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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第二章 想いを新たに、世界へ
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優しい祖母に"成果"を見せよう

 

 魔法道具屋からて来た3人は、ゆっくりと噴水広場へ向かいながら話をしていた。


 「あーたのしかった」

 「あはは、ほんとだねー」


 二人がとても楽しんでいるようで、それを見ただけでも笑顔になっているロットは、さっきの気になる本のことをぽつりと呟いた。


 「白紙の本、か」

 「ロットも気になるんだね、あれ。面白い本だったねー」

 「そうだね。ああいった歴史が関係してそうなもはかなり好きだね」

 「歴史が関係?そっか、180年は前の本らしいですもんね」

 「そうだね、さすがに読めないとなると意味があると思うけど、どうやったら読めるのか見当も付かないね」


 古文書の解析に関しては、専門の魔法鑑定士が解析をしてくれる。実際に世界で入手した古文書の類はギルドまで持って行くことで、多少時間がかかる場合もあるがその殆どは鑑定士まで渡る事さえ出来れば、その日のうちに解析出来てしまう事も少なくはない。


 だがそれはあくまでも読める文字が存在しての事であり、今回のように全く何も書かれていない本を渡した所で得られるものは無いと言う。その事を知る二人はイリスへ説明をしつつ、白紙の本の内容を推測していく。


 「あはは、さすがにハズカシ詩集(ポエム)じゃないことだけは確かだね」

 「ほんとにハズカ詩集だったら、それはそれで恐ろしい本です」

 「あははっ、さすがにあたしなら消滅させるね、そんな本」

 「俺はああいうものは書いた事がないからよくわからないよ」

 「わからなくて良いと思うよ、そんなの」


 ミレイさんは何か経験があるんだろうか。いや、これは聞いちゃいけないことだ、きっと。そんなことを思いながらイリスはゆっくり3人で歩いていたが、前を歩いていたミレイが後ろにいるイリスに振り向きつつ、思い出したように話し始めた。


 「そうそう、イリス」

 「なんですか、ミレイさん」

 「はい。これ」


 そう言ってミレイはひとつの塊をイリスに手渡してきた。


 「あれ?これって」

 「それさっきの石じゃないか。イリスちゃんにあげるために買ったのか?」

 「うん、そだよ」

 「え?いいんですか?」

 「あはは、欲しそうにしてたからねー」

 「欲しいというか、ちょっと興味があったというか」


 若干曖昧な言い方になってしまったイリスに、ロットが気になったことを聞いた。


 「興味って、イリスちゃんは鉱石が好きなの?思えばしばらく考え込んでたようにも見えてたけど」

 「いえ、鉱石が好きっていうわけでもなくて、なんて言うか、こう、気になった、と言う方が正しいのかなぁ」

 「イリスがそう思ったなら、きっとこの石には何かあるんじゃないかなって思うんだ。あの時も何か気になってたみたいだからね。もしかしたらスゴい物かも、なんて思ったんだー」


 3人はその場でじっくりと石を見てみたが、黒い、と言うだけで特に変わった所も見えない。ましてや鉱石に詳しいわけでもないので、どんな鉱石なのかも3人はわからずにいた。


 「何の石だろうね」

 「うーん」


 ロットの疑問に答えられずにいるイリス。そんな中、ミレイはイリスにあの時に何を思ったのか聞いてみた。


 「イリスはあの時はどう思ったの?ただ興味を引かれただけ?」

 「表現し辛いんですけど、魔力のようなものを感じた気がしたんですよ」

 「魔力って、石からかい?」


 魔石でもない原石の状態で魔力が込められている、ともあまり考えられない。そもそもマナなら目には見えないし、自身の中にあるもの以外は感じることも出来ない。魔力まで高めることで初めて感覚として感じることができ、四大属性まで高めることが出来れば視覚として認識できるようになる。


 だがこれは石であり、所謂(いわゆる)意思の存在しない物なのだから、自身から魔力を発生させるなど聞いたことがない。もし仮にそんな物が存在するのなら、歴史上類を見ない大発見となるのだが、その線は限りなくないだろうと思うロットだった。


 「はい。今見てみると、特にそんな感じはないみたいなんですけどね。あ。私、買いますよ?」

 「あはは、どうせ100リルだからねー。気にしなくて良いよ」

 「でも・・・」


 値段ではなく、何となく思っていたというだけで買って貰う事が申し訳なく思ってしまうイリスに、ロットが優しく言葉を返してくれた。


 「まぁ、いいんじゃないかな。なにかの記念ってことで」

 「じゃああれだね、イリスの初めての冒険の旅記念だねー」

 「ありがとうございますっ」


 それならばと快く受け取り石をバッグへ大切にしまうイリス。石なので一緒に入っている薬瓶が割れないように配慮して仕舞っていく。丁度仕舞い終える頃に、これからの事をロットが二人に尋ねた。


 「さて、これからどうしようか、このままお店に戻るかい?」

 「思ったよりも早く終わっちゃいましたよね」


 ずいぶんと"すばらしき館"で楽しんでいたとはいっても、まだ昼の鐘も鳴っていないようだった。


 「あはは、それだけイリスがすごいってことだよ」


 そう言いながらイリスをぎゅっとして頭を撫でた。


 「くすぐったいです、ミレイさん」


 そう言いながらもイリスはとても嬉しそうにしている。


 「っと、また鎧つけてるの忘れてた。ごめんごめん」

 「いえ、嬉しかったので大丈夫ですよ」

 「とりあえずレスティさんに報告して驚かせちゃおうか」

 「そうだね、さすがに驚くと思うよ」

 「おばあちゃんにも魔法見せてあげたいなっ」

 「それじゃあ、お店に行こう!ちゃんとおうちに帰るまでが冒険だよ?」

 「なるほど。そういうものなんですねっ」

 「報告ならわかるけど、それは初めて聞いたよ」


 3人は笑いながら噴水広場をギルド方面へ曲がり、レスティ家に向かって行った。



 店まで戻ってくると鍵が開いてたため、ふと立ち止まってしまう3人。


 「あれ?鍵が開いてる?」

 「んー、レスティさん、お店開けたのかな?」

 「もしかして鍵を付け忘れたとかかな」


 しばらく考え込むも、そのまま入っていく3人に扉の音がカランカランと優しく店内へ響いた。少々間を空けて奥からレスティがぱたぱたと慌ててお店に向かってきた。どうやら鍵をかけ忘れたようだ。


 「ごめんなさいね、今日はお店お休みなんで・・、あら?イリス?どうしたの3人とも、何か忘れ物かしら?」

 「ただいま、おばあちゃんっ」

 「えっと、おかえりなさい?」


 疑問符を出しながら頬に手を当てて首を傾げるレスティは、なんとも可愛らしいしぐさだった。イリスは時々見ているが、二人にとっては初めてのことだったので、ちょっと驚いているようだ。

 レスティはごく最近まで心からの笑顔を見せた事がないと周囲に知られているほど、どこか心ここにあらずだったので、こういった表現をされる事に内心で驚かされる二人であった。

 そしてこれが本来のレスティであると思えた二人は、この表情の裏にイリスの存在があることに気が付く。


 思えば最初から見かけた時から、この子はとても不思議な子だった。二人は似たような感覚を持っており、同時にとても大切に思えるほどイリスに惹かれていた。

 きっとこれはレスティにも言えることなのだろう。ここにいる誰もがイリスを中心に動いている、そんな気さえ3人はしていたのだが、それは本人には知る由もないことであった。


 「あはは、実はねレスティさん。イリスの魔法の練習終わっちゃったんだよ」

 「え?・・・だ、だってまだお昼の鐘も鳴ってないわよ?」


 きょとんとするレスティ。それもそのはずで、イリスたちは魔法の練習に向かって行ったのだ。一日で終わるかもしれないなどと冗談じみた事を思っていたレスティではあったが、いくらなんでも早すぎる。どう考えても何か忘れ物をして取りに戻ってきた、と考えることが普通だと思われるほどに。そんなことを考えていたレスティに、イリスはさっそく覚えた魔法を使って見ることにした。


 どうやらちゃんと色として認識できるらしいので、早くレスティに見せてあげたくてつい気が急っているように少し興奮気味のイリスがそこにいた。その様子に年齢相応の姿を見られ、可愛らしい孫を微笑ましく見守るレスティであった。


 「見ててね、おばあちゃんっ」


 そう言いながらイリスはゆっくりと魔力を高め、徐々に風に変えていく。最初の時よりもずっと早く風になっているようで驚くロットだったが、ミレイに悟られないように表情を崩さなかった。


 (最初よりも魔力を出すのが少し早く上手になってる。すごいなイリスちゃんは)


 イリスから発せられる、その優しい色の魔力を見たレスティは、まあまあまあ!と驚いた顔でイリスを見た後、自分のことのように嬉しそうにイリスを褒めた。


 「すごいわ!すごいわイリス!なんて綺麗な風の色。それに、とても温かくて優しい風」

 「あ。こんな色してたんだね」


 はじめて魔力を見たイリスは感動しているようで、その姿を見ていたミレイが、ふとある事に気が付いてしまう。


 「・・・あれ?・・・イリス、さっきより魔力出すの早くなってない?」

 「そうですか?自覚ないですけど」

 「気のせいじゃないかな?」


 ミレイの言葉をさすがにロットは肯定はできなかった。またへこませては可哀相だ、そんな優しい嘘をついてしまうロットであった。


 そんな事がありつつも、ミレイとロットは今日のことをレスティに報告する。とはいってもギルドを通している正式な依頼ではないため、事後報告のような堅苦しいものではなかった。


 そして属性変換の話の辺りから、レスティの顔はどんどんと驚きでいっぱいになってきたようだった。 


 「そ、それじゃあ3アワールも経たずに、属性変換が終わって帰って来れたのかしら?」


 習得時間にはさすがのレスティも目を丸くしていた。それもそのはずだ。そもそも魔法とは、本来はあの本から理解しなければ手に入らない知識であり、たとえ同じ属性の先輩魔術師に指導してもらったとしても、属性変換の習得にはかなりの時間を要するのが当たり前と言われるほど難しいものだ。

 それを魔法書から一人で学習し、こんな短期間で属性変換を習得してしまうことなど前例がない。これにはロットが推測した『草原でお昼寝をしていた感覚』が理由ではあるのだが。


 「確かに草原で女神様とお昼寝をよくしてたとは聞いていたけれど、それにしても早いわね」


 驚いた顔から優しい笑顔になり、イリスに話すレスティ。


 「イリスはとても賢い子だから、おばあちゃん鼻が高いわぁ、うふふ」


 そうレスティに褒められながらなでなでされたイリスは、とても嬉しそうに目を細めて笑った。


 「えへへ」


 詳しい話を聞きたいレスティは二人を招いて、4人でお茶にしようと言い出し、イリスもそれに賛同し、喜ぶミレイに少々申し訳なさそうになりながらも提案を受けたロットであった。

 4人はゆっくりとお茶を飲みながら色んな話をしていった。魔法道具屋の話の事、不思議な黒い石や白紙の本の事、面白くてすごいブリジットの事など。


 「私は魔法道具屋さんに行ったことないけれど、イリスがそんなにも楽しめたのは何よりだわ」

 「うんっ、すっごい楽しかったよっ」

 「あらあらうふふ」


 頬に手を添えて微笑むレスティ。そしてミレイも同調したように話していく。


 「あのお店は楽しさが詰まってるよねー、あははっ」

 「ですです、とっても楽しかったっ」

 「そういえば道具の値段とか聞いてなかったけど、いくらくらいするんだろうね」

 「どうなんでしょう。ブリジットさんは殆どの子達(・・)には魔石が入ってるって言ってましたよね。たしか魔石ってお高いんでしょ?おばあちゃん」

 「そうねぇ。市販されている魔石と特殊な魔石数点に関してしか知らないけれど、基本的にお高いものだわねぇ。でもブリジットさんは趣味で作ってるって言ったのだから、案外お安いんじゃないかしら?」

 「さすがに100リルって事はないと思うけどね、あははっ」

 「うふふ、そのくらい安いとお部屋が素敵な品物でいっぱいになるわねっ」

 「ほんとに素敵なお店だったなぁ。なんていうんだろ、笑顔になれるお店って言うのかな。手にした人を楽しませたいって気持ちが伝わってくるような、そんな素敵なお店だったね」

 「うんうん、あたしもへこんだ時とかにあのお店へよく行くよ」

 「ミレイがへこんでるのをあまり見かけないんだけど、そこまであの店に行ってないってことなのかな」


 そう言いながらもロットの頭には、先ほどのへこんだミレイの姿を思い出していたが、あれはさすがに誰でもへこむだろうなと思い除外していた。

 ロット自身も修練した時間ではないにしろ、丸3日は属性変化に時間がかかっている。それでも十分早い方ではあるのだが、イリスの上達速度の比ではなかった。


 「あはは、あたしも結構へこむことがあるんだよ。最近はそうなったらお店じゃなくてイリスにお願いしてるけどね」

 「私に、ですか?何かお願いされましたっけ?」


 首を傾げてしまうイリスにミレイはいつも抱きついてるでしょ、と答えた。


 「あの時って、へこんでたんですか!?」


 そんな様子を微塵も見せていなかったミレイに、イリスは驚いてしまった。


 「毎回じゃないけどね。お店で1ぎゅっとお願いした事あったでしょ?ポーションもあんまり買わずに。

 あの時ね、前にも言ったように自分の限界が見えた気がしてね、すごく悩んでたんだよ。もしかしたらあたしはこれ以上前へ進めないかもって、割と本気で思ってたんだ。

 そんな時に噴水広場で魔法の応用の話を聞いてね、なんていうかな、自分にかちっとハマったって言うのかな、これならもしかしたらあたしは前に進めるかもって思えたんだ。

 実際のところ、修練もとてもいい感じにいってるから、あたしは確実に前へ進んでるね」


 その言葉に頼もしさすら伺えるミレイだった。そしてそんな彼女の瞳は、真っ直ぐを見つめていた。


 「とてもいい感じということは、もう完成間近か。ミレイも十分早いじゃないか」

 「あはは、なんか魔法がすごく面白くてさ、ついつい熱が入っちゃったんだよー」

 「完成したら一度見せてもらおうかな、さすがに興味があるよ」

 「いいよー」


 笑顔でロットに答えたミレイは、でもと話を続けた。そして次の言葉に引いてしまう3人だった。


 「でも、腰抜かしても知らないよ?あれは本気でやばいから」

 「そ、そんなにすごいのか・・・」

 「え・・・もしかして私、とんでもないこと言っちゃってたの?」

 「あらあら・・・」


 血の気の引いて行くイリスにミレイは話を続けて行く。どうやら本当にすごい魔法になりつつあるようだ。


 「あははー、まだ完成してないけど、恐らく完璧に魔法が発動できれば、後2割は威力が増えそうな気がするよ」

 「なんだかとんでもない事になってる気がするが、でも今度見せてもらうよ。もしかしたら俺にも何かできる魔法があるかもしれないし。そのきっかけを掴めるかもしれない」

 「得手不得手はあると思うので、もしかしたら誰にでも"自分にあった魔法"って言うのがあるかもしれませんね」

 「得手不得手、か。もしかしたらミレイには今の方法が合っているのかもしれないね。今のうちから自分に何が合ってるのかを考えておくか」


 呟くようなロットの言葉にミレイは、早くこっちの領域へおいでーって手招きしていた。イリスはもしかしてとんでもない事を言ってしまったような、そんなことを今更ながら感じていた。


 「それにしてもイリスには驚かされっぱなしよねぇ。魔法の応用についても、発想の柔軟性って言うのかしらねぇ。おさる絵本にも言えることだけど、どうもこの世界に生きている人は頭が硬いのかしら」

 「あたしもそう思ったよ。どうも魔法に馴染みがありすぎるんじゃないかな。聞いてみると別段不思議な事でもないんだよね。ただ思いつかなかったような感じがするよ」

 「そうだね、付呪があるからね。道具に魔法効果を付呪できるなら魔法を矢に纏わせることって、取り立てて不思議なことではないんだよね。よく考えたら今まで気づかなかった事に驚きだけど、足元は見えにくいって事なんだろうか」

 「私としてはただお勉強した事を推測で言っただけなので、まだ実感がないというか、いまいちお話についていけてないです」


 若干しょぼくれて寂しそうに言うイリスに笑顔で3人は即答して言った。


 「あはは、イリスはきっと直ぐにここまで来れると思うなぁ」

 「俺もそんな気がするよ」

 「うふふ、私もそんな気がしてるわ」


 えぇぇと若干引いてしまうイリスに3人は半分本気で思っていた。



 そんな中イリスは黒い石の事を思い出し、バッグから取り出した石をテーブルへ置きレスティにお願いしてみることにした。



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