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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第八章 その大切なはじまりを
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"結論は変わらない"

 

 重々しい空気が流れる室内に、リクハルドの声が響く。

 とても険しく部屋全体に行き渡る声色で、彼は言葉を続けていった。


「……頭を下げるな。それこそお前がする事ではない。エルマの住民でもないお前に、頭を下げさせてしまうまで事態を悪化させていた、我々が頭を下げるべき事だ。

 本来であれば、遥かに前から動かねばならない現状を静観していた。現実に向き合わず、見て見ぬふりをしていたのだ。それを咎められる事こそあれ、お前が頭を下げる理由など何ひとつない。だから頭を下げるな」


 目を大きく見開きながら頭を上げ、リクハルドに向き直るイリス。

 そしてすぐさまそれに気付いた。彼もまた、タニヤと同じ気持ちであった事を。


 それは他の評議員達も、同じ気持ちのようだ。

 そうだ、誰もが子供達を何とかしたいとは思っていた事だった。

 あの子達が最低限生活出来るようになっていたのも、人知れず力を貸してくれていたのだろう。食べ物であったり少量のお金であったりと様々ではあるが、実際に見ていなくても、彼らが力を貸していてくれた事がはっきりと理解出来たイリスだった。


 そしてそれは同時に、問題点も浮き彫りにするものとなる。


 評議会ですら手が出せない状況。

 子供達を救いたい気持ちはあるが静観をしている事実。

 それでも人知れずに手助けをしている現状。


 以上を考えれば、自ずと答えは導き出されてくる。


 タニヤ達と話し合いをしていた時点で、イリスは大まかではあるがそれに気付く事が出来た。これは外から来た者だから分かったという意味ではないだろう。

 多くの者がそれに気付いてはいるが、変えられない事情として、ある事がのしかかっていると認識出来たイリスは、これについて言葉にするべきかどうかを悩んでしまっていた。それこそ口を出すべきではない事だと思えたイリスだった。


 そんな中、リクハルドは言葉にする。

 その瞳には覚悟が伺えるものがあったが、思考の中を彷徨っているイリスが気付く事は無かった。


「決を採る。彼女の意見を聞き、エルマの将来を話し合うか否か」

「賛成だよ。もういい加減向き合う時が来たんだ。ならあたし達がそれを率先して変えなきゃなんないんだよ」

「賛成です。私も静観など、もう出来ません」

「僕も賛成です。子供達の為に、出来る事を考えたいです」


 リクハルドは可否を言葉にする事はなかった。

 既にその意思を示した以上、言葉にする事でもない。

 そして賛成三票ではあるが、結論を出さない彼は、最後の一人に視線を向ける。


 嬉しさのあまり、涙が止まらなくなってしまっているタニヤ。

 だが、彼女もまた評議員のひとりである。結論は出てしまっているが、彼女の意思を聞く為に言葉を噤んでいるリクハルドだった。


「……わたしも、賛成よ。……ありがとう、みんな……本当に、ありがとう……」


 嬉しそうにタニヤは答えるが、問題は山積みだ。

 それこそエルマを改革する気概で望まねばならないだろう。


 それについて、まるで確認を取るようにイリスへと尋ねていくリクハルド。


「……それで、お前はどう思っているんだ? ここまで仕出かしたんだ、大凡の案は考えた上での事だろう?」

「はい。ですが、それは私の意見であって、評議会に口出しする事ではないと思っているのですが」

「構わん。ここまで来たんだ。最後まで付き合え」


 リクハルドの言葉にありがとうございますと笑みを見せたイリスは、沢山の仲間達と考えていた事を述べていった。


「子供達に必要となるものは沢山あると思います。

 ですがまずは、子供達が安心して暮らせる街になればと考えていました。

 それには子供の意識改革と、例え子供たちだけでも暮らしていける、安定した世界が必要になります。その為には様々なものが必要となりますが、まずは私たちの考えからお伝えさせて頂きます」


 そう言ってイリスは必要となるものの話に入っていく。


「子供達に必要となるものは多々ありますが、食料品や多少の医療品を含む生活用品、孤児院の修繕と今後を見据えた拡張工事、子供達の安定した就労支援、文字の読み書きや計算の勉強支援、本や玩具などの娯楽用品といったところでしょう。

 今現在の小さな子供達は、孤児院の外で元気に走り回ってくれてはいますが、年齢を重ねていくに連れ、それも変化していくと思えます。

 本に関しては高価でもありますし、文字の読み書きが必要となってきますが、物語が沢山入った本を数冊用意するだけで、随分と世界が変わっていくと思います。

 小さな子達が読み聞かされたお話を、更に小さな子達に伝え、そして本に興味を持ち、文字の読み書きの勉強をしたいと思うようになる子もいるかもしれません。

 ですがまずは、農地となる土地の購入権利の認可をして頂きたく思います。それにより孤児院に隣接した場所を耕し、畑にする事が出来るようになります。

 ここで育てる作物は、リラル草とレルの花を植える予定です」

「そうか! 自然回復薬を作られるのですね?」


 トゥロはイリスに割って入るように言葉にした。

 そして彼は同時にイリスが以前尋ねていた、薬についての理由が理解出来た。


 笑顔でトゥロに向きながら、そうですと短く答えていくイリスだったが、更に問題点が増える事になると、彼とタニヤ以外の評議員は思っていた。

 だがここはまず彼女の言葉を最後まで聞いた上で答えねばならないと、口を噤んでいる彼らだった。


 その様子を理解したイリスは先に言葉にしていった。


「十歳以上になる子供達の協力を得て、今現在、彼女たちは薬学知識について学んでいる最中ではありますが、皆とても物覚えがいい子達ばかりで、既に自然回復薬・中であれば作る事が出来る技術を持っています。

 同時進行で、彼女達には文字の読み書きを教えていますので、将来的には読み書きが出来るようになると思います。いずれは小さな子供達に文字や計算を教えられたら、とも思っています。

 もうじき魔法薬の勉強を教える予定なのですが、ここで少々問題が出てきます」

「……作った薬についてか」


 リクハルドの言葉に短く肯定するイリスは、言葉を続けていく。

 ここにも評議会の了承と協力が必要となる大切な部分だ。


「ここで皆さんにお願いしたいのは、子供達が製造した薬の販売経路を確保して頂きたいという事です。それにはまず議会の認可と、中央区の協力があって始めて成り立つものとなります。当然、薬の鑑定も必要となりますし、現在製造し生計を立てている薬師さん達の立場もあると思います。

 ここで提案したいのは、子供たちが販売する薬に関しては自然回復薬に限定する、というのはどうでしょうか? これであれば現在の市場を荒らす事無く、資金を得る事が出来ると思いました。

 魔法薬に関しては、あくまでも知識と修練のみとし、本格的な販売まではさせない予定です。これには魔法薬を作る事が出来る子供達を、中央区が製造をお願いしている薬師さん達の元で共に働ける事にも繋がり、懸念していた将来の不安をひとつ取り除く事にもなると思います。

 現在エルマでは、薬師不足に悩まされている様子なので、エルマの為にもなる事だと考えました」


 ここまで話すとリクハルドが言葉にする。

 イリスが今話した内容は、どれもがまだ問題を抱えていたままである事に変わりはない。それについて協議しなければならないが、まずは発言者であるイリスに尋ねていかねばならなかった。


「……さて、色々と問題が出ているが、それについて話していくか。

 土地購入の真意は理解した。それであるなら議会としても認可出来るだろう。それはまた後として、次に行こう。

 製造した薬の販売経路や、子供達が働ける環境作りに関しても認証が必要となるが、それも置いておく。勉強支援に必要となる教える者や、玩具を用意する件も問題となっているが、まずは最大の問題からだな。

 どこからその金を用意する? お前の言った事全てを現実とするのならば、それには莫大な金がかかるぞ。細かく計算はしていないが、軽く白金貨が必要になるだろう。それも土地代を込まずにだ。土地を耕すのにも薬草を植えるのにも人手がかかる。

 何よりも孤児院の修繕と拡張による改築費が笑えない金額となる。この周囲にはエルマしか伐採出来ない。大森林最奥まで行けばある程度木々はあるが、そこまではとてもではないが採りに行けん。加工するのも人苦労なあの材木しか使えない以上、かなりの金がかかる。商業区や飲食街の建造物を思えば、お前なら理解出来るはずだ。

 嫌な話になるが、全てが金に繋がる話だ。そしてそれこそ我々が目を瞑ってしまっていた大きな理由であり、それだけの金額を捻出する余裕など、今のエルマにはない。

 残念だが、現実的ではないと言い切れる話となる」


 彼らとて、子供達を放っておく事は良くないと理解はしている。

 理解はしているが、現実は違う。そこには夢も希望も存在しない、現実的な"資金"が必要になる。それも莫大な資金が。

 とてもではないが、そんな資金を用意するだけの余裕などないと言わざるを得ないのが現状であり、現実となっている。


 それほどまでの大金を用意出来る者など、並みの冒険者ではまず無理だ。

 ましてや目の前にいる若い女性に用意出来るとは、とてもではないが思えない。

 土地購入の件も、仲間同士で寄せ集めて買うつもりなのは明白であり、結局の所、エルマに資金援助を求めているのだろう。


 であれば、結論は変わらない。

 理想や願いで全てを叶えられる事など誰にも出来ない。

 そんな事が出来るのは、女神であるアルウェナだけだろう。


 そう思ってしまうのが当たり前の事だろう。

 それは彼らに落ち度があるのではなく、単純にイリスが規格外だと知らないが故の反応だ。その片鱗を知っているタニヤのみ、表情を変えずにいるようだが、それ以外の評議員の表情は暗く、気持ちは重苦しいものに支配されていった。

 リクハルドでさえも瞳を閉じ、結局は同じ事の繰り返しになるのかと、半ば諦めつつあるようだ。


 そこにイリスは凄まじい一言を発して彼らを驚かせるが、あまりにも驚き過ぎて、完全に思考が止まってしまうリクハルド達評議員であった。


「資金については私がご用意出来ると思います。生活用品や孤児院の修繕費を含む改築費、就労や勉強支援にかかる必要経費や娯楽用品にかかる雑費にまで全てです。

 逆に言うのならば、お金はあるのですが、修繕に必要となる資材や工具、勉学用の本や玩具などの品物が一切ありません。

 ハーブに関しては外から持って来る事が出来ますので、我々でも畑に関しては何とかなりますが、そういった物品に関しての入手も、皆さんにお願いしたいのです」


 話し終えたイリスの言葉に目が点となってしまっている彼らは、今彼女が何を言ったのかを辿っている様子に見えた。

 そんな彼らにタニヤは苦笑いをしながら、頬に手を当て小さく『わかるわぁ』と呟いた頃、いち早く動き出したリクハルドが答えていくが、その表情はとても信じられないといったものをしているようだ。


「……な、なんだと? 全ての資金を、お前が用意出来ると言うのか? その金額は莫大なものになるんだぞ? 単純計算でも軽く白金貨二枚に届くかもしれないんだぞ?」

「問題ありません。既にタニヤさんにお願いして、私の口座があるフィルベルグギルドに手紙を送って頂いています。恐らく資金をご用意させて頂けるのは、あと十一日ほどはかかると思われますが、問題なくお支払い出来ます」


 笑顔で語る女性に恐ろしさすら感じるリクハルド達。

 それだけの資金を所有する若い冒険者など聞いた事もないし、とてもではないが信じられる事ではない。正直に言えば、その資金を目の前にするまで信じられないと思ってしまうほどの大金が必要となる。


 あまりにも現実離れしているように思えてしまう一同の中、リクハルドは心情を吐露するように声を出してしまっていた。


「…………お前は一体、何者だ……」




 お金の価値に関しても書いた方がいい気がしてきました。今日の活動報告(だぶんにっき)にでも書かせて貰いますね。

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