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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十一章 前に進め
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"自由冒険者"

 

 周囲に匂い立つ魔物除けの薬の効果が切れるまで、凡そ五十ミィルと思われた。

 その間に様々な話をしましょうとファルに告げていくイリス。


 簡易的な内部構造を地面に書いていくイリスだったが、今度は書く場所も少ないので、落ちている石を拾って地面の石に書いていくも、細かな道までは書けず、本当に大雑把なものとなってしまったようだ。

 シルヴィアには分かり辛いといったものとなったが、それでも少ない情報の中から構造解析ストラクチュアル・アナライズと照らし合わせる事に集中していくファルだった。


 少々抵抗はあるが、食事も一緒に取りながら水分補給もしていくイリス達。

 持って来た非常食の一つであるイリス特製干し肉に、これでもかというほど瞳を輝かせていたファルがとても印象的だった。

 最終的にはあまりの美味しさに涙を瞳に溜めながら、頬に手を添えていたようだ。


 作戦概要を含む詳細を説明し終えた時、ふと気になったイリスは、地面にそっと手を触れていく。その姿にシルヴィアもファルも彼女の行動に首を傾げるが、静かにその様子を見守っていった。


 右手に灰色の石を拾い、力を込めていくと、パキっと乾いた音と共に崩れてしまう。

 とても脆い石のようですねと言葉にするイリスだったが、その言葉の本質を捉えていたのはファルのようだった。


「……そうか。もし仮に、洞穴全体が脆い石で構成されているんだとしたら、激しい動きにダンジョンが耐えられない可能性があるんだね」

「なるほど。であれば、非常に厄介なのでは?」

「はい。必ず戦闘になると思われますので、最悪の場合、崩落する可能性も」

「……四層の中央、確か、ここだったね。五匹って話だけど、それはどうするの?」

「現状を見ただけで判断するのは危険ですので、予めある程度は決めておきたいです。

 どれほどの強さかは分かりませんが、私が先行で三匹の内の一匹を仕留められるような攻撃をして、残りの二匹を相手にします。もう二匹はシルヴィアさんが相手をして下さいますか? ファルさんはなるべく様子を見つつ、可能であれば参戦して下さい」

「分かりましたわ」

「それは構わないんだけど、シルヴィア一人で大丈夫なの? 

 あ、強さを疑っている訳じゃなくて、イリスみたいな強い力を持ってるのかなって思ったんだけど。おまけに相手にするのは未知の敵だよ? それも魔物じゃなくて地底魔物(クリーチャー)だ。どんな行動を取るのか分からないから、なるべく一匹ずつ相手にした方が安全じゃないかな」


 イリスと違い、まだシルヴィアの強さを聞いていなかったファルがそう思うのも無理はない。続く言葉も含めて、言っている事は正しいはずだと彼女には思えた。

 これは訓練ではないし、ましてや相手にするのは全く未知の存在であり、何が起こるか予想が付かないのだから、出来る限りの情報は知っておきたいとファルは思ったようだ。


 そんな彼女に、シルヴィアは微笑みながら答えていく。


「イリスさんほどではありませんが、私もそれなりには戦えると思います。フィジカルブーストも使えますから」

「フィジカルブーストを、戦闘に(・・・)使ってるの?」


 そう言葉にすればファルが納得出来るだろうかと予測したシルヴィアだったが、思いのほか驚いてしまう彼女は、呟くように言葉を続けていった。


「……まさか、あたしみたいな使い方をしている人がいただなんて……」

「え、それじゃあファルさんも、フィジカルブーストを使いながら戦えるんですか?」


 頷くファルに驚愕するイリスとシルヴィアだった。

 フィジカルブーストを戦闘に扱っている者は、極々少数だと彼女達は思っていた。

 特にこの魔法はマナを消費し続けながら維持させるものなので、この状態を継続させる為にはそれなりのマナの総量が必要になる。

 レティシアの時代であれば基本魔法の一つとされているので、兵士と呼ばれる誰もが使えたが、常時消費し続ける燃費の悪さと、誤った言の葉(ワード)が広まっている事から、今現在の世界でこれを使う者は、魔術師(キャスター)が緊急回避する場合に使われているのが殆どであった。


 当然魔術師(キャスター)であれば、魔物に向かって行くような者などいないだろう。

 身体を鍛えるよりも魔法の修練に時間を費やして来た存在が、身体能力を向上させる魔法を常に使い続けるなど、一般的には考えられない事であった。


 イリス達が知る中で今現在それを正しく使えるのは、ヴィオラやリーサを含む"魔獣戦"に参加した者達や、ルイーゼ、エリーザベトやロードグランツといった者達くらいだろう。


 だが、二人の聞き間違いでなければ、彼女はそれを戦闘に使っていたという。

 一瞬だけ発動させるのか、それとも魔法を持続させながら戦闘をするのかでも話が変わって来るが、今のファルの反応から見ると、どうやら後者のように思えた。

 当然それは強化型身体能(フィジカル・)力強化魔法フルブーストではなく、通常の身体能力強化魔法(フィジカルブースト)である事は間違いないだろうが、もし本当にそうであるのなら、ブーストの持続時間にもよるが、強力な戦力として共に戦えるという事になるだろう。

 しかも彼女はゴールドランク冒険者。その経験と実績は揺らぐ事の無いものだろう。

 斥候(スカウト)として活動をしている彼女がブーストを使える事自体、まさに寝耳に水と言わざるを得なかったが、イリス達が思っている通りの事なのだとしたら、無事に上層へと行ける可能性が高くなったと思われた。


 目を丸くしてしまっている彼女達に、ファルは自身の話を少しだけしていった。

 全部話すと少し時間がかかっちゃうからねと、彼女は笑いながら二人に話していく。


 コルネリウス大迷宮に関しては、彼女も人から聞いた程度の事しか知らないそうだが、今回の依頼を受けたものも、彼女がたまたまツィードに滞在していた為に、ギルド依頼で斥候(スカウト)要員として呼ばれ、ホルスト達と合流したらしい。

 彼らはツィードで四人チームを組んでいる冒険者達で、ファルはソロで気ままな旅をしながら、時たま依頼を受けるような冒険者なのだと言葉にした。


「あたしは自由冒険者(フリーランス)で、今回の依頼の追加要員として補強されたメンバーなんだよって、今はそんな事はどうでもいいよね」

自由冒険者(フリーランス)での活動をしているという事は、かなりの強さなのではないかしら」

「どうだろうね。あたしが斥候(スカウト)をやっていけるのも、猫人種(ねこひとしゅ)の目と鼻を含む感覚を買われての事もあるけど、戦闘に深く関わる事がないから選んだんだよ。

 あの魔法を人前で使う時は誰にも分からないようになるべく注意をしながら、一瞬だけ発動させて攻撃してるけど、中々そういった機会もないし、ばれると色々と厄介な事になるから目立たないようにしてたんだ」


 ファルは理由もしっかりと話すが、その前に大体の予想は出来ていたイリスだった。


 一つは彼女がゴールドランク冒険者である事。

 そしてもう一つが、こんな力の使い方をすれば悪目立ちするからだ。

 それも今の彼女の話から、戦闘中にブーストを維持し続けられる事も理解出来た。

 これを察したイリスはファルに言葉にするも、苦笑いをしながら肯定していった。


「つまり、プラチナランク冒険者になるのを避ける為ですね」

「うん、そうだよ。あれは中々に厄介らしいからね」


 続けてファルは出身地を話し始めるも、その国の名を聞いて納得してしまった。

 獣人である以上、その可能性は非常に高かったと言えるのだが。


「ご想像の通り、あたしはゴールドランクになった時点であの国を飛び出したんだよ。

 あの周囲は中々に魔物も強いから、討伐依頼が山のようにあるんだ。それこそ刈り尽すかのような勢いで依頼書が貼り出されてね。

 殺伐とした日々の空気に嫌気がさしてたし、ちょっとあの国で目立っちゃってね。

 それで旅に出ながら色んな国や街を見て、ツィードに流れ着いたってとこかな。結局はすぐ近くまで戻って来ちゃった感じだね。まぁ、たまたまだったんだけど。

 戦闘に不向きなあたしは斥候(スカウト)として冒険者を続けて来たけど、猫人種(ねこひとしゅ)という事もあって、身体能力的にはゴールドランクの上位にいると思うし、何よりもフィジカルブーストを使いながら戦えるから、それなりの強さは持っていると思うんだ。

 だけどそれを誰かに知られちゃうと、あの国じゃ色々と厄介でね……。

 いつの間にか隠していた事が、誰にも言えない秘密を抱える事になってたんだよ」


 戦闘に不向きという言葉に、少々疑問を持つイリス達。

 噂に聞く猫人種(ねこひとしゅ)ともなれば、かなりの強さはあると思われるのだが、ファルはその事と、斥候(スカウト)を続けているのにも訳があると言葉にした。


「……何て言うか、あたしは武器の扱いがちょっと苦手なんだよ」


 歯切れの悪い言い方をしたファルは、それについての話をしていく。

 聞いてみると、実際に武器を扱うのが下手という訳ではなく、可もなく不可もなくといった中途半端な強さにしか扱えないのだと、彼女は申し訳なさそうに答えた。


「……あたしの得意武器は、ナックルガードやガントレットといった籠手武具なんだ。

 でも全て特注品になるし、何よりもブーストを使っての戦闘になるからとても目立っちゃうんだよ。だから基本はブーストなしで、ダガーと投げナイフで戦ってるんだよ」

「あら、それでもゴールドランクなのですから、十分に強いのではないかしら」

猫人種(ねこひとしゅ)の方はとても速く動き、鋭く攻撃をするのだと聞いた事があります」


 いくら得意な武器ではないとはいえ、強さにそれほどの差は出ないのではないだろうかと思えてしまうイリスとシルヴィアだったが、どうにも相性が悪いと動きが悪くなるのだとファルは答えていった。


「一応は戦闘に特化した種族の一つだから、そういった意味では強いと思うんだけどね、いまいちしっくり来ないというか、短剣と投擲もあまり得意とは言えないんだよ。

 まさかこんな事になるだなんて思ってなかったから、普段使っている武器はツィードの宿屋に置いて来ちゃってるんだ。もしあれを持っていれば、かなりの手伝いが出来ると思えるんだけど……。

 だから地底魔物(クリーチャー)との戦闘となると、それほどの戦力にはなれないかもしれない。イリスの言った五匹との戦闘の際も、一匹抑えるのが精一杯だと思うんだ。ごめんね」


 しょぼんとしながら言葉にするファルだったが、実際には戦闘に参加して貰えるだけで十分に二人の力になる事が出来ると、イリスとシルヴィアは考えていた。

 そんな彼女達は、希望が見えたと言わんばかりの明るい表情を見せながら、言葉にしていった。


「いいえ、とんでもないです。本当に助かります」

「そうですわよ。とっても助かりますわ。寧ろ、様々な対応が取れるようになったのではないかしら?」

「そうですね。ファルさんにも地底魔物(クリーチャー)の相手をお願いしたいと思います。基本は私を主軸に、なるべく無理をしない方針でいきましょう。地底魔物(クリーチャー)を暫く抑えて下さるのであれば加勢出来ますから、危険だと判断したら深入りをせず、防御に専念して下さい。

 何が起こるか全く予想が付きませんから、出来るだけ慎重に戦いましょう」

「うん、分かった。あたしはサポートに集中するよ。何とか一匹は抑えてみせるね」


 ありがとうございますと彼女に話す二人だったが、お礼の言葉以上の嬉しさを感じるファルは、すぐさまそれが"信頼"である事を理解出来た。


それに見合う力を二人の為に使わねばと、気合を入れ直していくファルだった。


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