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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第二章 想いを新たに、世界へ
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"魔法道具屋"さん


 旅を終え、城門を通り街へ戻る一向は、これからの事を話した。


「さて、これからどうしようか」

「イリス、魔法道具(マジックアイテム)屋に行ってみようか?」

「行ってみたいです!」

「あははー、それじゃあ行ってみよう」

「わーいっ」


 そう喜ぶイリスとそれを見て楽しそうなミレイ。ロットはというと、これから行く場所に不安を感じていた。それもそのはずだ、なぜならあの店は・・・。そう思いながら付いていくロットだった。



 その建物は城門を入って直ぐのとても良い立地にある店で、外観は普通の雑貨屋さんのようなのだがお店の中に入って行くと、そこは形容しがたい怪しげなアイテムでいっぱいだった。


「あはは、相変わらず面白いお店だね、ここは」

「うわぁ、不思議なものがいっぱいだー」


 きらきらと目を輝かせているイリスの瞳には、色んな謎のアイテムが移っていた。そういえば店主さんはどこだろうと思いながらも、面白い商品を見ているイリス。


「みてみてイリス、これおもしろいよー」

「あはは、なんですかこれっ」


 楽しそうなふたり 女の子はこういうのがいいのかなと疑問のロットであったが、そんな中、店の奥から一人の女性がやってきたようだ。


「ようこそ、私のお店"すばらしき館"へ!」


 お店の奥から出てきた女性は、年齢が20代後半から30前半くらいだろうか。赤い癖毛のショートに赤く少々垂れた瞳で、真っ黒なローブを着ていた。その全身から喜びをあらわにした女性は、可愛らしい顔立ちでとても魅力的なひとだった。


「やぁ、ブリジットさん。こんにちはー」

「いらっしゃい、ミレイちゃん。今日は友達をいっぱい連れて来てくれたんだねー。とっても嬉しいよ!」

「うん、このお店に興味を持ってる子を連れてきたよー」


 その言葉に女性は物凄い嬉しそうに反応した。


「なんと!?すごいよミレイちゃん!もしかしてそこの可愛らしい子かな?それとも以前一度来てくれた彼かな?」

「一度来ただけなのに覚えているんですか?」

「当然だよー少年よ。一度会ったお客さんを忘れるわけ無いよ」


 店主の女性はけらけらと笑っていた。楽しそうに笑う人だなぁとイリスは思う中、ミレイが私の紹介をしてくれた。


「あはは、今日はロットの方じゃないんだ、お客はこっちの可愛いイリスだよ」

「おぉー!それじゃあ自己紹介するね!私の名前はブリジット。このお店"すばらしき館"の主人です。よろしくねー」


 そう言ってまたけらけらと笑ったブリジットに、お辞儀をしながらイリスは答えた。


「はじめまして、私はイリスといいます」

「おー、礼儀正しい子だねー。可愛い子だし値引きしちゃうよ、ゆっくり見ていってね」

「はいっ、ありがとうございますっ」


 そう言いながらイリスは店にある商品を見ていく。よくわからない物が、というよりも全くわからない物がいっぱいで、どう見ていいのかわからなくなるイリスに察したブリジットは、説明をしていく。


「うちのお店は他のお店とはちょっとだけ違うんだよ。基本的に普通の商品はこのお店には置いてなくて、そして殆どが一点物なんだよ。だからわからない事があったらなんでも聞いてねー」


 そう言いながら明るく笑うブリジットに、イリスは色々と聞いてみようと思った。それじゃあ遠慮なく、と言いながらイリスは手前にある箱を指差し、これなんですかとブリジットに質問した。見た感じでは普通の箱なのだが、ブリジット曰く普通の商品は無いらしいから、きっと特別な物なのだろうとイリスは思っていた。


「それはねー、横にある色の違う部分をさわってみて?」


 そう言われてイリスが箱の横を見てみると、大きさが2センルくらいの色の違う丸い部分があった。ここかなと思いながらイリスがその部分に触れて見ると、箱はぽん!っと大きい音がして蓋が上に飛んだ。


「ひゃあっ」


 今まで出した事のない声が出てしまったイリスは、目を白黒させながら口をぱくぱくさせていた。


「な、な、な」

「これはねー、箱の横にある色違いの部分を押すと、箱の蓋が飛ぶ箱だよ!おもしろいでしょー!」


 そう言いながらブリジットは『箱の蓋が飛ぶ箱って!』と言いながらお腹に手を当てけらけらと笑っていた。しばらくしてイリスが落ち着いてきた頃合を見計らい、ブリジットがとても立派な剣を両手で渡してきた。


「それじゃ、こっちの剣を持って振ってみて?」


 そう言いながら大きくてとても立派な剣を手渡されたイリスは、重そうな剣だから落とさないように気をつけなきゃと思いながら受け取った。受け取った瞬間、イリスが片手でも持てるほどの物凄く軽い剣で驚いてしまうが、ブリジットに言われるまま剣を振ってみた。もちろん剣なんて振った事ないから、両手で持ちながら大体こんな感じかなと思いながら。


「えい!」


 ゆっくりと剣を振ったイリスだったが、剣はぶぉん!と、物凄い音を出した。まるで剣の達人が振った様な物凄い音にびっくりして剣を落としかけたイリスは、また目を白黒させていた。


「な、なんですか、これ」

「振るだけで誰もが剣の達人になれる剣だよ!」

「え?もしかして音だけじゃなくて、すごい切れ味とか、すごい威力とかあるんですか?」

「ないよ?音だけ。切れ味もなくて紙くらいしか切れないね。名づけて『誰でも紙の達人剣』・・紙の達人剣て・・・あっはは!」


 そう言ってまた我慢できずにけらけら笑う主人ブリジット。どうやら酒を飲まなくても笑い上戸になれるらしい。


 ミレイはそんなブリジットにあははっと笑い、ロットは若干呆れ気味で、イリスはというと、あたふたしていた。どうやらイリスが今まで出会ってきた人物とはかなりかけ離れた存在で、どう接していいのか悩んでいるようにも見える。


 イリスは剣をブリジットに返し、こっちの眼鏡は何ですかと聞いた。割と楽しんでいるように見えたロットは、イリスの好きにさせてあげようと大人しくしている事に決めた。


「これはねー、見えない眼鏡だよ。眼鏡っていうのは、視界を見やすくさせる為の物でしょ?これは―――」


 ブリジットがそう言いかけた時、彼女よりも先にミレイが答えた。そのミレイを見たイリスは耳がぴょこぴょこなってるミレイを見て、楽しそうにしてるなぁと思えた。


「わかった!見えないものが見えるんだね!物凄い視力になるとか、魔物が発見しやすいとか!ダンジョンで危ない場所が見えるとかするんだね!」

「はずれー!正解は、『何にも見えない眼鏡』でしたー!」


 けらけら笑うブリジットはイリス眼鏡を渡し、手渡されたイリスはその眼鏡をかけてみると・・・。


「ほんとだ!なんにもみえない!・・・って、眼鏡なのに!?」

「眼鏡なのに何も見えなくなる眼鏡・・・あっははは!」


 段々ブリジットがどんな人かわかってきたイリスは、余裕が出てきたらしく、ちょっとずつ面白くなってきたようだ。ミレイは正解できずに、むぅっと残念そうにしてる。ロットはというと、そんな二人を温かく見守っているようだ。


「ブリジットさん、こっちの壷は何ですか?」


 段々面白くなってきたイリスがブリジットに、大きさ20センルくらいの壷を指差し質問する。ブリジットはそんなイリスに壷の説明していった。


「この壷を手に持って横に傾けてみて?」


 そう聞いてわくわくしながらイリスは両手で壷を傾けてみると・・・。


『ぼえぇえぇぇええぇぇ』


 壷から変な声がした。


「あははは、変な声ー!」


 楽しそうに笑うイリスにブリジットは、それがイリスちゃんのツボなのね、壷だけに、と言いながらけらけら笑っていて、それに釣られてミレイもあははと笑っていた。そんな三人の笑い声を聞いて、今日も平和だなぁと店の窓から見える空をロットは見上げていた。





   *  *   




 そんな時間がしばらく続き、色々と商品を見てまわりながらイリスはブリジットの説明を聞いていた。


「これはねー、ここにある魔石を使うとこの道具の中にごみを吸い取ってくれるすごい道具なのよ。小さいものから大きいものまで、この道具の下についてる口に入るものなら何でも吸ってくれる凄い道具なのよ!・・・まぁ、吸いすぎると道具が破裂して中身が全部飛び散っちゃうんだけどね」


「それじゃあこっちは?」


 そういったミレイが指をさしたのは、台に固定された棒状の先に羽のような物が三つ広げた状態で付いているものだった。


「これすごいのよ!なんと風を出してくれる道具なの!どんなに暑い夏の節でもこれさえあれば安心!いつでもどこでも涼しい日々を過ごせるわ!まぁ、魔石の威力の調整を失敗して、風が強すぎて人も立っていられないくらい強いんだけどね。大丈夫!人が転んで転がる程度だから!」


「ブリジットさん、こっちは?」


 イリスが指差したのは、男性用の帽子の日除けの部分に、さっきの3枚の羽が付いているものだった。


「これすごいのよー!なんと帽子を被ってるだけで風を送り込んでくれるのよ!さっきのやつのちっちゃくしたのをくっ付けてるのよ。・・・問題は風が強すぎて目を開けていられないって事なんだけどね」


 続けてミレイがブリジットに説明を求めた。今度は箱型の大きめの物らしい。


「これすごいのよ!この道具に入れて魔石を使うと、自分で洗わなくても勝手にお皿を洗ってくれる道具なの!これで主婦の皆様もらくらくねー!・・・まぁ、魔石の威力が強すぎてお皿も割れちゃうんだけどね」


 楽しそうな二人に説明を続けるブリジットは、楽しそうにけらけら笑いながら説明をしていく。この女性像、光るのよー、と言ったソレは、くわっと目が開き、がぱっと口を開きながら光る女性像だった。もちろん光っているのは女性の両目だ。


「「おぉー!」」


 感心したように光る物体(それ)を見ている二人を見ながら、女の子ってこういうのが良いんだろうかと、もはや正常な判断が出来かねているロットであった。


 その後も、口が大きく開いた虎のぬいぐるみに、靴を脱いだブリジットが口から入っていき、しばらくもぞもぞしながら顔だけにゅっと出して、虎に食べられたような顔をしながら『ぎゃあああ』と叫ぶブリジットとか、ライオンのたてがみっぽいアクセサリーを顔に合わせながら、『これさえあればお宅の可愛いにゃんこも一瞬で獰猛なライオンに!がおー!』、だとか、ネギの形をしたマフラーを首に巻いたりだの、とても楽しそうに説明しながら遊んでいるブリジットと、あはは笑うミレイに、おぉー!っと言いながら笑顔で拍手をしてるイリス。そしてもはやどうしていいのかわからなくなったロットと、"すばらしき館"は開店以来、初めての賑わいっぷりをを見せていた。



 そんな中、イリスはふと横を見ると今までとは違うアイテムを見つける。今までの紹介されたアイテムは作られたものだったが、これはどう見ても作ったとは思えないものだとイリスは思う。


「ブリジットさん、これって何ですか?」


 そう聞いたイリスに聞かれたものを見るブリジットは、若干熱が冷めたように話し出した。


「あー、それはね、ある遺跡で拾ったものなのよ」


 イリスは少し戸惑ってしまっている。今まであれだけ元気に話していたブリジットが、急に静かになってしまった為だ。自分のせいかとも思ったイリスが若干狼狽(うろた)えていると、彼女は説明をしてくれた。


「あはは、ごめんね。違う違う、イリスちゃんのせいじゃないよ?ごめんねー、勘違いさせちゃって。今までのアイテムは私が作った物だったから全部愛着のあるアイテムなんだけど、それは拾ってきた物だからね、思い入れとか全く無いのよ。ようするに私の興味が無いアイテムね、それは。

 それに、何の変哲もない石だって、鉱石専門鑑定士のお墨付きを貰っちゃった残念石なのよ。不思議な石ではあると思ったんだけどねー。私の目も濁ったもんさー!」


 そう説明しながら、またけらけらと笑うブリジット。目利きに自信があったブリジットが珍しく外れを引いたらしい。


 よかった、私のせいかと思ったけど違うんだねとイリスは思いながら、じゃあこれはただの石なのかぁ、と石をまじまじと見ていた。大きさは10センルくらいだろうか、見た目はごつごつした黒い石だけど、なにか、こう・・・。


 そんなイリスをミレイは不思議に見ていたが、なんとなく察しが付いたようで、ブリジットに話しかける。


「ブリジットさん、これいくら?」

「うん?ミレイちゃん、こんなの欲しいの?」


 ブリジットのその言葉にミレイはあははと笑いながら、ここお店でしょ?と言っていた。


「んー、正直なところ、値段は決めてないのよねー」

「あはは、それじゃあ安くしてよ」

「そうねー、じゃあ100リルでいいわ」

「それはさすがに安すぎじゃ・・・」


 あまりの安さに驚きを通り越して引いてしまうイリスに、ブリジットは答える。


「だって、置いててもきっと売れないものだもの、鑑定士が無価値と判断したものだから正直ただでもいいんだけど、結構苦労した先で見つけた物だからねぇ」


「じゃあはい、100リルね」

「まいどありー!」


 そう言いながらお金を受け取る満面の笑みのブリジットは、そういえばと思い出したように奥へ戻って行き、しばらくすると2冊の重そうな本を持ってきた。


「こんなのもあるよ、どうかな?」


 どすん、と重い音をさせてテーブルに置き、ブリジットは2冊の本が見えるようにテーブルへ並べた。なんの本だろうと首を傾げるイリスだったが、そんな中、ロットも興味が出たようで近づいてきてブリジットに聞いた。


「これはどんな本なんですか?」

「お!少年よ、これに興味がおありかい?」

「そうですね、本は割と好きなので興味があります」


 そう言いながら笑顔になるロットだったが、ミレイが興味を無くさせていってしまう言葉を口にした。


「このお店にあるんだから、普通の本じゃないんでしょ?」

「まぁねー」

「これはどういった本なんですか?」


 今度はイリスが本について聞き直した。


「まずこっちは、私が書いた本だよ」


 ぽん!っと本の表紙に手を乗せるブリジットはそう言いながら説明を続ける。


「おぉー、すごーい!ブリジットさんが書いた本って、どんな内容なんですか?」

付呪道具(エンチャントアイテム)について書いた本だよ」

付呪道具(エンチャントアイテム)、ですか?」


 聞いたこと無い言葉に首を傾げるイリスであったが、恐らく魔法の一種なのかなと予想した。そんな中、興味を若干取り戻したロットがイリスの疑問に答えた。


付呪(エンチャント)って言うのは、アイテムに魔法的な細工を施す技術の事だよ。有名どころで言うと魔石がそうだね。中には装備品や装飾品なんかにも付ける事が出来るすごい技術で、現在世界で扱えるのはごく小数と言われていて、その中でも有名なのが・・・」


 そう言いかけて、ロットは固まってしまう。イリスはロットの固まっている顔を見ながら、どうしたんだろうと心配していたが、しばらくの沈黙の後にブリジットは、静寂を破るようにロットに話しかけた。


「どうしたんだい、少年。まぁ、何となくわかるんだけど、とりあえず言ってご覧よ」


 さっきまでの楽しいブリジットではなく、とても穏やかで静かな顔をしている彼女を見て、イリスは驚いてしまっていた。あれだけ楽しそうにしてた女性は見る影も無く、そこにいた女性はとても美しく微笑んでいたからだ。


「貴女は、いや・・・、そんなまさか・・・でも・・・」


 戸惑い考え込み、答えに辿り着くも否定し、また考え込むロット。そうだ、そんなはずない、というような顔になりながらも、また考えているロット。


「ふふっ、いいよ。推測でいいから言ってご覧なさい?」


 優しく微笑む女性にまた戸惑ってしまうイリス、ミレイはきょとんとしているようだ。そんな中ロットは、確信を得ている顔になりながら真面目な顔で答えた。


「貴女は魔法付呪師のブリジット・ステイシーさんですか?」



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