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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第二章 想いを新たに、世界へ
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"冒険の旅"へ


 お店に戻ってきたイリスはホッとしていた。まだ忙しい時間帯じゃなかったらしく、レスティがのんびりと掃除をしていたからだ。


 「ただいま、おばあちゃんっ」

 「あらイリス、おかえりなさい」

 「よかったぁ、まだ忙しくなる前で」

 「うふふ、気にしなくて良かったのに」

 「今日はずいぶんゆっくりお話させてもらっちゃったよ」


 そう言いながら掃除の手伝いをしだすイリスに、微笑んでしまうレスティであった。掃除が終わる頃になると段々と忙しくなっていき、すぐにいっぱいのお客さんで溢れかえっていた。




   *  *   




 「それで、ミレイさんには会えたかしら?イリスが出てしばらくした後にミレイさんが来て、事情を話したら噴水の方に向かってくれたようだったけど」


 仕事が終わり、静かに伝票を整理するイリスと掃除をしているレスティ。そんな中、レスティは先ほどあった話をイリスにしていた。


 「実はあれから色々あったんだよー。ロットさんと知り合えたの。ほら、図書館で本を取ってくれた人がいたでしょ?」


 「ええ、知ってるわ」


 にこにこ答えるレスティに、イリスはやっぱり有名なんだねと思ったのだが、ちょっと想像していた答えとは違う言葉が返ってきた。


 「イリスがカッコイイって言ってた人よね、うふふ」


 少々含んだ言い方をしたレスティにイリスは取り乱してしまう。わたわたとして、とても可愛らしい孫を優しく見つめるレスティだった。


 「ち、違うよ!カッコイイけど!そういうのと違うよ!?」

 「はいはい、わかってるわよー、うふふっ」


 もー!っと顔を赤くして答えるイリス。レスティ家は今日もとても平和だった。



 伝票整理と掃除が終わった頃、さて今日はどうしましょうかと聞くレスティに顔色が戻ったイリスは、今日もお薬のお勉強お願いします、とイリスは言った。


 「それじゃあ今日も昨日の復習をしましょうか」

 「うんっ、おねがいしますっ」

 「うふふ、今日も無事にお薬が作れるなら、魔法薬の調合もイリスにお手伝いしてもらえるわね。そうなれば今までよりもずっとずっと助かって嬉しいわぁ」


 頬に手を当てて微笑むレスティは、まぁイリスならきっと大丈夫よねと心の中で安心しきっていた。


 「うんっ、がんばるよっ」


 そうしてイリスはまた昨日の薬の復習をして、無事に魔法薬も作れるようになったようだ。またしても高品質の薬で驚かされっぱなしのレスティであった。



 夕食をとりながら、明日持っていくものを話し合う二人。近くても街の外へ行くのだから、何が起こってもいいようにアイテムを持っていくといいわと、レスティはイリスに伝えた。


 「念の為にポーション一式と、イリスが持ってたダガーも持っていくといいわね。とても優秀な二人の護衛がいるから使う事はないけど、街の外に出るのなら持っていく事に慣れた方がいいかもしれないわ」

 「そうだね。念の為って事もあるし、持っていくね」

 「そうだ、いい物があるわ!」


 何かを思い出したように2階へ向かっていくレスティを見送りながら、イリスは食後のお茶を飲みながら待っていると、しばらくしてレスティが小さなバッグを持って降りてきた。


 「これに入れてお薬を持っていくといいわ。イリスの持っていたバッグはちょっと大きいから、こっちの方が楽だと思うわよ」


 レスティが手に持っているのは、小さめで明るい茶色の皮製ショルダーバッグだった。端が丸っこくなっていて、とても可愛らしいバッグだ。


 「これなら小さいし、お薬もいっぱい入れられるわ。良かったら使ってね」

 「わぁ、かわいい!ありがとう、おばあちゃん!」


 食事の準備が終わり、テーブルで食べながら、今日あったことを話していく。今日も食卓はとても暖かく、幸せな空気で満ちていた。





   *  *   





 素敵な鐘の音で目が覚めた。いつも心地よく目覚められるのは、あの鐘のおかげだろうか。


 「いつ聞いても綺麗な音だなぁ」


 今日は草原に連れて行ってもらえる日だ。今から楽しみで仕方ない。一応、昨日の寝る前に魔法の復習をしておいたけど、正直どうなるか全くわからない。

 なにせ魔法なんてこの世界に来て初めて勉強したわけだから、上手に出来ないかもしれない。不安と期待と、草原に行けるというちょっとした楽しみと、色んな気持ちでいっぱいのイリスだった。


 「念の為、魔法のお勉強をした時のメモも持っていこう。必要になるかもしれないし」


 イリスは着替え、歯を磨き顔を洗う為に下に降り、さっぱりした所で、今日も元気におばあちゃんに挨拶をする。


 「おばあちゃん、おはよう」

 「あらイリス、おはよう。昨日はゆっくり眠れた?」

 「うん。朝すっきり目覚められたよっ」

 「うふふ、もうすぐ朝ごはんできるから、座って待っててね」

 「うんっ。いつもありがとう、おばあちゃん」

 「あらあら、いいのよ」


 今日も幸せな朝が始まり、きっと素敵な日になる。そんな予感があった。


 「お昼用にサンドイッチを作ったから、このバスケットに入れて持って行ってね?」


 そう言いながらレスティは中くらいのバスケットをイリスに見せた。

 

 「わぁ、ありがとう、おばあちゃん!みんなで食べるね!」


 食事をしながら今日の予定を話す二人。


 「一日お買い物とはいかなかったけど、また今度行こうね、おばあちゃん」

 「うふふ、お買い物はいつでも行けるから、時間が空いた時にゆっくり行きましょうね」

 「うんっ」

 「今日はのんびり魔法の練習をしてくるといいわ」

 「そういえば魔法の練習って、やっぱり難しいのかな?一日とか時間がかかっちゃいそう?」

 「うーん、どうかしらねぇ。人それぞれ習得速度は違うから。早い人もいれば、なかなか時間がかかってしまう人もいるわ。でも今日は一日お休みだから、のんびり練習してくるといいわ。立派な護衛が二人も付いていてくれるから、おばあちゃん安心よ」


 そう言いながらも、もしかしたらイリスなら1日で習得できちゃうかもしれないわねと、半分冗談交じりにレスティは思っていた。まさかね、とは思ったものの、イリスの賢さを考えるとあながち出来ないとは言い切れないと、レスティは思うのであった。


 「もう準備できたの?」

 「うんっ。あとは二人を待つだけだね。おうちに来てくれるらしいからのんびり待てるよ」

 「あらあらそうなのね。それじゃあそれまでお話してましょうか」

 「うんっ」


 笑顔で話し合う二人、他愛無い話から晩ご飯は何にしようかという話など、楽しく色んな話をしていた時に朝の鐘が鳴った。そのまま話しながらミレイ達を待っていると、お店の扉がこんこんとノックされた。


 「あ、来てくれたみたい!」

 「あらあら、もうそんな時間なのね」


 イリスは扉に向かい、お店の鍵を開けた。そこに立っていたのは、いつもの格好とは違い、革の鎧を身に着たミレイと、金属の鎧で身体の一部を守っていて、大きな剣を腰に下げ、盾を背負ったロットだった。


 ミレイは胸部を硬そうなレザーアーマーと、腕にはレザーガントレット、足にはニーハイブーツを身に纏い、腰には大きめの短剣と肩に武器をかけている。


 ロットはというと、70センル程の白銀で少々細めのロングソードに、60x40センル程の大きな剣の切っ先のような楕円形で白銀の大盾を背中に背負い、胸部、腕部、脚部を護る白銀のハーフプレートアーマーで、背中には鮮やかな青いマントを身に着けていた。


 「(ミレイさんは人目で凄腕の冒険者って感じだけど、ロットさんはまるで物語に出てくる英雄みたいな格好で、物凄く強そうだなぁ。ミレイさんの背中の武器はなんだろう。知らない武器だ)」


 「おはようございます、ミレイさん!ロットさん!今日はよろしくお願いしますっ」

 「やぁ、イリスおはよう」

 「おはようイリスちゃん。準備万端みたいだね」

 「はいっ」

 「あらあらおはよう、二人とも」

 「あはは、レスティさんおはよう」

 「おはようございます、レスティさん」

 「今日はイリスをよろしくね」

 「うん。必ず守るから安心してね」

 「二人で守りますから、どうか安心してください」

 「うふふ、頼もしいわぁ。お昼もいっぱい作ったから、後でみんなで食べてね?それじゃあイリス、魔法の練習頑張ってきてね」

 「うんっ、がんばるよっ。それじゃあおばあちゃん、いってきますっ」

 「いってらっしゃい」


 それでは、とロットがレスティへ挨拶をして、イリスは3人で草原へ向かう。大切な孫を守ってくれる二人の後姿は、まるでお姫様を護る騎士のように見え、レスティは微笑ましく見送っていた。



 3人は噴水広場に出て左に進み、城門へと向かっていく。そんな中イリスは、ミレイの背中に背負っている謎の武器に興味を持ち、聞いてみようと思った。


 「ところでミレイさん、その背中の武器?でしょうか。それってなんですか」

 「ん?これ?そっか、イリスは知らないんだね、これ」


 そう言ってミレイはその武器を肩から下ろし、イリスに見せてくれる。


 「これはね、クロスボウって言う、弓に似た遠距離攻撃が出来る武器なんだよ」

 「これ弓なんですか?」

 「うん。弓と比べると飛距離が短いから長距離用ではないんだけどね。威力は申し分ないし、力が無くても撃てるからイリス向きの武器でもあるよ」

 「一昨日新調した武器だね、それは」

 「そうそう。前の弓は壊しちゃったからねー、新しいのを買ったんだよ」


 ミレイのその言葉にロットは驚きと戸惑いを隠せない。いや、いっそ聞き間違いかもしれないと思ったほどに。


 「壊れたって、ナルアの木で作ってあった特注品だよね?あれが壊れたのか?」

 「あはは、諸事情でねー。ぽきっとなっちゃった」


 イリスにはさすがに思い当たる節があった。もしかして、いや、もしかしなくてもイリスのせいだと思っている顔を、ミレイすぐさま見抜かれてしまう。


 「違うよ、イリスのせいじゃないよ。あたしが加減を間違えたんだ。力加減を間違えて思いっきり撃っちゃったんだよ。だから確実にあたしのせいだよ」


 でも、と申し訳なさそうにしているイリスの頭を優しく撫で、ありがとうね、でもあたしのせいだから、イリスは気にしないでね、と静か優しく言ってくれるミレイ。そんな中、ロットはナルア製の弓が壊れた事にずっと驚きを隠せないでいた。それもそのはずだ。


 ナルアとは、この世界でもかなり堅い木とされている大樹だ。深い森の奥まで行かないと手に入らない素材で、当然希少価値も高いのだが、何よりもその堅さと柔軟性のバランスが良い木で、弓に最適の素材として有名だった。そんじょそこらの攻撃じゃびくともしないほど堅くとても丈夫な為、一度作った冒険者には永く愛用されるほど、非常に良い弓だったはずだ。それを折ったとは、ロットには正直有り得ないとすら思えてしまう。そして同時に一体何をすれば折れるのかに興味を持ったロットは、ミレイになぜそうなったのかを聞いてみる事にした。


 「ナルアを折ったとか、いったいどんな事をしたんだ?普通はとても折れるような素材じゃないんだが」

 「あはは、なんというか、諸事情でね」

 「そうか、昨日言っていたあれか」

 「そうそう。それを試してたんだよ」


 だから木製ではなく鉄製のクロスボウに変えたのかと、納得はしたもののロットにはまた別の問題が浮上してきた。あれほど堅い木を練習だけで耐えられずに壊れたとなると、その威力は凄まじい事になっている。



 そんな事を思いながら歩いていき、ちょうど城門手前のお店が並ぶ場所に出た頃、イリスは思い出したように話す。この世界に降り立ってから、こっちには来なかったねと思いながら。


 「そういえば、ここに魔法道具(マジックアイテム)屋さんがあるんでしたっけね。ここってどんな物を売ってるんですか?」

 「あはは、ここのお店結構面白いんだよ」

 「そうなのか?うーん、俺はほとんど行かないからよくは知らないんだよね」

 「ロットさんはこのお店にあまり来ることはないんですか?」

 「一度行ったっきりかな。それ以降はこの店には来たこと無いなぁ」

 「あたしは時々行ってるよー」

 「なんだかここって面白そうな道具がありそうな気がするんですよねっ」


 わくわくと楽しそうに語るイリスに、ロットは若干微妙な顔をしてしまった。


 「面白いって言うか、不思議というか、なんというか・・・」

 「?ふしぎ、ですか?」


 道具屋さんで不思議とはどういう意味だろうかと、首をかしげて考えてしまうイリスにミレイは『草原から戻ってきたら行ってみる?』と誘ってくれた。正直とても興味のある場所だったイリスは聞き返してしまった。


 「いいんですか?」

 「いいよー。今日は時間がいっぱいあるからねー」

 「あまり役に立つものは置いてないと思うけど」


 ぽつりと語るロットに疑問符が出てしまうが、まぁ今はまず魔法の練習だよねと思い、3人はそのまま通り抜けて草原を目指す。


「よーし!それじゃあイリスの冒険の旅に出発だー」


 楽しそうに気合を入れるミレイ。思えばイリスが城門を抜けるのは、この世界に降り立ち街に入ってから初めてだった。


 元気なミレイに、楽しみでわくわくしてるイリスと、それを見て笑顔のロット。3人のとても短くて、とても近い旅がはじまった。



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