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この青く美しい空の下で  作者: しんた
第八章 その大切なはじまりを
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"感心しない"

 

 何も言えなくなってしまい、暫しの沈黙が重々しく続く。

 誰もが言葉を失う中、ずっと気になっていた事をイリスはヴァンとロットに尋ねていった。


「あのギルアムの強さは、嘗てリシルアを襲った"ガルド"と比べると、どのくらいの存在なのでしょうか?」


 書物による情報しか知らないイリスには、あれほどの存在がそう何匹もいるとは思えない。あの個体だけ特殊なものだと思いたい、願望のようなものを含ませながら言葉にするイリスだった。


「ガルドは明らかに異質な危険種だった。そこらにいる魔物などとは比べ物にならないほどの存在だが、今回のギルアムはそれ以上だと思われる。あまりにも異質で比較対象にすらならないが、あの眷属と比べると、強さという点ではガルドの方が上だろう。

 尤も、あれだけ攻撃を加えても倒れなかった点や、周りに与える影響を考えると、断然眷属の方が厄介ではあるが」

「そうですね。ただ、魔力を帯びた咆哮や、凄まじい殺気などを考えると、同質のようにも思えるよ。あれほどの存在に出遭ったのはこれで三度目だね」

「同質の存在だと仮定すると、眷属になりかけていた、という可能性も出て来ますね。どういった原理であんな存在が出現するのかまるで分かりませんが、もしそうだとしたら、二匹目のギルアムにも言えるかもしれませんね。

 姿形もギルアムと変わらず、中身だけ違うという所が悪質に思えてしまいますが、仮に危険種と呼ばれる存在全てが、そういった"変異体"のようなものになってしまう可能性を秘めているのだとすれば、世界中を揺るがしかねない事態となります。

 勿論、偶然そうなった可能性も考えられなくはありませんが、正直な所、ああいった存在がたまたま出現したとも思えません。やはり世界に何かが――」

「――ひとついいかしら?」


 イリスの言葉に割って入ってくるノーラ。

 思わず突っ込みたくなる事ではあったがそれを堪え、イリス達にゆっくりと質問していくが、その口調はたどたどしく、とてもではないが信じ難いといった様子だった。


「さっきから聞いていたんだけど、なんだかその、眷属と戦ったように聞こえた気がするわ……。

 それに"リシルアの悪魔"討伐にも参加していたようにも思えるし、二人は、いえ、あなた達は一体何者なの……?」

「……一つではなく、三つですわね」


 つい言葉を挟んでしまうシルヴィアは、苦笑いをしながらノーラを見てしまったが、さてここで名乗り出ていいものかと考え込んでしまう。

 シルヴィア個人で言うのであれば、隠し通すような事ではないのでどちらでも構わないのだが、果たしてそれを伝えてしまった事による、今後の影響が気になるシルヴィアだった。

 やはり肩書きを口にしてしまうと、その影響は計り知れなくなる可能性も高い。そんな様子でちらりとイリスを見るも、同じように思案中といった表情だった。


 ほんの少しだけ間が空いてしまったが、深く深くため息を付いたアウレリオが代わりに答えていった。


「ノーラ、お前な……。話の内容から大凡は察しろと言いたいが、聞きたい気持ちも分からなくはない。

 だがな、そういうのはイリスさん達から自然に話してくれるのを待つもんなんだよ。人には話せる内容と、話せない内容、そして話し難くて時間が必要なものがあるんだ。

 何よりも彼女達は命の恩人だ。それを好奇心に負けて、ずかずかと土足で踏み入るような真似は感心しない」

「……ぅぅ。ごめんなさい」


 真剣な面持ちで答えるアウレリオの言葉に、しゅんとなりながらイリス達に謝るノーラ。慌ててイリスが言葉を返していくが、未だどうするべきかを悩んでいた。


「あ、いえいえ、とんでもありません! ……なんと言いますか、少々込み入った事情がありまして、話すのを控えさせて頂いたんです」

「すまない、イリスさん。ノーラは好奇心が旺盛な奴だが、今回は随分と我慢した方ではあるんだよ。悪気はないんだ」

「こちらこそ申し訳ありません。本来であれば、こういった事は隠すべきではないのでしょうが……」

「構わないよ。とはいっても、俺はそれなりに経験を積んだ冒険者だから、大凡は把握しているが、何か理由があるのならそれを優先して欲しい」


 段々申し訳なく思って来たイリスは、仲間達に今後の事を話そうと思うのですがと言葉にすると、全員が了承してくれた。


「私達は孤児院の子供達に手を差し伸べようと、考えていた事があるんです。

 これについてはタニヤさんにお伺いしたいことも沢山あります」

「あら、なにかしら。何でも言って頂戴。私に出来ることなら何でもするわ」

「実はですね――」


 そう言って自身の考えを伝えていくイリス。

 あれから考える暇も無くドミニク達の救助へと向かったので、まだまだ思案中ではあるのだが、それでもこれだけ人数がいるのだから、何か良い案も生まれるような気がした。


 全ての考えをイリスは述べると、暫しの間が空いた後、目を丸くしながら言葉にするタニヤとアウレリオだった。


「……まさか、そんな事まで考えて下さっていたなんて……。本気で子供達を救おうと考えているのね」

「……なるほど。それで大体の理由が理解出来たよ。そうだね、確かに危険種討伐というものは悪目立ちがし過ぎる場合もあるだろうから、名乗れなくても仕方ない」

「すみません。本当に個人的な理由になっているんですけど」


 申し訳なさそうに答えるイリスは、タニヤに質問していった。


「それでタニヤさん、その辺りはどうなっているのでしょうか」

「確かにイリスさんの言った通りで合っているわ。そしてそれを手に入れるには評議会の承認が必要になるけれど、これは規則上はという意味ね。大金での遣り取りになるから、今まではそういった事を求める方はいなかったわね」

「お金は幾らくらい必要になるのでしょうか?」


 そこだけはまるで見当も付かないイリスだった。

 エルマの住民でさえも手が出せないものである以上、かなりの値段を覚悟するイリスだったが、どうやらそれは当たっていたようだ。


「あくまでも大凡しか分からないけれど、あの場所でその規模であれば、最低でも白金貨一枚は必要になるわね。細かな値段は評議会で検討する事になると思うわ。

 とはいっても、こういった事が話し合われた事も今ではとても少ないから、それなりに時間がかかるかと思うけれど」


 その言葉に思いのほか反応したのはイザベルだった。顔面蒼白になりながらも、それだけの金額があれば何が買えるといった話を呟いているようだ。

 その内容は生活用品や食費、ディルクの服など、自分度外視のものばかりで、冒険者ではなく、完全にひとりの主婦になっていた。


 その姿に思わず、主婦って大変ねと言葉にするノーラと、そうなのよねぇ、それだけのお金があれば、どれだけの食材が買えるのやらと、遠くを見つめながら答えるタニヤだった。


 はっと気が付いたように、こちらへと意識が戻って来たタニヤは、イリスに今後必要になる資金についての話をしていく。

 それだけの大金が必要になるのではなく、それ以上に資金が掛かるのは目に見えている。


「でもイリスさん。あなた達がしようとしている事に必要となる資金は、とても高額になると思うわ。それは白金貨一枚じゃ全く足りないほどに。その資金はどこから捻出するのか、目処が立っているのかしら?」

「資金については問題ないと思います。それについてはフィルベルグ冒険者ギルドに預けてあるので、取り寄せたいと思うのですが」

「手続きに関しては出来ますが……」


 本当に用意出来るのかと、タニヤは言葉にしたいのだろう。

 これについてもイリスが嘘を言っているとは思わない。

 だがそれだけの大金を、若い冒険者であるイリスが持っているとはとても思えなかった。恐らくだが、パーティー全体でかき集めていくのだろうと考えるタニヤ。


 彼女もまたギルドマスターの端くれである。

 ヴァンとロットの存在や、彼女達の大凡の推察は既に付いている。

 それだけの莫大な資金を持ち得る存在である事も理解しているつもりだったが、それが見当違いである事には、流石に気付いていなかったようだ。



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