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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十一章 前に進め
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"自信のある推測"


 暫しの時間を挟み、目が覚めた二人へ申し訳なさそうに、イリスはしゅんとしてしまっていた。


「……だ、大丈夫ですか?」

「……あー、うん。大丈夫、だと思う……」

「……私、初めて意識が飛んだ気がしますわ……」

「……すみません。少々舞い上がってました……」


 そう言葉にするイリスだったが、あまりにも衝撃的だった為、目の前に転がるそれを見つめても尚、現実として受け止め切れていない様子を二人は見せていた。


「それで、それ(・・)、どうするの?」

「そうですね。ツィードに着いたら、お母さんに送ろうと思います」

「……悔しいですわね。これを見た時の母様の様子が見られないだなんて」

「あれ? 二人は姉妹だったの? てっきり友人関係だと思ってたよ」


 首を傾げるファルにイリスは、シルヴィアとの関係を話していった。

 当然確認を彼女にするも、全く問題ありませんわと言葉にされてしまった。

 正直なところ色々と問題なのだが、彼女にとっては本当に些細な事のようだった。


 そんなイリスの様子にくすりと笑いながら、シルヴィアは自ら名乗り出て、様々な事を話していく。母の事、父の事、妹の事、イリスの事、家の事も。

 但し今回は、"愛の聖女"を流石に伏せた彼女だった。


「…………ふぃ、フィルベルグ王国の、だ、第一王女……?」


 顔を引きつらせながら言葉にするファル。

 それはそうだろう。一国の王女様が冒険者の格好をするだけでなく、要救助者である自分を助けに来た。それもダンジョンだと理解した上で、だ。

 ここに驚かない者がいるのであれば、まじまじと見てしまうくらいだろうと彼女は考える。


 真っ先にあり得ないという推察が生まれるも、すぐさまその考えを破棄した。

 こんな格好をしている時点で只者ではない。只者であるはずがない。

 冷静に考えてみれば分かる事だったが、そんな余裕すらなかった状況でその答えに辿り着く筈もなく、ここに来て漸く心が正常に戻りつつあると感じるファルだった。

 いや、それもドレイクの話をイリスから聞き、そのとんでもない存在の素材を目にする前までは、というのが正確なところなのだろうが、正直なところ、そんな存在と死闘を繰り広げて来たであろう事は間違いないと確信するファルがイリスを前に、それを否定する事など出来る訳もなかった。


「隠している訳ではありませんが、私はフィルベルグ王国第一王女シルヴィア・フェア・フィルベルグです。あまりにも目立つ肩書なのと、今は一介の冒険者ですので、私は"ただのシルヴィア"ですわ」

「そっか。……うん、そうだよね。何となくだけど、分かったよ」


 納得するファルは、続けて今後の事を話していった。


「念の為、話しておくね。あたしがギルドに報告する点は、以下になるよ。

 あたしは洞穴入り口から十メートラほど落下し、頭を打って意識を失っていた。

 そこに二人が助けにやって来て、迷路みたいな構造の洞穴を進み、暗い場所に迷い、行ったり来たりと休憩を繰り返しながら、漸く出口に辿り着いた。

 魔物の存在は見られなかったけど、洞穴の規模からダンジョンと推察し、出入り口となる場所を塞いだ。これでいこうと思うよ」

「魔物に遭わずダンジョンと断定する事に、ギルドから疑問を持たれませんの?」

「それに迷路みたいな構造と報告をすると、調査隊を派遣されてしまうんじゃ?」


 二人は言葉を返していくが、それはまずないだろうとファルは答えていった。


「いや、それはまずないと思うよ。なんせ百二十年ほど前に派遣して、手痛い目に合っているからね。『ダンジョンらしき』っていうとても曖昧なもので、穴を塞ぐには十分過ぎるんだよ。だからこそあたしも覚悟してたくらいだし。

 イリスの使った魔法の効果で、推測するまでもなくここは"コルネリウス大迷宮"で間違いない。でも、そんなことを言葉にすれば、世界中の人々を不安にさせるだけだし、言ったところで対処法は一つしかない。

 だったら不安を煽るような事は、出来る限り避けるべきだと思うんだ。

 けど問題は、地底魔物(クリーチャー)が地上へと向かわないかって事だよね」

「確かにそうですわね。あれだけの強さとなると、世界でも倒せる者は相当限られてきます。幸いイリスさんの話では四層までは刈り尽せたと思われますが、それでも地上に出てくる可能性を考慮して、ありとあらゆる通路を塞ぐべきではないかしら?」

「いえ、それはもう大丈夫だと思いますよ」


 イリスの思わぬ言葉に、きょとんとしながら見つめてしまう二人。

 それについての推測を二人に話していくも、これは恐らくという曖昧なものではなく、確証じみたものを感じていると強く言葉にしていった。


 続けて、ダンジョンの構造の事、特に通路についての話を軸に、何故地底魔物(クリーチャー)が上へ来ないかについての推測を詳しく話していくイリス。

 戦闘中に"潜伏(ハイド)"や"気配遮断(スニークアップ)"を意図的に切ったと、表情を全く変えずにさらりと言葉にするイリスに二人は驚愕しながらも、しっかりとその仮説を二人は聞いていく。

 次第にイリスの推測が当たっているように感じ、彼女の言葉に納得してしまうシルヴィアとファルに、イリスは落ちている石を手に持ちながら言葉を続けていく。


「この石は、マナを含んでいる特殊な素材です。

 地底魔物(クリーチャー)はこれを食し、穴を掘り進め、より高密度のマナが含まれた石を求めて、その殆どが下層に集中しているのだと思われます。生物のいない場所で生きていけるのも、マナが豊富に含まれるからこそ、それを取り込む事で可能としているのだと思われます。それこそが地底魔物(クリーチャー)の強さと、複雑なダンジョンの構造にも繋がるのでしょう。

 そしてドレイクですが、あれは百二十年前にここを調査したプラチナランク冒険者達とは遭遇していなかった筈ですから、下手をすれば、数百年は生き続けている可能性があります。だからこそ凄まじい強さを持つ、とも言えるのではないでしょうか。

 危険種以上に特殊な存在とも思えますし、明らかにその強さは桁が違いましたが、下層へと向かわなければ、まず出遭う事のない存在だと推測しています」


 もし調査隊が遭遇していれば、確実に全滅していたであろう事は想像に難くない二人だった。そもそも地底魔物(クリーチャー)ですら仕留められなかった可能性が高い。

 恐らく嘗てのプラチナランク冒険者達は、二層を進むにつれ徐々に凶悪になっていく魔物に対応しきれずに、三層入り口辺りで引き返したとイリスは予想する。

 勿論これには詳細が書かれた文献の類は一切残っていない為、推測の域を越える事はないのだが、だからこそ、洞穴入り口に待機しているゴールドランク冒険者と思われる者達が、フロッグ程度に怪我を負わされたのだとも言えなくはないだろう。

 いくら不意を突かれたとはいえ、暗い場所を警戒しながら進んでいたはずの彼らが怪我を負う事自体、既に異常事態であり、それも二人がその場を動けないほどのダメージを受けたとなると、並の魔物ではないと容易に想像が付く。


 ダンジョン二層の入り口付近にいた魔物は、外とは見た目がほぼ変わらず、狂暴化していると判断されたのではないだろうか。

 次第に奥へと進み、二層の途中から急に地底魔物(クリーチャー)が現れて来たのかもしれないが、これに関してはいくら考えても答えなど出ないだろう。


「……なるほどね。食事が十分に取れるなら、地底魔物(クリーチャー)が地上に出る事はない、か」

「確かにその説であれば、辻褄が合いますわね」

「あくまでもこれを調べるには、五層以下の深部へと進まなければならないと思いますが、それは私には不可能ですし、知ったところで何も良い事はないと思えます。

 なので、これ以上深追いする事なく、ダンジョンを抜けるのが最善でしょうね。

 幸いな事に、四層にも五層の魔物はまだいないようです。時間の問題かもしれませんが、恐らくは四層から上に来る事は無いと思います。三層には二匹しか敵がいなかった、という事もこれで繋がると思いますし」


 ダンジョンを掘り進め、掘られたものが存在しない点。五層で感じた重苦しい空気。イリスのマナに過敏な反応を見せた地底魔物(クリーチャー)迷宮の階層支配者ルーラー・オブ・ザ・ハイアラーキと呼ばれるだけの凄まじい存在。ダンジョンの深部に行けば行くほど大量にいる魔物。そして長年発見されずにいた"コルネリウス大迷宮"の三層以上の場所に魔物が殆どいなかった事も。

 そのどれもが、イリスの仮説を裏付けてしまっていると思えるものだった。


 彼女達に出来る事は、他の冒険者が踏み入れないように、この二層へと向かう通路を封じる事だけで十分だろうと思われた。

 わざわざ閉ざされた通路を掘り進む者などいない。

 そんな事をすれば、ギルドから"お叱り"では済まないほどの大事となる。

 これまで地上にあれらが出て来たという報告は一切されていないし、地底魔物(クリーチャー)も地上へと向かうことは考え難い。冒険者対策に穴を塞ぐだけでまず問題ないだろう。


「あとはホルストさん達と合流する事だけど、こっちはどうしようもないかな。もう随分とツィードへ進んでいるだろうし、上の二人と一緒に追い付くのは難しいね」

「いえ、それについては私達の仲間と、ここから真っ直ぐ街道へと出た近くの場所で、野営をしながら待機して貰っています。まだ時間に余裕がありますので、合流出来ると思いますよ」

「そ、そうなんだ。まさか全部イリスの作戦通りに事が済んじゃったんだね」


 目を丸くして驚いてしまうファルだったが、イリスからすると異例どころではないほどの事が起き続けてしまっていた。何度考えても無事に生還出来たのは奇跡だったと感じてしまう彼女が、流石にこれを口にする事はなかった。

 何はともあれ、無事に全てが丸く収まったようで心から安堵していた一同だった。


 だが今回は、本当に危なかった。

 何かがほんの少しでもずれていたら、こうして笑ってなどいられなかっただろう。

 もしイリスが負けてしまっていたら、彼女を探しにシルヴィア達が向かっていた。

 そうなれば確実にイリス達は全滅していた。最悪地底魔物(クリーチャー)を誘導し、地上へと溢れさせてしまっていたかもしれない。


 その後の展開は想像したくもない、恐ろしい事になっていただろう。

 地底魔物(クリーチャー)を倒せる者など、世界には本当に極々少数しかいない。

 世界中の兵士や騎士達が挑んでも、まず勝つことなど出来ないどころか、ダメージすら負わせられないだろう。

 世界中に悲しみを振りまく事になり、世界中の人々は街から外に出られなくなってしまう。そうなれば言葉通り、世界が破滅へと向かって行く事となる。


 そうはならなくて本当に良かったと改めて思うイリスは、それじゃあ今後の話をしましょうかと二人に言葉にすると、それをファルは止めながらイリス達へと話していく。


「イリス、シルヴィア。あたしを、二人のチームの仲間に入れて欲しいんだ」


 その表情はとても真剣で、澄んだ瞳で真っ直ぐ二人を見つめていた。



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