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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第二章 想いを新たに、世界へ
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"魔法薬"の調合


 調合部屋の窓の外から見える景色は、とても綺麗な夕暮れに包まれていた。レスティは早速イリスのもとへ魔法薬の材料と思われるハーブを何種類か持って来る。



 「さて、それじゃあ魔法薬のお勉強をしましょうか」

 「はい!お願いします!」

 「うふふ、元気ねぇ」


 そう言いながらレスティは(かまど)の横にあるテーブルに6本のハーブを並べた。赤、青、黄色のハーブがそれぞれ2種類ずつあるようだ。


 「まずは魔法薬の材料となるハーブから学んでいきましょうね。ここにある2本の赤いハーブ、これの違いがわかるかしら?」


 イリスは2本の草を見てみるが、赤い色という以外にもハーブの種類が違うようだ。


 「どっちかが魔法薬になる素材なのかな?」


 そう答えたイリスにレスティは首を横に振り、実は同じ草なのよと教えてくれた。


 「イリスが気づいた通り、この草は赤い色というだけでハーブとしての種類は別物よ。でも、どっちもライフポーションになる材料なの。これは俗にレッドハーブと呼ばれるもので、空気中にあるマナに反応して赤く染まった草のことなのよ。私たち薬師の間ではこういったマナを含んだハーブを、魔法薬に使う薬草という意味で、魔法の薬草(マジックハーブ)とも呼ばれているわ。


 森や草原に生えているハーブなんかでも魔法の薬草(マジックハーブ)に変化する不思議な現象なのだけど、発生条件はまだ解明されていないの。魔力が多く含まれる空気のたまり場のようなものがあって、それによってハーブに魔力がたまる事で変化すると推測されているけれど、空気に漂っているマナは目には見えないから、詳しく調査も出来ないみたいね。もちろんここ数百年の間このハーブでお薬を作り使い続けていて、安全性も実証されてるわ。


 この色の付いた状態になったハーブは、本来持っている効能が一切消えてしまってるの。まるで強力な力で塗り替えてしまったようにね。つまりこの赤い草は、ライフポーションにしか使えない状態になったハーブ、ということね。

 同じようにこっちの青い草と黄色い草も同様で、青い草はマナポーション、黄色い草はスタミナポーションを作る材料になるわ。それぞれ色分けでブルーハーブ、イエローハーブと呼ばれるものよ。


 この魔法薬に使われる色つきハーブの特性として、近くに植わっているハーブにそれぞれの色を与える事ができるの」

 「色を与えるって、どういう意味なの?」

 「つまりね、レッドハーブの近くにある普通のハーブを、赤色に染めてレッドハーブにしてしまうのよ」


 かなりとんでもない事を聞いた気がすると思いながら、イリスはレスティに聞いてみた。


 「それって、世界中が色つきハーブで埋まっちゃうんじゃ・・・」


 イリスは若干引きながら言うと、レスティはうふふと笑いながら、大丈夫よと言ってくれた。


 「この魔法薬に使われる3種類のハーブは、ある一定距離までのハーブしか染められない事がわかってるの。つまり、レッドハーブがひと株でもあれば栽培できるという事ね。

 同様に他の2種も同じような効果、影響を与えるから、魔法薬を作って売っている薬師のほとんどは、自家栽培で魔法の薬草(マジックハーブ)を育ててるのよ。

 ちなみに、色違いハーブ同士は染まらないわ」


 「そうなんだ。それじゃあ栽培できるから、貴重なハーブと言うわけでもないの?」

 「そうね、このハーブの特性として、魔法の薬草(マジックハーブ)がひと株さえ手に入れば、後はどんどん増やす事ができるから、割と楽に手に入るハーブね」

 「おばあちゃんも魔法の薬草(マジックハーブ)を栽培してるの?」

 「もちろんよ。魔法の薬草(マジックハーブ)だけじゃなく、リラル草やレルの花なんかも栽培もしてるわ。ハーブの生命力はすごいから、基本はほったらかしでもいい所が楽でいいわね」

 「おぉ、すごーい!」


 目をきらきらさせたイリスを微笑ましく見ているレスティ。



 「さぁ、それじゃあ魔法薬の製作に進みましょうか。魔法薬に使う部分は決まってるの。回復効果・中と大のお薬を作るなら、どの色の魔法の薬草(マジックハーブ)も葉の部分を使うのよ。

 色んな種類の魔法の薬草(マジックハーブ)があるけれど、効果の高いお薬を作るなら、花や茎、種、芽、根など、葉以外の部分は使わないほうがいいわ。作れない事もないのだけれど、不純物となってしまうから回復効果が落ちてしまうの。そうなると質の悪い魔法薬ができるのよ。それでも回復効果が小のものが出来るから、葉以外の部分も余すところなくしっかり使うことができて、とても無駄のないハーブなのよ。

 逆に言うと、回復効果・中と大のお薬は、葉のみで作らないとだめなの。これは葉の部分にマナが豊富に含まれているからと言われているわ。明確に解明はされていないのだから、あくまでもらしい(・・・)、なのだけれどね」


 そういってレスティは苦笑いをしながら、壁側に置いてある箱から、赤いハーブを2株持ってきた。


 「今日はこの乾燥させてあるレッドハーブを使って、ライフポーション・中を作ってみましょう。魔法の薬草(マジックハーブ)を使うためには、まずお部屋で陰干しをして、かぴかぴに乾燥させることが必要なのよ。そうすることでより強く効果を引き出す事ができて、高い効果のお薬を作る事ができるの。先ほども言った通り素材が違うだけで魔法薬になるから、ライフポーション・中を作る事ができれば他の2種類のお薬も作れるようになるわ」


 レスティはテーブルに出ている乾燥していないハーブを、一旦テーブルの下にある箱にしまい、ふた株ある内のひと株の乾燥ハーブを使って実演していく。



 「まずはこの乾燥させてあるハーブの葉と、それ以外の部分を取り分けるの。葉と分けるだけだから簡単よ。こうして葉を取っていって、葉だけ別の籠へ入れていくの。それ以外の部分も使うからまとめて別の籠に入れて、と。終わったら取り分けた葉をこの薬研(やげん)に入れて、こうやってごりごりして細かくするのよ。出来るだけ細かくしなくてもいいわ。ある程度細かくなったら・・・・・このくらいね、この細かいハーブをこっちの瓶に入れておくの。


 さて、自然回復薬と違うのはここからね。魔法薬・中のお薬を作るには、この細かくしたハーブを20グラル使うのよ。魔法薬・大の場合は、ハーブ40グラルを使うの。それにはここに置いてある天秤ばかりを使って(はか)るのよ。イリスは天秤を知ってるかしら?」


 「重さを量るための道具、くらいの知識しかないかも」


 「それじゃあ使い方から説明するわね。まずは両方の天秤に同じ重さの紙を敷いてから、こっちに20グラルの(おもり)をのせて、反対の天秤に粉にしたハーブを入れていくの。傾かず平行に吊り合えば量る事ができるわ。錘のここの部分に数字が書いてあるから、調べたい量の錘を置くのよ」


ふむふむとメモを取りつつ、イリスは学んでいく。


 「魔法薬の材料を教えるわね。まずはリラル草ひと株とさっきの粉にした魔法の薬草(マジックハーブ)20グラル、それとお水1リットラ。つまり自然回復薬を作る材料に魔法の薬草(マジックハーブ)が増えたくらいしか変わってないわ。まずは自然回復薬と同じように下準備をしましょうね」


 説明した後にレスティは、リラル草を細かく刻みながらそれぞれの小皿に分けていく。準備が整い、いよいよ魔法薬の調合だ。


 「それじゃあ作っていくわね。まずは葉を入れるまでの自然回復薬と同じよ。つまり、火にかける前の鍋に根を入れ、ひと煮立ちしたら一旦火からお鍋を離し、ひと呼吸置いてから茎を入れてそのまま色が出るまでしばらく時間を空けて、ここからね。

 葉と一緒に粉にした20グラルのハーブを投入し、静かにかき混ぜる。混ざりきったら火にかけて沸騰する前に火から離す。この後、自然回復薬だと時間を空けてからリラル草の花を入れるのだけれど、魔法薬にはお花は入れちゃだめなのよ。入れずにそのまま待ってると色が出てくるの」


 しばらく時間が経つと自然回復薬よりも薄い色で、赤の液体になったようだ。


 「これで完成よ。自然回復薬と違うのは、効果が高ければ色の薄さが増すって事ね。自然回復薬は小・中・大で色が濃くなっていくものだけれど、魔法薬の場合は逆に薄い色になっていくわ。つまりライフポーション・大を作ると、これよりももっと薄い赤色になるの」


 効果が高くなれば色が薄くなるって不思議よね。どういう原理なのかしらね、と言いながらレスティは、綺麗な布でハーブを取り除いた液体を見つめながら話していた。


 「ハーブを綺麗な布で取り除いたら後は冷ませて、空瓶に入れ替えて・・栓をすれば完成よ。液体の量も自然回復薬と同じ50ミルリットラね。ここまでで何か質問はあるかしら?」


 メモを取っていたイリスはふと葉以外の素材はどうするのかが気になった。


 「ううん、大丈夫だと思うよ。魔法薬・小に使う残りの素材はどうすればいいの?」

 「さっきの葉以外の素材を纏めて薬研でごりごりと細かくした後、20グラル使って作るのよ。あとは同じリラル草と水1リットラで作れるわ」

 「ほんとに自然回復薬の作り方が基本なんだね」

 「うふふ、そうね。あれを作る事ができれば、後はちょっとした応用だから問題ないはずなのよ。だからイリスなら大丈夫だと思ったの」

 「なるほど、なんとなくわかってきたよ。それじゃあ作ってみてもいい?」

 「ええ、もちろんよ。わからないところがあったら聞いてね?」

 「うんっ」


 イリスはまたメモを確認し、もうひと株用意されていた乾燥レッドハーブを使い、下準備をして調合していく。注意するべきは火加減とハーブを入れる順番だし、これなら落ち着いて作ればきっと上手に作れるはず。そう思いながら丁寧に薬を作っていく。


 「・・・できたっ。どうかな?」


 作られたばかりの薬の瓶を手に取り鑑定をするレスティ。丁寧に作り、手順も間違っていないはずのイリスは問題は無いと思ってはいても、内心ではどきどきしていた。


 「うん、問題ないわね。立派なライフポーション・中よ。さすがね、イリス。とても丁寧に作られているから高品質ね」


 そう言いながらイリスの頭を優しく撫でるレスティに、イリスは嬉しく目を細めた。


 「えへへ、ありがとう、おばあちゃん」

 「他の魔法薬であるマナポーションとスタミナポーションも下準備と作り方は同じよ。ライフポーションと同じようにすれば3種の魔法薬が作れるようになるわ。さて、何か質問はあるかしら?」

 「ううん、大丈夫だよ。メモも取ったし、きっと大丈夫っ」


 笑顔で答えるイリスに頼もしさを感じてしまうレスティであった。イリスがいてくれれば緊急時に備え、薬を蓄えておく事ができるようになる。基本的に使用期限がない薬はいくらあっても問題が無い。

 むしろ足りなくなった時の方が遥かに良くないのだ。いつ何時に強い魔物や、まして討伐指定魔物が出てくるとも限らない。備えはあるに越したことがないのだから。



 「さて。そろそろお夕飯の準備をしましょうか」

 「うんっ、おなかぺこぺこだよ」

 「あらあら、それじゃあ片付けてキッチンに行きましょうね」


 今日は何がいいかしらねと献立を考えつつ、作った薬の瓶を片付けるレスティにイリスも一緒に手伝いながら、ふと気になった事を聞いてみる。


 「そういえばおばあちゃん」

 「ん?なぁに?」

 「高品質のポーションってどこにしまったらいいの?」

 「あ、そうだったわね、どうしましょうかね」


 考え込むレスティは、そうだ!と言いながら隣の在庫部屋に向かい、ふたつの箱を持ってきた。


 「イリスの作ったポーションは、品質分けをするからこの箱へ別々に入れてね。前に作ってもらったポーションも入れておくわ。ある程度たまったらイリス用の販売場所を作るから、今はそのまま作り置いてね?」

 「うん?私用の販売場所?」


 レスティの言ってる事がいまいち理解できず、イリスはきょとんとしながら聞き返してしまった。


 「そうよ。私が作ったのとは別の清算をするの。そうすることでイリスが作ったお薬の売り上げを、そのままイリスに入れることが出来るわ。私の方と一緒の清算にしてしまうと、あとで計算し直すのも大変だし、最初から別にした方がいいわ」


 さらっと笑顔の表情を変えずに言うレスティにイリスは戸惑いを隠せず、焦りながら言葉を返すイリス。それはつまり―――


 「ちょ、ちょっと待って、おばあちゃんっ。このお薬は"森の泉"での売り上げになるはずじゃないの?私はあくまでお手伝いをしてるだけで、お金を貰うのは違うと思うよ?それに私はお勉強とお手伝いがしたいだけで、お薬を作って売ろうとは思ってなかったよ?」


 そう言うとレスティは笑顔を崩さず、まるで当然のことのように話し出す。


 「それは違うわ、イリス。このお薬はイリスがひとりで作ったもので、その利益は作った人であるイリスに渡るのが普通のことなのよ。そしてそれは、生産系のお手伝いの基本でもあるの」

 「ざ、材料費は?材料費もかかってるよね?じゃあ、そのまま貰う事はできないんじゃ?」


 何か断る方法はと探しつつ、イリスは質問する。


 「材料費って、自家製ハーブ園という名の、適当に苗を植えた後、自然とにょきにょき生えてくるハーブを引っこ抜いてお薬にしてるのよ?お金なんてかからないわよー」


 くすくすと笑いながら答えるレスティであったが、イリスはまだ納得できない様子で、引き下がることができなかった。


 「か、乾燥させたハーブは?乾燥させるのに手間暇かかるよね?」

 「おうちに吊るしたままほったらかしのハーブに手間暇はかからないわよー?」


 うっとなるが、『でも、でもっ』と繰り返してしまうイリスだが、まだ納得の出来ない顔をしている孫にレスティは話を続ける。


 「ありがとうねイリス、気持ちはとても嬉しいわ。でもね、生産系のお仕事のお手伝いをして、"正当な報酬"を受け取ってもらえないと、私がギルドに怒られちゃうのよ?」


 ぐふっと両手両膝を床につける孫に祖母は、あらあらと頬に手を当てながら笑顔で見つめるのだった。実際には正当報酬とは違うのだが、こうでも言わないとイリスが受け取ってくれないと思った事に関しては間違いがなかったようだ。


 何をしようとするにもお金がかかるのだから、お金はあればあるだけいい。今は使う事がなくても、溜めておけば将来必ず役に立つはずだ。やりたい事が見つかった時、必ずと言っていいほどお金が必要になるはずなのだから。


 そう思いながら、倒れ込む孫を優しい眼差しで見つめる祖母であった。



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