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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十一章 前に進め
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"目的は一つ"


 続けてイリス達は地底魔物(クリーチャー)の対応について話していくも、これについては誰も知らない存在となる為、半分は出たとこ勝負となる事も警戒しましょうと、イリスは二人に話していった。


「正直な所、全く予想だにしない事が起こる可能性を考慮した方がいいと思います。

 中でもその形状は異質だと聞きます。見た瞬間に硬直しないように注意しましょう」

「全く未知の存在だから、攻撃力や耐久性、敏捷性等も考えておいた方が良いと思う。

 イリスの話では、地下に行けば行くほど魔物が強くなるって、ダンジョンについて書かれた文献に載っていたんだよね? 昔のプラチナランク冒険者が到達したのが、もし本当に三層なのだとしたら、本気でやばい場所にまで落ちた事になるんだね……」


 青い顔をしながら言葉にするファルに、イリスはしっかりと答えていく。

 ここで適当に濁らせて言葉にすれば、それこそ命に関わる事になるだろう。

 こういった事は、しっかりと断言した方がいいと、イリスは思っていた。


「はい。それも気になるんです。ここは五層ですから、相当気を付けなければならないと思われます」

「構造の複雑さから"コルネリウス大迷宮"と仮定して行動した方がいいですわね」

「そうだね。だけど五層であっても、上手く進めば何とかなるんだよね?」

「それもあくまで私の魔法が通じればではありますが、冷静に行動を取ればそれも可能だと思います。ですが最悪の場合、逃げる事も隠れる事も、一気に地上まで走り抜ける事も出来ず、途轍もない数の地底魔物(クリーチャー)を私達三人だけで相手にする事も考えられます」


 言葉にしたくもないといった表情を見せるイリスに、ファルが大丈夫だよと笑顔で答えていった。


「悪く考えるのはよそう。可能な限りの例外を考えた方がいいけど、もしそうなった時は、なるべく魔物の挟まれそうもない場所で戦って倒せばいい。

 勿論行き止まりじゃない場所でね。こういった場合、大きな空間で戦うよりも安全だと思うんだ。五匹いる広い空間も、よく見れば小さな穴が様々な場所に繋がっていて、危険な場所なのが分かるでしょ? 

 却って一本道の通路の方が、ある程度魔物を抑えられる事にも繋がると思うんだよ」


 なるほどと声を揃えてしまうイリスとシルヴィア。

 同じ仕草に姉妹のように見えてしまい、微笑むファルだった。


「そうですね、前向きに考えましょう。

 私の魔法が通じた事を想定し、無事に五層を越える事をまずは最初の目的とします。五層を抜けた先にある行き止まりに待機をして、今後の話をしましょう。そろそろ薬も切れる頃だと思いますし」

「……五層を抜けた先にある行き止まりは、無数とは言えなくとも十以上あるようですわよ?」

「……そ、そうだね。幾つかに絞れるけど、流石に正確な場所が分かんないよ」


 そんな二人にイリスは大丈夫ですよと言葉にしながら、一つの魔法を発動すると、すぐさま構造解析ストラクチュアル・アナライズのある部分に白い宝石のようなものが表記されていった。

 驚きの声を大きめに上げてしまい慌てて口を塞ぐ二人だったが、イリスの魔法により周囲に音が漏れないようになっているので、地底魔物(クリーチャー)に気付かれる事は無かったようで安心するシルヴィアとファルだった。


「この"(マーク)"という魔法を使えば、どの場所かを仲間にも知らせる事が出来ます。上に待機しているお二人やファルさんの位置を確認していた時は、作戦概要を考えるのに頭が一杯で、(マーク)を使う余裕まで思いが至らなかったのですが……」


 言い難そうに言葉にするイリスへ、二人はくすくすと笑いながら言葉にしていった。


「イリスさんらしからぬ、貴重な姿ですわねっ」

「何だろう、こんな凄い場所にいるのに、全く不安じゃなくなった様に思えて来たね」


 適度な緊張感を残しつつ、二人の気持ちを解す事が出来た頃、強烈な匂いが徐々に薄れていくのを感じたイリス達だった。



 立ち上がり、身体を十分に解していくイリス達。


 出来得る限りの策を立て、思い付く限りの対応策も話し合った。

 後は最善と思われる経路で、迷宮からの脱出を図るだけだ。


「もうじき薬の効果が切れます。準備はどうですか?」

「私は準備万端です。問題ありませんわ」

「あたしも大丈夫。いつでも行けるよ」


 とても頼もしい仲間達に微笑みながら、イリスは最終確認をしていく。

 全ては憶測の域を出ない為、十二分に警戒をしましょうと言葉を付け足して。


 誰からともなく三人の中心に両手を伸ばし、それを強く、強く握っていく。

 目的は一つ。『三人で無事に外に出る事』だ。


 手を強く握りしめながら三人はしっかりと頷いていき、イリスは魔法を発動していった。


「"警報(アラーム)"、"広範囲索敵サーチ・ア・ワイドエリア"、"構造解析ストラクチュアル・アナライズ"、"保護結界プロテクション・カバー"、"道標(ガイドポスト)"、"(マーク)"、

 "全体攻撃力増加インクリーセス・アタックパワー"、"全体持久力増加インクリーセス・スタミナエンハンスメント"、"全体集中力増加インクリーセス・コンセントレーション"、

 "暗視(ノクトヴィジョン)"、"消臭(ディオダライズ)"、"潜伏(ハイド)"、"消音(ミュート)"、"防音空間(サウンドプルーフ)"、"気配遮断(スニークアップ)"、"不可視(インヴィジブル)"」


 様々な五感に反応する可能性や戦闘を考慮し、匂いや音、気配や視認される事まで含めて使った魔法の他に、道標(ガイドポスト)による最短の脱出経路を構造解析ストラクチュアル・アナライズで表示された構造に書き込んでいき、最初の目的地となる四層手前にある場所に印を付ける。

 不可視(インヴィジブル)による効果は対象者の姿が忽然と消えるような魔法ではなく、相手の視界から映り難くさせる程度のものだが、無いよりはずっといいだろうと判断して使用した。

 イリスはシルヴィアがバッグから取り出したマナポーションを左手に持ちながら、仲間達と再び頷き合って小部屋から離れていった。


 イリスを先頭に、ファル、シルヴィアと続く。

 ゴールドランク冒険者であるファルを最後尾にしなかったのは、魔物に挟撃された場合を想定してシルヴィアを後方に置く為だ。

 彼女であれば、強化型魔法剣チャージ・マナブレードも使える。挟まれたとしても冷静に対処が出来るだけでなく、シルヴィアならば倒す事も出来るだろうとイリスは判断したからだ。


 これだけ多くの魔法を使っても、マナポーションを飲んで万全な状態とせずに薬を手で持って移動しているのは、そうはかからない時間でマナの自然回復が出来る事と、ポーションを可能な限り温存する為だ。突発的な襲撃の際にいつでも回復出来るようにしてあるので、何か問題があればすぐにでも飲むつもりではあるのだが。

 正直なところ、これだけの補助魔法、特に真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースを使っているのだから、地底魔物(クリーチャー)に見つかるとは思えないのだが、これはあくまで推察であり、想像の域を出る事は無い。

 実際は近付いてみなければ分からない危険な状況であり、もしもイリスの魔法が通じないのであれば、それは一気に命の危機に直面するという事となるだろう。


 出来る限りポーションの消費は避けるべきだと判断した彼女達の策は、常識的なものだった。希望的な観測に過ぎないのだが、理想は薬を残したまま脱出する事が出来るのが最高だと言えるだろう。

 それは、それだけ安全に行動が出来たという意味に他ならないのだから。

 そして逆に、そうはならなかった場合は、まさに最悪の状況だと言えるだろう。

 所持しているポーションが切れた瞬間に、覚悟を決めなくてはならなくなる。


 彼女達が慎重に歩いている世界は、とても危険な場所だと言わざるを得なく、

いつ地底魔物(クリーチャー)が群れを成して襲い掛かって来るかも分からない、まさに死地に赴いていた事に他ならなかった。


 そんな状況下でも冷静に行動していく彼女達。

 余計な事となる情報を省いていた為、イリスとシルヴィアが初心者冒険者であり、最低ランクのカッパー冒険者である事をファルはまだ知らない。

 そしてファル自身も、現状で話す必要のない事を伏せている。

 彼女はこんな状況だからこそ、得意武器であるガントレットと装具を持って来るべきだったと、途轍もない後悔をしていた。

 あれさえ持っていれば、もっと彼女達の力になれただろう事は確実だった。


 だからこそファルは悔やんでいた。自分自身の甘さと油断に。

 少し考えれば、この場所がダンジョンの可能性が高い事くらい分かるはずだった。

 それを彼女は、目立ってしまうというたったそれだけの理由で、武器に短剣と投げナイフにブーツという装備を選んでしまった。

 今更悔やんでも悔み切れない事ではあるが、それでも後悔せずにはいられなかった。


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