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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第八章 その大切なはじまりを
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"討伐料"

 

 そんな中、驚きの余り沈黙していたドミニクはタニヤに話しかけていく。

 それは誰もが気付いているようで、考えに至らない事だったものであり、タニヤやアウレリオを大きく反応させるのに十分なものを持っていた。


「……なぁ、タニヤさん。今回のギルアム討伐における報酬は、イリスさん達に入るんだよな? なら、もう一匹分のギルアムの報酬はどうするんだ? その二匹分の討伐料を、イリスさん達は使おうとしているんじゃないか?」

「「――それだ()!!」


 ぱあっと明るくなった二人は、活路を見出したように言葉にしていく。


「危険種の、それもギルアム討伐料となれば、それはかなりの金額になるはずだよ。

二匹分ともなれば、白金貨一枚以上の報酬になるはず」

「そうね。確かに軽く超えるわ。流石に二匹目のギルアムが持っている強さについて、色を付けることは出来ないけれど、二匹分の討伐料はとんでもない金額になるわ。

 あ、でもでも、これもまずは評議会で話さなければならないわね。ギルアム討伐料に関しての資金は、エルマの住民から集めた税金や、コミュニティーから捻出されているのよ。二匹目の存在についても確認と協議をした上で、お支払いすることになります。

 こちらもそれなりにお時間を頂くことになりますが、イリスさんが購入しようとしているもので、お支払いする事も出来るかもしれません」

「だがこれで資金の目処も立つだろうから、一気に現実感が出て来たよ」

「そうね。私が半ば諦めていたのも資金的な意味合いが強かったけど、イリスさん達が協力してくれるのならきっと、ううん、絶対にエルマを変える事が出来るわ」

「二匹目のギルアム討伐料って戴けたんですか?」

「もちろんよ。あんな怪物を討伐出来るなんて本当に凄い事だけれど、そちらは必ずお支払いしま――」


 イリスが発したその言葉に、思わず固まるタニヤ。

 何か違和感を感じたタニヤとアウレリオだったが、それが何かは分からなかった。

 記憶を思い起こすように辿ってみると、その違和感に気が付いた。

 彼女は先程こう言った。『フィルベルグ冒険者ギルドに預けてある』と。


 ……何をと、ギルドマスターらしからぬ疑問に、再び思考が止まるタニヤだったが、イリスはタニヤ達が考えている事とは全く違う事で、仲間達と話し始めてしまった。


「二匹目のギルアム討伐料を戴けるとは、思っていませんでした」

「うむ。正直、前例がない事だからな。貰えないと思っていたが」

「そうですわね。それに危険種討伐料って、相当な額になるのではないかしら」

「そうだね。中でもギルアムは厄介な存在と言われているから、かなりの高額になる筈だよ」

「だとすると、エルマの財政を圧迫させてしまうのではないでしょうか」

「でしたら私達が報酬を辞退して貰わないというのも、一つの選択肢ですよね?」

「そうだな。資金的にエルマに影響を与えては意味がない。それもありだと思う」

「では、必要となる資金をどうするか、ですわね」

「パーティーのお金として使うのはどうでしょうか?」

「なら私の口座から引き落として、その資金にしましょう」


 了承する方向で話が纏りかけた時、ふとシルヴィアが言葉にする。


「でも、イリスさんの功績による報奨金も、同じ場所に入ってしまっていますわよね」

「そういえばそうでしたね。でも構いませんよ。まだ使えるお金として入っているかも分からないですから、まずは私の持っているお金を引き落として、資金にしようと思います」


 そこはきっちり分けるべきではないだろうかとヴァンが答えると、イリス以外の仲間達は彼の意見を肯定していく。


 そもそもイリスの口座に入っているお金は、イリス自身が得たものだ。

 古代遺跡で手にした彼女達の功績に関してのお金が、イリスの口座に入れられているのだとすれば、彼女自身が成したものによる報酬金とごちゃごちゃに混ざってしまっていることになる。


 そこまで頭が回らなかった一同は、しまったという表情を浮かべるも時既に遅しだ。

 恐らく急いでフィルベルグへ戻ったとしても、報酬金が振り込まれている可能性もある。今更行った所で間に合わないと思えたシルヴィア達は、仕方ないといった口調で話していく。


「……今更ですわね」

「そうですね、姉様」

「そうだね。今後シルヴィアかネヴィアの口座を作って、そこにパーティー用の資金として入れるかい?」

「うむ。それがいいだろう。幸い二人は新規で口座を作れる。

 そうすれば大金を持ち歩かずに済むので、色んな意味で良いだろう」

「では、パーティー用の資金を入れる為の口座を私名義で作り、ネヴィアの口座はとっておきましょう。何かに使えるかもしれませんから」

「私もそれで構いませんよ、姉様」

「……えっと、私としては、私の口座をそのままパーティー用として使って頂いて構わないのですが」

「それはダメですわ」

「それはダメです」

「それはダメだよ」

「それはダメだ」

「……あ、はい」


 全く同時に即答されたイリスはしょぼんとしてしまうが、こればかりはしっかり分けるべきだと仲間達は思っているし、そうするべきだと誰もが言うだろう。


 この件についてもフィルベルグギルドに伝えねばならない。

 可能であれば、イリスの功績とは分けて貰えるかも聞いた方がいいとヴァンは答えた。これも幸いと言えるのかもしれないが、長年冒険者として活躍はしていないイリスの口座は、調べればすぐに経歴が分かって貰えるはずだ。

 ギルドマスターであるロナルドが融通してくれるかもしれない。当然これは贔屓という意味ではなく、ロナルドの人柄による予想ではあるのだが。

 彼はそういった配慮もしっかりと出来る人物だと、ロットだけではなく、フィルベルグに拠点を移したヴァンでさえも理解していた。

 正確に言えば、あの眷属事変直後、拠点を移したいと申告した際に面談したその場で、それを理解することが出来たヴァンだった。


 あれだけの人格者とヴァンは会った事がない。

 彼は話の分かる人物だなどとは言えないほどの人格者であった。

 人情味が溢れる、とでも言えばいいだろうか。表情は強面だが、中身は素晴らしい御仁だと会って直ぐにそれが分かったヴァンは、彼に妙な親近感が湧いていた。

 彼の元であるのならプラチナランクも悪くないと、酒場でロットに呟いたものだ。

 まさか彼以上の人格者がギルドマスターを務めているとは、思いも寄らなかったが。


 目の前にいるそのロナルド以上の人格者であるタニヤは、尚も思考がぐるぐると回りながら固まり続けていた。

 最早彼女達が何を言っているのかですら、理解出来なくなりつつあるようだ。

 それは隣にいるアウレリオやドミニク達ですら理解の及ばない出来事になっているらしく、目を開いたまま凍り付くように固まったまま、一点を見つめている。


 そもそも彼女達が何を言葉にしたのかを考えるも、次々に新たな謎が飛び込んで来て、脳の処理速度が一番最初の疑問から停滞してしまっていた。

 次から次へと積み重ねられる干草のように、疑問が積み上がっている状況の中でも、必死に考え続けているようだった。



 イリス達が口座の話を終えて、今後必要となる件について話を始めようとするが、それを遮ってしまう形でタニヤが先に言葉にしていく。

 どうやら無事に脳内干草を捌けたようで、思考がようやくこちらへと戻って来たのだが、イリスは勿論、ヴァンたちでさえも、それに気付くことは無かった。


「……二匹目のギルアム討伐料を、資金として宛がうつもりではなかった事に驚きを隠せないけれど、討伐料を使わなくても済ませられるだけの資金を持っている、と認識をさせて貰ってもいいのかしら?」


 若干引き攣り気味の声色ではあるが、それ以外はほぼほぼ通常通り言葉に出来たタニヤに驚くアウレリオとドミニクではあったが、内心は必死で話していたタニヤだった。


 そんな状態の彼女に、イリスは至って普通に言葉を返してしまい、タニヤを困惑させてしまう。


「はい。問題ありません。その手続きもお願いしたいのですが、宜しいでしょうか?」

「……え? ああ、手続きね。ちょっと待って下さいね」


 そう言って対面に座っていたタニヤがソファーから立ち上がり、書類を仕舞ってある引き出しから一枚の紙と封筒を取り出し、座り直しながらテーブルに置いていく。

 こほんと咳払いをした彼女は、いちギルドマスターとしての対応に戻っていった。


「こちらがその書類になります。必要事項をお書きの上、封筒に封入してギルドまでお持ち下さい。フィルベルグとなりますと、最短でも二週間はお時間を頂くことになります。それとこれに関する手数料は、こちらで持たせて頂きます。これにつきましては、一匹目のギルアム討伐に対する感謝の気持ちとお受け取り下さい。

 二匹目のギルアム討伐についてですが、ギルド側の見解としては、お支払いをしないという事は出来ません。ですが、危険種討伐料は先程も申しましたように、エルマの税金とコミュニティーから捻出されている為に、評議会による協議が必要となります。

 評議会の一翼を担う者としてこの場で話す事は避けるべきですが、討伐料を出せないという事は有り得ません。それだけの事をして下さった方を蔑ろにする選択など恥ずべき行為であり、末代まで語られる悪事となるでしょう」


 はっきりとした口調でそう言葉にするタニヤ。

 彼女もまた、エルマ所属冒険者ギルドコミュニティーの長として、評議会に参画している者の一人だ。発言力といった意味では大きなものだが、残念ながら彼女だけでは現状を打破出来ずにいた。しかしイリス達の協力があれば、それを改善どころか、エルマ全体を改革出来るかもしれない。


 だが同時に、イリス達に頼っていいのだろうかとも思えてしまう。

 これはエルマの問題だ。それを他所から来た彼女達に頼ってしまう事そのものが、まず良くないと言える。本来であれば自分達で何とかしなければいけない問題を、イリス達の善意に甘えていいものかと思ってしまうのも仕方のない事だろう。


 それでも自分では何とかしたくても何も出来ない歯痒さや、非協力を通してしまっているエルマコミュニティーの情けなさ、現実的な資金や人手不足など様々な問題が、彼女に重くのしかかってしまっている現状で、ひと一人に出来ることなど本当に少ない。

 それが例え評議員のひとりであろうとも、たった一人では、この小さな世界ですら変えられない。まるでそれは、これが現実だと言われているような気持ちにさえなってしまう。


 そんな戸惑いを隠すように堪えていたが、どうやらそれも意味を成さなかったようで、イリスにさえはっきりと伝わってしまうほど、とても分かりやすい葛藤をタニヤはしているようだった。


「タニヤさん。私達は、私達に出来る事をしたいと思います。私達は――」


 続けるイリスの言葉にタニヤだけではなく、アウレリオやドミニク達も驚愕するものだった。



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