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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十三章 ごめんなさい
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"新たな可能性"


 赤い花が散ってから、ぴくりとも動かなくなってしまったガルドを横目に、ファルは強烈にかけたブーストを切りつつスタミナポーションとマナポーションを飲み干していく。


 流石に技術はあっても、初めて使う奥義で身体の方に影響が出てしまっているようだった。気だるさすら感じる身体の重さに戸惑いながらも、徐々に回復していくのを感じるスタミナポーションに感謝しつつ、ファルは仲間達の元へと瞬時に戻って態勢を立て直していった。


 眼前に捉える動かなくなった存在を、睨み付けるような鋭い視線を向けて警戒を続けていくファル。


 手応えはあった。

 これ以上ないほどの十分な手応えが。


 だが油断などできない。できる訳がない。

 目の前のそれは既に常軌を逸している存在だ。

 一瞬の判断ミスが、最悪の結果を導き出してしまう。

 油断など、できる筈もなかった。



 しかし、五ミィルほどその場で警戒するも、奴が動く気配は微塵もなく、討伐に成功したのかと考えてしまう一同。

 戦いに集中し過ぎていたせいか、アラームによる警戒音が既になくなっていることに気が付き、静かに言葉にしていく仲間達だった。


「……終わった、のか?」

「……動く気配はない、みたいですね」

「……アラームの警戒音も、なくなっていますわね」

「……相当の手応えは感じたけど、正直、疑心暗鬼になるよ」

「……こういった時、索敵(サーチ)があればと思わずにはいられませんね」


 そうだなと心からの言葉を発したヴァンは落ちている大きめの石を拾い、ガルドの顔面に強く当てていくも、その反応は一切見られなかった。


「……どうやら、討伐成功したようだな……」

「……その、ようですわね……」

「……はぁぁ。疲れたぁ……」


 肩を落としながら深くため息をつくファルに、ネヴィアも同意していった。


 とんでもない存在を相手取ってしまったと、今更ながら思い知るヴァン達。

 ただのガルドであれば、これほどの苦労はなく倒すことができていたはずだ。


 だが、倒せたとしても問題は残っていると思われる。

 そのことについて、シルヴィアはぽつりと言葉にしていった。


「……それにしても、ここ最近の特殊な危険種の出現が多い気がします。

 いえ、本来であれば、このような存在が出てしまえば、世界に轟くほどの衝撃となるでしょう。そんな魔物がいること自体、異例としか言いようのないことですわね」


 二匹目のギルアムに始まり、ツィードでのグラディル戦、そして眼前に転がるガルドと、明らかに異常事態と言えるような出来事と遭遇し続けているシルヴィア達。

 彼女達の進路上に出現してくれているお蔭で事なきを得ている、とも思えてしまう現状だが、もしそれが、イリス達の行く先ではない場所でそれらが現れてしまったら、とんでもない事となっていたのは想像に難くない。

 恐らくは"リシルアの悪夢"どころではない災厄となってしまうのではないだろうか。


 異質な存在を倒せる者は数少ないと言えるそんな世界で、その行く末は本当に明るいのだろうかと、不安に思えてしまうシルヴィア達だった。


「……考えても仕方ないんじゃないかな。まだイリスも戻って来てないみたいだし、

あたし達もエステルのところに戻ってイリスを待とうよ」

「そうですわね。流石に私も疲れましたわ」

「そうだね。俺も心身共に、疲労感を感じるよ。

 ネヴィアは大丈夫かい? 随分と大きな魔法を使っていたけど」

「はい、大丈夫です。マナはしっかりと込めましたが、イリスちゃんの修練法もあってか、随分とマナの総量が上がったように思えます」

「あはは。普通はそんな急に劇的な変化は得られないんだけど、ネヴィアはイリスと性格がとても似ているからね。きっと修練法がネヴィア自身に合っているんだと思うよ」

「あれほどの魔法は勿論だが、言の葉(ワード)の習得速度がとても速いのが俺には羨ましく思えてしまうが、今回力を使ってみて、新たな可能性を見出す事ができたな」

「新たな可能性、ですの?」


 ヴァンの言葉に首を傾げてしまうシルヴィアではあったが、本人も何となくだがそれを理解しているようだった。

 彼女もヴァンも、ガルドには有効打とも思える一撃を与える事はできなかった。

 しかしそれも、習熟期間が非常に短い為だとも思えていた。


 それについて考えていた二人へ、ロットとネヴィアも続いていく。


「俺の魔法も効いていたかは疑問が残るよ。

 弾き飛ばすことはできたけど、ダメージを与えたれた手応えは正直感じなかった」

「私もです。魔法の勢いで吹き飛ばす事はできても、それがガルドに蓄積されたかは全く分かりませんでした。結局ダメージを与える事ができたのは、もしかしたらファル様の攻撃だけなのかもしれませんね……」


 寂しそうに言葉にするネヴィアにつられ、同じ様な表情へと変わってしまう仲間達。

 そんな彼女達へとファルは言葉にしていった。


「そんなことはないよ。

 ロットの魔法はガルドの巨体を受け止めて力で押し返し、魔法で弾き飛ばした。

 シルヴィアの魔法はガルドの凄まじい爪撃に剣を折られる事なく受け止め、その勢いをなくしてロットの盾で護るまでの時間を稼いであたしを助けてくれた。ありがとね、ふたりとも。

 ヴァンさんの魔法は大地をへこませるほどの威力でガルドを地面に沈み込ませ、その動きを完全に止めた。

 ネヴィアの魔法は弾き飛ばす事も跳ね上げる事もできたし、非常に効率良く使っていた。中でも中級攻撃魔法の"水の大竜巻(アクア・スパウト)"を初めて使うのに使いこなしているってのが、本当に凄いことなんだよ。

 みんなが使いこなした魔法だけど、こんなこと誰にでもできることじゃないんだ。

 あたしもイリスも、レティシア様やアルト様に託してもらった知識のお蔭で使いこなせているけど、みんな全くの初めてでそれを使ったんだ。それも命がけの実戦で。

 たったのひと月足らずでこれだけの魔法を使いこなしている事そのものが、そもそもありえない事を体現しているんだと、頭の片隅に置いておくといいと思う。

 そしてそれを、みんなは誇るべきなんだと思う。これだけ凄い事をしてるんだって。

 もしあたしが皆と同じように修練していたら、きっとそれほどまでに習得できなかったと思うよ。……っていうかあたし、覇闘術取ったら何にも残らないと思う……。

 アルト様に力を託してもらえたから凄く強くなったけど、それがなかったら今もダガーで格闘術を封印したまま戦っていたと思うし……。

 …………あれ? あたし、この力がなかったら、何ができるんだろう……」


 話していて自分にできることをひたすらに考えていくファルだったが、思っていた以上に何もできないのではないかと、悪い方へと思考が移っていってしまっているようだった。


 そもそも"覇"を使わない覇闘術は、ただの格闘術だ。

 その体捌きは猫人種を対象としたもので、彼女達の種族が十全に戦う事ができるようになる為にと編み出された体術であるが、それは他の種族でも習得できるものとなる。


 確かにファルは、覇を使えなくとも覇闘術をマスターしている。

 それこそ彼女は母である師範から覇闘術皆伝を認められるほどに、その技術を高めるまでに昇華させていた。

 これ程までにこの技術を習得した者は、全て師範となれる程の者に限られるだろう。


 だが、これを格闘術として魔物相手に使うとなれば、話は別となってしまう。

 幾らミスリル製のガントレットで力の限り殴り付けても、彼女達の種族は虎人種や獅子人種には腕力では絶対に勝てない。当然同じ女性であっても、それは変わらない。

 覇闘術を巧く戦闘に活かすには、素手ではない"武器"が絶対的に必要となってしまう。技術の師範であるファルの母フェリエが、冒険でこぶしではなく槌を使っていたように、現在世界で冒険者として活躍している猫人種の全てが、覇闘術を体捌きだと勘違いしてしまっている。

 この技術はアルトが明かした様に、覇があって初めて完成するものであり、それを持たない者にとっては、戦闘に格闘など以ての外だと断言してしまう技術となっている。


 要するにミスリルガントレットは、大きいだけの腕部から手の先を護るための"ただの防具"であり、リオネスが彼女に辛辣な言葉を投げかけたのも、まんざら冗談ではないということだ。

 実際、彼女がリシルアの一流武具工房でそれを製作依頼した時も、首を傾げられてしまったほどだった。


 つまり――。


「……あたし、周りからはほんとに、道化みたいな格好に見えてる!?」


 今にも涙を流しそうなほど瞳に一杯涙を溜めて言葉にするファルに、おろおろとしてしまう仲間達は、彼女に何と言っていいのやらと考え込んでしまったようだ。


 そんな仲間達にファルは、まるでそれを肯定されたように思えてしまい、そのまま止め処なく涙を流し続けていった。



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