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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十一章 前に進め
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"とても自然な事"


 続けてイリスはベラスコが言葉にした、魔物と対峙するのが怖いという事について言葉にしていくと、目を大きくしながら無言で驚かれてしまったようだ。


「先程ベラスコさんが仰っていた"魔物と対峙するのが怖い"という事は、とても自然な事だと私には思えるんです。私としても魔物はとても怖い存在ですし。

 あんな鋭い牙や爪、巨体から繰り出される突進に当たってしまえばどうなるかを考えて、恐怖を抱くのは極々当たり前のことなのかもしれません。寧ろ、直撃すればこうなるという予測がしっかりとできている、とも言い換えられるのではないでしょうか。

 その恐怖心を忘れてしまえば、きっと踏み入ってはいけない危険な領域へと足を進めてしまい、前に出過ぎて命を落としてしまう事にも繋がるのだと私は思っています。

 とても強い恐怖心と向かい合い、それでも慄くことなく武器を持つ事ができる人を、"冒険者"と呼ぶのではないでしょうか。

 それは街を出たことがない人には決してできない凄い事だと思います。そういう凄い事を既にお二人はなさっているんですよ。

 恐怖心を無くす事はしない方がいいと私は思います。それでも自分に出来る事を少しずつしていき、前を向いて歩いていく事を私は目標にしているんです」


 静かにイリスの話を聞いていたレグロとベラスコは、とても真剣な表情に変わっていた。そんな彼らに、偉そうなことを言ってすみませんと謝るイリスに、二人は言葉にしていった。


「いいえ、いいえ! とんでもありません! とても参考になります!」

「『恐怖心と向かい合い、それでも武器を持てる人を冒険者と呼ぶ』

 ……本当にその通りなのかもしれません。私にもそう思えます。

 なら私達は、常にその心を忘れずに、少しずつ前に進んで行こうと思います」


 本当にありがとうございますとイリスへ言葉にする二人。

 どうやら迷いはある程度吹っ切れたような瞳をしているようだ。


 彼らがこれからどのような冒険者になるのかは、誰にも分からない。

 もしかしたら大きな怪我をしてしまうかもしれない。

 それでも先輩冒険者であるホルスト達やヴァンとロットには、安心できるような後輩達になったと心の中でそれを感じ、安堵していた。そういった瞳を彼らはしていた。


 こんな職に就いている彼らには、どうしても避け難い悪い話が耳に入ることがある。

 顔や名前の知る人物が、魔物に倒されてしまったという最悪の悲報だ。

 それがどんな者であれ、一度それを聞いてしまえば、深い悲しみに包まれてしまう。

 きっとそういった事を『良くある事だ』と言葉にしている者の方が少ないのではないだろうか。あのヴィオラであればそう言葉にするだろうが、本心では彼女がそう思っている訳では決してない。寧ろ、辛辣な言葉を故人に投げかけているようで、その全てを自分に向けて放っている。彼女はそういった女性だ。


 そういった者達がとても多く、仲間意識を強く持つ傾向が冒険者には多々見られる。

 命を懸け、何かを成そうと言うのだ。そんなこと、そもそも常人には到底不可能だ。

 それでも続けられるのは、何か大切なものの為である事がとても大きいのだろう。

 それは大切なひとであったり、大切な想いだったりと、人によってその答えは違うだろうが、そういった"大切なものの為に命を懸けられる人"を同業者である冒険者達は互いを尊敬し、尊重しあっているのかもしれない。


 そんな冒険者には、明確な意思が必要になるのだとイリスは考えている。


 大切な誰かの為でも自由の為でも、お金の為だとしてもいい。

 ただそれに生きがいを感じるといったものであってもいい。

 それに命を懸ける事が出来るものであれば、なんだっていい。

 大切なのは、何か信念のような気持ちを持つ事だとイリスは確信していた。


 そうでなければきっと、悲しい事になる可能性が高まると、彼女には思えてしまう。

 覚悟もなく、ただ強くなりたいと思うのは危険な事かもしれないし、軽い気持ちで続けられるほど冒険者という職業は甘くは無いと思えた。

 常に命の危険と隣り合わせとなる街の外での冒険は、一瞬の気の迷いや油断や過信で、一気に命の危機に晒されることとなるだろう。

 そんな危険な世界で生きていくには、やはり明確な信念や覚悟が必要になるのだと、イリスは体感で学んできた。


 だからこそイリスは、二人へと言葉にしてしまった。

 先輩でもない自分が、初心者冒険者である自分が言葉にする事は憚られるはずなのに、どうしても言葉を止める事ができず、口を出してしまった。

 少しでも悲しい事にならないように。二人がずっと笑顔でいられるようにと。


 冒険者となってまだまだ時間としては短いながらも、相当に濃密な経験をして来たイリスには、偉そうな事を言ってでも伝えたい想いがあった。

 それを悪く捉えられる事もあるだろうが、それでも、ほんの少しでも心に響けば、きっと悲しい事を減らせるのではないだろうかと彼女は考え、彼らに言葉にした。


 イリスの奥底の気持ちまでしっかりと伝わったのは、どうやら先輩達のようだった。

 ヴァンとロットだけでなく、ホルスト、マルコ、デニス、アメリー、ファル。

 そしてシルヴィアとネヴィアにまで、彼女の心が優しく響き、とても温かな気持ちにさせられていた。


 ヴァンとロットは、彼女であればとてもよい教官になれると確信していた。

 それは彼女の師である、ルイーゼを髣髴とさせる姿を見せていた。

 年月と経験を重ねていけばイリスの恩師のように、いやそれ以上になれるだろうと、二人は確かなものとしてそれを感じ取っていた。


 そんな彼らは思いを馳せる。

 イリスの教えが世界に広まっていく未来を。


 きっとそこには、魔物に倒される者がかなり少なくなった世界なのではないだろうかと、思わずにはいられなかった。

 もしそうであるのなら、本当に凄い事を成してしまう事となるだろう。

 充填法(チャージ)を広める必要などない。心持ちと訓練次第で、幾らでも改善できる。

 そしてそれが実現すれば、レティシアやアルエナとは全く違う偉業となり、そしてイリスの姉とも違う形で世界を救う事にもなるだろうと彼らは思えてしまう。

 それを彼女の間近で見ることができるかもしれないという気持ちで、胸を弾ませてしまっていた彼らは、もしかしたらプラチナランクの先へと到達してしまう可能性を秘めているかもしれない女性を優しく、そして誇らしげに見つめていた。


 そして同時に彼らは改めて決意をする。

 彼女は世界を変え得る可能性を持つ、唯一無二の存在であると確信した。

 既に様々な新薬や、孤児院を含む街の改変に関わっているが、きっと彼女が成すものとしては本当に極々小さなものなのかもしれないと、思わずにはいられなかった。


 イリスの成したもの。そしてこれから成すもの。

 それらが何かは思いも寄らない事ではあるが、きっとプラチナランク冒険者どころか更にその先へと辿り着いてしまうのかもしれないと、彼らはただ漠然と想像していた。




 それからもイリス達は街門で楽しく話をし続け、宿屋へと辿り着けたのは日が傾いてしまってからとなる。

 その頃合になると街人も徐々に溢れるようになり、最初はぴりぴりとしていた空気も、宿屋に辿り着く頃には随分と平穏が戻って来ているように感じられた。


 ホルスト達は四人で拠点としている家があるそうで、そこで共同生活をしているのだとか。何とも仲が良いと思っていたイリス達だったが、どうやら彼らはここから西南西にあるリストールで出会った所謂馬が合う仲間達だそうで、常に四人で行動を共にしているそうだ。


 ファルはツィードに来てから長期滞在契約を宿で取っているらしく、目の前に佇む綺麗な宿屋を指差し、ここでお世話になってるんだよと笑顔で教えてくれた。


「それじゃあ、俺達はそろそろ行くよ。

 イリスさん、シルヴィアさん、本当にありがとう。後日改めてお礼をさせて欲しい」

「どうぞお気になさらないで下さい。

 寧ろ今回の件でファルさんや皆さんと出逢えた事を、私は幸運に思っていますから」


 ありがとうと小さく呟いたホルストは挨拶を改めてした後、宿屋の前で六人と別れ、街の中央へと向かっていった。

 彼らの後ろ姿が随分と遠くなるまで見つめていたイリス達に、ファルが宿をどうするのかと尋ねていく。


「それで、どうするの? 確か反対側にも宿があったけど、そっちは泊まった事ないからあたしは分からないんだ。こっちの宿ならとても親切にしてくれるからお薦めだよ」

「どうしましょうか、皆さん。折角ファルさんがお薦めして下さっているので、私はここの宿屋に泊まってみたいですね」


 仲間達へと尋ねるも、ヴァンとロットもこの宿を利用した事があるそうで、二人にも公表だったようだ。他の宿について尋ねていくシルヴィアだったが、ファルと同じように泊まった事が無いそうで、評判までは分からないそうだ。


「そもそも一度泊まった宿が良ければ、次に来た時も変える事はないんだよね。

 だから冒険者や商人が違う宿を選ぶ事は、割と少ないんじゃないかと俺は思うよ」

「うむ。特に大きな問題でもなければ、宿を変える事はないのが一般的ではないだろうか」


 そういうものなのですねと答えるシルヴィアは、言葉を続けいく。


「では、こちらでいいのではないかしら。

 あえて冒険をするのも面白そうではありますが、何かあってもつまらないですから」

「私もこちらのお宿で構いませんよ。

 それにファル様がこちらを利用されているのであれば、またお話もできそうですし」

「あたしの方もお話させて貰いたい事があるし、同じ宿だといつでも会えるから嬉しいよ」

「俺もここで構わないよ」

「ふむ。では決まりだな」 


 それじゃあ行きましょうかと言葉にしたイリスは、木製で大きめの扉をゆっくりと開いていった。


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