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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十三章 ごめんなさい
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"奇跡のような瞬間"


「ファルさんは、アルト様とお話をしたいと思うのかしら?」


 何気なく尋ねてみるシルヴィアだったが、どうやら彼女からするとアルトという存在は、シルヴィア達が想像している存在とは少々異なるようだ。


「んー、そうだなぁ……。あたしは直接お話したい気持ちと、逢っちゃいけない気持ちが混在しているなぁ……」

「逢ってはいけない、ですか?」


 そう言葉にするファルに、首を傾げながら尋ねてしまうネヴィア。

 アルトとは彼女達猫人種のご先祖様であり、憧れている存在であるはずだ。

 一度彼をその目にしたファルからすれば、直接話してみたい人なのではないのだろうかと思ってしまう仲間達だったが、彼女からすればそれは違うんだよと言葉にする。


「アルト様は確かに憧れてたご先祖様だし、逢ってお話したい気持ちも強いよ。

 でもね、彼は猫人種の英雄で、崇拝される存在で、覇闘術の創始者なんだ。

 あたしとしては、恐れ多いと思っちゃう気持ちも凄く強いんだよね……」

「ふむ。偉大過ぎるお方、という扱いなのか」

「うん。そうなんだよ」

「なるほどね。確かに偉大なお方であることは間違いないけど、なら逆に逢ってみたいと俺は思ってしまうなぁ」

「あたしは割と精神的な部分が、へなちょこだったりするからねぇ。

 結局母さんには一度として勝てず仕舞いだったし……」

「お母様との勝負、ですの? 卒業試験のようなものかしら?」


 何となく自分達の母を思い起こしてしまう姫様達だったが、彼女の場合、訓練する時は常に母が面倒を見てくれた(・・・・・・・・)のだと、ファルは口角を引きつらせながら言葉にする。


「訓練も対人戦も全て母さんに仕込まれたんだ。

 母さんは覇闘術継承者だったからね。教える者としては最高の指導者だったんだよ。

 ……お蔭でどれだけヒドイ、じゃなかった……悪質な、でもなかった……過酷な修練だったのか、今も時々夢に見るよ。

 …………あれ? あたし、今まで良く無事でいられたな…………」


 真っ青になりながら、うつろな目でかたかたと震えるファル。

 一体どれだけ凄い訓練なのかは想像に難くないが、どうやら彼女の母フェリエは、覇闘術の訓練をしていた同期や先輩、後輩達から、笑顔の中身はディレトスではないかと囁かれているらしい。


 ディレトスとは、大昔にファルの故郷である集落周辺に突如として出現した凶悪な魔物の事だ。

 実際に細かな文献や、それを知る者はいないのだが、並外れた強さの魔物のことを危険種とギルドが認定する制度ができたのは、それよりもずっと後のことになるそうだ。

 強さは危険種と位置付けても申し分ないほどの存在と推察され、当時、相当の強さを誇っていた猫人種の精鋭達が次々と倒れていったとファルは聞いている。


 ヒョウ型の魔物"パルドゥス"に似ていなくもない姿をしていたと言い伝えられているが、その大きさがあり得ないほど異質なものだったと言われている。

 討伐後に計測したものによると、全長九メートラというとんでもない大きさだったそうだ。嘘なのか本当なのか判断が付き難く、実際にそれほどなかったのではないかと言葉にする者も、本当にそれだけの存在が現れたのではと考える者もいるらしい。


 伝え聞く少ない情報によると、その性格は残忍かつ狡猾。

 凄まじい攻撃力と耐久性、目にも留まらぬ瞬発力だけではなく、知能を有していたのではないかとも思われた存在らしく、奴の攻撃を一度でもその身に受けてしまえば、悲しい事に助かる者はいなかったそうだ。

 当時、それなりの街ほどの猫人種で集落が溢れていたそうだが、たった一匹の魔物に多くの犠牲者を出してしまい、それからは随分とひっそりとした集落となってしまったそうだと、ファルは母から聞いているらしい。


 とはいえ、"猫人種とは自由な存在であるべき"というあるとの教えに基づくものがとても大きいんだけどねと彼女は言葉を付け足していった。

 彼女が話すように本来猫人種は、その場に留まる事を良しと思う人は基本的に少ない傾向があるそうで、若者達は早々に集落を出てしまい、各々街で自由気ままに暮らしたり、冒険者として世界を見て回ったりとする者が、昔からとても多いという。


「そんなところは、ヴァンさん達白虎(はくこ)族とは違うところだね」

「確かにそうだな。俺達の種族は用事でもなければ、集落から滅多に街へと訪れたりはしない。必要物資の買出しくらいの時にしか集落を出ない場合も多いな」

「ヴァン様達白虎の方は、とても穏やかに暮らしているのですよね」

「うむ。だが稀に、俺のような変わり者が街に出ては、冒険者をして生計を立てていたりする。どうにも俺には、何か真新しいものを求めてしまう傾向があるようだな」

「あら。そんなヴァンさんだからこそ、私達とも出逢い、こうして旅をしながら共に真新しい経験をしているのではありませんか」


 笑顔で話すシルヴィアの言葉に瞳を閉じて感慨に浸り、本当にそうだなと心から思い、微笑みながら彼女に答えていくヴァンだった。


「イリスと出逢ってからは、真新しいものと出逢い続けているな。

 以前シルヴィアも言っていたが、"世界が輝いて見える"とはこういったことなのかもしれないと、最近では思うようになってきた」

「そうですね。その気持ち、俺にも分かる気がします。

 今も、そしてこれからも体験し続けていくことは、イリスと共に行動しなければ感じられないことがとても多いのではないでしょうか」

「そうですね。イリスちゃんとなら、それを多く体験できるのでしょうね。それはきっと何よりも尊いもので、何ものにも変えがたい、奇跡のような瞬間なのかもしれませんね」


 天井から降り注ぐ光を見つめながらしみじみと言葉にするネヴィアに、姉はとても楽しそうな笑顔で言葉にしていった。


「あらネヴィア。この世界は奇跡で溢れていますわよ?

 全てにおいて、女神アルウェナ様が見守って下さると教わり続けている私達この世界の住人にとって、奇跡でないものなど無いのではないかしら。

 それこそ日々訪れている平凡な日常であっても、女神様が授けて下さっている恩恵なのかもしれませんわよ。

 尤も、それをして下さっているのはアルエナ様ではなく、"天上の世界"で見守って下さっているという、女神エリエスフィーナ様なのでしょうけれど」

「イリスはエリエスフィーナ様ともう一度逢う事ができれば、目的のひとつが達成すると思っているようだからな。俺達もその力になるべく、行動ができるといいのだが。

 世界を調べ尽くしていない現状ではまだ何とも言えないが、信じて前に進むことで、いずれはそれも分かるようになるのではないだろうか」

「とても難しいことなんだろうけどさ、不思議とイリスならそれを見つけられる気がするよ。あたし達はそれを支え、イリスが望むことの為に最善を尽くせたらいいよね」

「"誰もが笑って、幸せになれる世界"。イリスちゃんらしい、とても素敵な言葉ですね。聞いただけでとても優しい気持ちになって、自然と笑顔が溢れてしまいます」

「それを実現する事は非常に難しいだろうが、遣り甲斐はある。

 同時に、これ以上ないと言えるほどの大業であることにも違いは無いだろう。

 俺達にはイリスを支える事くらいしかできないのかもしれないが、たとえ微力でもイリスの力になれるのであれば、こんなに嬉しいことはない。

 共に行動していれば、彼女の想い描く世界を一番近くで見られるかもしれないな。

 いつかはこの危険な世界も、優しい世界へと変わる日が来るといいが……」

「そうだね。あたしもそんな世界になってくれたらって本気で思うよ。

 ……この世界は人に厳し過ぎる。生きていくことすら難しいと言えるほどに」

「そうですわね。私達は力をつけ、並の危険種であれば問題なく倒せるほどの実力を手にしたと言えるかもしれませんが、戦えない者からすれば、ホーンラビットですら倒す事は困難を極めますわ。

 世界最弱とも思われる存在でそうなのですから、危険種など(もっ)ての外ですわ。

 レティシア様の想いもある以上、違った形で世界の人々を強くする必要があるのかしら」

「前にイリスが言ってた、心の持ちようの話?」


 シルヴィアに尋ね返していくファルは、あの時の印象的な話を思い出していた。

 イリスのような者が訓練教官なり、指導者などになれば、世界は本当に変わるのではと思えてしまうシルヴィア達だった。


 それは充填法(チャージ)など使わずに、自身を文字通り鍛え上げていく方法となる。

 イリスが本格的に誰かを鍛えようとすれば、その者は劇的に強くなると確信していた。

 その方法の一つとなるのが、彼女が体感から自然と導き出し、当時最高の指導者と呼ばれていたというレティシアと同じ訓練法だ。

 無理なく自然体で修練していく方法は、残念ながら今は廃れたものだと言わざるを得ないような、とても厳しく、時には激しい訓練法が一般的となっている。

 もしかしたら、こういった事もレティシアが考えた"新しい言の葉(ワード)の安定化"に関わっているのかもしれないが、チャージではない以上、その可能性は低いかもしれない。

 でなければそう遠くない内に、魔物という脅威を残すことにも繋がるだろう。

 フィルベルグ二代目女王陛下となったレティシアの娘フェリシアも、その事について思いが至らなかったとはとても考えられない。

 その後の長い長い時代の流れの中で、何か大きな事件でもあったのかもしれない。

 その際に、魔法の鍛え方の基礎は失われてしまったのではないだろうか。

 フェリシア女王陛下も含むフィルベルグ建国の歴史は、その起源の殆どが残されないまま現在へと至ってしまっている以上、その可能性も否定はできないと思えてしまう。


 とはいえ、これについてはフィルベルグに現存する書物では窺い知れないこととなっている為に、これを調べるには相当の苦労を必要とすることは想像に難くない。

 レティシアも知らない未来の話となるのだから、彼女が知る良しもないことになる。


 一体どこで途切れてしまったのか、非常に興味深いねとロットは言葉にするも、それを知る事はもしかしたら不可能な事となってしまっているのかもしれない。

 残念ながらこれについては、フィルベルグ周辺で手に入る情報でなければ知る事はできないとも思えるし、エデルベルグの情報よりも調べる事は困難となるだろう。


 それでも興味が尽きることはないフィルベルグの歴史の話に、花を咲かせていくシルヴィア達だった。


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