"それぞれのギルド"
アルリオン内へと入ったイリス達は、エステルを休ませる為に、まずは厩舎へと向かっていった。
こういった場所は、大凡街に入って直ぐの場所に設けられているので、とても大きな国であるアルリオンと言えど、数ミィルほどで着いてしまったようだ。
それでも数ミィルかかった事に驚くイリス達だったが。
厩舎の方にエステルをよろしくお願いしますとイリスが言葉にすると、大切にお世話をさせて頂きますと笑顔で返して貰えた。
馬車を倉庫へと移動し、エステルを馬車から離すと、そのまま彼女はゆっくりとイリスの元へと歩いて来た。
余程大切に想われているのですねと厩舎の方がイリスに言い、彼女も嬉しい限りですよと答えるも、内心ではエステルの気持ちが痛いほど分かっていた。
とても寂しそうなエステルの顔に優しく強く抱き付き、自身の頬を当てながら丁寧に撫でていくイリスは、エステルを連れて放牧場へと向かっていく。
嫌がる事も無く放牧地に入り、柵越しにイリスの元へとやって来るエステルを、同じように抱きしめていくイリス。
その姿に厩舎の方は、目を丸くして驚いてしまっていた。
イリスはエステルの手綱も持たず、彼女の前を歩くだけで付いていくという、不思議な光景を目の当たりにしてしまう。それはまるで彼女の言いたい事や、エステルがしなければならない事を理解しているかのように放牧地へと移動していった。
そんなエステルはイリスに擦り寄りながら、とても寂しそうな瞳をしていた。
ぎゅっと彼女を抱きしめるイリスは、優しく撫でながら言葉にする。
「大丈夫だよ。置いて行ったりなんて、絶対にしないからね」
その言葉に安心したかのように、エステルは一度だけイリスに頬を摺り寄せて、放牧場の奥に生えている草を食べに歩いていった。
エステルの姿を見ていたイリス達も、馬車から降ろした素材を買い取って貰う為に、まずは冒険者ギルドへと向かい、厩舎を後にする。
後に厩舎の方はこの時の話を仲間達に話すと、極々稀にそういった子がいるんだよなと話に花が咲いた。
余程愛されてるんだな、その子は。そう言葉にした厩舎を管理している者が呟くように話した事を、当のイリスが知る事は無かった。
* *
エステルから離れ、イリス達は街の中央部へと向かい歩いていた。
アルリオンに着く前から見えてはいたが、実際に間近で見てみると、また違った印象を受けたイリス達。
アルリオンの美しい街並みに、思わず感嘆の溜息が漏れてしまう女性陣だった。
この街は、今まで訪れた事のある街とは、まるで違っていた。
当然規模もそうではあるのだが、それ以上に建造物がとても特殊に思えた。
近くにある建物を少し触らせて貰ったイリスは、その異質な感覚を感じたようだ。
真っ白で、少しざらざらとした手触りの石質。ほんのりと輝くように明るい不思議なもので、これは石である事に違いはないと思えるが、正直見た事の無い石質に思えたイリスだった。
それについてもロットが話してくれた。
「この石材は、ここから北東部にある石切り場から持ち寄った、アルリオン特有の石材なんだよ」
アルリオンの建造物に使われている石材は、花崗岩とも違う白さを見せた"リオール"と呼ばれたもので、加工し易い上に、ある素材とリオールの粉を混ぜたものを表面に塗り込むだけで、飛躍的に強度が増す事が出来るとても不思議な石だ。
おまけに埃や汚れなどに非常に強く、まるで魔力を帯びているかのように輝いて見える石で、触れるとほのかに温かさを感じるようにも思えた。
アルリオンの建造物の殆どがこの石材で建設されるほど、この街には必要不可欠な石材となっていた。
その切れ端で家具なんかも作られているんだと、ロットはイリス達に教えていく。
「なるほど。それであれほどの大きな聖堂が造れたという事なのですね」
「それを人の力が成した事に驚きますわね」
「凄い街なんですね、アルリオンは」
街並みもフィルベルグともエルマともまた違った構造をしているようで、思わずきょろきょろと周りを見てしまうイリスとシルヴィアだった。
街の入り口からお店が並ぶ事に疑問に思ってしまうイリスが、先輩達に尋ねていく。
「街の入り口にお店が並んでいるんですけど、ここって南門ですよね?
こちらの門の利用者が多いという点から、お店が並んでいるんでしょうか?」
「いや。ある程度特色はあるが、大凡どこの門の近くでもこういった店が並んでいる」
「アルリオンはとても多くの人が住んでいるから、北門付近は農業に関連した店が多く、西と南は交易用の特産品が多く売られているんだよ。
東門の先には、海街エーベがあるからね。貴重な塩の生産や、新鮮な魚を加工したものを一緒にアルリオンへと運び入れる為に、中央部に置かれているギルドとは別に、それぞれの門の近くに冒険者ギルドが設けられているんだ。中央にあるギルド以外は、受注専門となっているんだけどね。
仕事内容は商人の護衛や荷物の運搬に関するものだったり、中には必要物資をエーベに運ぶ、なんてのもあるんだけど、基本的に東の街へと向かう依頼ばかりだね。
一応、アルリオン所属冒険者ギルド東門支部っていう正式名称が付いているんだけど、名前が長いし、全てエーべに関連した依頼しかないから、関係者には東門ギルドとか、塩ギルドなんて呼ばれているよ」
ロットの話を聞いていたシルヴィアは、ふと思った事を言葉にした。
「フィルベルグとは随分と違いますわね。これだけ大きければ、そうなってしまうのも仕方がないのかもしれませんが、まさかギルドまで多く置かれているとは思いもよりませんでしたわ」
「それぞれにギルドが置かれているという事は、アルリオンには冒険者ギルドが五つもあるのですか?」
「そうだね。それぞれ内容が異なる依頼ばかりだけど、どこも素材の買い取りはしていないんだ。大量の素材となれば中央部ギルドに報告して、ギルドの人を派遣して貰う事も出来るんだけど、それこそ馬車一台分以上の量が必要になるから、隊商くらいしかお願いしないだろうけどね」
「まぁ、馬車一台分なら持ち方さえ何とかすれば、俺一人でも十分だからな。気にする事も無いだろう」
ヴァンの頼もしい言葉に嬉しくなるが、同時に申し訳なさが込み上げてしまうイリスは、流石に素材は皆さんで持ちませんかと言葉にすると、シルヴィアとネヴィアもそれに同意していった。
「そうですわよ。ヴァンさん一人に、まるで荷物持ちみたいな事などさせられませんわ。今回は素材が一つの袋で収まっていますが、そうでなければ皆さんで持ちましょう」
「そうですよ、ヴァン様。そういった時は、私達にもさせて下さい」
「私達はチームなんですから、皆さんで力を合わせるのは当然じゃないですか」
迫る勢いで女性陣から言い寄られ、たじろいでしまうヴァンは、思わず『むぅ』と言葉を漏らす。
そんな遣り取りを、ロットは優しい表情で微笑ましそうに見つめていた。
暫く街を歩いて行くと、アルリオンの中央部へと辿り着いたようだ。
一気に景色が広がって見えるこの大広場は、国の中央に聳える大きな大聖堂を囲むように設けられていた。
大聖堂は四方向から入る事が出来るような造りになっているようで、見通しの良いこの場所からもその大きな入り口が見え、多くの人が出入りしているようだった。
ロットによると大聖堂の一階には、誰もが女神に祈りを捧げる事が出来る祭壇があって、多くの人が毎日時間を見つけてはお祈りしているのだと彼は言葉にした。
一度は訪れたいと思っていた場所なだけに、興味が教会へと向くイリス達だったが、まずは魔物の素材を買い取って貰う為に、中央部のギルドへと向かっていく。
途中、大きな広場の中央にある石碑のようなモニュメントに視線を移すイリス。
何だろうかと考えていると、後で行ってみようかと言葉にするロット。
「あれはとても大切なものだから、一度は見ておくといいと思うんだ」
その言葉で大凡の把握が出来たイリス達は、真剣な表情で了承していく。
だけどまずはヴァンさんの持っている素材を売りに行こうねと彼は続け、その言葉に表情を和らげるイリス達は、すぐ近くにある冒険者ギルドへと足を進めていった。




