"しるし"
「私が描いたのは、こんな感じです」
紙を反転させて仲間達へと見せるイリス。
自信があると言葉にした通り、とても綺麗に描けているそれは、誰かを対象としたものではなかったようだ。
紙に描かれたものは、ロットの大きな騎士の盾に良く似た大盾。
更には大きな両翼で、盾を抱きかかえるように表現されたマーク。
それはまるで、白銀の騎士盾を大きく包み込む、純白の両翼のデザインだった。
感嘆のため息が漏れてしまう仲間達へ、イリスは描いたものの説明をしていった。
「テーマは護ること、大切な仲間、旅の無事、慈愛の心といったところでしょうか。
白銀の盾は防御、つまりは護ることをイメージして描かせていただきました。
それは街の誰かであったり、旅先の冒険者さんであったりと護る対象は様々ですが、魔物を倒すための剣ではなく、私は"誰かを護るための盾"を描きたかったんです。
そして慈愛に満ちた純白の両翼で包み込んでいるのは、私達をイメージしています。
護るべき誰かを優しく包み込むように両手を差し伸べ、仲間達とも助け合い、時には護り合いながらこの先の旅も無事に歩いていきたい。
そんな想いから発想し、描いてみました」
まさか意味までしっかりと考えているイリスに驚きながらも、これ以上ないほどのマークに思えた仲間達は満足そうな表情で、それぞれ言葉にしていった。
「決まりですわね」
「うん。そうだね」
「すごく素敵です、イリスちゃん」
「うむ。デザインとしても、チームのマークとしても、素晴らしい出来だ」
「そうですね。寧ろイリスチームに、とても合っているマークだと俺は思います」
いいんでしょうかと言葉にするイリスだったが、流石にこれほどチームに合っているマークは他にないだろうと思えたシルヴィア達は、イリスのマークを快く選んでくれた。
白銀の騎士盾を包み込む、大きな純白の両翼。
これがイリスチームのマークとなる。
ここにリーダーであるイリスの名を右下に小さく刻み、ツィードグラスに加工して貰えば、晴れてチームグラスの完成となるだろう。
グラス工房もこのデザインであれば、問題なく作ることが出来るはずだ。
あとは朝食後にでも依頼をして、完成を待つだけとなるだろう。
「グラス完成したらどうする?」
「どうしましょうか」
「あら、フィルベルグに戻った際に、皆さんで乾杯するのではなかったのかしら?」
「ならば折角なのだから、レスティ殿やエミーリオ殿も呼んで飲むのもいいだろうな」
「いいですね。無事に戻って来れた事と、その後の話もあるだろうから、ゆっくりと英気を養いながら皆で飲もうか」
「素敵ですね。お月様の綺麗な夜に、特別なグラスで飲んでみたいです」
「ではグラス完成後、あの素材と共にフィルベルグ城に送っちゃいましょうか」
「う、うむ。……そうか、それがあったのだったな……」
あまりの衝撃的な素材と共に送っても大丈夫なのだろうかと考えてしまうヴァンだったが、遅かれ早かれ送られる事は決まってしまっているため、今更悩んでも仕方のないことなのかもしれない。
その後の話し合いで、完成されたチームグラスはそのままフィルベルグへと送り、石碑の件が終わって落ち着いた頃にでも一旦戻ろうかということで話は纏まっていった。




