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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十三章 ごめんなさい
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"咲かせた赤い花"


 完全に凍り付いていた彼女の元へ、仲間の声が響き渡る。


「――ファルさん!!」


 シルヴィアの声に意識をガルドへと向けるも、完全に出遅れてしまった彼女にガルドの強靭な爪が襲い掛かるが、それを許すことなく"純水清冷の刺突リムピッド・ピアシング"で一瞬だけ攻撃を受け止めたシルヴィアに続き、前線へと足を進めていたロットがガルドの存在を拒絶するように魔法を放っていった。


「"頑強な火炎の魔法盾ロウバスト・バーン・シールド"!!」


 力強く赤く輝くロットの大盾でガルドを押し戻すように、ファルとの距離を開いていった。

 ミスリルシールドに中級防御魔法を込める魔法の使い方は、本来の正しい使用方法であり、イリスのように何もない場所に盾を発動するやり方は真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースがあって初めて可能とする技術となる。


 イリスが始めて完成させた魔法盾に姉のダガーが通じなかったのは、チャージに近い使い方を彼女がした為であり、このガルドにそんなものを使ってしまえば大変な事になることは目に見えていた。

 魔法盾はミスリル製の武具に魔力を通してこそ、強力な防御魔法を可能とする。

 ロットの盾であれば本人の力量次第で、最高の性能を引き出すことができる。

 ブーストと合わせれば、たとえガルドだろうが、盾でその体躯を押さえ付ける事もできてしまう。


 それをイリスから正しい知識として教わった彼が作り上げた魔法盾は、真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースで発動したものには遠く及ばないものの、並大抵の事では貫けない、文字通りの頑強な盾へと変貌を遂げている。

 だが、彼は護るだけではなく、新たな力をもうひとつ手にしていた。


「――"猛火の盾よ、爆発しろ(ブレイズ・バースト)"!!」


 盾の前方へ向けてマナの奔流がガルドを襲う。

 ミスリルシールドに溜め込んだマナを放出するこの魔法は、イリスが以前使っていた"強化型魔法盾チャージ・マナシールド"を弾いたものに近い代物だ。


 だがその威力は、比較にならないほど強い。

 ましてや彼の使った火属性の言葉であるブレイズは、バーンの上位、ネヴィアのアクアとは違う、もう一段上の威力を持つ言葉になる。


 確実に敵へと直撃させる、最大の攻撃方法としてロットが選んだのがこの魔法だ。

 頑強な盾で押さえ込み、それをカウンターで強大なマナと共に当てていく。

 単純な攻撃方法だけにその威力は絶大であり、並の魔物であれば消し炭になってしまうほどの強力な火属性攻撃魔法となっている。


 今まで彼が使い続けてきた"強化型魔法盾チャージ・マナシールド"とは明らかに違うこの魔法を直撃させて吹き飛ばされていくガルドは、地面を大きく転がりながらその身に炎を纏わせ、のた打ち回るように地面で消火していった。


 怒り狂うかのようにロットを睨み付けるガルドは、その場で咆哮を上げる。

 かなりの距離が離れているのに、それでも骨身に染みる様な凄まじい圧力を感じた。


 同時にガルドに変化が生じるのを目の当たりにするヴァン達。

 奴の体中を覆う薄い靄。あの"魔獣"とも違うそれに、血の気が引いていくのが分かるヴァンとロット。それを知らぬ三人も、只ならぬ気配に後ずさってしまう。

 しかし、その覆うものが一体何かを察するのに、そう時間はかからなかった。


 たった一瞬。

 たった一瞬だった。

 奴がこちらへ向けてその脚を動かした瞬間に、それが何かを理解させられたヴァン達は、瞬く間に迫り来るガルドに驚愕する事となる。


 ギルアムの速度とは比較にならないほどの速さで迫るガルド。

 瞬時に反応したロットが"頑強な火炎の魔法盾ロウバスト・バーン・シールド"で防御しなければ、強靭な爪の直撃を受けていたヴァン。

 だがロットも、ガルドの動きが見えてから反応した訳ではない。

 もしもの瞬間を連想した彼が、身体を先に動かしただけに過ぎなかった。


 ロットが盾で奴の攻撃を防いだ瞬間に彼らは確信する。

 奴が纏っているのは、本物の身体能力魔法であることを。

 そして彼らは悟る。このままでは一瞬で消されるほどの強さにまで、ガルドは己の身体能力を強化してしまっている事に。


 最悪な事にその能力を解除するには、イリスの真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースで使う"解除(レリース)"、"封印(シール)"、"状態維持(キープ・ステイト)"の三つを使わねば、状態を戻し、その状態を維持できないと思われた。

 レリースさえ使えれば、奴のブーストを解除する事は可能だが、すぐさま使われてしまうことは目に見えている。

 もうふたつの魔法も使わなければ、ブーストを封じることはできないだろう。


 これらの魔法はアルトであれば使えるが、ファルでは扱うことは出来ない。

 "想いの力"があればと心から思ってしまうファルだったが、似たような事であればできるかもしれないと瞬時に思いが至り、ロットの魔法盾で何とか抑え付けている存在を一瞥しながら、刹那とも言うべき僅かな時間の中、仲間の一人に声をかけていく。


「ネヴィア! 奴の動きを封じて! あたしが何とかする!」

「――! 分かりました! 上にあげて(・・・・・)みます!」

「弾くよ! ネヴィア!」

「はい!」


 再びロットがブレイズ・バーストの効果でガルドとの距離を開けようとするも、身体強化を強烈にしてしまっている相手では、たったの百五十センルほどを弾くだけで精一杯だったようだ。

 それもダメージを受けているとは程遠い手応えを彼は感じていた。

 一体どれだけのマナを込めたブーストなのかと、これだけで血の気が引くロットだったが、彼の真横に飛び出したネヴィアは自分のできる事に集中していく。


 杖を奴へと向けてアクア・プレッシャーを発現させていく彼女の攻撃に、弾き飛ばされるガルド。ロットの魔法の効果で身体の重心が後ろへと向かっているので、更に百八十センルほど退かせる事ができたようだ。

 その様子を確認しつつ、次なる攻撃を繰り出そうと集中するネヴィアの横で、魔法攻撃の射線上から離れて邪魔にならないように待機しているファルは、両手に装備しているミスリルガントレットを胸の前でがつんと音を鳴らしながら合わせ、自身を高める為に気を鎮めながらひとつの魔法を静かに言葉にしていった。


「――"身体能力絶大強化魔法トゥリィメンダス・フィジカルブースト"」


 イリスの魔法には程遠いが、それでも今使える最大限の身体能力魔法を使い、その時に備えていくファルは精神を集中させていった。

 ガルドがアクアプレッシャーの効果で動きを若干封じた一瞬の隙を、更にネヴィアは追撃する。


「"水よ、湧き上がれ(アクア・ゲイザー)"!!」


 ガルドの真下から噴出す大水に、身体を三メートラほど叩き上げる事に成功する。

 幾ら強化魔法を使おうが、真下から吹き上げる攻撃を当てることができれば、その身を持ち上げる事は可能だ。

 しかし、それで満足する事のなかったネヴィアは、彼女が持ち得る最大の魔法を惜しむことなく発動させていく。


「"水の大竜巻(アクア・スパウト)"!!」


 杖を空へと振り上げながら、力強く発言していくネヴィア。

 地面から噴出した水を利用して大きな竜巻に形成したその魔法は、ガルドの体躯であろうと空高く舞い上げるほどの威力を見せた。

 空中であれば完全にその動きは無効化され、最高の隙となる。

 落下する直前を狙ったファルは、ガルドが地に落ちる瞬間に自身が持つ最大火力で迎え撃つ。


「――アルチュール流、奥義……」


 一気に間を詰め右こぶしで渾身の殴打を当て、ガルドの落下を一瞬だけ完全に止め、身体を横回転させて遠心力を込めた強靭な脚を孤を描くように振り下ろすと同時に、身体を縦に一回転させながら振り上げていく。

 そのあまりの速さに一撃目の足技でガルドが地に伏すことはなく、強制的に空中へ留まらせながら、大きな三日月を足で創り上げていった。

 そのままファルは、着地と同時に奴の真横をすり抜けるように通過しながら右こぶしを伸ばし、最高の一撃を当てていった。


 ガルドから三メートラほど先まで抜けていったファル。

 地面へと落下するように叩き付けられたガルド。


 彼女は最後の一撃を当てて右腕を伸ばした状態でその場に留まるも、打撃音が聞こえたなかった攻撃に失敗かと思ってしまう仲間達は、敵へと視線を瞬時に向けていく。

 凄まじい攻撃の反動で身体が硬直しているのか、後にいるガルドを確認する事のないファルだったが、伸ばしていた全身の体勢をゆっくりと戻しながら、燃え(たぎ)るような赤いマナが煌く彼女の右手を胸の位置まで上げ、まるで右手に付いた炎を振り払うかのように、勢いよく薙ぎ払いながら鋭い声色で言葉にした。


「――散れ。"雪月風花"」


 彼女の言葉と同時にガルドから赤いマナが爆発し、奴の周囲に広がり消えていった。それはさながら大輪の赤い花が咲き乱れた様に見えてしまう、とても美しい技だった。


 "覇潰(はつい)"、"三日月"から逆に脚を振り上げていく"遡月(さかづき)"の二連撃"双月(そうげつ)"、そして渾身の"一閃"を当てることで、覇闘術の中でも最大威力を持つ技の凄まじい連続攻撃となっているが、この技の真価はそこではない。


 暴発し、咲かせた赤い花。

 ガルドの体内に覇を送り込み、それを暴発させるという、優雅な見た目とは違って途轍もなく恐ろしい技となる覇闘術奥義"雪月風花"。

 アルトが持ち得る力の限りを込めて創り上げ、"雷光の大蜥蜴(ブリクスム・ドレイク)"戦で使用し、勝敗を決する決定的な技となっていたことは、奥義を使ったファル本人でも知らない、誰の耳にも伝えられることのない失われた真実となっている。


 凄まじいマナの本流をその身で体感したガルドは、唯では済まない。

 マナの相反作用により、体内のマナを破壊された状態となる。

 その体では最早マナを練り上げる事は困難を極め、ブーストを使うなど以ての外だと思われた。


 だがこれで身体能力強化を封じただけでなく、非常に大きなダメージをガルドに与える事ができたはずだ。



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