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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第九章 未来を創る為に
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"問題"ない

 

 徐々に光が収まっていき、視界が戻って来たと感じられたイリスは、目の前にいる仲間達と法王、そして枢機卿が傍にいるのを確認出来た。


 前回もそうだったが、この石碑から戻る瞬間の、何とも言えない浮遊感のようなふわふわとした感覚が面白く思えてしまっていたイリスだった。

 まるで空を飛んでいるかのような気持ちになるこの感覚は、形容しがたいものがあった。


 何となく、空を飛ぶような魔法であったり、身体を浮かせる魔法だったりといったものを、レティシアの託してくれた知識の中から探してみるも、やはりそんなものはないようで、とても残念に思えてしまうイリスだった。


 それこそ空を飛ぶ事が出来れば、エリー様のいる"天上の管理世界"へと行ける気がしたイリスだったが、そう事は単純ではないようだ。


 まずは仲間達よりも先に法王様へと挨拶をしていくイリスは、続けて枢機卿に尋ねていった。


「お待たせしてしまいましたか?」

「いや、ロット殿の話に聞いた通り、数ミィルほどしか経っていないと思われる」


 そうですかと言葉を返しながら安心するイリスだったが、本当に不思議な空間だと改めて感じていた。

 一体どういった原理になっているのかと疑問に思うも、石碑の詳細についての研究記録は知識に含まれてはいないようだった。


 何はともあれ、法王や枢機卿を待たせる事が無くて安心出来たイリスは、周囲を確認するように見回すが、石碑の部屋には誰もいないように思われた。

 どうやら枢機卿が人払いをしていてくれるらしく、部屋の前でイヴェットが待機しているのだそうだ。

 清掃の邪魔をしてしまった事に申し訳なく思うイリスだったが、それを口に出すと恐らく、こちらの用件の方が優先するべきだと枢機卿に言われるだろうと感じていた。


「テオ様。石碑の中に居られたのは、アルル様ではなく、アルエナ様でした」


 周囲に誰もいないのを確認したイリスは、法王へと言葉を放つも、それは彼だけではなく枢機卿をも驚愕させてしまう内容だったようだ。

 暫くの間考え込んでいた法王だったが、気持ちを落ち着けたのか、ゆっくりとイリスに言葉にしていった。


「……そうですか。アルエナ様がいらしたのですか」

「やはりご存知だったのですね」

「ええ、勿論です。歴代の法王を含め、枢機卿達も存じております。もしよろしければ、その事を知る者達の前で、イリスさんが体験したお話を伺う事は出来ませんか?」

「私もそうお願いするつもりでしたので、是非お願い致します。このお話は、あのお二人を知る全ての方に聞いて頂きたいと思っていましたから」

「ありがとうございます、イリスさん」

「では早速招集致します」


 そう言葉にしたエグモント枢機卿は、部屋の外に待機しているイヴェットにその事を伝えて戻って来ると、イリスを連れて五階にある会議室へと向かっていった。

 部屋を出る時に石碑へと視線を向けたイリスだったが、どうやらレティシアの時と同じく、光はなくなっているようだった。

 それはまるで、役目を終えて眠りに就いたようにもイリスには思え、何とも言えない寂しさが込み上げて来てしまった。



 会議室に入ると、既にイリス達の為の椅子も用意されていたようで、法王の対面となる扉側に五つの椅子が並んでいた。

 法王とエグモントが座ったのを確認し、イリス達も腰をかけていく。


 暫く石碑とは関係のないアルリオンの話をしていると、続々と枢機卿達が入って来た。年齢は中年から初老にかけた者達で、男性四名、女性五名、エグモントを入れて十名の枢機卿が椅子に座っていく。


 法王の招集と彼らは伺っている為、言葉に出す事はないが、どうしても同席している冒険者と思われる者達が気になってしまい、ちらりちらりとこちらを見ているようだ。

 エグモントはこれから驚くであろう彼らの姿を想像しながら、法王の言葉を静かに待っていた。


「さて、これで全ての枢機卿が集まりましたね。では、本題の前に、改めて自己紹介をさせて頂きます」


 そう言葉にした法王は自己紹介をし直し、エグモントもそれに続くと、他の枢機卿達もイリス達へ伝えていった。

 最後の者が言い終ると、ヴァンとロットが言葉にし、続けてシルヴィアとネヴィア、そして最後にイリスの番となっていく。

 最後まで待っていた訳ではないのだが、タイミング的に逃してしまったイリスは、大人しく仲間達の言葉を待っていったようだ。


 イリスの自己紹介が終わるとエグモントが、彼女が"適格者"だと短く言葉を発すると、枢機卿達はざわめき始めてしまった。

 流石にプラチナランク冒険者である二人や、まさかフィルベルグの王女が二人もいた上に、"適格者"であるイリスがこの場にいるだなとど、思いも寄らなかった彼らだった。


「それではイリスさん、石碑で体験した話をお聞かせ願えますか?」

「はい」


 そしてイリスは話をしていく。

 石碑で出会った方や、嘗てアルリオン周辺で起った事件とその後の話を詳細に。

 流石に知識に関してや、真の言の葉ワーズ・オブ・トゥルースの件、それに魔法が効き難いギルアムの話は出来なかったが、それ以外の全てをイリスは包み隠す事はせず、とても丁寧に話していった。


 イリスが全てを話し終える頃には、誰もが口を噤み、言葉を発する事が出来なくなってしまっていた。

 あまりにもイリスが手にした情報が凄まじ過ぎたようで、固まってしまったらしい。


 そんな彼らの様子を眺めながら法王はイリスに尋ねていく。


「イリスさんはこのままアルリオンを出立されるのですか?」

「仲間達と相談して決めようと思っておりますが、折角のアルリオンですし、素敵な大聖堂も見させて頂きたいと思っていますので、個人的には数日滞在したいとは考えています」

「そうですか。どうぞごゆっくり滞在なさって下さい。

 申し訳ありませんが、もう一つの石碑に関しては、私共も把握しておりません。

 エデルベルグの話も初耳でしたので、我々はあの場所も古代遺跡と呼んでおりました。残念ながら三つ目の石碑に関しては、一切の文献も伝承もないのです」

「そうですか。ありがとうございます」


 残念そうに返事をするイリスだった。


 流石に石碑の場所が西方面という漠然としたものだけでは、情報を集めるにしても中々に厳しそうだと思えてしてしまう。

 情報が集まる場といえば冒険者ギルドなので、それぞれの街のギルドで情報収集をしつつ、西に向かっていくのが妥当だと思われた。それも仲間達で決める事だと思ったイリスは、なるようになるだろうと楽観的に考えていたが、ふと思い出した事があり、ゆっくりとヴァンへ視線を向けてしまった。


 手前(・・)に石碑があるのならいいのだが、西へ西へと進んで行くと、少々問題が出て来てしまう。

 そんな想いもどうやら丸分かりだったようで、苦笑いをしたヴァンがイリスに答えていった。


「問題ない。個人的な問題に過ぎない。街並み自体は古く、とても良い街だ。行くのには(・・・・・)問題はない」


 そう三度も問題と言葉にされると、本当に行っていいのか疑問に思えてしまうイリス達だったが、ヴァンとしては中々に気が動転していたようだ。

 若干ではあるが、ヴァンの目が泳いでしまったのを見逃さなかったシルヴィアは、それを心のうちに留めておく事にしたようだ。


 ロットの方を三人同時にゆっくりと視線を向けていくも、彼は『大丈夫だよ』と笑顔で答えるも、直ぐに視線を横に向けていった。

 行かない方がいい気がして来たイリス達だったが、まだ行くとは決まってはいない。もしかしたらすぐ近くで石碑が見付かるのかもしれないし、現段階ではまだ分からない。


 そんな事を考えるイリスだったが、よくよく考えれば、アルリオン上層部が知りえない石碑の存在が、そう近くにあるとは思えないと、冷静に分析するシルヴィアだった。


 正直な所、ヴァンもロットもあの国には踏み入れたくは無かったが、事が事だ。

 個人的な感傷でイリスを止める訳にはいかない。

 ただ、面倒事(・・・)が待っているだけだ。それだけに過ぎない。


 なんとも微妙な空気がイリス達の両端から醸し出されているが、それも含めてしっかりと話し合いをしなければならないと、イリス達は微妙な表情をしながら考えていた。



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