダンジョンを通過しただけでそれを知ってしまったイリスに、メルンはとても悔しそうな表情になりながら呟いていった。


「……本当に同じ時代に生まれなかったことが悔やまれる。だが、それも仕方ないことだな。それは諦めるにして、お前の推察通りだ。とはいえ、こちらも明確な答えなど出ていないが、深部へと向かっていった理由の一つがそれを知るためだった。

 実際に地下に降りれば降りるほど魔物の姿も異質になり、その強さも比例して強くなる。そしてその数もな。上層とは比較にならないほど存在していることは、アルトの言葉からも知ったようだが、奴らはお前が推察しているように壁を喰い、地面を掘り、天井すらも貪り、空間を広げていったことを伺える形跡が多数見つかった。流石に岩を喰っている姿を見ることはできなかったが、十中八九その推察で間違いないだろう」


 それらはダンジョンに降り、早い段階でメルンも気が付いていたことではあったが、問題はここから先だと彼女は言葉を挟み、それについて説明していった。

 そのこともイリスは推察していたが、まさか実際に目にした者の言葉として聞くことになるとは、流石のイリスも思っていなかったことだった。



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