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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十三章 ごめんなさい
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"冒険にならない"


 今後の行動を話し合う中、イリスは一つの魔法を使いましょうかと提案していった。

 その魔法は"構造解析ストラクチュアル・アナライズ"と同じ系統のもので、とても便利ではあるがあまり使いたくはなかったと、イリスは言い辛そうに言葉にした。

 何でもその魔法を使えば、周囲の地形の全てが把握できるらしく、内部構造を解析できる魔法を地上でも効果をものなのだと彼女は説明していった。


「それだけ凄い効果を持つ魔法があったんだね」

「ふむ。便利な事この上ないが、今まで使わなかった理由もあるのだろう?」


 そんなことを言葉にする男性達へと、女性達は言葉にしていった。


「それはさ、あれだよ。そんな魔法を普段から使っちゃったら"冒険"にならないからじゃないかなってあたしは思うよ」

「そうですわね。私もそう思いますわ。

 折角の冒険なのですから、楽しみがなくなってしまうことは悲しいですわね」

「そうですね。確かにとても便利な魔法ではありますが、この先には何があるのでしょうかと考える事ができなくなってしまいますものね」

「……はい。私もそう思ってたんです。

 地図はわりと曖昧な表記が多いので、想像することが楽しくも思えていたのですが、この魔法は何と言いますか、全てを把握してしまうものとなってしまうんです。

 危険性を確認するための内部構造を把握する魔法とは違いますから、できれば滅多な事では使うことなく進んで行きたかったのですが、こういった場所では仕方がないのかなとも思えましたので、後は皆さんに判断してもらおうと思います」


 確かにイリス達が言うように、"この先"に何があるのかを把握してしまうのは、つまらないと思えてしまうだろう。

 それが地図ではなく、魔法による非常に正確なものであれば尚の事だ。

 彼女達は冒険を楽しみたいのだから、そういった魔法があったと旅立つ前から聞いたとしても、使うことはしなかったと思われた。


 しかし、現状は少々違ってきていると言わざるを得ない。

 未開の地とも言えるような、地図にも載らない場所。

 魔物は強く、集団で襲ってくる可能性だってある。

 イリスによると魔物に関しては問題なさそうではあるのだが、状況が変わる事も十分に考えられる。


 そんな中、果たしてそういった魔法を使わずして闇雲に進むことが、本当に冒険と呼べるのだろうかと考えた時、その答えは否定的なものへと変わってしまうこともある。

 彼女達は、でき得る限り安全を確立させた上で、冒険を楽しみたいと思っている。


 イリス達であれば、どんな状況でも冷静に行動し、襲い掛かる魔物すらもなぎ払いながら冒険を続けることができるだろうが、今はエステルが傍にいる。

 戦えない彼女を護りながら進むという事は、それだけ危険が伴うとも言えるし、常に冷静で行動する事をしてきたエステルであろうと、その心に恐怖心がない訳ではない。

 寧ろ危険種と多く遭遇してしまっている現状で、彼女の心は不安を強く感じているのかもしれない。だからこそイリスと離れることなく、夜を越えているのだとも思えた。


 そういった状況を考えるシルヴィア達は、大して時間をかけることなく答えを出していったようだ。


「私は賛成ですわ。今回に限った事ではなく、危険な場所を進むのであれば、安全性を確保する事は必須だと思われます。

 私はそういった"命の冒険"をするつもりはありませんわ」

「そうだね。あたしも賛成だよ。今回はいつもとは違う。特例なんて言うつもりはないけど、今回は使った方がいいと思うよ」

「私もお二人に賛成です。今は何よりも、エステルの身を一番に考えるべきです」


 お二人はどうですかとイリスはヴァン達へと尋ねていくも、最初から答えは決まっていたようだ。


 彼らとしては、地形を正確に把握する事が安全に繋がると思っているし、実際にその通りだと言えるだろう。

 それでも彼女達の意を汲んだのは、彼女達と同じくして真新しいものを発見するように、冒険を楽しんでいきたいと心から思えたからだった。


 どうにも効率や都合を優先して考えてしまっていた彼らだったが、イリスチームの方針である"楽しむこと"にも通ずる事なのだと、改めて思っていたようだ。


 満場一致で決められ、魔法を発動していくイリス。


「"周囲地形構造解析テライン・ストラクチュアル・アナライズ"」


 頭の中に入り込むように、周辺の地形が正確に理解できる感覚を得るシルヴィア達。

 確かに凄い魔法だねと、少々引きながら話すファルに続いて言葉にしていった。


「本当に凄いですわね、この魔法は」

「地図いらずだな、これは……」

「それも正確な地形を頭で理解できているように思えますね」

「レティシア様の時代の魔法は、本当に凄いのですね……」

「でもこれなら、この先の危険そうな場所も分かってきたね」

「効果は六アワールなので、十分に助けになると思います。

 まずはこの先にある少々開けた場所まで進み、休息を取りながら今後の事を話し合いましょう」

「うむ。異論はない。寧ろその場所まで行けば、いい頃合となるだろう」

「野営をするにも十分な広さもあるし、食料も問題ないから大丈夫そうだ」

「では、とりあえずの方針は、あくまでもエステルの安全を最優先に。そして危険だと判断した場合は撤退を視野に入れて進む、という事でいいでしょうか?」


 イリスの提案を了承していくシルヴィア達。

 これから向かう場所は、地図にも書かれていない場所となるだろう。

 細心の注意をする必要があるとイリス達は判断しつつ、進むことを決めていった。



 今いる場所である熱帯草原入り口とも言える場所からは、イリスが感じたという方向へ直進する事はできない。

 "周囲地形構造解析テライン・ストラクチュアル・アナライズ"の効果によると、少々西へと進んだ先から北へと進めるような場所があるようだった。

 実際にその場所まで進んでみると、この先へ進もうだなどとはとても思わないだろうという獣道が続いており、その入り口となる場所はとても狭く、馬車が何とか通れるような狭い道となっていた。


 魔法の効果で少々進めば道が広くなる事も理解しているイリス達は、エステルを連れて獣道をゆっくりと進んでいく。

 その道は誰も人が通っていないことが窺い知れるようなもので、人が造った道を非常に長い年月放置されたかのようなものにもイリス達には見えた。

 もしかしたら何百年と使われていない道だったのかもしれないと思う一方で、踏みしめられていない、道とは言えないようなその場所は周囲が浅い森に覆われ、見通しは決して悪くはないものの、鬱蒼と生い茂る草に何かを感じるものがあった一行だった。

 それが何か、はっきりと言葉にする事はできないが、奇妙な感覚だと思えていた。


 どこか人を拒むようにも見えてしまう浅い森を、ゆっくりとではあるが着実に進み続けていくと、少々開けた場所に出たようだ。

 この場所だけぽっかりと空間があいていると思えるその一帯は、まるで浅い森が避けているようにも錯覚してしまう不思議に思える場所だった。

 これ以上進めば途中で夜になるだろうと一行は判断し、ここで夜を明かす事にした。


 浅い森なので、その周囲も月明かりがそれなりに照らし出し、見通しはそれほど悪くはないように思えた先輩達は警戒をしつつも、この場所であればそれほど危険でもないだろうと考えていた。


 イリスの索敵(サーチ)によるとこの周囲に魔物はいないそうで、数匹だけそれぞれ違う場所に存在しているらしい。


 安全とは言いきれないものの、この場所からは距離が相当あるようで、落ち着いた野営をすることができた一行は、イリスの作った絶品のティグリスシチューに舌鼓を打ち、楽しく話をしながら夜を越えていった。



今更ですが、"構造解析ストラクチュアル・アナライズ"は"内部構造解析ストラクチュアル・アナライズ"とした方が分かり易かったかもしれませんね。文字数や見易さという点からも、修正を視野に入れておこうと思います。


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