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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第二章 想いを新たに、世界へ
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"過ぎた"力


 イリスが噴水広場をギルド側に曲がると、レスティが店の前を掃除しているのが見えた。どうやらお客さんがいないようで、店の前を掃いていたようだ。イリスはその後姿に近づいて行き声をかける。


 「おばあちゃんただいまっ」


 レスティは振り向き、イリスを見つけると笑顔で手を振って答えてくれた。イリスが近くまで来るのを待った後、彼女は優しく話しかけた。


 「あらイリス、おかえりなさい。もういいの?」

 「うんっ、今日も楽しめちゃったよ、ありがとう、おばあちゃん」

 「うふふ、それはよかったわ。それじゃあお店に入りましょうか」


 二人は店に入り、レジに置いてある小さい椅子に座りながら話していく。


 「それでお勉強はどうだったのかしら」

 「うん、少しだけ学べたよ」


 イリスの少しだけという言葉に少々疑問を持ってしまうレスティだったが、そういうこともあるかしらねとあまり気にせずに話を進めていった。


 「この後もお店をお任せしちゃってもいいかしら?」

 「うんっ、もちろんだよ。お昼のお仕事が終わったらお薬のお手伝いもするね」

 「あらあら、ありがとうね、イリス」


 しばらくするとお客さんが店に入ってきて、イリスはそのまま接客を、レスティはイリスに一声かけて調合部屋に入っていった。仕事も特に滞りなく進み、やがて忙しさも次第に落ち着きを取り戻していった。


 伝票を整理している頃にレスティが調合の区切りをつけて店に戻ってくるのを確認し、そのまま店の鍵を閉めて、今日のお仕事もおしまいとなる。


 二人は調合部屋に向かい、魔法薬を作っていく。既にイリスは作り方を覚えたようで、メモを見ずに作り続けていった。レスティはそんなイリスを頼もしそうに見つめながら調合をしていく。


 何度か新しく調合し終えた頃、程よく時間が経ち空腹になったので、きりのいい所で調合をやめて後片付けをしていく。ちょうど片付け終わった頃、イリスは息を整えるようにしながらレスティに話しかけた。


 「ふぅ、これでおしまいかな」

 「うふふ、そうね。おつかれさま、イリス」

 「おなか減ってきたね」

 「そうね。そろそろお夕飯にしましょうね」


 そしてそのまま食事の準備をする為にキッチンへ向かう二人。歩きながら夕飯は何にしましょうかと話をしつつ奥へと向かって行き、楽しくおしゃべりしながら料理を作っていった。



   *  *   



 食後のお茶を飲みながら、イリスは今日あったことを話していった。思えば今日も色んな事があった。ブリジットのことは言えないが、図書館での事と噴水広場でのことを話していく。

 昨晩、魔法減衰について色々試し、気になった事を図書館で調べていった時の話をしていたら、レスティは小さめの声で呟くようにイリスへ話した。


 「・・・やっぱりイリスは魔法研究者に向いてるんじゃないかしら」

 「そ、そんなことはないと・・思うん・・だけど・・」


徐々に声が小さくなっていってしまうイリス。できればそう思いたくない理由が彼女にはあった。


 「うふふ、ほんとにそう思う?」

 「・・・たぶん」


 自信のない返事だった。言葉は悪いが、イリスはその才能があるとは思いたくなかった。それはつまり、あの本を書いた人と同じ職業になるということだからだ。もしかしたら、ああいった言い回しをする人物と一緒にお仕事、もとい、研究はさすがに合わないではと思ってしまうイリスだった。


 「それで昨日知りたがっていたことはお勉強できたのかしら」

 「うん、ほんのちょこっとだったけどね」


 調べていた事は、魔力減衰による眩暈からマナが回復する速度と、眩暈になる前まで消費させたマナの回復する速度の違い、そして魔力枯渇状態になった時の意識喪失から回復した後のマナの量の事だ。


 「それで調べてみてどうだったの?」


 レスティは興味津々のようだった。魔法の事ではなく、イリスがどう学んだかに興味があるようだが。そんなレスティにイリスは細かく話していった。


 「本によると、やっぱりそれぞれマナが回復する速度は違うみたい。とは言っても、『傾向と対策』本には詳しくは書いてなくて、ただ回復速度が違うという事しか書いてなかったよ。・・・これだけを調べるのに分厚い本を丸々1冊分ぺらぺらページを捲ったよ・・・。まぁ、全部読んだわけじゃなくて、魔力減衰や眩暈っていう文字を探していっただけなんだけどね」


 精神的に疲れた顔をしているイリスに、あらあらと頬に手を当てるレスティだったが、さすがに苦笑いになってしまっていた。さすがのレスティも魔法書1冊を捲る気はまったく起きないようだった。


 「魔力減衰による眩暈に関するページは、分厚い本の中でもたったの5ページしか載ってなくて、しかもその殆どがよくわからない内容で、眩暈に関するものから大きく離れていったものだったの。

 それもまったく関係のない研究成果がどうのとか、知り合いの研究者はこう言ってるだとか、そんな内容ばっかりで、結局知りたかったことはごくごく一部しか載ってなかったの。

 それを纏めてみると、『眩暈が起きている時と起きてない時の回復速度がどうやら違うらしい』っていう微妙な言い方のものだけだったよ。それと魔力枯渇状態になった時の意識喪失から回復した後のマナの量の事は、あの本には書いてないみたい」

 「そ、それは大変だったわね、イリス。相当疲れたでしょう?」


 優しく労ってくれてもらえて、イリスは少しだけ心が楽になっていき、ありがとうおばあちゃん、と伝える。とはいえ、結局は知りたいこと全てが記されていたわけじゃないから、まだまだ勉強する必要があるとイリスは思うが、またあれを解析するとなると気持ちが重くなってしまう。


 「もっと専門書じゃないと詳しく書かれていないかもしれないね。今度マールさんに何か他の本に書かれていないか聞いてみようかな。それに知りたい事も増えちゃったからね」

 「知りたいこと?お勉強中に出てきたのかしら?」


 さすがイリスねと思っていた所、考えていた事とは別の言葉がイリスの口から出てきてしまい、レスティは驚いてしまった。


 「ううん、昨日の晩に魔法を使ってる時に思ったんだよ。まだ、もしかしたらそうなのかなってくらいの考えだけどね」

 「思ったことってやっぱり眩暈の事なのかしら?今日もそのお勉強をしていたみたいだし」

 「それもあるよ。ただ、眩暈とはちょっと違うのと、他にも知りたいことがあるの」

 「あら?眩暈の事じゃないの?それとは別の知りたいことなのかしら?」

 「うん。眩暈は近いけどちょっと違うんだ。私が気になったのはね、魔力が枯渇した時に起こる意識喪失のことなの」

 「あの気絶みたいなあれの事かしら」

 「うんうん。目が覚めてまず気が付いたのは、どうしてこんな事が起きたのかなって事なの」

 「・・・イリス、もしかして、体感してみたくて自分から魔力を枯渇させたの?」


 若干じとっとイリスを見るレスティに、しまったという顔をしてるイリスだった。


 (そ、そうだった。これは内緒の話にしとくつもりだったのに)


 しばらくじとっとイリスを見ていたレスティは、ふぅっと小さくため息をついて話していく。


 「まぁ一度は体感した方が理解しやすいのはわかるけれど、気をつけてねイリス。いくら魔法の勉強は言っても、ひっくり返っちゃうイリスを見たら私、確実に取り乱しちゃいそうだわ」

 「うん、ごめんね、おばあちゃん。心配かけて」


 その言葉を聞いて安心したようにレスティは微笑みながら、うふふ、いいのよ、といつもの優しい顔でいってくれた。そして先ほどの続きを話していく。


 「魔力枯渇による気絶みたいなのは、魔力が底を突いてしまったから、意識を飛ばしてマナの回復に専念してるって事じゃないかしら?」

 「私も最初はそう思ってたんだけどね、でも少し気になる事が出来たのはちょっと違うんだ」


 どういうことなの?ときょとんとしてしまうレスティにイリスは話していく。あくまでも思っただけだし、調べてもいないからなんとも言えないんだけどね、と先に釘を刺しながら。その仮説とも言えないようなものを聞いているうちに、どんどん真顔になっていき、次第に眉をひそめてしまうレスティだった。


 「―――だと思ったの」


 レスティは今のイリスの説明を考え込んでしまっていた。それもそのはずだ。もしイリスの言った事が正しければ、魔法そのものがとても、いや、とてつもなく危険なものとなってしまう。もしかしたら世界すら揺るがしかねない事になるかもしれない。


 イリスやイリスを大切に想ってくれる者たちは問題ないだろうが、世界にはそういった人たちだけが生きているわけではない。中にはあまり素行の良くない者達や、人の才能を妬んだり、人を傷つけようとする者も出てくるかもしれない。

 今は魔物という共通の敵がいるから安全かもしれないけど、その力を手にした人が危険な思想を持っていて、その力をもし悪用すれば大変な事になるかもしれない。

 最悪の場合、たくさんの人同士が争う事態になってしまうかも。その事をレスティはイリスに丁寧に説明していくと、イリスは徐々に青ざめていってしまう。そして取り乱しながらどうすればいいかをレスティにたずねた。


 「どどどどうしよう、おばあちゃんっ」

 「あらあら、落ち着いてイリス。まだ調べてもいない事なんだから大丈夫よ。

でも、もし調べる気があるなら覚悟が必要になるかもしれないわね」


 少し落ち着いたイリスはレスティに聞き返し、それにレスティは答えていく。


 「覚悟?」

 「そう、覚悟よ。イリスはもしその力を手に入れるなら、何に使うのか、そしてその力をどうしたいのかを決める必要があるんじゃないかと私は思うわ。イリスはその力をどうしたいのかしら?」

 「・・・・・・」


 考え込んでしまうレスティは、本当に真面目な子ねと内心微笑んでしまっていた。真剣に考えているイリスを見て、あくまでも『もし』の話なのだけれど、と少し苦笑いになってしまう。どうやら答えが出ないようなので、レスティが話し始めた。


 「答えが出ないみたいね。その力だけじゃなく、一般的と思われる力よりも強い力を手に入れたいと思ったら、まずはその力が本当に必要か、そして何に、何のために使いたいのかをよく理解しないとだめよ。

 まだその答えが出ないうちに手に入れてしまった場合は、それを使う事をしっかり考えた方が良いと私は思うの。過ぎた力はきっとイリスを悲しませると思うから。

 だからもし本当にそういった強い力を手に入れたいと思ったら、まずはその事を考えなさい。そして使う覚悟を持ちなさい。そうしないときっと悲しい事に繋がってしまうと私は思うから」


 レスティは思う。イリスは純粋な探究心のみでその力に気が付いてしまった。まだもしも(・・・)の話だけれど、恐らくその仮説は正しいような気がしてしまう。魔法に詳しいわけではないけれど、きっとそれが本物の力だと思えてしまうほど、イリスの仮説がしっくりくるように思えてしまっていた。


 正直そんなものは確実に過ぎた力だ。使い方を誤れば自身の崩壊すら招いてしまうかもしれない。今の話を聞いただけで推察するなら、私にはとても危険な方法に思えてならない。


 (でも、イリスはきっといずれ対処法まで見つけてしまうんじゃないかしらね)


 レスティはそんな風にも思ってしまっていた。何が起こるかわらかない世の中だからこそ、使う機会など来ない事を祈るレスティであった。


 「うふふ。そんなに不安にならなくて大丈夫よ。もしそんな力があったとして、そしてそれを手にしたとしても、イリスなら必ず正しく使ってくれるっておばあちゃん信じてるもの。イリスなら大丈夫。お勉強する事はとてもいい事だから、これからも気になったことがあればどんどんお勉強なさいな」


 イリスはどうやら、このまま勉強していいのだろうかと思っているようだった。ちょっと怖がらせすぎちゃったかしらと思っていたレスティだったが、そんなイリスへ言葉を続けた。


 「要は使い方次第なのよ。おなべや花瓶でも人を傷つけることができるでしょ?でもイリスはそんなこと絶対にしない子だし、そんなすごい力を手に入れても無闇に使わない子なのもわかってるから、おばあちゃんは安心してるわ」


 笑顔で語るレスティにイリスは次第に落ち着きを取り戻していった。そして納得するように言葉を続ける。


 「そっか。使い方次第なんだね」

 「そうよ。力をどう使うかは人それぞれ。でもイリスならきっと、その力を誰かのために使うでしょうからね。おばあちゃんは心配してないわよ」

 「ふふっ、ありがと、おばあちゃん」


 笑顔に戻ったイリスを優しい眼差しでレスティは見つめていた。次第に話は魔法の修練の事に戻っていった。


 「とりあえずは夜にちょっと修練をし続ける感じになると思うよ。無理せずゆっくりのんびり修練していこうかなって思ってるの」

 「うふふ、そうね。焦ってもあまり良くないと思うから、ゆっくり修練すると良いと思うわ」

 「ふふっ、そうだね。ありがとう、おばあちゃん。まだまだ知らない事が多いから、また図書館に行こうと思うよ。・・・さすがに毎日は疲れるから行かないと思うけど」


 その言葉にくすくす笑ってしまうレスティだった。


 「それにしてもイリスは本当にお勉強熱心ね。普通は魔法を覚えたらもう魔法書なんて読まないものだと思ってたわ」

 「あ、それ、マールさんにも言われたよ。魔法が使えるようになったら普通は読みませんよって。やっぱりそういうものなのかな?」


 イリスが疑問を投げかけると、レスティは顎に指を置いて考え込むように話し出した。


 「そうねぇ。私を含めた私の知り合いも、そういった事をしてる人はいないわねぇ。うふふ、どうしてなのって顔になってるわよ、イリス」


 どうやらまた顔に出ていたらしい。でもレスティに言われたように気になってしまっているイリスだった。


 「どうしてみんな気にならないのかな。調べれば調べるだけ知らない事が増えていくと思うんだけど」


 その問いにレスティは返そうとするが、少々言葉に詰まってしまう。イリスが言う事もわからなくはないが、さすがに魔法減衰による眩暈の回復速度の違いを調べようとしたり、ましてや魔法に秘められた事すら考えるだなんて、一般的には思いもよらない事だろう。まぁ、これはまだ仮説ですらなく、想像の範疇と言えるほどのものではあるのだが。


 「イリスはとても探究心が強いのよ。何かを知ると他の何かが知りたくなる。

典型的な研究者タイプじゃないかしら」


 そう言いながらレスティはくすくすと笑っていた。言われたイリスの方がやはり苦笑いしてしまう。会ったこともないあの本の作者の面影が浮かんでくるようだったからだ。


 「できれば私は研究者にはなりたくないなぁ」

 「うふふ。気持ちはわかるけれどね。今はゆっくりと、なりたいものや、したい事を探していくといいわ」


 お茶を飲みながらまったりできた所で、レスティはイリスにこの後も修練するのかを聞いてみた。


 「この後はまた魔法の修練をするのかしら」

 「うん。今考えられる方法では、どっちがいいかわからないけど、とりあえず眩暈を起こす手前で止めて修練して見ようと思うよ」

 「どっちがって、修練法が他にあるのかしら?」


 首をかしげてしまうレスティ。本の知識では修練法はひとつしか書かれていない。そしてレスティ自身もひとつと言われる修練法以外のやり方を知らないし、聞いたことすらなかった。そんな彼女が首を傾げてしまうのも仕方の無いことだった。

 だが、イリスは修練法が他にもあるような言い方をしている。一体どういうことなのだろうかとレスティは聞き返してしまっていた。


 「詳しくは調べてないから可能性の話なんだけど」


 『傾向と対策』には書かれていなかった事だから、確認はできていないんだけどねと、イリスは先に言いながらレスティに自分の考えを述べていく。


 「ひとつは眩暈が起きる前で修練をやめる方法で、もうひとつは、眩暈の状態で修練をする方法なの」


 その言葉を平然と語る孫に驚きつつも、レスティはどう違うのかを聞いてみた。


 「眩暈を起こした状態で魔力の維持をする事で、ある種の限界を感じながらの修練になって、なんらかの効果が得られる可能性を考えたんだけど、でもこっちの方は、私の予想ではたぶん違うと思うんだ。私としては眩暈が起きる前でやめたい所っていうこともあるんだけどね」


 そう苦笑いしながらもイリスは、でもこれはあくまで私の推測だよ?とレスティに念を押しつつも、自分の考えをまるで説明するかのように話した。


 「眩暈が起きる前で修練を止める方法は、自然体でじっくり魔力を練ることが出来るから、身体に負担もかからないし、精神的にもずっといいと思うの。

 魔力減衰の眩暈を起こしてみてわかったのは、かなり辛いってことと、さっきも言ったように、通常時と違ってマナの自然回復力が落ちるっていうことなの。実際には身体に負担はかかってないと思うけど、精神的にぐっと来ちゃうの。

 だから私は、平常心でじっくり魔力を練り上げる方法が正しいと思ってるの。本にも修練法として『魔力を一定量身体に覆い続ける事』って書いてあったからね。たぶんこっちが正解だと思いたいんだ」


 本にはこういった書き方はされていない。とてつもなく回りくどく、内容が鮮明に浮かばないほどに言葉を散らされていたので、言葉の端々を繋ぎ合わせるように導き出した答えだ。

 これが合っているかは実際試してみないとわからないのだろうけど、それでもイリスはそれが答えに一番近いと思っていた。


 だがレスティは疑問に思ってしまう。眩暈の手前で止めるなど、そんなことが可能なのだろうか。


 「眩暈が起こす前に止める方法なんてあるの?どうやって眩暈の前で止めるのかしら。それともなんとなくの感覚なのかしら?」


 その疑問はこの場で聞いていたら誰もが思うことだろう。だが、次のイリスの答えに目が点になってしまうレスティであった。


「42回だったの」

「え?」


 きょとんと目を丸くするレスティに、イリスは自分の胸に左手を当てながら答えた。


 「私の心臓の鼓動の回数がちょうど42回で眩暈を起こしたの。だからその手前で止めることができるの。もちろん、これからどんどん魔力総量は増えていくと思うし、精神状態でも鼓動の速度は変わってくると思うんだけど、心を落ち着かせて集中する修練だから、そこまで狂ったりしないんじゃないかなって思ってるよ。


 それにこの方法のいい所は、魔力量が増えればそれだけ安定して訓練ができるって事にも繋がると思うの。魔力量が増えていったらその都度鼓動の回数を調べていけば、毎回眩暈になったらやめる、なんて無理をしないで修練できると思ったんだ」


 これを聞いたレスティは、さすがに凄さを通り越して呆気に取られてしまった。


 「・・・まさか鼓動の回数で魔力量を量るなんて。さすがのおばあちゃんもびっくりしすぎたわ」

 「正確ではないにしても、これくらいしか量れるものがなかったの。でも、落ち着いて修練するんだから使える方法かなって思ったんだよ」


 あははと苦笑いしながらイリスは答えた。そんなイリスを見てレスティは、この子の将来は世界最高の魔術研究者か、最高の魔術師になるのではと、本気で思ってしまうのだった。



   *  *   



 お風呂に入り寝る準備を済ませたイリスは、おやすみなさいとレスティに挨拶をして、2階の空き部屋に向かっていった。乾ききっていない髪が乾くまでは魔法修練をしようと思っていた。


 空き部屋に入るとそこは昨日とは違い、不思議な感覚に包まれている気がした。どこか懐かしいような感覚に似た落ち着きが感じられて、イリスにとってはとても心地よく感じられた。


 そんなイリスは、今日はあえて魔石の明かりをつけないで修練してみようと思ってしまう。窓から照らす月明かりが、とても優しく部屋を照らしていたからだ。


 魔法の修練を始めるイリスは、いつもと違うことに少し気が付いていた。心がとても落ち着いていたからだ。こんな気持ちは久しぶりな気がした。まるであのひとに温かく見守られているような感覚に包まれていく。


 イリスは瞳を閉じながら集中していく。魔力を高め、属性に変えていくと、次第に身体から魔力が溢れていくのがわかった。きっかり40回の心音で魔力を止めるイリス。しばらく休み、今度は心音30回まで魔力を出し続け、また休んで心音30回魔力を出してを繰り返し、髪が乾いたら眠る。

 これをイリスは毎日の日課にしようと思った。そうすれば次第に魔力量が上がるのではないかと思えたからだ。


 修練を終えた少女は自室に戻り、今日のことを振り返っていた。今日も色んな事があった。ブリジットさんの想いを知る事ができた。素敵なヴァンさんにも会えた。ロットさんの強さも知ることができた。


 きっとこれからもたくさん色んな事があるだろう。楽しいことや嬉しいことだけじゃなくて、悲しいこともあるだろうけど、それでもきっと、頑張れば何とかなる、そんな気がした。


 明日も素敵な日になるといいな。そんなことを思いながら、少女は眠りについていった。



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