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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第十章 知識だけでも、技術だけでも
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真面目な"後輩達"


 ニノンまでもうすぐといった、最後の野営日。

 現在は夕方過ぎとなる時間帯で、料理の準備を始める為に食材を馬車の荷台から降ろしている最中となっていた。


 明日の昼から夕方頃までには街に到着するのではとヴァンとロットは予想しているが、前々から疑問に思っていたシルヴィアは二人に尋ねてみた。


「ところで、どうやって到着までの時間まで分かるんですの?」

「言われてみるとそうですね。日数から大凡の距離感を掴んでるのでしょうか」


 続くネヴィアの言葉に、それもあるよと口にするロットは説明をしてくれた。


「旅をする時に必要になる事は、フィルベルグからノルンへ向かう道で説明したんだけど、それは憶えているかい?」

「ええ。まずは移動速度を一定にする事で、大凡の距離感を掴むのでしたわね」

「季節にもよりますが、日の入り時間も考えて進む事も必要なのですよね」

「ですが、魔物との対応時間も考えて進むにしても、正確には時間を把握する事など出来ないのではないかしら」

「そうですね。エステルの歩き方と言いますか、歩く速度によっても目的地への到着時間は、大きく変わっていく事になるのではないかと私は思うのですが、イリスちゃんはどう思いますか?」

「え? 私ですか?」


 イリスは少々考え事をしていたようで、ネヴィアに話を振られて意識をそちらに向け、言葉を続けていった。


「今ふと思っていたのですが、よくお二人が野営中に確認していた事が関係しているのかな、と思えましたね」

「ふむ。ちなみにそれは何か分かるか?」


 この時のヴァンとロットはイリスの洞察力に驚きながらも、恐らく彼女であれば理解しているのではないだろうかと思っていた。

 そう思えるだけの事を、ここまでの冒険でイリスは見せていた事もあり、その答えを聞くのが少々楽しみに思えた二人に、イリスは持論を述べていった。


「恐らくは地図を見ながら進んだ場所を確認していたと私は思えました。

 地図であれば大凡の地形まで描かれていますので、それを照らし合わせながら進んでいたのではないでしょうか」

「でもそれでは、エステル次第で進める距離が変わるのではないかしら?」


 そうシルヴィアが思うのも当然かもしれない。

 そもそも同じ速度で歩き続ける事自体、難しいと言えるだろう。

 ましてやエステルは賢いとはいえ馬である。言葉が通じているようで、実際に言葉で発した指示に従うような知能は流石にないだろう。

 そういった存在が、同じ速度で進み続けるなど出来るとは思えないシルヴィアだったが、それはイリスも考えている事だったようで、それを踏まえた上でヴァンとロットは道のりを測っていたのではないだろうかと彼女は考えていた。


「たぶんとしか言えないんですけど、エステルに合わせて歩かせていた事で、大凡の移動距離を把握出来ていたのではないでしょうか。それと太陽の位置や地形などを地図と照らし合わせ、かなり正確な到着時間を推察出来ていたのかなと」

「やはりそれもエステル次第で変わると思えるのですが、そうではないのかしら」

「恐らくノルンに到着するまでに、エステルの歩き方の大凡を把握していたのかもしれませんね。思えば彼女の歩き方は丁寧で、歩調もしっかりとしていましたから。

 何よりもエステルはとても賢く穏やかな子ですから、意外と距離を測り易いのかな、とも思えました」


 どうでしょうかと二人に訪ねていくイリスだったが、どうやら正解のようだ。

 だがそれよりも、思っていた以上に答えられてしまった事に二人は驚いていた。

 思えば答えたのはイリスである為に、最近では少々驚く事も落ち着いていたヴァンとロットだった。


「そこまで正確に理解しているとは思っていなかったけど、ほぼ正解だよ」

「うむ。俺達が毎日確認するように地図を眺めていたのも、エステルの移動距離から現在いる場所をある程度測定し、次の街までの距離と時間を測っていた。

 当然、馬であるエステルは歩き方も一定のように見えて、割とまちまちの速度で進んでいるが、この子はとても賢くてな。こちらが指示する事もなく、素直に進んでくれる子である為にその移動距離もとても掴み易い。

 今まで街に辿り着ける時間帯を割り出し、正確とも思えるように到着していた理由の一つがエステルのお陰と言えるだろうな」


 もちろんそれだけではないと、ロットが言葉を続けていく。


 街から街へと進む道は限られている。

 寧ろ、道から外れる事が一気に危険となるのは、周知の事実と言えるだろう。

 つまり同じ道を行き来する者達が目印にしている物がいくつかあるのだと、ロットは説明をしてくれた。


「例えば動かし難い岩や、小高い丘なんかがあるね。木々に関しては変化する可能性があるから、あまり目印にはしないけど、大きく森が曲がっている地形とかは、非常に目立つ目印になっているよ。地図上でも確認が出来るから、そういった場所を辿りながら街を目指すんだ。他には旅人が野営地として使う場所を見つけたりして、進んだ距離と街までの距離を考えながら旅をするんだよ。

 幸い街までは一本道だからね。道を外れなければ迷うことはないんだ。

 後は食料や水、天候や魔物との遭遇にかかる時間を考えながら進めていくのが、一般的な旅の仕方になると思うよ」


 食料に関しては、ある程度の冒険者であれば現地調達が出来るので、そこまで大きな支障は出ないのだが、天候の変化が少々厄介だとロットは話した。

 馬の体調にも関わって来るので、気を付けないと一気に命すら危うくなってしまう事にもなりかねない。

 そんな時に魔物に襲われ、全滅する商人や冒険者達もいる事を憶えていた方がいいかもねと、ロットは話してくれた。


 冒険とは命がけである。

 それは街と街を移動する事にも、大きく関わっていると言えるだろう。

 それが旅であろうが、冒険であろうが、交易であろうがは関係ない。

 何も魔物に倒される事だけが、命を落とす原因なのではないのだと、改めて教えてくれた先輩達だった。


 現在どの位置にいるのかを確認するのは、旅に慣れていなければ難しい。

 だがそれを把握する事が出来れば利点が出てくる。

 旅による食材の管理や、馬の状態を維持する事にも繋がるが、何よりも人の精神状態を保つ為にも良いと言われている。


 いつ襲われるか分からない野営を重ねながら、違う街を目指すことが求められる旅に付き纏う心労は、並大抵の重圧ではない。

 そういった状況下で必要になるのは"情報"だと、商人だけではなく、冒険者の多くが言葉にする。


 旅をするのに必要となるものは様々あるのだが、その一つが現在の位置を把握する為の知識、という事だ。


 それは何も、旅をしながら細かな測量をする必要はない。

 基本的に街から街には道が続いているのだから、そこまで正確なものなどはいらないが、自分自身のいる場所を把握する事で街までの距離を知る事は、あった方がいいと言える知識とされていた。


 大雑把な知識である"街から街まで何日で辿り着く"という情報であっても、持ち合わせていないよりはずっといい。

 いったいどこまで歩けば街に辿り着くのか、分からなくなるからだ。


 そんな時に魔物に襲撃されると、精神的なダメージがとても大きく、危険な状況に陥り易くなりかねないと言われている。

 危機的状況化で冷静に判断が下せる者であっても、一瞬の迷いが容易く命を刈り取られるようなこの世界で、のんびりと旅をする者などいるはずもない。


 自分がどこにいるのかを把握する事は、言い換えるのならばそれは、自身の命にも直結してしまう可能性もあるという事だ。

 勿論これは極論ではあるし、そこまでの危機意識を持っている者は街から出る事も少ないだろうが、それでも備えは必要だと多くの旅人はその体験談から語る。


 あの時ああしていれば、こういった行動を取っていれば、あんな行動を取らなければ。そういった経験から教訓を学んだ者達が、なるべくなら知識を持ちましょうと考えるようになった、所謂先人の知恵とも言える事だった。


 これらの知識は、成り立ての冒険者には必要を感じないと思うようなものでもあるらしい。若さは時に、無茶ではなく無謀な事をしようとするのだそうだ。

 冷静さや慎重さを持たない若い冒険者は、教えてくれた先輩達の言葉を聞かずに手痛い教訓を学ぶ事も多いが、流石にこれはイリス達には当て嵌まる事はないだろう。


 彼女達は優秀な後輩であり、冷静で慎重な心構えを常に持っている。

 これは師の教えでもあるのだが、何よりも彼女達の性格がそうあるべきだと感じているから行動に移せるのだろう。

 これが出来ない者達は正直なところ、長生きは出来ないかもしれないと言えてしまうし、そういった者達の話をヴァンとロットも噂に聞いていた。

 話に聞くのが時々である事が、せめてもの救いではあるのだが。


 そんな先輩達の話をしっかりと聞いている彼女達に安心をしながら、二人は真面目な後輩達へ丁寧に教えていった。



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