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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第九章 未来を創る為に
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"静かな夜"を

 

 翌日。


 イリス達はエステルに挨拶をした後、朝食を済ませ、荘厳な大聖堂を昼まで見学させて貰った。

 やはり一日二日で、これだけ大きな聖堂の全てを見る事など出来る訳もなく、新しい発見が沢山あったようだ。


 今回は一階を中心に見させて頂き、それぞれの入り口に置いてある調度品や、彫刻をじっくりと楽しみながら、ゆっくりと勉強させて貰った。

 それぞれの特色が大きく違うその細工の数々は、何度拝見させて貰っても見飽きる事など全くなかった。


 面白い事に、男性と女性で好みが分かれるようで、男性達は豊穣を司る西口に描かれた、どこまでも続くかのような葡萄畑が、女性達は博愛を司る南口に表現された、真っ白な空間に優しく見守って下さる、女神アルウェナの天井画がお気に入りのようだ。

 どちらも素晴らしく、まるで圧倒されるかのような出来栄えであった。もう二つの入り口にある彫刻も、とても立派な造りである事には変わりないのだが、イリス達のお気に入りは南と西の入り口のようだった。

 壁に刻まれたレリーフのような細工は、とても美しく造られており、一切の妥協する事無く造り上げた事がはっきりと理解出来た。


 このアルリオンは、今現在世界中に浸透した、女神アルウェナを崇拝する教会の総本山となる場所だ。それ以外の宗教は今も昔も存在しないようで、唯一神として女神アルウェナが奉られ、多くの人々から畏敬の念を抱かれていた。

 実際にアルウェナと呼ばれた女神など、存在しない事を理解しているイリス達だったが、今も尚絶える事のない巡礼者達に、やはりアルエナは本当に女神になったのだと、改めて思わずにはいられなかった。


 彼女の成した事のひとつである自身を偶像化する事は、とても大きな意味を持つ。

 あれほど荒廃したと言えるような滅びかけた世界で、アルリオの言葉にした通り、世界に生きる人々には"標"が必要だったのだ。

 悲しみと絶望しか残さなかった世界で生きて行くには、レティシアが言った"女神の顕現"くらいの衝撃的な事実が必要だった。


 何と凄い人達なのだろうか。

 世界の人達の事を憂い、自身を犠牲にし、人々の幸せの為にその身を賭した。


 何故彼女達が石碑に自身を移し入れたのか、本当の所はまだ分からない。

 だが一つだけ分かるのは、そうせざるを得なかった事情が必ずあるという事だ。

 それが何か、今のイリスにはまだ分からないが、もう一度レティシアに逢えば教えて貰える事だけは理解出来ていた。


 彼女と会う事が出来るのは、アルエナの言葉から察すると、恐らくは最後の石碑に辿り着いたその先になるのだろう。


 レティシアには必ずもう一度、エデルベルグに逢いに行かなくてはならない。

 大切な人の、とても大切な想いを、イリスは受け取ってしまったのだから。

 その言葉を必ず直接、レティシアに伝えなくてはならなかった。


 そんな決意にも似た、とても真剣な表情をするイリスへ、仲間達が言葉にする。

 大丈夫だと。旅を続けていけば、必ずもう一度彼女と逢えるのだと。


 その言葉に思わず驚きの表情を浮かべ、仲間たちを見てしまうイリスだった。

 どうやらまた表情に出ていたようで一度苦笑いをするも、笑顔になりながらありがとうございますと言葉にしていった。



 昼食時になると、昨日とは違う店を探し、食事を楽しく取っていく。

 最近イリスも周囲の視線が気にならなくなったらしく、自然体で食事やお茶を堪能していくイリス達だった。

 逆にロットとヴァンは、彼女達を見つめる視線に警戒するも、そのどれもが興味深げなものであったり、見惚れるものであったり、憧れであったりというものばかりのようで、安心していいのやら警戒を続ければいいのやらと、中々に複雑な気持ちでいた。

 当然それを表情に出す事も、彼女達に気付かれる事もなかったが、人口の多いアルリオンでは警戒するに越した事はないと、彼女達には悟られないように視線で合図を送っていく彼らだった。


 少々過保護に思えるかもしれないが、それ位で丁度良いと彼らは思っている。

 一人はフィルベルグの聖女であり、もう二人はフィルベルグのお姫様達である。

 襲うような不埒な輩などいないと信じたいが、何かあってからでは遅いのだから、警戒をし続ける方がいいと考えていた。

 これを聞けば彼女達は苦笑いをしながら、考え過ぎだと言葉にするだろう。


 確かに彼女達は強い。

 ヴィオラやリーサ達ほどではないにしても、かなりの強さにまで到達していた。

 それはあのフィルベルグ女王エリーザベトに鍛えられたお陰でもあるし、本人達の努力があっての事ではあるが、それでもプラチナランク冒険者の強さにまで到達出来た事は、十分に凄まじい成長率を彼女達は見せた。


 そして充填法(チャージ)を扱える者自体が、今現在の世界ではかなり数が限られている。

 この技術は全ての魔法に応用が利くのではなく、全ての魔法の基礎的なものであり、その力は絶大だと断言出来る。

 並みの魔物であれば一刀両断出来てしまうのが当たり前だと思えるほどの高威力魔法となっているのだが、それを今現在の言の葉(ワード)で実現するとなると、四つの言の葉(ワード)を乗せた攻撃魔法ですら足りないと言えるだろう。


 彼女達は知る事はなかったが、充填法(チャージ)を使える全ての者はフィルベルグ周辺に集中していた。

 幸か不幸か、その技術を知る者はアルリオン周囲には存在しないので、たとえこの周囲で魔物に対して強化型魔法剣チャージ・マナブレードを使ったとしても、どんな事をしたのか、一体何が起こったのか理解出来る者はいないと思われた。


 勘の良い者であれば察する事もあるかもしれないが、それを本格的に学ぶとなると、嘗ての言の葉(ワード)の原理を多少なりとも理解する必要があり、それを可能とする書物の類はレティシアが細工をしている。まず誰かに教わらなければ、習得する事は出来ない。

 それを確かなものとして断言出来るようになったのは、レティシアに託された知識のお陰ではあるが、それを独学で身に付けてしまうような存在はイリスくらいだろう。

 二十年前に一人だけその力を独学で手に入れた者が存在していたが、それは現フィルベルグ女王であり、他にそのような存在が出現する事はなかった。


 故に、ロットとヴァンが心配しているような者がいたとしても、全くと言っていいほどに安全だと断言出来る事だろう。

 彼らの心配事は杞憂に終わりそうではあるが、彼らにとってはそれで充分だと考えているようだ。

 それほどまでに大切な存在達であるのだと言えた。



 食事を終えるとカフェテラスでお茶を楽しみ、再び大聖堂を見学する。

 今度は二階の礼拝堂を見学したりアルウェナ像にお祈りをしたりと、夕方まで荘厳な教会で楽しみながら過ごしていった。


 日も傾いて来た頃、当たりが徐々に街灯の明かりが灯されていき、真っ白な街並みに温かな優しい光が、幻想的な世界を創り出していく。

 ほんの少しだけ素敵な色に染まりつつある街並みを歩き、夜にはギルドでの食事とお酒を嗜み(・・)、今度はロットとヴァンのお薦めの酒を注文し、それを堪能していくイリス。

 流石に辛口の酒は、シルヴィアとネヴィアには好まれなかったようで、美味しそうに葡萄酒を飲んでいた。

 だがイリスには中々好評だったようで、強い度数の酒であっても、じっくりと味わいながら堪能していく彼女に、目を丸くしながら驚く男性達だった。


「流石に私には少々分かりかねますわ」

「残念ながら私にも合わないようです」

「そうなんですか? とても芳醇な香りに、辛みのある透き通った味わいがとても美味しいですよ」

「うむ。確かにそうではあるのだが、まさかそこまで喜んでくれるとは思っていなかったな」

「そうですね。イリスは甘いお酒を好むと思ってましたよ」

「そうだな。流石に真逆とも言えるような酒ではあるのだが、まぁ、堪能して貰えて何よりだ」

「好みで言うのなら、昨日最後に飲んだお酒が一番好きではありますが、こちらのお酒もとても美味しいですね。辛いお酒は苦手なのかなって思っていましたけど、飲んでみるととても美味しく感じます。このお酒はぐびぐび飲むようなものではなく、一口一口を味わって頂くお酒なのですね。そのまま飲んでも美味しいですが、氷が少し溶け出した頃合いがまた美味しいんですね」


 そう言葉にしたイリスは、グラスの中の酒を一口含み、味わいながら嬉しそうに頬に手を当て、ことんと静かに置かれたグラスの氷が、からんと奇麗な音を出していく。

 少々仕草が可愛らしいが、酒の飲み方は自然と分かっているようだった。


 イリスの言葉を聞いた姉妹達は、思わず顔を見合わせながら話していく。


「……昨日の最後に飲んだお酒って何だったかしら」

「……私も全く覚えていません」

「……葡萄酒だったのかですら覚えていませんわ」

「……気が付くと朝でしたものね」


 二人の言葉に苦笑いするロットとヴァンだったが、果たして昨日の事を言っていいのやらと悩んでいた。


 そんな楽しいお酒の席で、彼女達が飲み過ぎないようにと目を光らせながら、ちびちびとお酒を飲んでいき、どうやら今夜は抱き抱える必要もなさそうだなと小さく言葉にしたヴァンに、とても申し訳なさそうにしゅんと小さくなる姉妹二人だった。


 二人の様子を苦笑いをしながら、一口お酒を口に含む三女。

 そんな静かな夜を、イリス達は美味しいお酒と共に過ごしていった。



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