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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十一章 前に進め
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"一緒に歩いて行きたいと"


 二人を見据える彼女の瞳は、とても澄んだ美しいものだった。

 そんな彼女は、二人に向かって静かに、覚悟を感じられる声で言葉にしていった。


「あたしはあの誰も来る事が無いと覚悟を決めていた五層で、二人に誓いを立てた。

 でもあれは、あたし自身の覚悟の為で、誓いを立てたから仲間になりたいと思っているんじゃない事は分かって欲しい。あたしは二人を大切に思い過ぎてしまったんだ。 

 ずっとずっと一緒に居たいと思えてしまうほどに。

 こんな状況下だし、正常な判断が出来ていないと言われても仕方ないけど、この気持ちに嘘は無いんだ。二人のお陰で、二人と一緒に歩いて行きたいと思えたんだよ。

 勿論これはとても大切な事だから、イリスの仲間達で考えてくれて構わない。

 その答えは、イリス達がツィードを出立する前でいいんだ。でも、一度だけでいいから、仲間達と話し合って貰えないかな。それでだめならキッパリと諦める。

 だからあたしの事を、イリスの仲間達と一緒に考えて貰いたいんだ」


 懇願するように、イリス達へと言葉を紡ぐファル。


 今まで彼女を、自身のパーティーに誘った冒険者達はそれなりに多い。

 猫人種(ねこひとしゅ)である彼女は斥候(スカウト)としても優秀ではあるが、何よりもその種族が持つ戦闘技術が非常に高く、そこいらの人種(ひとしゅ)剣士(フェンサー)よりも遥かに強い。

 短剣で直剣並の攻撃力を持つ彼女をパーティーに入れる事が出来れば大幅な戦力増強となり、それはつまるところ、パーティーの生存率を上げる事にもなる。

 何よりも最前線で戦える斥候(スカウト)は、非常に希少な存在だ。


 そんな彼女を自身のパーティーへと誘う者は少なくなかったが、彼女はある理由からその全てを断り続けている。

 彼女の強さの秘密、身体能力強化魔法(フィジカルブースト)を戦闘に使う技術、そしてシルヴィアも見た、あのイリスの力のような美しく優しい光と、続けて見せた凄まじい格闘術。

 そのどれもが異質で、強さも冒険者では到達出来ない領域にまで踏み入っている。

 そして身体能力強化魔法(フィジカルブースト)を用いた戦い方など、おいそれと誰かに見せる訳にもいかず、彼女は自由冒険者(フリーランス)として一人の道を選び、歩み続けていた。


 イリスの使った力にファル自身も驚きはしたが、まるで自分と同じような想いをしていたのではないだろうかと感じる彼女は、本音で言えば、秘密を共有出来る唯一無二のパーティーに入れるかもしれないと思わずにはいられなかった。


 これらを彼女が言葉にせずイリスへと伝えている事に、シルヴィアも口を噤む。

 彼女がそういった特殊な環境下に自身が置かれている事を考慮せずに、まずはその旨を聞いて貰いたいと願っているのが痛いほど伝わっているシルヴィアは、それを言葉にする事など出来なかった。


 仲間として行動を共にしたいとファルは強く願い、その提案をイリスの仲間達に託していこうとするも、イリスの答えは既に決まっているようだった。


「私はチームリーダーですが、それを一存で決める事は出来ません。

 この件は、仲間達に報告してから答えを出したいと思います。

 込み入った話になると思いますので、まずはツィードを目指した後にしましょう。

 でも私個人では、ファルさんとご一緒したいと思ってました。とても不思議な感覚で言葉にし辛いですが、出会った時から一緒に旅をする姿が見えていたんです」

「……そうですわね。私も不思議とその姿が見えました。

 初めてお会いした方なのに、とても不思議な感覚でしたわ。

 それにもう、背中を預け合った仲なのですから、そんな余所余所しい事は言わないで欲しいですわ。一応言葉にしておきますと、私は賛成ですわ。こちらから是非にとお願いしたいくらいです」


 二人の言葉に目を大きく見開いてしまうファルは、嬉しさのあまり涙を溜めながら優しく微笑み、ありがとうと言葉にしていった。



 暫く時間を挟み、そう言えばと思い出したようにイリスは二人に言葉にしていく。


「三層の地底魔物(クリーチャー)がいた場所の地面が、物凄く抉れていたんですけど、何があったんですか?」

「あー、あれか。えっと、何て言うか、本気で殴ったら、ああなっちゃったんだよ」

「……え……殴ったんですか? ……ま、魔法じゃなくて?」


 魔法でもなければ、ああはならないだろうと思えた痕跡に、イリスは引いていた。

 あれほどの威力を、魔法ではなく殴って付けられるのだろうかと考えてしまうのも致し方のない事と言えるだろうが、それを直視してしまっているシルヴィアは、思い出したように苦笑いをしながら答えていく。


「……あれは本当に凄かったですわ。……今でも信じられないほどの威力(もの)でした」

「まぁ、なんて言うかね、全部説明すると物凄く長くなっちゃうから掻い摘んで話すと、あたしが使っている格闘術は、猫人種(ねこひとしゅ)であれば、誰もが一度は習うものなんだよ。

 流石に流派を皆伝するまでに格闘術を昇華したのはあたしくらいだけど、ある程度なら猫人種(ねこひとしゅ)であれば誰もが使えるんだ。

 尤も、魔物相手に格闘で倒すのは、猫人種(ねこひとしゅ)でもあたしくらいだろうけど……。

 あの凄まじい力を出した理由は、別にあるんだよ。

 これに関しては、あたし達の種族に大昔から伝わる伝承に基づいて言葉にする位しか出来ないんだけど、それによると『来たるべき時に適格者が目覚める』らしいよ。

 その"適格者"ってのが何なのか、あたしは勿論、故郷の人も誰一人として知らないんだ。正直、あたしもそんなの信じてなかったし、猫人種(ねこひとしゅ)の誰もが胡散臭く思ってるけど、どうやら本当の事だったみたいだね。

 何故あたしなのかも、どうして今なのかも全く分かんないけど、まぁ、無事に生き残れて良かったなぁ、程度にしか思ってないよ」


 何とも大らか(・・・)な答えが笑いながら返って来てしまい、微妙な表情を出してしまうイリスとシルヴィアだったが、そんな彼女達へとファルは言葉を続けていった。


「あたしが体得した"覇闘術(はとうじゅつ)"と呼ばれる格闘技術は、大昔から猫人種(ねこひとしゅ)に伝わる技術で、種族特有の高い身体能力を上手く使いながら敵と戦う為のものなんだ。

 本来この技術は格闘術として用いられるものなんだけど、その強さの秘密は体捌きにあって、これを習得すれば様々な応用が可能で、重いもの以外の武器の扱いが非常に上手くなるんだよ。正確に言うならば、効率よくダメージを与えられるってところなんだけど、五層で伝えたようにあたしには苦手で、格闘術しか上手くなかったんだよね。

 そういえば幼馴染によく言われてたっけ。『あんた、そんなんじゃ死ぬわよ』って」


 笑顔で笑いながら言葉にするファルに、また苦笑いをしてしまう彼女達だった。


 そもそも体捌きとは、全ての戦闘技術において重要となる技術のひとつだ。

 身体の重心を上手く扱うだけで、より良いダメージを魔物に与える攻撃が出来るだけではなく、魔物の攻撃を回避するのにも関係しているとても重要な技術となっている。


 これに重きを置いている女王エリーザベトがイリスに格闘術を学ばせたのも、その一環である。これを習得するしないで、戦闘技術に大きな差として表れてしまう為、イリスだけではなく、シルヴィアとネヴィアにもしっかりと学ばせてある。

 当然、習熟する速度の差は、人によってかなり開いてしまう事も多いのだが、それでも並の冒険者では、そこまで鍛える者は割と少ないと言えるだろう。


 この技術を習得している者の多くは、ゴールドランク冒険者の中でも上位とギルドから言われるほどの者が、それをしっかりと学んでいる。

 その中には、当たり前のようにプラチナランク冒険者の誰もが持っている技術となるが、ここにイリスの姉やレナードも含まれている事を、今だからこそイリスはそれを察する事が出来た。


 そしてこの技術は、持っていないだけで、命に直結する可能性が出てくる。

 イリスの師である王国騎士団長ルイーゼが、彼女の修練を始める前に伝えた、

剣士(フェンサー)には剣士(フェンサー)の鍛え方がある』という言葉の中にもこの技術の体得は含まれていたが、より良く学ぶには格闘術が一番であるというエリーザベトの考えは尤もであった。

 己の身体のみで体得するその技術は、攻撃にも防御にも転ずる事が出来る、非常に有能な力である事は間違いないものの、そこまで鍛え上げようとする者は少ないのが現状だと、残念ながら言わざるを得なかった。


「まぁそんな訳で、あたしは格闘しか出来ない、ダメな子扱いされて育って来たんだ」


 あははと笑うファルに、最早言葉にならないイリスだったが、シルヴィアはふとあの時起きた現象について尋ねていく。

 シルヴィアの言葉を聞いたイリスは、目を丸くして驚いてしまっているようだ。

 あれはどう見ても、イリスの"想いの力"と同質のものに思えてならなかったが、どうやらファル自身もそれについての詳細は分からないようだった。


「あの光はあたしも初めて見たよ。たぶんだけど、それも伝承通りであれば、適格者を選ぶ儀式が影響しているんじゃないかな、と思うよ。詳しくは分かんないけど」

「儀式、ですの?」


 全く見当も付かないといった様子の二人に、ファルは説明をしていった。


「儀式っていうのは、あたしら猫人種(ねこひとしゅ)が十歳になると皆が受けるもので、集落にいる誰もがそれを受ける決まりになっているんだよ。

 ……とはいっても、これが凄く不思議なものでね。経典と呼ばれている書物の表紙に手を触れるだけっていう、良く分かんない謎のものなんだよ。

 それも経典とは名ばかりでね。中身が何にも書かれていない真っ白な本で――」

「「――白紙の本なんです()!?」」

「……え? え? ……あ、うん。そだよ?」


 思わず身体を乗り出しながら声を大にして同時に言葉にするイリスとシルヴィアに、上半身を後ろに若干下げながら答えていくファルは、思いのほか驚いてしまっていた。


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