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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第八章 その大切なはじまりを
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"定例会議"

 

 中央区にある少々立派な建造物のひとつに、とある人物達が集まっていた。


 この場所は主に、重要な話し合いをする為に設けられた特別な部屋だ。

 当然、ここに居る者、この場所に居られる者には制限がかかる。

 関係者以外は、この部屋にすら踏み入れる事が出来ないようになっている。


 少々大きめの円卓に座る四人の人物は、最後の一人が到着するのを待っていた。

 席に座っている者達は、物腰が低そうな好青年、肝の据わった中年女性、人の良さそうな中年男性となっていた。

 彼らの年齢層もまちまちで、その風体や性格まで様々だが、一際異彩を放っていたのは、眼光鋭く筋骨隆々の初老の男性だろう。

 その人物は腕を組み、険しい顔で座っていた。


 暫くすると、最後の一人が言葉にしながら部屋に入って来たようだ。


「ごめんなさいね。待たせてしまったかしら」

「……問題ない。定刻通りだ」


 最後に入って来た高齢の女性に、言葉を返す初老の男性。


 空いている席に座る女性と、彼女に続くように入って来た若い男性。

 彼は書記や取次ぎなどの雑務をこなす為に同席をしているが、口出しを許されていない立場にいる者となる。


「……では始めるか」


 初老の男性が言葉にすると、今回の話し合いが始まっていく。


 尤も今回の目的は、ギルアム討伐による周辺の影響調査と、その後始末の報告が主となり、後は定例会議のみだ。ギルアムの件以外では特に話し合う事もないもので、三十ミィルでもあれば終わるような内容となるだろう。


 滞りなく会議は進み、ギルアム討伐後の影響も、今の所は無いようで安堵する一同。

 今回は奇跡的に被害をゼロに抑える事が出来た。もし長引いていれば、どんな影響が出たのかも分からない。最悪、大きな被害を被ることも想定していた。


 これを無事に収束できた事は、奇跡としか言いようがない。


「では今回はここまでとする」


 初老の男性の言葉で会議を閉める。これも定例通りだ。

 だが今回は少々違ったようで、高齢の女性が立ち上がろうとした彼らを引き止め、言葉にしていく。


「まだお話をしなければならない事があるの。もう少し続けたいのだけれど、いいかしら?」

「……何だ。お前が言うくらいだ。何かとんでもない事でもあったのか?」


 初老の男性が高齢の女性、タニヤ・パーテライネンへと言葉にするが、内心は冗談のつもりで話していた。


 エルマで最も脅威となるギルアムが討伐されたのだ。そんな事態は起きないだろうと思うのは、この街の住民であればそう答えるだろう。

 彼はこの街に来て三十年以上になるが、危険種討伐の報告がされた後は、周囲が穏やかになる以外の話は聞いた事がない。多少ウォルフが集団になりやすい傾向があるが、それも六匹程度のものであり、然程重要視されるような事でもなかった。


 彼女は二匹目(・・・)の話を始めていくが、その内容は冗談なしで、とんでもないものだった事を知る評議員達だった。


「今から三日前。南東にある"星見の洞窟"から真っ直ぐ街道へ向かった場所にて、二匹目のギルアムと遭遇し、これを撃退したとギルドに報告がありました」


 驚愕する一同。

 言葉を失うとは、まさにこういった状況の事なのだろう。

 正直な所、言っている意味すら分からない内容だった。

 彼らが戸惑いの中を彷徨う間に、話を続けていくタニヤ。


「その翌日、ギルドが討伐確認し、今現在は安全が確保されています。尤も、これだけ短期間に出現した事による影響は予測など付きません。今後も調査を続けねばならない事ではありますが、一先ずは収束に向かっていると思われます」


 なるほどと言葉にする初老の男性は、続けて要点のみを言葉にした。


「討伐料は何とかしよう。厳しいが、出せると思う。お前達はどうだ?」

「あたしの方も何とかなるね。まぁ厳しいのはこっちもだけど」

「代役なので言及は控えたいですが、こちらも何とかなると思います」

「ギルド側も用意出来きます。相当に厳しいですが……」

「……まぁどこも厳しいのは仕方がない」


 そもそも危険種討伐料は、エルマの民からの税金とコミュニティーによる積立金だ。行き成り資金を出せと言われても、厳しいと言わざるを得ないのが現状となっている。

 貿易都市エークリオならばまだしも、エルマは比較にすらならないほど小さな街であり、この街にとっては巨額とも言える金額をぽんぽん出せるほど、エルマの財政は潤ってなどいない。


 正直な所、二匹目のギルアム討伐に喜べばいいのか、その存在の出現に驚けばいいのか、財政が厳しくなる事に嘆けばいいのか、ここにいる彼らは悩んでしまうが、討伐確認が取れている以上、安全だと言えるだろう。


 そうでなければ、再びギルアムの脅威にエルマが怯える事になる。

 そうであって欲しくないといった希望的観測ではあるものの、短期間に三匹目の出現は考えたくもないおぞましい話だ。

 それを理解しているコミュニティーの長達は言葉に出来ず、固まってしまっていた。


 しばしの沈黙の後、初老の男性が会話を続け、その場の空気の流れを変えていった。


「……それで、報告は以上か?」

「いえ、もうひとつあります。とある冒険者から、エルマの土地を購入したいとの申し出がありました。これについての協議もお願いしたく思います」


 これにも驚く評議員達。

 先程の話も信じ難いものではあったが、こちらはもっと理解出来ない事だった。

 そもそもエルマの土地は、そう簡単に買えるような値段をしていない。

 当然、高価過ぎるのにも理由があるが、問題はそこではない。


 そんな高価なものを冒険者が買う理由は、自ずと限られてくる。

 恐らくはエルマを気に入り、永住するつもりなのだろう。


 これについては評議員としてではなく、ひとりのエルマの住民として歓迎したいところだが、これは彼らの個人的な意見であり、エルマの中枢に携わる者としては疑問を持たざるを得ないと、この場にいる誰もが思っていた。


「……何故、この時機に申し出があった?」


 初老の男性はタニヤに尋ねる。


 それはそうだろう。

 今現在は落ち着きを取り戻したとはいえ、ギルアムの脅威が間近に感じられるほど緊迫した状況が、今も尚続いていると言える。

 街中では未だピリピリと張り詰めた空気が漂っており、とてもではないが、そのような気分にはならないはずだと思えてならない。

 こんなタイミングで永住しようだなどと思う冒険者など、聞いた事もないし、想像すら出来ない。一体何を考えているんだと、疑問に思うのが当たり前だろう。


「言っちゃなんだけど、エルマで土地を買うって意味が分かってるのかね、その冒険者は」


 中年女性が怪訝そうに仲間達へと尋ねるが、そう言葉にしてしまうのも当たり前だというほど、エルマの土地は高い。

 アルリオンであれば、一等地でも選ばなければ、大きな屋敷付きで土地が買える値段になる。本当にその意味を理解しているのだろうかと、その冒険者の正気すら疑ってしまう。


「……何を企んでいる、そいつは」


 ギロリと鋭くタニヤを睨み付けるが、彼女は物怖じする事はない。

 企むとは人聞きが悪く感じてしまうが、その冒険者の思惑が分からない以上、そう思ってしまうのも妥当な判断だ。

 それほどエルマに土地を買うという事の意味が、理解出来ない彼らだった。


 思わず沈黙を破り言葉にしてしまう中年の男性。

 その言葉遣いから人の良さを滲み出してはいるが、彼の立場上、エルマを乱しかねない存在であれば、決して看過出来るものではない。

 口調はとても穏やかだが、心内ではかなりの警戒をしているようだ。


「その方は、土地を何に使うのか仰っていましたか?」

「ええ。ですが――」


 短く言葉にするタニヤは一旦言葉を区切り、微笑みながら言葉にしていった。


「――本人に直接話させた方がいいと思い、こちらに連れて来ています」


 タニヤの言葉で大凡把握した一同。


 だが、ここは評議会だ。

 その議題や決定を含む内容を、独断で決める事は出来ない。

 それがここの法であり、守るべき秩序だ。


 ならば、するべき事は決まっている。


「決を採る。冒険者を呼ぶか、否か」

「賛成だよ。あたしはそいつに興味が沸いたね」

「私も賛成です。治安を預かる者として、この目で見極めたいです」

「賛成です。僕もその方とお会いしたいですね」

「決まりだな。そいつを呼んで来い」


 書記の男性に言葉にし、その冒険者を呼びに行かせた。

 退室する彼の姿が見えなくなると、暫しの沈黙が続く。

 恐らくは隣の部屋に待機していたのだろう。

 直ぐに足音が近付いて来るのが聞こえてきた。


 扉をノックする音に、入れと言葉を投げる初老の男性。

 開け放たれた扉に注目する一同だったが、タニヤと初老の男性以外の評議員は目を丸くしてしまった。


 その場に立っていたのは、純白の鎧を纏った、見目麗しい女性だった。


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