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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第二章 想いを新たに、世界へ
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図書館の"君"


 広場に来るとお昼時ということもあり、たくさんの人で賑わっていた。そんな中イリスは探し人を見つけようと、きょろきょろと探していた。


 「(ミレイさんはいるかな?)」


 噴水を回りながらミレイを探すイリス。噴水をちょうど1周した頃に、後ろから声をかけてきた人物がいた。図書館で会った、さらさらな金色の髪に美しい青い瞳で、背の高くて優しい笑顔のとてもカッコイイお兄さんだ。


 「やあ、こんにちは。また会ったね」

 「こんにちは、先日は本を取っていただいて、ありがとうございました」

 「いや、たまたま届いただけだから気にしなくていいんだよ」

 「それでもとっても助かりましたよ」

 「それで勉強はできたの?」

 「はいっ、とっても有意義でしたよ」

 「そうか、それはよかったよ。確か読もうとしてたのは魔法書の棚だったよね?俺は魔法書読んでも正直辛いだけだったからね。あの本も誰かの為になるんだと初めて知ったよ」


 そう笑顔で語る男性に、イリスも思わず苦笑いが出てしまう。やっぱりあの本は誰が見てもヒドい本らしい。いや、きっとあの本だけがそうなんだ、きっとそうに違いない、そうかすかな期待を込めつつイリスは答えた。


 「あはは・・確かにあの本は難しすぎました。結局、半分だけでやめちゃいましたし」


 やっぱりそうなんだねと男性は納得してしまう。実際、あの魔法書を読んで見ても、脈絡が無いというか、回りくど過ぎて読むだけで疲れる本なのだ。本は決して嫌いではないけど、あの本にはただただ疲れるだけという印象しか受けなかった。

 マールさんに聞いたところ、魔法書の類はあんな書き方ばかりらしいと聞いて、読む気が極端になくなった気がしたのを憶えている。

 ああいった本を読める人は早々いないだろうなと思っていた所、読んだ上に有意義だったと笑顔で語るこの美しい少女に、彼は内心驚かされていた。


 「そういえば、誰かを探してるように見えたんだけど、知り合いと待ち合わせかな?」

 「いえ、実は人を探してたんです。その人は冒険者さんなんですけど、私の護衛依頼をお願いしようと思いまして」

 「そうなんだね。冒険者なら名前も知ってるかもしれないね。どんな人なの?」

 「ミレイさんっていう方なんですけど、ご存知ですか?」


 その名を聞いて男性はなるほど、と言いながら話を続けた。


 「ミレイか。そういえば今日は見かけないなぁ。昨日武器屋の前で、新しい武器が出来たって上機嫌で店に入って行ったのは知ってるけど、それから見てないなぁ」

 「ミレイさんとお知り合いなんですか?」

 「あぁ、そういえばまだ名乗ってなかったね、ごめんね。俺はロット・オーウェン。これでも冒険者なんだよ?」

 「えぇ!?冒険者さんだったんですか!?」


 てっきりこの国の偉い貴族さまだと思ってたよと、そう思いながらも直ぐに失礼なことを言ってしまったことに気が付くイリスだが、ロットの方が先に口を開いてしまった。


 「ははは、やっぱりそう見えないんだね。防具をつけてないとよく言われるんだ」

 「ご、ごめんなさい、失礼な事を言ってしまって」


 失礼な事を言ってしまい、しゅんとなるイリスにロットは優しく気にしないでと言ってくれる。その優しい眼差しと口調に心が落ち着いていくイリス。


 「気にしないで。この格好で冒険者って言ってもわかりにくいからね」

 「ありがとうございます。あ、申し遅れちゃいましたね、私はイリスといいます。よろしくお願いします」


 こちらこそよろしく、とロットは爽やかな笑顔で答えてくれて、その顔を見たイリスはまた綺麗な人だなぁと見惚れてしまうのだった。



 「ところでミレイに護衛って事は、王国の外に出るって事だよね?場所によってはとても危険な所もあるんだけど、どの辺りに向かう予定なの?」


 「あ、すぐ近くの草原なんです。私、風属性なので、風を感じられる場所で魔力を変換しないと修練できないらしいので」


 「なるほど、風属性の修練にはまず風を感じる事が必要なのか。確かに風を感じるのなら、あの場所はこの辺りでは最適かもしれない。草原なら街からとても近くて見通しもいいし、魔物も弱い角兎(ホーンラビット)しかいないから、ミレイ一人でも大丈夫だね」


 そう言いながらロットは風属性の修練方法を考えていた。さすがに自分が使える火属性とはずいぶんと違うんだなと思いながら、ふと気になったことを思い出したようにイリスに聞いてみることにした。


 「護衛をお願いしようとって事は、まだミレイには話してないのかな?」

 「そうなんです。なのでミレイさんを探してお願いしようと思ってたんですけど、なかなか会えないみたいで」

 「ここは王都だからね、探そうと思ってもちょっと難しいかもしれないよ?」


 そう苦笑いでロットに言われ、イリスは納得してしまう。ここは王都であり、人がとても多いのだから、待ち合わせでもしない限りはそうそうは会えるものではない。それこそ偶然にしか出会えないかもしれない。そう思いながらも、それならそれでまたの機会にすればいいかなと思うイリスだった。


 「まぁ、急いでるわけでもないですし、そのうちお店の方にも来てくれると思うので、その時にでもお願いしますよ」

 「お店?イリスちゃんはどこかの商店の子なのかな?」

 「あ、私、お薬屋さんの"森の泉"で働かせていただいてるんですよ」

 「森の泉、あぁ、レスティさんの所か。最近行ってなかったけど、そこでイリスちゃんは働いてるんだね」

 「はいっ、とても良くしていただいてます」


 ふむ、とロットは考え込みながら、目的地は草原で街からすぐそこだから、という理由でイリスひとりが行ってしまわないかが気になってしまう。イリスはそういった浅はかな考えはしないだろうと思いつつも、もし何か別の理由で行かざるを得なくなった場合はどうする気だろうと、考えれば考えるほど心配になってくる。

 以前に一度会っているとはいっても名乗り出たばかりだし、こういった事をいきなり言うのはとても失礼ではあるのだが、心配をする気持ちの方が遥かに強く、失礼を承知でロットはイリスに聞いてみることにした。


 「もしミレイに会えなかったら、俺でも護衛してあげられるんだけど、どうかな。これでも少々腕が立つつもりだし、草原ならすぐそこだからね」


 ロットの嬉しい申し出にイリスはつい、いいんですか!?と、大きく声をあげてしまった。だがそう言った直後、イリスは申し訳なさそうに言葉を続けた。


 「あ、でも私、あまりお金持ってなくて、あまり高額は出せないんですけど」


 そう言ったイリスに若干考えるようにしながら、ロットはさも当然の事のように話し出した。


 「うん?お金?いらないよ。仕事でギルドを通して護衛するわけじゃないし、草原はすぐそこだし。ミレイなしでイリスちゃんを一人で行かせるわけにもいかないし」


 ロットの申し出にとても嬉しく思う反面、お金を支払わない事に後ろめたさを感じてしまうイリスはさすがにそれはと声を出した。


 「さ、さすがにお金を払わないのは申し訳がないんですけど・・・。」


 そう言うイリスに優しくロットはふふっと笑いながら、気にしなくていいんだよ、と言ってくれた。その優しく温かな眼差しで不意に言われたイリスは、一瞬胸がどきっとしてしまった。とても大切なひとの顔にどことなく重なったからだ。髪の色のせいだろうか、それともとても優しい眼差しだったからだろうか、イリスがそう思っている時にロットの言葉が続いてきた。


 「イリスちゃんに初めて会った時から、なんだか不思議な感じがしているんだ。まるで昔から一緒にいる大切な妹みたいな感じっていうのかな、ほっとけないんだよ。だからお金はいらないよ。妹を護るのにお金を貰うなんて変だからね」


 『勝手に妹だなんて思って失礼だよね、ごめんね?』と静かに言ったロットだが、イリスにとっては失礼だとはとても思えなかった。優しい笑顔でロットに大切な妹と言われ、イリスは素直にとても嬉しく思えたのだ。素敵なお兄さんが出来て、また大切な家族が増えたみたいにイリスの心は温かくなる。


 「そんな事ないです、とっても嬉しいです。ありがとうございます、ロットさん。それじゃあ護衛をお願いできますか?」

 「もちろんいいよ。いつ草原に向かう予定かな?」

 「明日の太陽の日でもいいでしょうか?お休みの日で申し訳ないんですけど、いつもはお店もあるので」


 イリスは申し訳なさそうに話すが、ロットはまた優しく笑いながら、気にしなくていいんだよと言ってくれた。どうして私にはこんなに素敵な人たちがまわりにいてくれるんだろう、そう嬉しく思いながらイリスはロットの言葉を聞いていた。


 「冒険者っていうのは、自分で休日を決められる自由な人が多いんだよ。だから気にしなくていいんだよ。それに俺は今パーティーを組んでるわけじゃないから、かなり自由に動けるんだ」


 冒険者は基本的に自由だ。何をするにも、ある程度自由に行動することが出来る。パーティーを組んでいれば、仲間と相談をしなければ勝手に行動すると迷惑がかかるが、今のロットにはパーティーを組んでいる仲間はいない。ともなると、基本的には何をするにも制限が無いという事だ。


 本来、冒険者ギルドで受けられる依頼は、何人かでパーティーを組まなければ依頼達成は厳しいものばかりなので、普通はパーティーを組んで行動することが一般的なのだが、現在のロットにはある理由で固定したパーティーを組む事は無くなっていた。


 「そうなんですか?それじゃあ明日でも大丈夫なんでしょうか」

 「ああ、大丈夫だよ。朝から草原に向かって魔法の練習をした方がいいかもね」

 「どのくらいで魔法の感覚って掴めるものなんでしょうか?やっぱりかなり時間がかかるものなんですか?」


 ロットはイリスの問いに、ふむ、と顎に手を添えながら考え込み、一拍置いてから話した。


 「そうだね、魔法の感覚を掴むのは人それぞれ違うから、早くても何日かはかかるんじゃないかなぁ」

 「そ、そうなんですか?やっぱり魔法を使うのって大変なんですね・・・」


 そう言いながらイリスは何日かかるのか見当も付かず、若干不安になってしまった。あまり何日も護衛をお願いするのは、さすがに申し訳なく思ってしまう。かといって、簡単に習得できるほど魔法は易しくはないと思うし、などとイリスは考えを巡らせていた。


 だが、次のロットの言葉に心から安心できたイリスは、今はまずは頑張ってみようと思うのだった。


 「草原ならよく見渡せるから、のんびり練習すると良いよ。魔物が出たら俺が必ず倒すから、イリスちゃんは安心して練習できるよ」


 頼もしいなぁと思いながら明日の事を話し合う二人。そこに遠くから聞き慣れた綺麗な声が聞こえてきた。


「おーい、イリスー」


 この声は、とイリスが声のする方に顔を向けると、ギルドの道の方からミレイが走ってきていた。真っ白で綺麗な耳がまるで風に揺れているようで、イリスにはそれがとても可愛らしく思えてしまっていた。そんなイリスは、元気な笑顔を見せながらミレイに手を振り、それを見た彼女もまたイリスへ返すように手を振りながら走ってきてくれた。


 イリスの前までやってきたミレイの息は上がっておらず、噴水前まで走っても息すら上がらないんだね、すごいなぁミレイさん、と思いながらイリスは探していた綺麗な女性と対面したのだった。



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