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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第九章 未来を創る為に
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"そよ風"

 

 イリスの説明を見据えながら聞いていたヴァンが言葉にする。


「これほどまでに強力な魔法なのだから、それも伺えるな」

「レティシア様の時代は、私達の世界とはまるで違うと言えてしまうほどの世界だったのですね」

「正直な所、レティシア様から託された知識は、そのどれもが凄まじ過ぎて、気を付けて使わないと悪目立ちし過ぎちゃうんです。

 二匹目のギルアムに止めを刺した攻撃魔法も、練習用の魔法でしたし……」


 イリスの言葉に一瞬耳を疑ってしまう彼らだったが、彼女のとても真剣な表情から、どうやら冗談で言葉にした訳ではない事がすぐに理解出来た。


 危険種だなどと言えない程の凶暴性と、尋常ではない耐久性、異常なほどの移動速度に、更には魔法をも操る存在だったあのギルアム。

 強化型魔法剣チャージ・マナブレードですら無効化させているかのような存在に止めを刺したのは、イリスの攻撃魔法だったが、"風の囁きウィスパー・オブ・ウィンド"と呼ばれたそれは、嘗ての時代では攻撃魔法とすら呼べないようなものだったとイリスは静かに言葉にした。


 続けてあの魔法についての説明をしていくイリスに、一同は驚愕をしてしまう。


「あれは攻撃魔法などではなく、風属性魔法の練習用として扱われていました。

 それも、大変言い難い事なのですが、五、六歳の子供が遊びで使っていたものだそうです……」


 あの魔法を攻撃魔法だと言葉にして発動するのは、当時の子供達くらいらしい。

 中でも風の囁きウィスパー・オブ・ウィンドは、その名の通り、そよ風(・・・)を発生させる魔法で、相当に魔力を鍛えていっても、子供程度の大きさのものを優しく包み込むだけの威力しか本来は持ち合わせていないと、イリスは静かに口にした。


 あの時これを説明しなかったのは、説明し辛かった事もあるが、どんな魔法かを理解した上で使ったイリスでさえも戸惑うほどの、途轍もない威力を見せてしまっていたからだ。


 あまりの衝撃に一同は驚きを隠せず、かなりの時間無言が続いていった。


「…………それなのに、あの威力、だったのか?」


 随分と時間が経ったようにも感じた間の後にヴァンが言葉にするも、冷や汗が彼の頬を伝っていく。


 とんでもない耐久性で、充填法(チャージ)すら効かなかったように思えたあのギルアムを、たった一つの魔法で切り刻んでしまった威力。

 囁きという名前からは想像もしないほどの威力だと思っていたヴァン達だったが、それは"攻撃魔法"を使ったと認識しているからだ。

 それこそ初級ではなく、中級の攻撃魔法だと言われても納得するほどの威力を見せ付けたそれが、ただのそよ風であったとは、とてもではないが理解が追い付くような話では断じてなかった。


 そんな戸惑いを見せる彼等に短く『はい』と言葉したイリスは、説明を続ける。


「あの魔法に攻撃力は皆無です。幼い子達が遊びで使うものですから。

 当然そんな魔法に魔力を沢山込めましたし、何よりも真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースですので、その威力は途轍もないほどに強化されています。

 ですが、そよ風しか(・・)出す事の出来ない魔法で、あれだけの威力を出してしまっている事に、私は恐怖すら抱いてしまいます。

 知識では真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースによる攻撃魔法は桁が違う事と、地形すら変えてしまうほどの威力があるという事、そして使えば大量にマナを消費する事は理解していたつもりですが、よもやこれ程までの威力を出してしまうとは思っていませんでした。

 レティシア様にも、大切な者を守る為にその力を使う事を躊躇わないで下さいと言われていますので、あの時の選択に間違いはないと思っていますが、それでもあの威力を出してしまった事に大きな戸惑いが生まれてしまい、皆さんにこの事をお話しするのが遅れてしまいました」


 ごめんなさいと大切な仲間達へと謝るも、彼らはやれやれといった顔をしながらイリスに言葉をかけていった。


「イリスならそう言うと思ったけど、それは悪い事ではないんだよ」

「うむ。イリス自身が戸惑い、気持ちの整理が付くまで考え続けていたのが良く分かるからな」

「そうですわよ。イリスさんは何ひとつ謝る事など無いのです」

「寧ろ一人で抱えさせてしまった事に、申し訳なく思ってしまいます。どうか私達にもその気持ちを分けて下さい。私達は"仲間"なのですから」


 優しい言葉が溢れるように部屋全体に広がり、イリスの心を温めていく。

 ありがとうございますと、室内に響いていった小さくも透き通っていくお礼の言葉に、優しい眼差しをイリスへと向ける仲間達だった。


 *  *   


「それで、どうする?」


 ヴァンの言葉を皮切りに、今後の話をしていくイリス達。


「私はもっと大聖堂を見てみたいのですが、何か皆さんの希望はありますか?」

「そうですわね。私も同じくあの大聖堂を見たいですわ。折角のアルリオンですし、のんびりと見学させて頂きたいですわね」

「俺としてもじっくりと見たいよ。以前来た時は、あまり時間も無かったし」

「私も賛成です。それに、昨日アルリオンに着いたばかりですから、休息も含めてゆっくりと過ごしたいです」

「どうやら決まりのようだな。俺も賛成だ。アルリオンを出立するにしても、食材の買出しを含む諸々を用意せねばらない。それなりに時間もかかるから、のんびり過ごしながら集めていくか」

「そうですね。では、テオ様にもお伝えしたように、二、三日アルリオンに滞在しつつ、大聖堂や街並みを楽しみながら準備をゆっくりとしていきましょうか」


 イリスの言葉に了承していく仲間達。

 とりあえず今後の話も終わったイリス達は、朝食を食べる前にエステルへ朝の挨拶をする為に、彼女がいる厩舎へと歩みを進めていった。

 歩きながら会話をしてするイリス達。だがアルリオンから目指すべき場所の話は、彼女達から出て来る事はなかったようだ。


 最後の石碑の情報は、アルリオンでは入手出来ない事でもあるし、西に向かうのだから次の目指すべき街は決まっている。

 せっかくアルリオンに来ているのだから、まずはゆっくりと羽を伸ばす事にしたイリス達だった。



 厩舎に到着したイリス達は、放牧されている子達の中からエステルを探していると、一頭の子がこちらに走って来るような音が聞こえて来た。

 どうやら遠くからイリスを見つけたようで、真っ直ぐ彼女の元にやって来るエステル。のんびりと寛いでいる他の馬達に目もくれずイリスの傍に駆け寄ると、すぐさま彼女に頬を合わせていく。

 まるで擦り寄せる仕草に見えるその可愛らしさに、思わず小さく黄色い声をあげてしまうシルヴィアとネヴィアだった。


 しばらくエステルをなでなでしていたイリス達だったが、朝食を取る為に彼女から離れると、エステルはどこか落ち着いた様子で放牧場の中央へと歩みを進め、生えている草を美味しそうに食べ始めていった。

 その様子ですら可愛く思えてしまうが、エルマにいた時と同じような日常を送っているようで安心するイリス達は、会話を楽しみながら自分達も食事をする為に厩舎を後にしていった。


「朝食はどこで取りましょうか?」

「そうですわね。昨日の食事はギルドでしたし、別の場所を探してみますか?」

「お店は中央大広場周辺に、集中しているのでしょうか?」

「そうだね。とりあえずは大広場に出てみて、どこか探してみようか」

「うむ。ここは大きいからな。まだまだ美味い店があるだろう」


 続けてヴァンは、賑わっている場所であれば間違いないだろうなと言葉にする。

 歩きながらイリス達は何を食べるかと楽しげに会話を続け、やがて一軒の店を見つけると、そこで食事を済ませた。

 早朝であっても人で溢れていたその店は、中々に美味しい物で溢れていた様だ。


 最近になってイリス達が取っている注文の仕方は、沢山の種類を少しだけ多めに注文をして、それを皆でお皿に分けあって頂く、という事をしていた。

 この食べ方であれば沢山の種類を食べる事が出来るので、一つのお店で一皿メインを食べるよりも遥かに楽しめると、仲間達からも中々に好評だった。


 こういった食事の仕方を普通の冒険者達は取ったりしないだろう。

 パーティーとしてのお金を一つに纏めている事と、何よりもイリス達の仲の良さがそうさせている事ではあるのだが、一般的なパーティーが見れば異質に思えてしまうかもしれないほど、とても不思議な食事風景となっていた。


 イリス達は冒険者であると同時に旅人でもある。

 フィルベルグとは違い、同じ街にずっといる訳ではない。

 エルマの時のような事でもなければ、長期滞在する事も少ないだろう。

 ある程度は仲間達の体調や、天候にも左右される事もあるだろうが、それも二、三日程度増えるだけだろう。


 この注文方法が食事を一番楽しめるのではとシルヴィアが提案し、今現在に至っていた。これがイリス達にもかなりの好評のようで、沢山の種類を楽しめるというのは、ロットやヴァンにも中々に斬新な発案だったようだ。


 食後のお茶を飲んだ後は大聖堂へと赴き、様々な視点や観点から推察されている事などを話しながら、イリス達はアルリオンの文化に触れていった。


 中でも特に興味深げに見ていたのは、三階にある儀礼用の礼拝堂だった。

 ここは煌びやかな階下の部屋とは違い、とても厳かな雰囲気で造られた場所だ。

 ここはパーティー全員に好まれた場所で、アルエナの話をイリスから聞いた今でも、不思議な空間と感じる場所に思えてならなかった。


 ここで年末に執り行われる儀式で、実際に女神の声が聞こえる訳ではないのだとイリス達も理解していたが、それでもここはとても不思議な空間に感じられた。


 本当にこの場所で女神と直接言葉を交わせるような気がしてならなかったイリスは、部屋の中央にある儀式用の祭壇に安置されている"アルウェナ像"に跪き、本物の女神エリエスフィーナに祈りを捧げ、直接語りかけてみるも、残念ながら返事が返って来る事は無かった。



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