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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十二章 一花の歌姫
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"魔法剣の修練"


「……そうです。そこで指先に属性マナを集約するように、丁寧に……。

 やはり皆さんは充填法(チャージ)を習得しているので、上達がとても早いです。

 その状態が、魔法剣(マナブレード)の基本となります」


 仲間達へと魔法の使い方を教えていくイリスは、物覚えのいいシルヴィア達に驚きながらも、丁寧にその技術を伝えていた。


 現在はテランスとも別れ、宿屋の男性達の部屋で魔法剣の修練に励んでいる。

 昨日は色々あった為に、集中力が全くと言っていいほど続かなかったが、今日の修練は滞りなく進めているように思えたイリスとファルだった。

 

 彼らに魔法を教えるのは、イリスが担当する事となった。

 ファル個人もそうだが、彼女に知識を託したアルトが人に物を教えるのを苦手としていた為に、その知識を誰かに伝えるのには彼女はあまりにも不向きだったようだ。

 彼女自身もそれにしっかりと気が付いており、『あたしが教えるよりもイリスに習った方が遥かに上達すると思うよ』と、どこか楽しげに答えていた彼女がとても印象的だった。


 どうやら猫人種の殆どが、誰かに教える類のことがとても苦手なようで、感覚的な言い方でしか教える事ができないものが多いらしく、言葉と身体で体現し、しっかりと修練させる事のできる教師の類は、かなり珍しいと言えてしまえるほどに少ないのだそうだ。


 今にして思えば、ファル以外の猫人種とギルド依頼を共にした際の印象は、やはり誰かに何かを教えられるようなことは少々難しそうに思えた者達だった気がしたヴァンとロットだった。


 何とも微妙な思案の中、イリスの授業に意識を戻していく彼らだったが、続けて彼女は本格的なマナブレードを使うための準備に入っていった。


 魔法剣の修練に使うのは、魔法銀(ミスリル)製ではないナイフを使う。

 これはあの雑貨屋で手に入れた、店主が粗悪品と言い切ってしまった物だ。

 そんなものにマナを通してしまっても大丈夫だろうかと考え込んでしまう彼らに、イリスはこれでいいんですよと説明をしていった。


 魔法銀と呼ばれるミスリルを使うと通し易くなるマナを、それ以外の素材で作られたナイフで修練をすることで、マナの通し方の基礎を学ぶ事ができる。

 これには最安値の物でも錆びてぼろぼろのナイフでもいいと、イリスは仲間達に説明をしていく。重要なのはミスリル製でないことで、あとは何でもいいそうだ。

 当然それは、ナイフではなく剣にマナを通してもいいのだが、初めは小さい武具の方が練習になるのだと彼女は言葉にしていった。


「これについては一度魔法剣(マナブレード)を使ってみると、理解できると思います。

 ここで重要なのは、ナイフにマナを軽く通す程度に力を留め、必要以上にマナを込めない事です。通すマナの量は、少なければ少ないだけいいと思います。

 そうすれば、たとえボロボロのナイフだったとしても壊れることなく、また曲がる事もなく十分に修練ができるようになるんです。

 最初のうちから過分なマナの扱いは難しいと思いますので、まずは軽く力を込めてその感覚を感じ取ってもらう事が、強くなるための近道となるでしょうから」


 そう説明していくイリスは、続けて通すマナの量についての詳しい話をしていった。


 これは本当に微弱なマナで十分だと彼女は言う。

 それもほんの少しナイフの切っ先へ送り込む事が、修練には一番効率的となる。


 重要なのは、マナを必要以上に入れ過ぎないこと。

 マナを通す武具の質や耐久性にも大きく関わってくるが、これほどのナイフにマナを通しすぎてしまうと、刀身が耐え切れずに破裂してしまうそうだ。

 大きい武器であれば折れたり曲がったりといった程度で済むが、このナイフでは粉々になりかねないのだと、イリスは仲間たちへと話していった。


 これにはヴァンとロットには思い当たる節があった。

 イリスの姉である戦友が、魔獣に放ったクロスボウの矢。

 凄まじい威力を見せた充填法(チャージ)での攻撃だったが、たったの三回使っただけで、頑丈なクロスボウが弾け飛んでしまった。

 それもマナブレードではない、ただのチャージで。


 あれだけ頑丈に作られた武具だと傍目にも分かる代物が、チャージ三回で吹き飛んでしまった事実を目の当たりにしている以上、度が過ぎたマナを込めれば武器が持たないことは理解できていた。


 同時に彼らは、チャージを身体に纏っているかのような使い方をしている自分達は、何の影響もないのだろうかと思ってしまうも、その事についての説明をしていった。


「本来マナを纏う方法は、極々自然な使い方として認識されていたようです。

 体内を巡るマナを使い、それを自身の強化をすること自体には全くの悪影響はありません。元々自分自身が持っている力を使っているに過ぎませんから。

 ですが問題は、それ以外を対照とした場合でしょう。

 私が普段から使っている皆さんにも影響のある補助魔法、警報(アラーム)保護結界プロテクション・カバーなどにも悪影響はありません。

 細かな事を言うと、私のマナが皆さんのマナを中和し、使用者の魔法を自身と同じように影響を出させる魔法としてマナを変換し、効果を及ぼしているのですが、こういった専門的な知識は置いときましょうね。

 要するに強化魔法の類も、悪影響など一切なく使える便利な魔法、と言う事ですね。前にも皆さんに伝えましたように、強化魔法を含む補助魔法と生活魔法の殆どは、修練次第で誰でも扱えるようになります。

 保護魔法系を対象者に効果を与えるにはそれなりに修練は必要となりますが、基本的にチャージと同じように悪い効果は与えないものとなっているんです」


 そしてイリスは、雑貨屋さんから購入したナイフをひとつ手に持ち、とても微弱なマナを込めていく。刀身が薄っすらと白緑に光り、美しい刀身へとその姿を変えていったものを見つめていくシルヴィア達。

 これで弱いながらもマナブレードが発動しているのだと、彼女は答えていった。


「先ほど皆さんが発動した属性マナを、微弱な量だけこのナイフに込めていくと、このように光り輝く武具へと変わっていきます。

 マナを込める時のイメージは刀身全体だけでなく、手に持っている柄の部分や刃の中心にもマナを通し、切っ先に至るまで均一に込めていくのを想像してみて下さい。

 マナの込める速度はゆっくりと少しずつ、焦らず、丁寧にを心がけると、成功しやすいと思いますよ」


 早速試してみるシルヴィア達。

 気を鎮め、意識を集中し、先ほどのイメージを思い起こしながら静かに、そして彼女に言われたように丁寧に少しずつマナを込めていく。


 最初に成功したのはシルヴィアだった。

 薄水色に輝く刃を見ながら驚くことなく、冷静にその状態を維持していく。

 ここで大きく喜ぼうものなら集中力が散漫して、ナイフが壊れていただろう。

 そんな冷静に判断ができる彼女は、やはり戦いに向いているのかもしれないと思ってしまうイリスだった。


 続いてロット、ヴァンと問題なく成功していった。

 薄赤い刀身と薄黄色の刃に変えた二人は、小さく息を吐き呼吸を整えていく。

 三人とも無事に成功させた事に微笑みながらおめでとうございますと言葉にしたイリスは、続けてその状態を五ミィルほど維持するように、仲間達へと言葉にしていった。


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