"魔法の分類と属性"
そしてイリスは、ネヴィアが習得する魔法についての話をしていった。
「先ほども言いましたが、ネヴィアさんには魔法剣ではなく、皆さんよりも先に言の葉を覚えて貰おうと思います。
正直な所、魔術師であるネヴィアさんのマナ総量は、皆さんの中では相当に多いと思われますから、後は言の葉を乗せることができれば物凄く強い魔法を放てるようになります」
その言葉に安心する彼女は、ホッと胸を撫で下ろしていく。
自分だけ強くなれないのかと思ってしまっていたようだが、実際に強くなるには魔法を上手く扱うようになるのが一番である事は間違いないだろう。
レティシアの時代ではそれを象徴するかのように、魔法のみで闘う者達がとても多い。寧ろ剣術よりも遥かに威力を叩き出してしまうために、魔法を修練し、それを放出するだけの者もとても多かった。
当然それだけでは、危険である事に変わりはない。
マナが無くなれば、容赦なく一瞬で命を刈り取られる可能性があるのだから。
そういった意味では身体的な技術も扱う事で消費マナを減らす事ができ、長時間の戦闘を可能としている戦い方が主流となっていた。
マナをしっかりと込めた刃であれば、その威力は絶大である。
しかし、ここでひとつの疑問が出てきたシルヴィアは、イリスに尋ねていった。
「魔法剣でも魔法耐性次第で威力が軽減されるのですわよね?
その辺りはどのような事になっているのかしら」
「そうですね、その話もしなければいけませんでしたね」
そう言葉にしたイリスは、魔法と防御についての話を始めていった。
魔法耐性とは、彼女が使っている保護魔法系統に属するもので上げる事ができる。
"魔法保護結界"であれば、込めたマナに比例して魔法耐性を上げられるが、この力関係を単純計算で言葉にするのならば、10のマナブレードは10のマナプロテクションで0にする事はできない。
厳密に言うと、マナを纏った武具の威力も含めたものがマナブレードの攻撃力として扱われ、そこに扱う本人の腕力や技術の差で威力が増減してしまう。
つまり、10の魔法剣に10の防御魔法では防ぎ切れずに突き破られ、ダメージを受けてしまうという事になる。そしてそれだけで致命傷となりかねない場合が多い。
人間相手であれば大凡の推察や経験で分かるようにも思われがちだが、込められた魔力によって威力が増減する魔法を防ぐ事自体、絶対的な防御魔法を使わなければならないとイリスは仲間達に言葉にしていった。相手が放つマナの量など分からないのだから、必要以上に力を込めなければならないという事になる。
しかしこれについては、現在では全く必要ない知識と思われるものなので、気にしなくていいのではとイリスもファルも推察する。
そもそも人相手にこれほど強大な力を放ってしまう事自体が、言葉にできないほどのとても恐ろしいことであり、そんな事のために力を手に入れるつもりなど毛頭ない彼女達にとっては考えもしない使い方だった。
対するのが魔物であれば、逆に大凡の力加減は推察できるらしく、寧ろ人相手の攻撃を魔法で防御する方が遥かに難しい技術と言われていたそうだ。
だが、魔物も防御魔法を使っている訳ではないのではと、イリスは答えていった。
あれらは一見、ブーストやマナプロテクションを使っているように見えて、その実使っているのは、マナを肉体に込めたものに近いとイリスは推察していた。
恐らくは生存本能のようなものが働き、自然とそれを引き出して使っているのではないかと、彼女は今までの戦いの中でそれを感じていた。
そういった手応えを感じただけで、流石に明確な答えなど出る事が無いその考えは置いておくとして、今後必要となる技術は"魔法剣"と、"言の葉を使った魔法ひとつ"に集中しましょうとイリスは仲間達に話していく。
「ネヴィアさんは魔術師なので、習熟速度次第ではいくつかの魔法を使いこなせるようになるかもしれませんね」
「ふむ。まずはマナブレードを教えて貰うにしても、言の葉を使った魔法とは、具体的にどんなものになるんだ?」
実際に彼らが目にしてきた魔法の数々は、全てイリスのみが扱う事ができる特殊なものになる。その中のひとつとして自分達が使っているイメージを連想し辛かった彼らにとって、まさしく未知の力に手を出そうとしている認識を持ってしまうようだ。
そんな彼らへとイリスは説明を始めていく。
あくまでも、彼女が使った魔法を覚える必要はないのだと。
「私は風属性ですし、みなさんとは使える魔法自体がかなり異なります。
保護魔法系統や探索魔法系統だけではなく、生活魔法の数々も、修練次第で使えるようになりますが、今回は攻撃を重視して上げた方がいいのではと思えます。
防御魔法を優先しても、魔物に傷を負わせられなければ倒す事は難しいですし、防御魔法を使わずに戦っていること自体は、今の時代では当たり前と言えてしまうことでもあります。……危険な発想この上ないんですけどね。
防御魔法を使えるのならばそれに越した事はありませんが、習得するなら攻撃か防御かを選んで修練した方が習熟が早いと言われています」
現在は効果の高い防御魔法を使ってしまっているが、旅立つ前のイリスのように、緊急時に魔法盾を発動して回避する事が理想的であると思われた。
しかしこれには盾術が必要になってくる。
小さな盾で受け流す事ができなければ、逆に危険な立場となる場合の方が遥かに多くなってしまうとイリスは言葉にし、盾術を習得しているロットもそれを肯定していく。
基本的に魔法の修練は、ひとつの魔法を習得するまでそれに集中して鍛え続け、次に移っていくというのが主流だったそうだが、これをあえて変えてまで修練するのは、どっちつかずの魔法になりかねないとイリスは答えていく。
これに関しては、嘗て最高の魔法国家として世界に君臨していたエデルベルグ王国の中でも、王室魔術師の頂点に座していたレティシアが、若手育成のために使っていた修練方法を薦めるイリスは、魔法の分類についての話に移っていった。
魔法にはそれぞれ大きく分けると四種類あり、攻撃魔法、防御魔法、補助魔法、そして生活魔法に分類されている。
攻撃と防御の魔法はそのままの意味である。
補助魔法とは、サーチ系統や身体能力を強化、向上させる事ができる魔法、そしてこれから仲間達に教えることになるマナブレードといったものにあたり、生活魔法とは、洗濯や洗浄といったものになると彼女は説明をしていった。
生活魔法は、属性に関係なく誰もが使えるものなので、思わず素晴らしい効果を持つ魔法を学びたいという強い欲求に駆られてしまう姫様達は、何とかその気持ちを押し留め、本来の目的となる強さのために努力しなければと気持ちを改めていく。
「警報は非常に便利な魔法だが、ホルスト殿達にも反応したのには少々驚かされたな」
そう言葉にするヴァンだったが、それは一同も思っていたことだった。
あれは彼らのような人に反応するような魔法ではないと思っていた仲間達だったが、実際にこの魔法は、悪意とは違ったものにも反応してしまう事があるそうだ。
それについての説明をしていくイリスだった。
「警報の効果は、正確に言うと悪意や害意だけではなく、使用者が危険に晒されるかもしれないと思われるものにも反応してしまう魔法なんです。
あの時のホルストさんとマルコさんは、鬼気迫る様子でこちらに走って来ていました。そんなお二人の気持ちに、アラームが反応したのだと思われますが、ああいった事は滅多に起こらないと思いたいですね」
ヴァンの問いに答えるイリスだったが、もし、またああいった状況を体験する事となれば、それはつまり、それだけ危険な状況に追い込まれた者達が魔物から逃げている事に他ならないし、イリス達がそれらの反応が冒険者だと気付き、助けに入るよりも先に魔物が襲いかかってしまう事もあるだろう。
ましてやあの時は、エステルを連れていた。その場を動く事はできず、様子を見守るしかなかったイリス達がホルスト達と会えたのは、運が良かったと言えた。
人の反応なのか、それともそれが魔物なのかは、サーチでも判断できない。
ただそこに何かが存在している。そういったものでしか使用者には分からないのだ。
警報はあくまでも、使用者と対象者の周囲に迫る危険を察知するに過ぎない。
凄まじい効果を見せる魔法とはいえ万能ではない、ということなのだろう。
しかし、それでも十分過ぎるほど凄い魔法であることに代わりはないだろうなと、ヴァンは言葉にしていった。
話を戻すイリスは、魔法の属性についても話を始めていった。
それぞれが持つ属性は残念ながら変えることができず、それを伸ばしていくしかないのだと前置きした彼女は、各属性について説明していくも、その内容は今まで見聞きして来たものとは明らかに違う意味合いを含むものだった。
少ないながらもこれまで魔法書から手にした情報や、魔術師たちからの話を思い起こすと、それぞれの属性には特色があると言われていた。
その最たる例を挙げるのだとしたら、これだろう。
火属性は高威力でマナ消費も激しく、土属性は威力が低くマナ消費も少ない。
こんなこと、そもそも起こりえないのだとイリスは話を続けていく。
込めた魔力次第で威力を上げるのが本来の魔法である以上、そんな事は絶対にないことだと彼女は断言した。
これもレティシアが遺した魔法書の影響から導き出された、魔法の偽情報となる。
魔法とは、イメージで強くする力だ。
そこには修練が必要不可欠となるが、問題はそういった事ではなく、嘗ての魔法が今では全く違った言われ方をしている点だと彼女は語った。
イメージのしやすさから言葉にするならば、火属性も他の属性と大差はない。
炎の熱さを知った者が、炎とは強いものという連想をしただけに過ぎなかった。
水も風も同様だ。触れ易いと言うことから、安定したイメージを持たれやすい。
しかし、大昔となるレティシアの居た時代よりも遥か以前から、土属性こそ強大なイメージを人々から持たれていたのだとイリスは言葉にする。
「土とはつまり大地の事。これが存在しない場所はそもそもあり得ません。
果てなく続くかに思える雄大な草原、悠然と聳え立つかのような山々。
そういった壮大なイメージが付き易い属性なんです」
故に、最も威力を上げやすいのは、土属性だと言われていたそうだ。
あくまでもイメージが付きやすいだけであって、実際に魔法を強くしていくのに必要なのは、結局のところ本人の努力次第なんですよとイリスは仲間達に話していった。
「全てはイメージが織り成すものと言えるでしょう。
荒々しい大地も、燃え滾る炎も、優しく流れるせせらぎも。
その全ては扱う本人がどう想像するかで、大きく魔法の質を変えていきます。
そこでまずはみなさんに、マナブレードの修練をして貰いつつ、それぞれの属性が特色を持つ言の葉を紙に纏めて書き記していこうと思います。
その中からひとつ、ご自身にあった"言葉"を選び、修練をしていきましょう。
扱いが難しいとはいえ、みなさんはブーストを使いながら戦うことができるのですから、数日でマナブレードを習得し、戦闘で使うことができるようになると思います。
ですが、嘗ての言の葉を扱いこなすのに少々時間がかかるかもしれませんので、焦らずじっくり修練していきましょう。ネヴィアさんには明日までに思い付く限りの言葉を考えておきますので、もう少し待っててくださいね」
そう言葉にしたイリスは、マナブレードの修練方法に移っていく。
休憩を挟みましょうと言葉にするも、全く疲れていないので気にしないで欲しいと言われてしまった。寧ろイリスが疲れているのではと逆に言葉を返されてしまうも、彼女自身もそれほど疲れている訳でもなかったようだ。
「"白の書"で話を聞いてた時の方が、ダンジョンにいた時よりも疲れた気がするよ」
窓から見える、とても遠くの空へと視線を向けるファルは、そう切なそうに言葉にしながら、目尻にきらりと光ったのが見えたイリス達は、なんと言葉を返していいのやらと悩みながら、とても微妙な表情が出てしまっていた。




