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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十一章 前に進め
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"本当に送るの"


「なるほど。そうしてギルドランクは決められるのですね」

「私達もシルバーランク冒険者から昇格してしまうのでしょうか」

「できるならシルバーランク冒険者で留めておいていただきたいですけど、ファルさんの件を聞く限り、それはちょっと難しそうですよ」

「いいじゃないか! あたしと一緒に、プラチナランクになろうよ!」


 そう笑顔で言葉にしたファルは、涙目になりながら真っ青な顔で口角をひくつかせながら話していた。何とも痛々しい光景に、思わず言葉を失うイリス達だったが、全員プラチナランクパーティーというのも面白そうだなと、ぽつりと呟くヴァンの言葉に自然と仲間達の視線が集まっていった。


 そんな中ファルは、今回の報酬について尋ねていく。


「そうだ。グラディル討伐報酬はどうするの? 少人数で倒したから凄い金額になると思うけど、フィルベルグギルドに預けてるの?」

「そういった事もできるのですね。知りませんでしたわ」

「ん? あぁ、そうか。三人は初心者さん、何だっけ……」


 言葉を徐々に小さくするファルは、あの時の衝撃を思い出したようだ。

 あれほど驚いた事もあまり記憶にないと思えてしまう彼女だったが、その仕組みを三人に話していった。


「流石に大金となる場合はそのまま持ち歩く事はしないで、所属しているギルドに作った口座に預けることが多いと思うよ。

 手続きすれば、どこのギルドからでもお金を所属ギルドに送れるんだ。

 正直、大き過ぎるお金を持っていても、持ち歩くのが大変だからね。

 周りに与える影響も考えると、お金は多く持ち歩かない方がいいだろうし」

「そうだな。であれば、フィルベルグにあるシルヴィアの口座に入れてもいいのではないだろうか。ファルはどうする? 人数分で分けて自身の口座に入れるか?」

「ん? みんな今までどうしてたの?」


 パーティーで稼いだお金を分けずに、一箇所の口座へ預ける事はない訳ではないのだが、それでも相当に珍しい事をしているなと彼女は思ってしまった。

 そんなファルに説明していくヴァンの言葉が、思いのほか興味深く思えてしまった彼女は、シルヴィア達からそう返してくるであろう言葉を面白半分に尋ねていった。


「ねね。三人にとってお金って、どういったものなの?」

「お金とは、国民のために使うもの、という認識がとても強いですわね。

 冒険者となって、自分達で稼いだもので食事や宿で過ごさせて貰っていますが、

基本的にその価値観は変わっていませんわ」

「そうですね。私もお金がそういうものである認識がとても強いですし、お金を使ったのもフィルベルグを旅立つ前の準備をしている時が初めてでした。

 やはり、国民のために使うべきとても大切なもの、という認識ですね」

「私はお薬屋さんや雑貨屋さんを経験していますので、商売をするために必要な道具、という認識でしょうか。

 エルマではとても大きな金額を使いましたが、子供達が笑顔でいてくれるなら、

それだけでそれ以上の価値がありましたね」

「孤児院の子供達のための資金、だっけ。一体幾らくらいかかったの?」


 必要となる金額の見当が付かないファルに、さらりと一言金額を答えるイリス。

 流石に凄まじい金額となるその額に彼女は驚くも、それとは違うところが気になってしまっていたようだ。


「…………白金貨を使う人って本当に存在してたのか……。噂だと思ってた……」

「……まぁ、そういった反応になるのも頷ける。俺達も相当に驚いた」

「そうですね。流石に見た事はあっても、実際にそれを使う所は初めてでしたね」


 何だか今はもう遠い日のように感じてしまう二人は、感慨に浸っていたようだ。

 ああいった状況を体験する日が来るとは、流石に思いも寄らないことだった。

 そういった意味では良い経験をした、と言えなくもないのだろうか。


「そうそう、これもイリスに聞こうと思ってたんだった。

 イリスの先生ってどんな人なの? 先輩冒険者かな?

 凄く立派な事を教えてもらったみたいで、羨ましく思えたんだけど」

「私の先生はですね――」


 今までの説明で端折ってきたものを詳しく話していくイリスに、シルヴィアも彼女が呼ばれた称号の数々を発表していった。

 相変わらずとても楽しそうに言葉にする姉に、苦笑いをしてしまうネヴィアをよそに、シルヴィアの言葉は止まらなかった。


「……"森の泉"のレスティさんって、フィルベルグで一番って噂の薬師さん?

 ……フィルベルグ王国の騎士団長? ……じょ、女王陛下から直接?

 ……そんな凄い人たちからイリスは教えてもらっていたの? 

 ……それに、あ、愛の聖女? ……神の舌? ……純白蒼銀の戦乙女?

 ……あれ? おかしいな。……通り名ってそんなにいっぱい付くものだっけ?」


 ゆっくりとヴァンとロットに視線を向けながら、彼らに尋ねてしまうファル。

 そんな驚愕している彼女にヴァンが答えていくも、彼ら自身も相当に驚いているらしいと言う事は、話し方と表情で考えが及んだ彼女だった。


「まぁ、本来なら一つ、多くても二つのはずなんだが、イリスはとても多才でな。

 既に薬師としての実績と名声も得ているし、料理の腕はファルも知る所だろう」

「エルマの一件に必要となったお金も、全てイリスの功績によって手にしたお金だし、チームとしての必要経費は生活費以外の全額をシルヴィアの口座に入っているけど、たぶんこっちは使い切れないんじゃないかなってくらいの額が入ってるね」

「ま、まぁ、ギルアム二匹分って話だし、あれだけの強さがあれば生活には困らないってのも分かるんだけどさ、随分と凄い経歴だね、イリスは……」

「あら、まだエデルベルグの功績が入っていませんわよ。

 誰もが読めなかった古代の言語で暗号化された書物を解読し、八百年間も明かされることのない歴史が、続々と紐解かれているそうですわ」

「フィルベルグは歴史と文化、特に書物に重きを置いている国ですものね。

 今まで読む事ができなかった膨大な書物を読み解く事ができて、きっと母様も喜んでいる事でしょうね」


 元々エデルベルグ王族以外には読まれる事のないようにと暗号化された書物の類を、イリスの力なしで実現するには一体何年かかっていたのか分からない。

 八百年近く手付かずとなっていた書物の保存魔法が、効力を失ってきているとの報告を受けたエリーザベトは、急遽エデルベルグの書籍の類の全てを回収し、保存魔法をかけ直した後から解読が本格的に始まったが、それでも十年は丸々時間を費やしても全く読み解けなかった書物だった。

 それを成したイリスの功績は、最低でも二十年はかかると思われた時間の浪費の一切をなくし、正確な解読を可能とした本をフィルベルグへと齎してくれた。


 これだけで歴史と書物を重んじるフィルベルグ王国としては、これ以上ないほどの功績となるのだが、当の本人には、残念ながらそれが全く伝わっていなかった。

 イリスとしては、レティシアから託された知識を使い、彼女の遺してくれていたものを読めるようにしただけに過ぎない、といった認識しか持ち合わせておらず、それを評価される事は正直なところ信じられないといった気持ちにすらなっていたようだ。


 どこか感覚が一般人とは違う彼女に、ファルはしみじみしながら言葉にする。


「それにしても、イリスは薬師で冒険者でもあるんだね」


 改めて言葉にされると、その多才さに気付かされる一同だったが、イリスの物覚えがいいことを出会った頃から知っているロットにとっては、彼女ならばそれもあり得ることなのだろうと素直に思っていた。



 そういえばと思い起こすように言葉にしたシルヴィアは、ファルが拠点としていた場所の話をしていった。


「ファルさんは上の階に、お一人でお住まいなのですわよね」

「うん、そうだよ」

「折角ですし、私達と四人部屋に移りませんか?」


 シルヴィアの提案にイリスとネヴィアは、ぱぁっと表情を明るくしながらとても嬉しそうに、そうしましょうと彼女に申し出てくれた。

 何とも気恥ずかしいといったファルは少々照れながらも、そうさせて貰っちゃおうかなと了承してくれて、嬉しさのあまり笑顔がこぼれてしまうイリス達だった。


「それじゃあ一旦修練はお休みにして、お部屋の手続きとお食事にしましょうか」

「うむ。そうだな」

「荷物はこれだけかい?」


 ロットの視線の先に置かれるそれ(・・)が入ったかばんに視線を向けるイリスたち。

 再びファルが、その事についてイリスへ再確認するように尋ねていくも、どうやらその意思は固いようだった。


「……あー、それで、これ(・・)なんだけどさ、本当に女王陛下へ送るの?」

「え? ええ、そのつもりですよ。持っていても仕方のないものですし、定期報告もありますから、手配するのは明日以降になりますけどね。

 そうだ、これを入れる箱が必要ですね。そのまま素材をギルドに持っていく訳にもいきませんし」

「……流石に女王陛下も驚愕するんじゃないかな、と、俺は思うよ……」

「……まさか、本当に絵本の中での存在と思われていたものが実在しただなんて、誰もが思いも寄らないことでしょうね……。母様、大丈夫でしょうか……」

「私は母様の驚く顔が見られなくて、とても残念でなりませんわね」

「……む、むぅ。…………卒倒しなければいいが……」


 ヴァンの心配をよそに、シルヴィアの表情はとても楽しそうだった。

 普段は顔に感情を出さない実母が驚く姿を想像してか、にまにまとしながら右手で口を隠しながら、楽しそうに笑ってた。

 それはそれは楽しそうに、彼女は笑っていた。


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