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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第九章 未来を創る為に
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"適格者"


 じろりとイリスを見つめる高齢の男性。

 とても立派な格好をしているその方は、相応の立場にいるのだと理解出来た。


 男性は席に座る前に、まるで確認を取るように言葉にし、イリスはそれに立ち上がって男性に向き直りながら答えていった。


「ふむ。そなた達が先程言伝をして来た者で間違いないか?」

「はい。そうです。私はイリスと申します」

「そうか。イヴェット、下がっていい。通常業務に戻りなさい」

「畏まりました」


 一礼して退室する女性神官(プリエステス)

 この部屋に居るのは、男性とイリス達だけだ。


 初老の男性はイリスの対面に座り、自己紹介を始めていく。


「さて。私はエグモント・カウフマンという。アルリオン大聖堂で枢機卿を任されている者の一人だ」

「私はイリスヴァールと申します。ここにいる仲間達と共に旅をしている冒険者で、チームのリーダーを務めさせて頂いております」


 早速だがと言葉にするエグモントは、イヴェットから聞いた話をイリスから再度尋ねた。


「……それで、用件をもう一度、そなたの言葉で聞かせて貰えるだろうか?」

「はい。アルルさんにお逢いしたく、枢機卿であられるエグモント様にお伝えして頂くようにと、先程の女性神官(プリエステス)の方にお願いをさせて頂きました」


 少々目を(すぼ)めたエグモントはイリスを見つめるが、彼の鋭い眼光はまるでイリスを睨みつけているようにも見えたシルヴィアは警戒をしてしまう。

 暫しの時間を挟んだ後、枢機卿は少々強張った表情で、イリスへと言葉を返していった。


「……この教会にアルルという名の女性神官(プリエステス)は勤めてはいない。他に何か用件があるのではないか?」


 エグモントの言葉に、表情を驚きに変えてしまうイリス。

 何とも丸分かりな彼女の反応に、思わず苦笑いをしてしまう彼は、イリスの言葉を待っていく。


 少々気持ちを落ち着かせたイリスは真剣な表情に戻し、枢機卿に本題を話していった。


「私達は石碑を目指し、旅をしています。ですが、石碑が安置されている部屋の天井が崩落し、現在では一般公開をされていないと先程伺いました。

 そして修復には数ヶ月以上はかかるかもしれないと言われ、可能であれば石碑を見せて頂きたいと思い、お願いに上がった次第です」


 真剣な表情のイリスに、彼は言葉を返していく。


「ふむ。何故、そこまで石碑を見ることを望む? あれは確かに一般公開をされている物ではあったが、それほどまでに見学したい理由でもあるのか?」

「石碑に何か変わった変化が見られませんでしたでしょうか?」

「……変化、とは?」


 イリスはフィルベルグにあった石碑の事を、出来る限り話していく。

 流石にレティシアの事は伏せたが、話を進めていくにつれ、エグモントは目を丸くしていった。


「――こういった事情から、もし宜しければ石碑を見せて頂きたく思うのですが、ご検討頂ければ幸いです」

「…………やはり、そなたは本物の"適格者"なのだな……」


 彼の発した言葉に驚くイリス。

 その言葉もイリスは伏せて説明をしていた。

 それを知っているという事は、彼もまた関係者という事になる。


 驚いたままでいるイリスへ、枢機卿は言葉にする。


「試すような真似をして申し訳なかった。確認が取れないのでは、法王様へのお目通りはさせられないと思ってな。私の独断でこういった形を取らせて貰った。

 手数をかけるが、まずは法王様の元まで同行願えるだろうか?」

「はい。よろしくお願いいたします」


 笑顔で即答するイリスだったが、内心ではまさか法王様と直接お逢い出来るとは、流石に思ってなどいなかった。


 アルリオンにおいてその立場を名乗っている存在は、ただの教会の頂点に座している者などではない。

 法王とは、女神との交信が許され、そのお言葉を賜る偉大なお方であり、それはすなわち、神の使徒とも同義でもある。

 それはイリスにとっても、とても特別な方という認識を持っている。


 この世界で唯一かもしれない女神の声を聞く事が出来る存在。

 ブリジットによると、言葉を受け取るだけかもしれないとの事だが、イリスにとっては、それだけでも重要な意味を含んでいる。


 もしかしたら、再びエリー様とも会話が出来るのかもしれない。

 もう一度、あの天上にある"管理世界"へと行くことが出来れば、あのひととも再会する事が出来るかもしれない。


 そんな淡い期待を持ってしまうイリスだった。



 枢機卿に連れられて別室へと向かうイリス達。

 どうやらそこまで離れている訳ではないようで、とても近くに法王がおられたのだとイリスは思っていた。


 そんな事を考えていると、ある部屋の扉の前でエグモントは立ち止まったようだ。


 ここは教会会議などが行われる場所だと彼は答え、重々しい扉を開けていく。

 会議室らしく大きな長方形のテーブルが中央に置かれ、多くの席が設けられたその部屋は、その椅子の数だけこのアルリオンの重要な話し合いをする者達がいることを証明しているのだと、感じる事が出来たイリス達だった。


 そして丁度部屋に入って正面に当たる上席に、ひとりの高齢の男性が座っていた。

 とても優しそうな眼差しをしている方で、着ている物が例え神官の物であったとしても、その人となりが溢れ出ているような雰囲気を醸し出している男性だった。

 だが着ている物は、まるで権威を身に纏うかのように思えるほど立派で、とても素晴らしいローブを身に纏っていた。


 広い室内に、穏やかでゆったりとした心地良い声が響いていく。


「エグモント、ご苦労様です」

「恐れ入ります。彼女が"適格者"で間違いございません」


 目を大きく見開くもすぐさま微笑む法王は、イリスに口を開いていく。

 その口調はとても穏やかで、心に染み渡るような不思議な音色を感じるイリスは、フィルベルグにいるローレンを思い出していた。

 聖職者にはそういった方が多いのだろうかと考えていた彼女に、法王は静かに言葉にしていった。


「そうですか、貴女が適格者なのですね。私はテオ・フォルクヴァルツと申します。今代の法王を務めております」

「初めてお目にかかります、法王様。(わたくし)は、イリスヴァールと申します。ご尊顔を拝し、恐悦に存じます」


 続けてシルヴィア達も(うやうや)しく名乗っていくと、法王は優しく微笑みながらイリス達に言葉を返していった。


「どうぞ畏まらないで下さい。本来であれば直ぐにでもお会いしたかったのですが、中々にそれも難しかったようで、お時間を取らせてしまいましたね」

「何を仰いますか。どこぞの不埒な輩かもしれないのです。用心はするべきでしょう」

「この穏やかな世に、私を狙おうなどという物好きなどおりませんよ」

「……法王様はお優し過ぎるのです」


 素敵な笑顔で語るあまりにも気さくな法王に、驚きを隠せないイリス達だった。

 法王は表情を変えずに笑顔のまま、イリスへと語りかけるように話していった。

 

「イリスさん、とお呼びしても宜しいでしょうか?」

「はい。法王様」

「それではイリスさん。改めてお聞きしたい事があります。"適格者"たる貴女であれば、石碑に触れるだけでその中に居るお方と逢う事が出来ると、我々の伝承には伝わっているのですが、それは本当なのでしょうか?」

「はい、本当です。私はフィルベルグ南東にある、今現在では古代遺跡と呼ばれている場所に安置された石碑の中にいるお方と、既にお逢いさせて頂いております」

「今現在では、という事は、既にあの遺跡の解明も進んでいる、という事ですか?」

「はい。石碑の中にいる方の力により、古代文字で書かれている書物も、現在では続々と解明がされていると、フィルベルグ女王陛下よりお手紙を頂きました。

 アルリオンにあるという石碑について私が初めて知ったのは、石碑にいる方による情報であり、そして枢機卿様にお伝えした内容も、その方から伺ったものとなります」


 なるほどと言葉にする枢機卿は言葉にする。


「それで貴女はその名を知っていた、という事だな」

「はい。もしも石碑の近くに行けなかった場合は、枢機卿様にお伝えした言葉を試してみてはと、石碑の中でお会いさせて頂いた方からの提案で、確証の無い事ではありましたが」

「……ふむ。やはり制限をかけて正解でしたな」


 エグモントの言葉に、そのようですねと法王が続ける。

 思わず首を傾げてしまうイリスだったが、それについて法王が説明をしてくれた。


「石碑がある部屋の天井が崩落したと伺っているでしょうが、正確には違います。

 今から三週間ほど前、突如石碑から光が溢れ、聖堂内が騒然となりました。

 時刻が早かった事もあり、聖堂内のみで騒ぎを収める事が出来ましたが、そのまま一般公開をすれば、要らぬ誤解や推測を植える事にもなりかねません。

 本物の適格者であれば石碑に訪れる事になると言われておりましたので、天井の崩落を理由に制限をかけさせて頂いたのです」


 法王の言葉に納得してしまうイリス達。

 適格者であれば声を聞く事が出来、それに導かれるように石碑へと向かうだろう。

 例えそれが一般公開されていない場合であっても、必ず何かしらの方法でアルリオン上層部へと伝える事が考えられていた。


「石碑について深く尋ねる者が現れた場合は、必ず上に報告するよう神官達に申し付けておりました。例えば、石碑に何か変化があったのかといった事や、光や声、夢という単語などを石碑の話の中で口にした時点で、その方を丁重にお連れし、上に報告するようにと」


 石碑の変化に関する真意を知る者は、今現在では法王とエグモントを含む数名の枢機卿のみとなるらしく、伝承によれば、『"適格者"現われし時、石碑に光が溢れ、我々を導くだろう』と伝わっているのだそうだ。


「これを知る者は、歴代の法王と枢機卿のみが知る真実として伝わっています。

 しかしアルリオン建国から既に八百年と経っている今現在でも、"適格者"と呼ばれた存在が現れる事がなく、本当に伝説なのではないだろうかと囁く者も少なくはありませんでした」


 そんな折、石碑が伝承通りに輝きを放ち、適格者と思われる者が大聖堂に訪れた。

 最早伝説上の話と言われ続けていたものを裏付ける形となった、適格者と思われる者の訪問に驚愕した枢機卿は、すぐさま法王へと知らせに走り、報告に上がったイヴェットにその者達を丁重にお通しするようにと伝え今現在に至る、という事らしい。


 あまりの衝撃に、法王の部屋をずばんと勢いよく開けてしまったと、とても申し訳なさそうに答えるエグモントと、それを(なだ)めるように優しい言葉をかける法王だった。



 エグモント枢機卿が女性神官(プリエステス)のイヴェットさんのお名前を知っていた件について、ちょっとだけ活動報告(だぶんにっき)にて書かせて頂きます。

 恐らく本編には登場しないと思われる設定のひとつです。

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